いよいよ南東拠点攻略が開始される。初めての連合艦隊による出撃だが、人数が増えただけと言われたので、そういうことと割り切った。連携に関しては通常以上に考えなくてはいけないだろうが、滞りなくできるはずだ。
「先行する。第二艦隊、旗艦山城、出撃するわ」
戦艦が旗艦の水雷戦隊なんて聞いたことが無いが、今回はこれが正式な部隊。旗艦の山城さんと天龍さんを先頭にした複縦陣で出撃した。後ろに春風と夕立さん、最後尾に北上さんと大井さん。合流後に連合艦隊の陣形に変わる予定。
「朝潮、準備ええか?」
「問題ありません。曳航準備完了しています」
今回は龍驤さんの曳航が最優先だ。何は無くとも回避させる必要がある。私はいつも以上に一歩引いた戦いが求められている。
「第一艦隊、旗艦高雄、出撃します!」
旗艦の高雄さんを先頭にし、私と龍驤さんを囲う形の輪形陣による出撃。あくまでも合流までの話ではあるが、私と龍驤さんが一番脆く、この部隊の要であり穴であることは百も承知だ。
「ここから先は一連托生や」
「はい、龍驤さんの命、預かりました」
「おう、頼むで」
ケラケラ笑う龍驤さん。まだノリは軽い。私は龍驤さんと一緒の部隊での戦闘は初めてだ。なるべく戦いやすいように立ち回らなくては。
ある程度進んだところで第二艦隊と合流。位置的にはもう敵陣である。海の色は変わっていないが、空気がピリピリしているのを肌で感じる。春風も気配を感じて古姫側に傾いている。
「ココカラ東、少シ南ダ。御姉様、索敵ニハカカッタ?」
「まだみたい。索敵範囲を拡げても、春風の方が早いみたいね」
第二艦隊を前に置く、第二警戒航行序列による進軍。通常と少し違い、あくまでも山城さんと天龍さんの2人が先頭を行く。私と春風は索敵のことがあるので、艦隊としては別だが2人で行動。
「朝潮の索敵に引っかかったら第一攻撃隊の発艦やで。準備しとき」
「了解。すごい精度なのね」
「これに関しては全部任せりゃええ。うちらは指示された場所に発艦や」
しばらく進むと私の電探にも反応が入った。まだ姫級の反応はないが、イロハ級が大量にいることが確認できる。数は言う必要もないだろう。数えるのが面倒なほどいる。
「索敵範囲に入りました。空母の皆さん、お願いします」
「さぁ仕切るで! 攻撃隊、発艦!」
3人の空母による一斉発艦。戦艦水鬼を視野に入れた、艦攻主体の編成だ。艦戦による制空権の確保をしつつ、艦攻による雷撃で視野に入れることなくイロハ級を撃破していく。
龍驤さんと雲龍さんの式神型と違い、大鳳さんはボウガンによる発艦。蒼龍さんの弓道型とも違う方法であり、式神型と弓道型のいいところのハイブリッドというイメージだ。
「大井っち、あたしらもやろっか」
「はい、北上さん。先制雷撃を撃つわ」
雷巡の2人が放ったのは甲標的という小型の潜水艇。先行させて敵に魚雷を撃ち込むための特殊兵器である。艦載機による攻撃に加え、先制雷撃も加わり、敵の群れはガタガタになった。
「目視確認できたわ。春風、夕立、出番よ」
「ぽーい! ステキなパーティしましょ!」
「行クヨ! 御姉様、ワタクシモ行クヨ!」
2人の駆逐艦が敵陣に突っ込む。ここからは索敵は私だけだ。敵とはまだ距離があるため、回避に専念するようなことはなく、龍驤さんもタイミングを計って艦載機を発艦する状態に。
空母3人と駆逐艦2人である程度戦線は押せている。そこで電探に大きな反応を確認した。
「姫級の存在を確認。……3体です」
「増えとるんか! 何かわかるか?」
「戦艦棲姫2体と、それより大きい戦艦の姫、いや水鬼ですか。これが戦艦水鬼でしょう。3体とも固まっています」
ゴーヤさんの調査結果から戦艦棲姫がさらに増えていた。3体ともなると対処がさらに難しくなる。
「目視確認が出来た時点で、私と霞が魚雷を放つ。そこからは乱戦よ」
「ならあたしらも手伝うよ。雷撃性能なら任せてほしいね」
高雄さんの指示で4人がかりでの雷撃。それが戦闘開始の合図となるようだ。霞も真剣な表情だ。この先制攻撃がどうなるかによって今後の戦闘が変わってくる。
「山城さん、どれを持って行きますか」
「水鬼と言いたいところだけど、私1人で処理できるのは戦艦棲姫までね。1体引きつけておく。天龍、もう片方の戦艦棲姫やりなさい」
「あいよ。
「なんで1人で処理できる前提なのかね……」
北上さんは唖然としているが、私達は可能と確信しているからこそ任せている。事実、ガングートさんも1人で処理した人だ。山城さんも可能だろう。
だが、ここで緊急事態が起こる。
「ちょっと待ってください。反応が増えました」
「は? まだ敵が増えるっちゅーんか」
「違う、これ、ドロップ艦……!?」
敵陣の真ん中、よりによって戦艦水鬼のほぼ正面に何者かが現れてしまった。反応からそれが誰かはわからないが、艦娘であることは確かだ。最初からいたわけでなく、突然現れたのでドロップ確定。
最悪のタイミングだった。このままでは危険すぎる。雷撃の射線に入ってしまっているのも問題だ。
「ドロップ艦がいるとなると、魚雷も撃てないわ! 急いで救出しないと!」
「私が行く。天龍、援護しなさい!」
「了解! 高雄さん、作戦変更だ。オレらが救出してから雷撃頼む。朝潮、橋渡し頼むぞ」
「了解しました。ここから1時の方向です!」
山城さん達が最大戦速で突撃。今この部隊で最も速く動けるのは、タービンと缶をフル装備している山城さんだ。それを見た春風と夕立さんも、イロハ級を処理しながら援護を始める。理解が早くて助かる。
4人が雷撃準備をしているときも、私は索敵を緩めないでいた。山城さんの反応が戦艦水鬼に近づいて行くのがわかる。が、戦艦水鬼もそのドロップ艦に近付くのがわかってしまった。
「山城さん、天龍さん、急いで! 戦艦水鬼がドロップ艦に気付きました!」
『こっちも全速力よ!』
山城さんも相当速い。だが、距離は戦艦水鬼の方が圧倒的に近い。おそらく山城さんは目視できている状況だろう。
「お願い……間に合って……!」
私には願うことしか出来なかった。
だが、現実は非情である。
戦艦水鬼が先にドロップ艦に接触した。山城さんは間に合わず、そして……
「ダメ、ダメ……ダメぇっ!」
ドロップ艦の反応が消えた。戦艦水鬼に殺された。
初めて人の死を目の当たりにしてしまった。姿そのものを見たわけではない。誰がどう殺されたかはわからない。だが、死んだことは確かだった。電探による反応が見えているからこそ、誰よりもそれを早く知ってしまった。
他の人達も、私の反応でドロップ艦がどうなったのか察したようだった。同じように死を初めて知った霞は顔面蒼白だった。私も同じだろう。助けられなかったという気持ち、喪失感が、頭の中を埋め尽くした。
『……朝潮、雷撃いいぞ。撃て』
「天龍さん……」
『わかってんだろ。今はこのクソ共をやらないと終わらない』
そんなことはわかっている。ここは戦場だ。運が悪ければ誰だって死ぬ。あのドロップ艦は、意識を持つ前に沈んだのがまだ救いだったかもしれない。恨むものも憎むものもなく、成立する前に消えたのだ。
だから、代わりに私が恨む。私が憎む。
「高雄さん、合図来ました。雷撃どうぞ」
「……了解。魚雷一斉射! 撃てぇーっ!」
4人の雷撃が決戦の合図となった。霞は少し遅れ気味だったがちゃんと出来ている。私より冷静だ。
「朝潮、お前の気持ちはよぅわかる。うちも何人か看取ったことあるでな。だから……これは弔い合戦や。泣くのは後からやぞ」
「はい……今は戦闘に集中します」
今は余計な思考を振り払いたい。悔やむのは後だ。出そうになる涙を気合いで引っ込める。
「戦艦水鬼と戦艦棲姫2体、目視で確認! 山城さん達もいるわ!」
「うちら空母は一歩引いて艦載機や! 水雷戦隊任せるで!」
龍驤さんの言う通り、私は空母の人達と一緒に一歩下がる。敵のイロハ級には空母も混ざっているので、対空砲火も必要だ。艦戦による掃討と合わせて、敵艦載機を一掃していく。
戦艦棲姫は以前も見た通りだが、戦艦水鬼は格が違った。自律型艤装は頭を2つ持ち、さらに巨大化していた。本体自体も多少変化しており角が1本になっている。着ている服も違った。先程の雷撃斉射は、そこまでのダメージになっていないようだった。
「ヤクニタタヌ……イマイマシイ
「ガラクタやと。お前みたいなクズよか役に立つんちゃうか?」
だが、私が一番気になったのは、自律型艤装の手。
つまり、そういうことなのだろう。先程のドロップ艦は、あの自律型艤装に握り潰され、沈んでいったのだ。反応でわかっていたことだが、現実を突きつけられるとより辛い。
「さっき言った通りでいいわ。1体貰う」
言うが早いか、山城さんは近くの戦艦棲姫に突撃。主砲による攻撃を
山城さんはドロップ艦がどう沈んだのかを一部始終見ることになってしまっている。後ろ姿でも、泊地棲鬼の時より煮えたぎっているのがわかった。
「もう片方はオレが行く。手早く終わらせたいな。春風、夕立、援護頼むわ」
「殺ス。絶対殺ス。コイツラハ許サナイ」
「ぽい! ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
春風と夕立さんを連れてもう片方の戦艦棲姫に突撃する天龍さん。出撃前に話していた通り、3人で充分と判断したようだ。
天龍さんは静かな時ほど怖い。冷静であるほど業が冴え渡る。限界以上の怒りで、逆に冷静になっていた。
「龍驤さん、移動します」
「ええで。目にもの見せてやろか」
雑多なイロハ級を処理しながらになるが、戦艦水鬼は残った私含む8人で相手をすることになる。
「大井っち、あたしらは好き勝手やっていいんだよね?」
「はい。まずはあの艤装を止めましょう」
北上さんと大井さんの連携による雷撃。装備している魚雷が最上級のものだからか、一撃一撃の重さが違うようだ。他の敵を縫うように避け、戦艦水鬼のみをピンポイントで狙っていく。その隣では、高雄さんも戦艦水鬼のみをスナイプしている。
立て続けに、同じ場所に何度も何度も魚雷を撃ち込まれては如何に戦艦水鬼といえども足元が崩れてくるはずだ。
「霞、周りの邪魔なイロハを叩きなさい。雲龍さんもお願いします」
現状ではあの3人の雷撃で押しとどめられる。今のうちに周りを掃除し、さらに戦いやすい環境を作るのがベストだろう。ただでさえ姫級の攻撃は当たれば大破が免れないレベルの火力だ。逃げ道は多く確保するべきである。
「かーっ! かったいねぇ! あんだけ魚雷当ててんのにまだカスダメかい! そりゃ主砲は効かないわ!」
「私達3人じゃ厳しくなってきたわ。朝潮! 航空隊もちょうだい!」
「大鳳さん、龍驤さん、戦艦水鬼に攻撃を集中してください!」
いつの間にか指示は私の役目に。旗艦2人が攻撃に集中しているが故に、余裕のある私がいつも通りの司令塔になってしまった。精神的には全く余裕が無いのだが。
「ナキサケンデ……シズンデイケ!」
こちらを侮っていたのか、ガードに徹し、自律型艤装の肩に装備された副砲で応戦していた戦艦水鬼が、航空隊からの攻撃を受け始めてついに動き出した。主砲が大きな音を立て狙いを定める。対象は、雑多なイロハ級を処理するため背を向けていた霞。
「霞! 4時に回避!」
「了解っ!」
急な指示だったので身体に負担がかかる回避。それでも避けられたのなら問題ない。戦艦水鬼の放った主砲は霞の横を通過し、その直線上にいた仲間の深海棲艦を粉々にする。見ていればわかるのに、味方を味方と思っていない攻撃だった。
腹は立っていたがここは戦場、私だって深海棲艦の死の上で生きている。生成されたばかりの深海棲艦を撃破したことだってある。それはそのままにしていたらこちらがやられる可能性があったからだ。自分が助かるために仕方なく殺したという気持ちが少しでも戦艦水鬼にあれば、攻撃を躊躇っていたかもしれない。
だが、今ので確信した。射線上に味方がいても関係なく攻撃している。破壊を楽しんでいる。ドロップ艦を殺したのは、単に弱者を踏み躙るためだ。
「シズメ……!」
「今度はこっちぃ!? 派手だねぇ!」
逆側の主砲は北上さんへ。さすがの観察眼、即座に反応して軽く回避する。当たったらひとたまりもない。
主砲攻撃を始めたことにより、戦艦水鬼には若干の隙が生じ始めた。それを見逃すわけもない。
「馬鹿め、と言って差し上げますわ」
高雄さんの本体へのスナイプ。主砲を撃ったタイミングに合わせ、腕でガードできないことを見越しての雷撃。艤装は硬くても本体は艦娘と同じだ。当たれば致命傷になる。そう確信していた。
「ヤルジャナイ」
「……ちっ」
だかそれは戦艦水鬼もわかっていること。即座に脚をあげ、自律型艤装に抱きかかえられる形に。高雄さんのスナイプも見越していたということは、1対1ならまず勝てない。だからこそ、私達は仲間を揃えてここまで来た。
「大鳳! 艦爆積んどるか!」
「ええ、勿論。効きづらいと聞いてたけど、念のため!」
「ならそっちも出せ! 撹乱に使って雷撃通しやすくするんや!」
航空戦のことなら龍驤さんの方が強い。大鳳さんへの指示は龍驤さんに任せた。
「第二次攻撃隊、全機発艦!」
「うちも出すで! 攻撃隊発艦!」
艦攻による雷撃をメインにしていたが、ここであえての爆撃。当然本体狙いの空爆は、艤装によるガードの仕方を混乱させる。
「ヤカマシイ……ガラクタドモガ!」
「ガラクタって、こいつのことかしら」
ここで山城さんが乱入。一人で処理していた戦艦棲姫との殴り合いの末、艤装が動かなくなるまで破壊し、本体から強引に引き千切って戦艦水鬼に叩きつけた。本体は元いた場所に生かさず殺さずの状態で浮かばせてある。関節という関節を粉々に砕かれているようだった。
それでも戦艦水鬼は無傷に近い。あちらの自律型艤装は戦艦棲姫のものよりも格段に硬い。
「なかなかいい
戦艦棲姫の自律型艤装の上顎を掴み、それを振り回すことで攻撃していた。これをやるために本体を生かしていると言っても過言ではない。
艦娘は自分の装備できない武器は持つことはできないが、それが深海棲艦のものとなると話は変わる。それは武器ではなく
「イマイマシイ……!」
「あら、これ盾にもなるわね。本当に便利」
戦艦水鬼の主砲攻撃も、武器として使っている自律型艤装で弾き飛ばす。
「ぺっ……あの戦艦棲姫、なかなか楽しかったわ。一発貰っちゃったもの」
口から真っ赤な唾を吐き、忌々しそうに戦艦水鬼を睨み付ける。おそらく内臓にダメージがある。見た目にはわかりづらいが、山城さんは今中破状態。あまり戦闘は長引かせない方がいい。
「オラァ! こっちも終わったぞ!」
天龍さんも戦艦棲姫を倒したようだが、左腕をダランと下ろしており、いつもの眼帯も切れて何処かに行ってしまっていた。四肢が欠損するような大怪我は無いものの、天龍さんも中破状態。山城さんほど体力も残っていないだろう。
「春風、夕立、頼んだ。オレはちょっと休憩する。くそ、手こずらせやがって……」
ここからは駆逐艦2人も合流。雑多なイロハ級も大方掃除した。まだ残っているし、増援も来るかもしれないが、ここからは戦艦水鬼単体との戦いだ。ここで必ず終わらせる。