新たな仲間、龍田さんを迎え入れ、さらに活気が増した私、朝潮の所属する鎮守府。
夕飯前くらいの時間に目を覚ました龍田さんは、天龍さんに連れられ司令官と面会し、今までにない早さで自分のことを受け入れた。
武器が装備できないと伝えられると、即座に白兵戦志望。理由は勿論、天龍さんがそこに属しているから。
「天龍型軽巡洋艦2番艦、龍田よ〜。
祝勝会を兼ねた夕飯の席で龍田さんの正式な配属が発表された。その言葉に潜水艦勢、特にセンさんが慄くが、味方を攻撃することはないとちゃんと後付けしていた。
配属してすぐに白兵戦の道を選んだのはガングートさんに続いて2人目。そもそもガングートさんは深海棲艦の時代から艤装による格闘で戦っていたのだから、白兵戦が当たり前という考え。対して龍田さんは白兵戦せざるを得ない状況に置かれてすぐに受け入れた。
「龍田君のことは基本天龍君に任せるよ。龍田君、それでいいね?」
「ええ、助かるわ〜」
天龍さんとは正反対な、のんびりした人だ。笑顔を絶やさず少しフワフワした雰囲気だが、そこはやはり天龍型、なかなか苛烈な性格なのだと姉が話す。
「改めて、南東拠点攻略、お疲れ様。援軍の4人も本当にありがとう」
「お役に立ててよかったです」
「明日に帰投するという話だったね。なら残り僅かな時間だが、ここでゆっくりしてほしい」
援軍の方々は、今日が休暇として1日非番、明日帰投というスケジュールだったようだ。
たった4日間の共同戦線だったが、本当に助かった。北の拠点攻略の際にも手伝ってもらうことになるので、今回の件でこちらのことがわかってもらえたのも大きい。
「さぁ、祝勝会だ! 本番はまだあるが、今回の勝利は大きな勝利! みんな、ありがとう! 愛しき我が子たち!」
あの戦艦水鬼に勝利できたのは大きなことだ。無傷がいない辛勝ではあったものの、あの布陣を突破できたのは次への自信に繋がる。
それでも私にはまだまだ課題があった。曳航の拙さがピンチを招いたし、行動予測がまだまだままならない。未来予知なんて以ての外だ。日々鍛錬に励み、北の拠点攻略までには完璧なものに仕上げたい。
翌日の朝、援軍の4人は自分の鎮守府へと帰投した。ここからは通常運転。私はまず哨戒任務となっている。
「朝潮、うちの妹をよろしく頼むよー」
「はい、お預かりします」
哨戒任務は萩風さんの初陣の立会い。私が索敵対空対潜全てを賄い、他の人への負担を減らすことで、初陣もスムーズにこなせるという算段だ。敵が出なければ今まで行かなかった鎮守府の外の海まで足を運ぶ航海訓練みたいなものになるし、出た場合は今までの戦闘訓練の成果を確認する場となる。
時津風さんも哨戒に参加したかったようだが、殲滅目的の哨戒任務でない限り、燃費の問題で参加することはない。そのため、私が預かることとなった。
「哨戒とはいえ、ちょっとドキドキするね」
「みんなそうですよ。でもすぐに慣れますから」
哨戒ルートは東。先日の南東拠点に近いといえば近い場所である。昨日の哨戒では何もいなかったが、鎮圧したとはいえ元戦場。深海棲艦がまた集まってきていてもおかしくはない。
今回の哨戒の部隊は、通常の駆逐艦による哨戒部隊3人に、初陣の萩風さんを加えた4人編成。私以外の2人は戦闘メインということで、深雪さんと霞。深雪さんは対空の補助も兼ねている。今回の旗艦は霞。
奇しくも私以外は全員、鎮守府に姉がいるという共通点がある。そして、今日配属された龍田さんも同じ。哨戒中の話題は専ら龍田さんのことになる。
「深雪さんは、別の龍田さんと会ったことあります?」
「いや、無いんだよこれが。噂は聞いたことあるんだけど」
深雪さんが聞いた話というのが、やはり天龍さんとの関係。どちらかといえば龍田さん側にパワーバランスが傾いているらしい。
「天さんが弄られる側ってのがメジャーらしい」
「うちの鎮守府だと……どうだろ。同じようなことになるのかな」
「多分弄る余裕無いわよ。白兵戦組よ?」
天龍さんがいるからという理由だけで白兵戦組に入った龍田さん。実際、戦場で活躍しようと思うと、それか私のような補助専門かのどちらかになる。
白兵戦組の訓練は皐月さんを見ていればわかるが非常に厳しい。砲雷撃戦の出来る通常の艦娘と比べて、危険度が段違いだからだ。自分の命を守るための訓練だけでも、過剰と言えるほどの筋トレが必要。他人を弄る余裕は、それを簡単に出来るようになってからだろう。
「あの皐月も最近ようやくへばらなくなったくらいだしね」
「最初ヤバかったもんな。1日で何回風呂に浮いてたっけ」
「私が確認した最高記録は5回です」
それでも龍田さんなら卒なくこなしそうな感じがするから怖い。少なくとも、へばっているところを人前で見せることは無さそう。
「あの……こんな雑談ばっかりしてていいのかな」
萩風さんが控えめに聞いてきた。任務という形で海に来ているのに、今のところただ雑談をしているだけだ。初めての萩風さんには、遊んでいるように思えたのだろう。
事実、仕事をしているのは私だけだ。あくまで他の人は私の護衛という形での付き添い。私を含めた哨戒任務は、もうこんな感じで終わるようになっている。
「合間合間に姉さんが索敵してるの。何も言ってこないってことは、敵はいないわ」
「たまに立ち止まるのはソナーを使っているからです。今のところ敵影はありませんから大丈夫ですよ」
私の索敵能力が最も活かせるのが哨戒任務だ。電探の索敵範囲も拡張し、より手早く終われるようにしている。相方が潮さんだと一切止まることなく哨戒を終えることもできる。
「朝潮さんは凄いのね」
「でも一切攻撃できませんから、戦闘は全部任せきりですよ。私は後ろで待ってます」
いつも以上の早さで折り返し地点に到着。ここから南に行けば先日の戦場に、北に行けば大拠点に近付くことになる。今回のコースは南のルート。戦場であった場所にはまた現れる可能性は高い。
「あー……いますね。索敵かかりました。空母1駆逐2」
しばらく進むと電探に反応。龍田さんがドロップした地点の付近。昨日は見なかっただけで、案の定敵が出てきていた。あれだけの数の深海棲艦を撃破しているのだから、まだまだ湧いてもおかしくはない。
ただ、比較的少量だ。空母が混ざっているとはいえ、まだ戦える数。
「哨戒部隊旗艦の霞よ。元南東拠点付近、龍田さんのドロップポイントで敵を発見。規模は空母1、駆逐2。殲滅か撤退か、指示をお願い」
「殲滅の場合、萩風さんは初陣ですね」
「き、緊張する……」
あちらの空母はまだ艦載機を出していない。撤退なら今がチャンスではある。
「了解、危険と感じたらすぐに撤退する」
「殲滅ですね。私は艦載機を処理しましょう」
数が少なく、駆逐艦4人でも行けると判断されたようだ。
ここ最近は、実戦経験が練度にも繋がるので、できることなら殲滅の方針になっている。あくまでも危険ではないと判断された時だけ。
「うし、じゃあ萩風に空母やってもらうか!」
重巡主砲を準備している萩風さんに振る深雪さん。一番の大物を初陣を飾る新人に叩かせるというのは危険ではあるが、いい経験にもなる。
「よ、よーし、行きます!」
「気合い入ってんじゃん! よっしゃ、霞、一番槍貰うぜぇ!」
「ああもう! 連携とか考えなさいよ!」
まず深雪さんが飛び出した。霞もそれについていく。邪魔な駆逐艦の掃除をし、空母への射線を作ったところを、萩風さんに任せる算段。
「艦載機来ます。深雪さん対空もやってくださいよ!」
「わぁーってる! そんだけなら朝潮だけで行けるだろ!」
確かに数は少ないので私だけでも全て墜とすことはできるが、そういう問題ではない。深雪さんは度々独断専行する悪癖がある。
「射線開きました。萩風さん、どうぞ」
「撃ち方、始め!」
反動軽減がまだ完璧とは行かないものの、重巡主砲を放つことには成功した。狙いも悪くない。撃った後に少しフラついてしまうのはまだ訓練不足であることを示している。
萩風さんの放った一撃は、直撃とはいかなかったものの、大破に追い込むほどに。さすが、駆逐主砲とは訳が違う。
「ひゅー! さすが!」
「これで空母も無防備ね。沈みなさい!」
トドメは霞の魚雷で幕を閉じた。あっという間に殲滅完了。萩風さんの初陣は、いいものとして終わりそうだ。
「勝てた……よかったぁ」
「お疲れ様です。やっぱり重巡主砲の火力は頼りになりますね」
これくらい簡単な戦闘であれば、初陣にはもってこいなのかもしれない。戦闘を知り、敵を撃破する感覚を知ることで、さらに次に繋がる。戦闘に対する緊張もこれで多少は薄れるだろう。
「おかえりなさ〜い」
萩風さんの初陣が終わり帰投すると、工廠には龍田さんがいた。本日配属なのに、既に艤装の装備をしているようだ。
「もう艤装の装備ですか?」
「武器を早く調整したかったのよ〜」
明石さん改造済みの薙刀を軽く振るう。私が見たときより刃がさらに鋭利になり、天龍さんと同様に殺意が目に見える。近接武器ではあるものの、天龍さんや皐月さんと違いリーチが長い。白兵戦組の中では一番安全な攻撃方法かもしれない。
「かっけぇ……!」
「うふ、ありがとう深雪ちゃん」
おっとりした雰囲気の龍田さんには妙に似合っている。武器を持っていると天龍さんの妹なのだなと実感した。
握り心地などを見ている内に、奥から天龍さんもやってくる。龍田さんの武器の改造をプロデュースしていたらしい。天龍さんも思ったより過保護なのかもしれない。
「龍田、どうだ?」
「天龍ちゃん、こんな感じよ〜」
器用に薙刀を振り回す。見ているこちらとしてはヒヤヒヤするが、天龍さん的にはいい具合と判断できた様子。
「よしよし、ちゃんと
「あら、何か仕込んだの〜?」
「セッさんに手伝ってもらってな。深海艤装の一部を混ぜ込んだ合金にしてんだ。斬れ味がさらに増してるぜ」
龍田さんは後発ということで今までの白兵戦の成果の集大成になっている。そのうちの一つが武器の改造だ。
ここには他の鎮守府にはない深海棲艦の技術がある。それが組み込まれたおかげで、通常の武器より一味も二味も違うものに進化した。龍田さんが力を得られれば、おそらく斬れない物は無くなるだろう。
「どうりで軽いと思ったわ〜」
「それ、マジで危険だから絶対に人に向けるなよ。そいつは
「勿論わかってるわ〜。天龍ちゃんがそういうことしないんだもの、私もしないわよ〜」
見ている感じ、龍田さんは霞、いや、春風に近いように思える。天龍さんに依存しきっているようだ。天龍さんの意思次第で敵にも味方にもなり得るだろう。
それなら安心だ。ここの天龍さんは誰にでも分け隔てなく手を差し伸べる。怒りに身を任せて残酷に振る舞ったのは、目の前で龍田さんがやられた時だけだ。泊地棲鬼の時ですらあそこまででは無かった。少なくとも仲間に手をあげることは絶対にしない。
「萩風は初陣だったらしいな。どうだった」
「反動軽減がまだまだでしたけど、敵空母に一撃入れることができました。うまくやれたんじゃないかなと思います」
「そうかそうか、オーバースペック組はそこが大変だもんな。また筋トレ手伝ってやるよ」
本当に面倒見がいい。私以上に背負っているものが多いのではなかろうか。
「オーバースペックって何かしら〜」
「私の艤装、重巡用なんです。私自身は駆逐艦ですが」
「なるほどね〜。本来より強い力を持ってるのね〜」
「その分大きなデメリットもあるんですけどね」
龍田さんの視線がほんの少しだけ鋭くなった気がした。理由は何となくわかった。天龍さんが目をかけている艦娘を値踏みしている。
私が今まで経験してきた妹関係の問題点が集約されているようにも思えた。これは天龍さんが苦労しそうだ。とはいえ人様の姉妹関係に口出しできるほど私は偉くない。
「龍田、午後から水上訓練な。オレが見てやるから、早く出撃できるようになろうぜ」
「は〜い。天龍ちゃんが見ててくれるならすぐにできるようになるわ〜」
実際、龍田さんはその日のうちに水上移動ができるようになってしまった。こんなこと前代未聞なのだそうだ。天龍さんは龍田さんのことを天才だと褒めていたが、龍田さん自身は天龍さんの教え方が上手だと言っている。
龍田さんは思いをそのまま力に変えられる人だ。できると思ったことは本当に出来てしまう。それは紛れもなく天才なのだろう。ただし、天龍さんに見てもらっているとき限定のようだが。
龍田は何でも卒なくこなす天才タイプなイメージ。影で努力してるとかでもなく、本当にやれてしまうみたいな。