欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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裏方の実情

帰投後、司令官に報告をし、一旦援軍の件は私から離れた。照月さんの件も今後の役に立つということで簡単な報告書に纏める。哨戒任務とかなら形式上で済むことでも、他鎮守府への出向となると、地味な作業もあるようだ。

 

「すまないね朝潮君。簡単でいいからね」

「いえ、こういうことも経験ですので。あちらでは秘書艦の叢雲さんがずっと書類とにらめっこしていました」

「浦城君のところは開設当初からずっと秘書艦が叢雲君だったからね。それだけ信頼が厚いんだよ」

 

私達の鎮守府の秘書艦は常に大淀さんだ。出撃できないという大きなハンデを持っている分、雑務、特に司令官の補佐で大きく貢献している。今では大淀さんがいなくてはこの鎮守府は回らないだろうと思えるほどだ。

 

「あちらで一晩過ごしましたが、いろいろなことがありました」

「そうか。なら、時間があるなら話してもらえないかい? どんなことであれ、子供の成長は私は嬉しい」

「了解しました。いいことも悪いことも全てお話しします」

 

話せる限りを司令官に話した。聞いてもらえると、不思議と心が落ち着いた。

今回の出向は自分とも向き合えるいい経験だった。いろいろな人がいることもわかったし、いろいろな人間関係があることもわかった。喧嘩腰でも仲がいい神通さんと北上さんや、戦闘を介して春風と友人になった夕立さんは、私が見てきた中でも初めてのタイプだ。

 

「ありがとう朝潮君。君達の成長、よくわかったよ。特に今回は朝潮君自身が成長できたみたいだね」

「そう……ですね。自分を見つめ直すことも出来ました」

「なら、これからもよろしく頼むよ。負荷はなるべくかけないようにするが、思い詰めそうなら私に話しておくれ。いくらでも相談に乗るよ」

 

報告書を提出し、執務室から出た。心なしか、以前よりもスッキリした。

 

 

 

今日の予定は一切ない。出向から帰ってきたということで、午後は非番となっている。同じように非番となったガングートさんは相変わらず筋トレへ。レキさんはヒメさんと陣地の方で遊んでいる。春風もそれの保護者としてついていった。ちゃんと朝潮型制服に着替えて。

久しぶりに一人の私。霞も今は北の掃討任務に出て行っている。ここ最近の掃討任務はかなり安定しており、中破以上の被害は少ない。だからといって慢心することなく、いつでも全力で向かっている。

 

「そろそろ終わる頃かしら……」

 

非番というのは総じて暇である。娯楽の少ない鎮守府で一人でやれることといえば、散歩か、資料室に置かれたはちさんのコレクションである小説を読むことくらいだ。

暇潰しも兼ねて、工廠に向かった。ついでに電探眼鏡のメンテナンスもしてもらおう。

 

工廠ではシンさんの深海艤装の改造の真っ只中だった。感覚がある部分へのケーブルの移植が主だった改造なのだが、複雑に絡み合ったケーブルを混線させないように適切な形に持っていくのはなかなか根気のいる作業らしい。

 

「よーし! やっと右脚接続完了!」

「シン、ミギガワダケハウゴクハズダ。ヤッテミロ」

 

セキさんに言われてシンさんが力を込める。ゆっくりとだが艤装が音を立て始め、タービンらしきものが動き出したのがわかった。

 

「ウゴイタ!」

「同じことを左脚でもやれば、艤装は動くようになるね。ただ、前と泳ぎ方が変わるだろうから、そこはリハビリしよっか」

「スゴイスゴイ、チャントウゴク! アタシノアシ、ウゴクヨ!」

 

艤装が動き出して大はしゃぎなシンさん。その姿に泣きそうな顔をしているのが側で見ていたゴーヤさん。ここに来てからずっと見ていたのだから、ここまで回復した姿に感動している。

 

「よかったでちねぇシンちゃん。これでまた泳ぐことに近付けたでち」

「ウン! デッチ、アタシ、ガンバル!」

「頑張るでち。あとでっちじゃなくてゴーヤね」

 

お姉さんのセンさんはというと、潜水艦用の深海艤装に必要な素材を集めているらしい。基本的には艦娘の素材でもなんとかなるのだが、どうしても深海産の素材もいるとのこと。今はイクさんとしおいさんを連れて、故郷の海中へと向かっているそうだ。

 

「じゃあ、艤装を元に戻していくからね」

「ハーイ」

 

テキパキと分解した艤装を元に戻していく明石さん。もう深海艤装の整備もお手の物のようだ。

 

「はい、おしまい! じゃあ艤装をしまってね」

「アリガトウ、アカシサン!」

 

艤装が消えると脚が不自由な状態に戻る。こうなると今度はゴーヤさんが車椅子に乗せてあげることに。以前と違って乗り降りにも協力的であり、ゴーヤさんとも仲が良さそうだ。

 

「はい、次は朝潮ね。電探眼鏡の定期メンテだよね。ちゃっと終わらせるよ」

「あ、はい、お願いします」

 

私の電探は毎日稼働して酷使しているように思えたが、メンテナンスの甲斐もあり故障も全くない。重要な場面で使えなくなることがないように定期的にメンテナンスをしていることが効いている。

 

「フル稼働し続けてるのに綺麗なものだよ。念のため配線変えておいたからね」

「ありがとうございます」

 

再び装備して起動すると、工廠の外に反応があった。掃討部隊が戻ってきたのだろう。霞の反応も含まれている。反応を見ている感じでは、何人か小破がいるが重症はいない。お風呂に入って終われる程度だろう。

 

「部隊が帰ってきています」

「お、もうそんな時間だったか。セキちゃん、次は艤装の整備だよ」

「ワカッタ」

 

工廠はいつも大忙しだ。本当にいつ休憩しているのかわからない。今でこそセキさんがいるものの、それでもこれだ。私達はお手伝いすることもできない専門職のため見ていることしかできないが、できることは自分でやることで応援することにしよう。少なくとも、戦場で傷付かなければ多少は仕事も減らせるだろう。

 

 

 

お風呂上がりの霞と合流。一晩春風とレキさんに占有されたといって、今度は霞が私にベッタリだった。いろいろあったため添い寝もしたと話したら、より一層ベッタリになった。

 

「工廠は本当に忙しそうね。何か手伝えることがあればいいんだけど」

「傷一つ負わないで戻ってくることが一番でしょ。手を患わせたくないのなら」

「そうよね、そうなるわよね」

 

霞の今の体勢は、春風を慰めていた時の、胸に顔を押し付けさせるハグ。喋るたびに胸でモゴモゴ言っていてくすぐったい。こんな姿他の人に見られたら、私は何も問題ないが霞が卒倒してしまいそう。

霞の戦闘は魚雷のみのため、他の人たちより一歩引いて戦うことが多い。そのため傷を負うことも少なめ。工廠に貢献できている戦い方。私は狙われてはいけないタイプなので、三歩は引いて戦っている。これも貢献できている。

 

「姉さんは特に無傷でないとダメよ。司令塔なんだから」

「司令塔なんて大それたものではないけど、攻撃を受けたくはないわね。他より脆いのは確かだもの」

 

などと言いながら、私は泊地棲鬼との戦闘で浮遊要塞撃破を買って出て、小破してしまっている。私らしくない戦い方ではあったが、部隊に貢献できている感覚が堪らなく嬉しかった。工廠には申し訳ないけど、もっと戦いたいと思ってしまった。

 

「戦艦棲姫改との戦いでは棒立ちになっちゃうのが残念だけどね」

「その分、全員の動き見てるんでしょ。それに姉さんには海域調査もあるんだもの」

 

戦艦棲姫改を任せて自分だけ北へ先行することが基本だ。それをサポートしてもらうための援軍でもあるわけだし。

援軍は北の大拠点にある黒の陣地を索敵するために必要な人員確保が大きな目的だ。戦艦棲姫改を任せてもよし、私についてきてもらってもよし。とにかく、最優先は黒の陣地の確認。

それなりに奥まで行かないと陣地を見ることができないのはなかなかに辛い。索敵範囲がもう少し広ければと思うこともある。

 

「電探のスペック、もう少し上げてもらおうかしら……」

「工廠に負担をかけたくないって言ってるのに何言ってんの」

「……そうだったわ」

 

そんなことを話していると、頭をテシテシと叩かれる感覚。電探の妖精さんが私に用があるようだ。一旦私の手に乗ってもらう。

残念ながら私達には妖精さんの声が聞こえない。唯一明石さんだけが会話が可能。こちらの言葉は理解しているようなのだが、会話自体はできないのでジェスチャーで何かを伝えてきていた。

 

「眼鏡の……ヒンジですか?」

 

電探の妖精さんも眼鏡をかけており、自分の眼鏡のヒンジの部分を指差していた。今まで気にも止めていなかったが、軽く撫でると、普通なら存在しないポッチがあることに気付いた。

 

「え、なにこれ」

「何かあったの?」

「小さい捻りというか、あれ、竜頭、竜頭みたいなものが付いてる」

 

とはいえ私の指だと大きすぎて回すことができない。爪で引っかかるのも難しそう。

妖精さんが今度は自分をヒンジの部分に持っていくように促してきた。言われるがままに妖精さんを目元へ運ぶ。

 

「え、な、なに!?」

「どうしたの?」

「索敵範囲が拡張された!?」

 

おそらく妖精さんが竜頭のようなものを捻ったのだろう。キリキリと音が聞こえ、今まで見えていた範囲がさらに拡がった。今まで見えていなかった領海ギリギリまでが見えるほどに。誰がどこで訓練しているかまで把握できる。

もう一度捻ることで、今までと同じ範囲まで狭まる。索敵範囲に段階が作られていることに、これだけの間使っていて初めて気付いた。

 

「もしかして……私が望んだら拡張するつもりだったとか?」

 

妖精さんが親指を立てていい笑顔をしてきた。最初からこの機能があったようだ。

 

「願いが叶ったじゃない。スペック上がったわ」

「事前に教えてくれても良かったんじゃないかしら。これは明石さんを問い詰めるまであるわ。工廠に行きましょう」

 

作業中かもしれないが、これに関しては話をしないと気が済まない。

 

 

 

再び工廠へ。明石さんとセキさんは空母勢の艦載機のメンテナンス中。本当にいつ休んでいるのだろう。

 

「明石さん、ちょっとお話が」

「んー、ちょっと待っててね。もう少しで一回区切りがつくから」

 

艦載機もそれなりの数がある。2人でメンテナンスをしたとしても時間がかかるだろう。それでも、小一時間ほどで全機整備してしまうそうだ。手際の良さもあるのだろうが、それでも手早すぎる。

 

「はい、オッケー。話って何?」

「電探眼鏡のことなんですけど。索敵範囲が拡げられるの隠してたんですか?」

 

少し考えた後、そういえばと思い出した様子。ただ単に私に伝え忘れていたように見える。定期メンテナンスのときにでも話してくれれば良かったのだが。

 

「いや、ね、伝えようと思ってたんだよ。忙しくて忘れてたなーって」

「そう言われると何とも言えないんですが」

「たださ、最初からMAXにできてたと思う?」

 

今でこそ鎮守府全域を把握しても脳に負担がかからない状態だが、訓練当初から最大の範囲だったら、私にどういう負担がかかっていたかがわからない。最初はたった10分で割れるような頭痛を感じていたくらいだ。1分も保たなかっただろう。

 

「無理ですね……今なら大丈夫な気がしますが」

「なら、今後は拡張していいよ。ただ、くれぐれも無理をしないように」

 

範囲をMAXにすると、鎮守府全域からさらに広い範囲を確認できるようになるが、当然だがその分情報量は増える。相変わらず海中は見えないとはいえ、この索敵範囲なら、今まで海域調査していた場所から少し行けば黒の陣地も確認できるだろう。

今ならこれだけの情報量に耐えられるだけの脳の容量(キャパシティ)があるとは思えるが、いきなりMAXにするのは負担が大きそうなので、ゆっくり段階を上げていこう。

 

「事前に教えなかったのは正解ね。姉さん確実にMAXの状態からやってたわ」

「そ、そんなことないわよ」

「そんなことあるわよ」

 

何も言い返せない。霞の言う通り、最初に知っていたら即MAXにしていた。

 

「アカシ、イッタンオワッタゾ」

「ありがとうセキちゃん。じゃあ休憩しよう」

 

珍しく明石さんの休憩に立ち会うことができた。私達はいつも何かしらの作業をしている姿しか見ていなかったため、少し安心した。

 

「休憩しないと提督が許さないからね。私一度倒れたことあるし」

「え、そうなんですか?」

「鎮守府が出来た最初の方にね。欠陥(バグ)をどうにか乗り越えられないかっていろんな道具作ってた時代だよ」

 

開設当初、欠陥(バグ)を受け入れるのではなく、欠陥(バグ)があっても通常と同じ運用ができるように改造する方向で動いていた時期があったそうだ。その時に一番働いたのが明石さん。

龍驤さんが移動できるようにするシステムを何日も徹夜で考えた末に倒れたという。結果は言わずもがな。欠陥(バグ)を乗り越えた通常運用が無理であることの証明となってしまった。

 

「私が倒れたことで今の在り方が出来たんだけどね。欠陥(バグ)を受け入れて、やれる事を伸ばすって」

 

その方向性で結果を出せているので、間違いではなかったと言い切れる。私もその方向で今の戦果が出せている。

 

「明石さんのおかげなんですね」

「おかげって言われてもなぁ。私のせいでみんなが()()()()になっていく感じがして最初は申し訳なかったよ。天龍の白兵戦、考案者私だし」

 

とはいえ戦闘ができるようになった天龍さんはさぞかし喜んだだろう。そのせいで命を軽んじて司令官に説教されたようだが。

 

「ま、みんなは私の事は気にせず私の分まで戦ってきて。その代わり、艤装の整備は完璧にこなしておくから」

 

元々戦場には殆ど出ないタイプの艦娘である明石さん。それでもいなくてはいけない人だ。これからも頼りにするだろうし、こちらを頼ってくるだろう。

 




艤装、装備関連の仕事をしている明石に暇なんて無さそうだけど、妖精さんのおかげで休憩時間くらいは取れる設定。夜もちゃんと寝てる。
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