援軍到着と同日に連合艦隊の配置が発表された。今回は戦艦の主砲が効きづらい戦艦水鬼、戦艦棲姫との戦いになるため、オーバースペック組はお休み。ただし、イロハ級の掃討には火力が欲しいため、ある程度は組み込む。
連合艦隊にはいくつかの形があるが、今回は空母機動艦隊という形になる。艦載機による制空権の確保と、艦攻での攻撃力の確保が目的。大鳳さんが呼ばれたのもそのためである。
「第一艦隊、機動部隊の6人は、旗艦高雄君。随伴に龍驤君、雲龍君、朝潮君、霞君、援軍の大鳳君」
「うちが出るんか。なるほどな、そのための朝潮っちゅーことかい」
「曳航と索敵を担っているからね」
空母を多めに出す必要がある場合はどうしても曳航役が必要になるのがこの鎮守府だ。曳航役はどうしても自分の攻撃が疎かになってしまうため、元々攻撃ができない私が適任。
第一艦隊は第二艦隊の後ろに立つことになるため、その位置からでも狙える高雄さんが旗艦として選ばれた。ほんの少しの隙間があればスナイプによる精密雷撃が期待できる。霞は雷撃主体のため高雄さんにスナイプも教えられている。いざという時は龍驤さんの曳航も可能だ。
「第二艦隊、水雷戦隊の6人は、旗艦山城君。随伴に天龍君、春風君、援軍の北上君、大井君、夕立君」
「山城姐さんが旗艦って大丈夫かよ」
「缶とタービンフル装備の高速戦艦だからアンタ達より速く動くわよ。滅茶苦茶な水雷戦隊なのは認めるわ」
空母機動艦隊は第二艦隊が露払いをするのが基本。そこに最高戦力を置いたのは、全員の温存も考えているからである。雷撃が強い北上さんと大井さんも最後まで温存したい戦力だ。露払いは山城さんと天龍さんが主体で行われるだろう。空母からの支援もできるので、通常よりは戦いやすくなるはず。
「以上12人での出撃となる。朝潮君、霞君、龍驤君はこのあと工廠に行ってほしい。曳航に関して明石君から話があるそうだ」
「姉さんはわかるけど私にも?」
「万が一の時のことよ。2人知っておいた方がいいでしょ」
明石さんからということは、何かいい装備でもできたのかもしれない。たった半日ではあるものの、曳航訓練もする事になるかも。
呼び出しを受けた私、霞、そして龍驤さん。曳航が初めてというわけではないが、そこまで慣れているわけでもないというのが実情だ。以前に蒼龍さんを曳航しながら戦闘をしたことがあったが、その時は比較的簡単な戦闘だったこともあり、神経を研ぎ澄ませるまで行っていない。
「あ、来たね。龍驤さんの曳航を手助けする装備を作ったから試してほしいんだよ。今までの帯を使った曳航はやりづらいと思うからね」
明石さんが持っているのは艤装に近い質の多関節アーム。ベルトのようなパーツが付いているので、そちらが龍驤さん側になりそう。それなりに長さもあり、腕で引っ張るよりは距離が開きそうだ。
「じゃーん、『
「そのネーミング嫌いやないで。で、どうやって使うん?」
「じゃあ装備してみましょう。まず艤装を装備してね」
言われた通りに艤装を装備。念のため霞も装備した。
「仕組みはすごく簡単で、ベルトは龍驤さん、アームは朝潮の艤装に装着するだけ。ベルトは龍驤さんの艤装とリンクするようにして……と、これでよし。ちょっと海に入ってもらえる?」
曳航というより連結という感じになってしまっているが、私の手が空いている状態で曳航ができそうなので、見た感じは便利。
少し動いてみると、意図通りに龍驤さんを引っ張れる。艤装に繋がっているからか、帯を腕で引っ張っているように安定していた。むしろ腕より力が出るので緊急時には都合が良さそうだ。
「おー、結構ええやん。これ行けるんちゃうか?」
「手で引っ張るより楽ですね。私の移動も安定しますし」
少しスピードを出してみる。ベルトとアームでしっかり支えられた龍驤さんは、私に追随する形で一緒に海上を移動していた。艤装との連携で、私の辿った道をそのまま辿るようになっているようだ。
「これ急ブレーキは危険じゃないですか?」
「それだけは気ぃつけてや。腹やられたら朝潮の後ろで吐くで」
「あと急カーブも」
「吐くで?」
だが、どうなるかは一度やってみないとわからない。龍驤さんもそれは同意してくれた。吐かれたら吐かれたとき。覚悟の上だ。
「じゃあやりますね」
「っしゃ来い!」
直前に敵の攻撃が来たことを想定して、90度の急カーブ。以前の演習の際にやったときは、遠心力やら何やらで龍驤さんがあまりよろしくない声を上げていたが、無理な衝撃もなく、スムーズに曲がることができた。
「おお! ちゃんと曲がれたやん!」
「みたいですね」
アームは長いが、私が手で押さえているような動きをするため、龍驤さん側への負担も軽減できているようだ。艤装に接続したのはそのためだろう。手足のようにコントロールできるからこそ、負担が減る。
その後急ブレーキも試したが、少し圧迫されたくらいで吐くほどの衝撃は無かった。龍驤さんも移動中に艦載機を出せるか試していたが、無理なくできそうという。
「明石、これ完璧やで! Uターンできんようになったくらいや!」
「両手が空いているのがいいですね。私には微妙かもしれませんが、霞だと魚雷を装備するのに邪魔になりません」
ただ、腕で引っ張っていたときからある問題はどうしても解決できない。2人分の回避をしなくてはいけないことだ。私が避けられても龍驤さんに当たっては意味がない。
「次、霞でやってもらえる?」
「わかったわ。姉さん、アームの方を私に」
霞でやっても同じように動けた。霞の移動は私よりも若干荒っぽい。雷撃による突撃も視野に入るため、急カーブも多く、スピードの変化も激しい。繋がれた龍驤さんもその動きと全く同じ移動をすることになるので、人によっては発着艦が難しいタイミングがありそうだ。
「すごいわねこれ。結構無茶な航行したんだけど」
「せやろな。朝潮よか荒い思ったわ」
霞の曳航を見てよくわかった。回避はかなり大振りでないと危険だ。空母ゆえに敵に接近することは無いだろうが、遠方から狙われる可能性はある。
「明石さん、あのアーム、伸び縮みとかしますか?」
「伸び縮みはさすがに難しいね。あ、もしかして回避?」
「はい。2人分以上の距離を出さないといけないので、そこだけは難しいですね」
そういう意味では、私の行動予測は必要になるかもしれない。2人とも回避できる位置まで迅速に動かなくてはいけないのだから、攻撃がどこに来るかを最速で計算しておく必要がある。
「そこは要調整だね。明日はこれで行ってもらうしかないかな」
「腕での曳航より使いやすいのは確かです。ありがとうございます」
この曳航なら戦いやすくなりそうだ。とはいえ慣れも必要。今日の午後は曳航訓練をしておこう。龍驤さんも慣れなくては艦載機の発着艦が難しくなりそうだし。
曳航訓練は司令官も気になっていたようで、私が龍驤さんを引っ張る姿をわざわざ見に来てくれていた、司令官の視線の下で訓練をするというのはなかなかないことである。
ただ曳航するだけというのも戦闘訓練にはならないので、私と龍驤さんが的となることで雷撃訓練のお手伝いをすることになった。攻撃範囲の広い霞と、命中精度の高い初霜さんが相手となると、避け方もいろいろと考えなければならない。
「朝潮、ホンマ頼むで。うち、こういうの初めてなんよ」
「お任せください……と言いたいところですが、ちょっと自信がないです」
「嫌やぁ……水浸しは嫌やぁ……」
だが、この訓練は私にもチャンスだった。
大きく移動しないといけないということは、攻撃のタイミングを予測しなくてはいけない。つまりは、私の覚えておきたい行動予測『未来予知』の訓練にもなる。
「じゃあ始めてください!」
「私から行きます! 龍驤さん、手加減を!」
「出来るかー! うちが濡れる前にお前らグチャグチャにしたるからな!」
何も曳航訓練は逃げ回るだけではない。龍驤さんはしっかりと攻撃していく。曳航しながらの発着艦の訓練でもある。
「よし、朝潮、行けぇ!」
私の位置、龍驤さんの位置、そして初霜さんの位置を常に把握しながらの移動。目を開けながらの行動予測は初めてであり、情報過多で脳の容量を超えそうだ。ある程度は音も頼りにする部分もある。初めての曳航で目を瞑るのは流石に怖い。
「最初から飛ばしていくで!」
「いきなり全機はキツくないですか!?」
「じゃかあしい! うちはさっさと終わらせたいんや!」
龍驤さんは艦載機を全機発艦させている。魚雷を撃たせる暇も与えないつもりなのだろう。だが初霜さんも充分すぎるほど手練れ。爆撃を掻い潜って放ってくる。
「8時へ!」
かなり厳しいカーブだが、明石さん特製『
初霜さんの雷撃発射を予測し、角度を計算。視覚に頼っている分計算は速い。龍驤さんに当てるために私の進行方向を狙ってきている。そのまま進めば私に直撃、避け方を間違えれば龍驤さんに直撃。いやらしい場所に撃ってきた。これは避けるより進まない方がいい。
「ブレーキ!」
「うぉおっ、こればっかりは慣れんと!」
発艦直後だったようで体勢が少し崩れたようだが、アームの力で横転する前に支えている。ここも私の意思が加わるようだ。
「スピード上げます!」
「よっしゃ、行け行け!」
魚雷通過後に一気にスピードアップ。身体は初霜さんに向けつつ、進行方向は真横。その状態でも龍驤さんはまっすぐ付いてきてくれる。これは本当に便利。
アームは機関部艤装にはめ込まれているため、龍驤さんを私の前に持ってくることは不可能。多関節とはいえそこまで曲がるものではない。それでも真横までには持っていけるので、大分動きに幅が出来る。
「容赦せん言うたよな!」
「容赦無さすぎですよ!」
そんなことを言いながらも魚雷の数はだんだんと増えてくる。私ではなく龍驤さんを狙うものまで出てきた。こちらの曳航の先の先を読むようになってきている。さすが初霜さんだ。
「あぁっ!?」
「っしゃー! 濡れとらんぞ!」
爆撃が初霜さんに当たり1回目は終了。全ての位置を把握しつつ、曳航と回避を両立させるのはかなり難しい。明日の本番でいきなりというのはやめておいてよかった。
「どうや司令官、朝潮の曳航」
「うむ、これなら任せられるね。朝潮君、頭痛はないかい?」
「はい、無理せずに行動予測をしたので大丈夫です。これくらいがちょうど良さそうです」
ある程度の行動予測もでき、終了後に頭痛もない。今の私の限界は確認できた。ここからはこの限界を少しずつ超えていくことになる。今はそんな時間もないので、この戦い方を覚えていくことに専念する。
「次は霞やな!」
「絶対当ててやるから!」
初霜さんの惨状を見ているからこそやる気が出ている霞。前の約束はそのまま続行中で、私に当てられたらご褒美がある。それも込みでやる気満々なんだろう。勿論、当てられるつもりは無い。
結局、私と龍驤さんが濡れることはなく、霞と初霜さんは爆撃によるペイント塗れになることになった。今回は臭いのしないペイント爆撃にしてくれていたそうだが、あれだけ色が変わっていると少し可哀想に見えた。
「こんなに汚されたの初めてです……」
「結局姉さんに当てられないし!」
ペイントを落としている2人。雷撃できる駆逐艦のトップツーである2人の雷撃を全て避けられたのは上々。高雄さんの雷撃が避けられれば完璧だろう。
「龍驤君があそこまで避けられるところを見られるとはね。安全に戦えるならそれに越したことはないよ」
「ホンマにな。朝潮のおかげやで」
「まだまだです。もう少し危なげなく避けられるといいんですが」
何度か危ないときがあった。それも、私がではなく龍驤さんが。回避させなくてはいけない人が危ない状態になるのは良くない。本来の目的が出来ていないことになる。もっと慎重に、もっと集中しないといけない。
「すごい訓練をするのね」
私達の訓練の様子を大鳳さんが見ていた。元々訓練好きであることもあり、この鎮守府の訓練を見て回っていたそうだ。自分達の鎮守府で行われているものとは違うハードなものと知ると、是非とも受けたいと志願してきた。
「大鳳はまずジムで筋トレでええんちゃう? 確かそういうんが好きやったよな」
「もう行ってきたわ。皐月ちゃんが先にへばってしまって。山城さんからは見込みがあると勧誘されたわね」
この人、実は相当なのでは。
「正直、浮き砲台の空母と聞いて驚いたの。でも、さっきのを見たら大丈夫だってわかったわ。明日はよろしく」
「ああ、よろしくやで。うちは曳航じゃなきゃ動けんし、雲龍は軽空母以下の搭載数や。どうしても大鳳に頼らなあかんくなる」
ガッチリ握手する2人。援軍の人達との交流もいい塩梅に進んでいる。
前々から考えていた