南東拠点攻略のため、戦艦水鬼との決戦。周りにいた戦艦棲姫は2体とも撃破し、こちらは山城さんと天龍さんが中破。それ以外はほぼ無傷。しかし、何度も魚雷を撃ち込まれているはずの戦艦水鬼も、ほぼ無傷という有様だった。
「硬すぎだっつーの。同じとこ何回撃ち込んだと思ってんだよー!」
「北上さん、落ち着いて。いつも通り戦いましょう」
最初から常に魚雷を撃ち続けている北上さんが愚痴を言い始め、それを大井さんが宥める。この酷い戦場の中で、まだ軽い言葉が出せるというだけでもすごい。
だが、北上さんが愚痴るのも仕方なかった。最大火力である魚雷を、同じ場所に何度もぶつけているにも関わらず、未だに破損するように見えない。戦艦棲姫改もそうだったが、あまりにも硬すぎた。こうなると、狙うなら本体、もしくは接続部分となる。
接続部分は戦艦棲姫と同様にうなじだろう。戦艦水鬼の場合、自律型艤装の頭が2つあるせいでさらに狙いにくい。もしかしたら戦艦棲姫改よりも厄介な相手かもしれない。
「雲龍、雑魚はどうなったん!」
「大分終わったわ。空母はいないから制空権はこちらのもの。残りは霞に任せた」
ずっとイロハ級の対処をしてくれていた雲龍さんもようやく合流。空母3人による集中攻撃も可能になった。艦爆、艦攻と多彩な艦載機で攻撃をしている。
「私のことは気にせずに雷撃でも爆撃でもしなさい!」
今一番攻撃をしているのは、死にかけにした戦艦棲姫から自律型艤装を奪い取り、鈍器として振り回している山城さんだ。さすがの戦艦水鬼もこの攻撃方法は予想だにしなかったようで、主砲を使って応戦している。そのおかげで、雷撃も通しやすい。
「姉さん、雑魚は片付いたわ!」
「ありがとう霞、貴女も雷撃に参加。副砲には気をつけて!」
戦艦水鬼は主砲の他にも副砲を乱射してくる。合間合間に撃ってくるため、地味なダメージが蓄積されていた。直撃ではないにしろ、接近戦をしている山城さんはいろいろな場所がズタズタにされ、雷撃班の高雄さんが小破。大井さんを庇った北上さんも小破届かずの傷がついている。
「イマイマシイガラクタフゼイガ……シズメェ!」
自律型艤装の口が大きく開く。今までの主砲と違う、さらに大口径の一撃。頭が向いている方向は、龍驤さんと大鳳さん。周りを飛ぶ艦載機に嫌気がさしたか、ついに空母を狙うようになった。
「大鳳さん狙われています!」
「了解! 最大戦速!」
こちらはこちらで龍驤さんを回避させなくてはいけない。顔の向きは私と龍驤さんの中間、ちょうどアームの真ん中を狙っている。進んでも戻ってもどちらかに当たる最悪な場所。
目を瞑り、射角と攻撃範囲を計算する。今から速度を上げたら龍驤さんに直撃する。だからといって止まったままでも危険だ。こうなったら、
「龍驤さん! 我慢してください!」
「なんやなんや!?」
戦艦水鬼の主砲が発射されようとした瞬間、私はアームを握り、強引に
幸い、アームと私の力が合わさり、龍驤さんの方が深く潜らせることができた。
「っぐぅ!?」
海中でも衝撃波を受けてしまう。龍驤さんはほぼ無傷だったが、私はその衝撃で機関部を損傷、同時にアームを握っていた右腕もやられる。
「げほっ、かはっ、朝潮大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です、ごほっ、右腕が動かないですけどっ」
頭の上の電探妖精さんも私の髪に掴まっていてくれたおかげで無事。インカムが2人分ダメになってしまったのが残念だが、死ななきゃ安い。
「無茶しすぎや! でもありがとな!」
「けほっ、か、艦載機出せますか……」
「甲板が濡れてしもうた。ちょっち厳しいな」
大鳳さんも回避は成功しているようだった。しかし、航空戦力が1人分欠けてしまったのは厳しい。ここからは回避に専念するとしても、火力が落ちているのは確かだ。
「龍驤、
「せやな、今が頃合いや。うちの分も使いや」
雲龍さんが私達の元へ。龍驤さんがビショビショに濡れてしまった式神を雲龍さんに渡していた。いつもの人型ではなく、小さな鬼のような形状。
「よし、やれぇ雲龍!」
「攻撃隊、発艦。これが奥の手よ」
雲龍さんの甲板から発艦したのは
「シンカイノ……カンサイキダト……!?」
「よそ見するんじゃないわよ!」
本来ここにあるはずのない攻撃に隙を見せた戦艦水鬼。それを見逃すわけもなく、山城さんが渾身の力で殴り飛ばした。不意を突かれたことで一瞬よろける。
「いいタイミングっぽい! 春風、一緒にステキな
「アア! 御姉様ヲ傷ツケタヤツハ許サナイ!」
今度は春風と夕立さんのコンビ。先程私達に損害を与えた口に対し、主砲による攻撃。いくら外装が堅かろうが、体内は堅いはずがない。それは深海艤装を解体しているところを見ているからわかる。内部から爆破され、ようやくダメージが入り始めた。
「やっとじゃん。ああ鬱陶しい。鬱陶しいからさっさと死ね!」
「北上さん、もう少しオブラートに包んで」
内部爆破でふらついたところに北上さんと大井さんの雷撃。ついに柔らかくなったようで、足への雷撃は破壊に繋がった。バランスを崩して膝をつく戦艦水鬼。
「改めて、馬鹿めと言って差し上げますわ!」
「ホント、馬鹿だったわね。このクズが!」
もう抱きかかえることもできないだろう。高雄さんと霞の雷撃も直撃。本体をどうにか守ろうと自律型艤装が腕を使ったようだが、脆くなった腕では守りきれない。本体にもダメージが入った。
その間に主砲も副砲も全て春風と夕立さんが破壊した。もう攻撃手段は残されていない。
「さんざん耐えやがって……クソが。引導渡してやるよ。辞世の句とかあったら聞いてやるぞ」
「ガラクタドモガ……チョウシニ……」
「もういい。死ね」
トドメは戦艦水鬼の額に刀を突き刺した。浄化などさせず、即座に消滅。山城さんも武器に使っていた戦艦棲姫の自律型艤装を本人に返してやり、そのまま消滅させた。
私と春風で周囲を警戒し、敵影が無いことを確認する。
「援軍ありません……敵反応全て消滅しました」
「気配も感じません。深海棲艦はもういません」
「南東拠点、鎮圧終了。皆さん、お疲れ様でした」
高雄さんの宣言で戦闘終了となった。私もボロボロになってしまったが、勝つことができてよかった。殺されたドロップ艦の仇は取れたのだろうか。
淡々と事後処理が進んでいく中、私はドロップ艦の沈んだ地点を眺めていた。戦艦水鬼の血溜まりに混ざってしまったが、あの場所で死んだということはわかる。
「朝潮、お前の状況報告」
「えあっ、は、はい。朝潮、中破です。機関部を一部損傷しているのと、右腕が上がりません」
天龍さんに言われて慌てて状況を伝える。右腕は少し動かすだけで激痛が走ったが、それだけで死に至るような怪我ではない。それだけが救いだった。
「……朝潮、この場所を覚えててやってくれねぇか」
「勿論です……絶対に忘れません」
「ああ……頼む」
天龍さんに頭を撫でられる。手が震えているように思えた。天龍さんはほぼ大破の大怪我だ。限界が近いのかもしれない。
天龍さんも私と同様に腕が動かず、顔にも少し傷が出来てしまっている。トレードマークの眼帯も無く、その瞑った眼からは血の涙が滴っていた。
「後からまたここに来るつもりだ。朝潮も来るか?」
「はい。お伴します」
「ならまずは帰って傷を治すか。結構な数入渠するぞこれ」
戦果は勝利ではあるが、戦況としては散々だった。最後の戦艦水鬼と戦艦棲姫2体が、今までで一番の被害をもたらしている。戦艦棲姫改の前哨戦と言っていたが、正直それ以上に思えたほどだ。あちらは他に姫を引き連れて来ない。
山城さんが大破、私と天龍さんが中破、高雄さんと北上さんが小破。龍驤さんが(私のせいでもあるが)甲板損傷、春風と夕立さんが最後の射撃で爆発を被り小破まで行かない傷。その他も無傷とは言えない。
「御姉様、大丈夫ですか」
「右腕だけは触らないでね。本当に痛いから」
「なかなか無茶したわね……姉さんが中破なんてそうそう無いわよ」
妹達が私を心配してくれた。肩を貸してもらうようなことはないのだが、腕がまったく動かないのは少し不安だ。それでも治る保証があるのでいいのだが。
「すまんな朝潮。うちがおらへんかったらもうちょい避けられたんやろうけど」
「いえ、私もすみません。一朝一夕では無理でした」
「帰ったらまた訓練やな。いい勉強になったわ」
傷が治ったらまた曳航訓練をするべきだ。私以外も知った方がいいと思うし、龍驤さんだけでなく蒼龍さんの曳航も訓練しなくてはいけない。北の大拠点攻略の際には、これ以上に激しい戦場で曳航することになり得る。
「北はこれ以上……今のままではまずいとわかりました」
「せやな。まだわからん部分も多い。念入りに準備せんとな」
次も同じようなことがないように、もっと強くならなくてはいけない。自分でも頑張ってきたつもりでいたが、ここでまだまだだと思い知った。
特に、ここで一人命を落としているというのが心に重くのしかかっている。あの状況だと間に合わないことの方が多いだろう。だが割り切るのは違う。仕方ないなんて言えなかった。
私達の部隊が帰投し、工廠は大騒ぎだった。私含め、入渠3人。小破も程度が重ければ入渠とするため、高雄さんも入渠。北上さんはお風呂で充分と判断されたようだ。
この光景を見てひどく動揺したのはレキさんだった。私達が大怪我した状態なんて見たことが無かったからだろう。
「ミンナダイジョウブナノカ!? テートク!?」
「大丈夫! だからレキ君も手伝ってくれ! 朝潮君を入渠だ!」
「ワ、ワカッタ! アサネエチャン、シナナイデ!」
死ぬほどの怪我では無いにしろ、中破は大きな怪我ではある。レキさんには不安しかないだろう。安心させるように私は自分の足で入渠ドックへ向かう。レキさんには付き添いしてもらった。
「大丈夫ですよ。右腕がものすごく痛いだけです」
「ダイジョウブジャナイ! ダレガヤッタ! レキガブットバシテヤル!」
「その敵はもう倒してきました。だから、もう大丈夫。心配してくれてありがとうレキさん」
動く方の手でレキさんを撫でてあげた。
最も重傷な山城さんは、誰よりも早く入渠させられていた。それでも自分の足で行ったというのだから恐ろしい。天龍さんも続いて入渠。高雄さんは小破故に多少報告をしながら最後に入るようだ。私もドックに入る。
「少し寝ますので、安心して待っていてください」
「ウン、アサネエチャン、マッテルゾ」
「ええ、レキさんは偉い子ですね。それじゃあ、おやすみなさい」
疲れも来ていたのだろう。目を瞑ったらすぐに眠りに落ちた。
どれだけの時間が経ったかはわからないが、目を覚ますと身体は何もなかったかのように治っていた。右腕も普通に動く。疲れもない。戦闘の前に戻ったかのようだった。
ドックから身体を起こし、他のドックを見る。高雄さんはもう終わったようで空。山城さんと天龍さんのドックはまだ動いている。私より重傷だったのは見てわかった。
「アサネエチャン、オキタカ!」
私の替えの制服を持ったレキさんが飛びついてきた。司令官からそろそろ終わると聞いていたのだろうか。
「はい、全部治りました。腕も動きますよ」
「ヨカッタ! ヨカッタナ!」
レキさんが持ってきてくれた制服を着て、ドックから出る。外はまだ明るい。お昼を回って少し経ったくらいだろうか。大体3時間くらいの入渠だったようだ。
「アサネエチャン、ヒルゴハンアルゾ! タベテ!」
「そうですね。あれだけの戦闘をしたのでお腹も空きました」
レキさんに引っ張られ、食堂に連れていかれた。同じ部隊に出た他の方々も食事を終えたくらいだった。
「姉さん、入渠終わったのね。レキが向かったからそろそろだと思ってたわ」
霞はご飯を食べずに待っていてくれたようだ。隣に座る春風も同様。優しい妹達で姉として胸が熱い。
これで私の南東拠点攻略は終了した。
課題はまた山積みになってしまった。考えることはいくつもある。今の私のままでは、北の拠点の攻略はままならないだろう。今までは敵は戦艦棲姫改だけだったが、今回のようなことが起こる可能性は0では無くなってしまったのだ。
戦艦水鬼と戦艦棲姫2体という組み合わせは、本当にあった敵の配置。正直地獄なのではと思える敵編成。本来はどうやって倒してるのだろう。