「
鎮守府が騒然とした。私、朝潮も勿論他と同じである。
新規配属艦娘であるガングートさん。鎮守府初の海外艦であり、鎮守府初のドロップ艦以外の配属。そして、他の鎮守府でも類を見ない、
「先日山城君が決着をつけた北方水姫だが、見ての通り浄化現象により艦娘へと変化した」
浄化現象。
深海棲艦を倒した時、極稀に発生すると言われる艦娘への変化のことである。その発生確率は
「あの時の記憶も半分程度だが残っている。山城、貴様には世話になったな」
「本当よ……深海棲艦に名指しでケンカを売られるなんて不幸すぎるわ」
だが、ガングートさんがこの鎮守府に配属することになったのは何故だろうか。そんなレアケースの艦娘を大本営が他に譲るとは到底思えない。
大本営は鎮守府ではあるが部隊を運営しておらず、艦娘や深海棲艦の謎の解明にも尽力している機関である。私達にある
「提督、なんでうちの鎮守府に配属なんだよ。元深海棲艦なんてレアな艦娘、大本営が黙っちゃいないだろ」
天龍さんも私と同じ疑問にぶつかったらしい。
「ガングート君には
「北方水姫時代の名残だ。主砲が使えん」
「そのため、
なるほど、欠陥を持った元深海棲艦という艦娘を他に配属させるわけにはいかなかったということだろう。
大本営がガングートさんを実験に使うかと思っていたが、艦娘としてのスペックを見たいのなら、別の鎮守府に配属して経過を観察した方が早い。さらに
「というわけで、ガングート君が仲間に加わった。今日の夜は宴だぞ!」
「ほう! そいつは嬉しいな! ウォッカはあるのか!」
「勿論用意しよう。久々に酒盛りだ!」
隣で大淀さんが頭を抱えていた。あとから皆が慰めるだろう。
今日の対空訓練はうまく行った。何度かは当たってしまったが、しっかりと爆撃を避け、爆撃機への攻撃を当てることもできた。少しはトラウマが払拭できたように思える。
調子がよかったからか、いつもよりも早く訓練が終わった。
「お疲れ様! 朝潮、今日はいい感じだね」
一緒に訓練をしていた皐月さんから褒めてもらえた。あの時の私を知っている皐月さんに言ってもらえるとありがたい。
「そうですね。少し当たってしまいましたけど、あの時よりはマシですね」
「あの時って、顔面爆撃? まぁあれはトラウマものだよねぇ。ボクと吹雪ちゃんも当て付けみたいに喰らったけど」
「はい……正直あの後からスランプでした。でも、少し吹っ切れたみたいです」
私は真面目に考えすぎていたらしい。あくまでも訓練のミスだ。次に巻き返せばいい。確かに酷い目にあったが、それで死んだわけではないのだ。本番で死なないようにするために訓練しているのだから、こういうところで無茶をしておくべきだろう。
山城さんと北方水姫……ガングートさんの戦いを見たからこそ、そこに辿り着けた気がする。本当の生死をかけた戦いに比べれば、私のミスなんてちっぽけなものだ。
「龍驤さんにもお願いしてあるんです。また前のような訓練をしてほしいって」
「え、マジ……?」
「はい。このまますぐに追いつきますよ」
「あはっ、ボクと競い合う気? 可愛いね!」
私と同じ
「よーし、じゃあお風呂行こう。臭い取りたいし!」
「ですね。前ほどではないですけど結構辛いです」
皐月さんはほぼ無傷といっても過言ではなかったが、少しだけ掠っている。私は何度か当たった上に、肩にモロに受けているので臭いが強い。振り向くだけで少し顔をしかめてしまうほどだ。
龍驤さんが使ってから、対空訓練の爆弾にはその臭いを使われることが多くなった。そのおかげか、皆訓練に一層力を入れるようになり、対空に関しては他の訓練よりも伸び率が良くなったらしい。
ただ、訓練をしてくれる空母の方々と、艦載機を操縦する装備妖精さんからは、若干の苦情があるとか。
「ん? おお、貴様らか。……酷い臭いがするが」
訓練から戻ると、工廠にはガングートさんがいた。ちょうど艤装の調査をしているところのようだ。
「対空訓練は当たるとこういう臭いのする弾を使われるので」
「当たりたくないって思えるからだよね」
「なるほど、理にかなっている」
顔はしかめているものの、納得してくれたガングートさん。まずはここである程度臭いを取らなくては。
「ガングートさん調査終わりましたよーって、くっさい!」
明石さんもやってくるなり鼻をふさぐ。
汚れた私達を見て察したようで、すぐに工廠の端に妖精さんが専用のシャワールームを用意してくれた。消臭剤と洗浄剤が含まれた高速洗浄。整備担当の妖精さんはそういったことも得意なようで、お風呂で洗い落とすよりもすぐにある程度の臭いが取れた。制服も脱がされ新しい制服を着せられる。
「相変わらずこれは凄いですよね」
「ね。汚れを取るのはいつものことだけど、臭いもある程度取れるってのが凄いよねー」
「肌に付いたところだけはお風呂ですね」
さっぱりした私は皐月さんの提案で、明石さんに洗浄が終わった事を伝えがてら、ガングートさんの話を聞きに行くことにした。まだ少し臭いはするが気にならない程度である。
「明石さんありがとー!」
「あとはお風呂で取れる程度になりました」
「はいはい、あの臭いだけはホントどうにかしてほしいわ……」
言いながらもガングートさんに艤装を装備させている。
ガングートさんも山城さんと同様、背中を埋め尽くす大きな艤装だ。そして、北方水姫時代を彷彿とさせる、艦首をモチーフにしたアームが接続されていた。本来なら主砲が接続される場所であろう空白には、バルジが張られている。
「うむ、主砲が無いのは不便だが悪くない。特にこのアームがいいな!」
「本来なら主砲の接続を目的としているのみで、攻撃に使うような装備ではないんです。でも、
「ならば私のみの特殊兵装なのだな! хорошо!」
ということは、ガングートさんはあの時の北方水姫と同様の戦い方をするのだろう。艦娘でありながら、砲撃を掻い潜り格闘戦で相手を倒す。
本来ならば持つこともない特殊な兵装も、元深海棲艦ならありえるということが実証された。
「カッコイイ! ガングートさんの艤装カッコ良すぎだよぉ!」
皐月さんもその異形の特別感に興奮している。かくいう私も表には出していないが通常とは違う艤装というのはカッコいいと思う。
「これは整備とかも慎重にしないといけませんね」
「そこは私も手伝おう。私の艤装だ、私が一番わかる」
「あまり無茶しないでくださいよ、と言いたいところですが、戦い方的にすぐにガタが来そうですよねぇ。手の部分の開発方法考えておかなくちゃ……」
本来存在しない装備の開発という難題を与えられてしまった明石さん。だが、そこまで悲観はしていないようだ。
お風呂で最後の臭いを洗い流し、湯船でまったりしている私と皐月さん。さすがにだらしない顔は見せなくなった。
「もう湯船の回復でだらけなくなったね」
「慣れましたよ」
訓練後のお風呂は欠かせないものになっている。今の私は毎日のように訓練しているので、毎日そういう目的でお風呂を使っているのだ。そこまですればさすがに慣れる。
「白露だけが見たんだよね。朝潮のだらけ顔」
「あの後からは細心の注意を払っていましたから」
「みんな通る道だよ。お風呂でだらけるの」
そうは言われても、恥ずかしいものは恥ずかしい。ただでさえ私には落ち度がいくつかあるのだから。
「おう、お疲れさん」
「お疲れ様」
そう話していると天龍さんと、今回訓練を手伝ってくれた空母、蒼龍さんが入ってきた。私達の訓練を見ていた後、司令官への報告などをしていたらこの時間になったらしい。
蒼龍さんは龍驤さんとは違う正規空母という艦種。燃費と回避が下回る代わりに、艦載機の搭載数がかなり多く、耐久力にも優れる大型艦だ。それでもトップ空母と呼ばれているのが龍驤さんという辺り、龍驤さんがどれだけ優れているのかが窺える。
ちなみに蒼龍さんの
「お疲れ様です」
「お、朝潮もうだらけてないな」
一生このネタで弄られ続けるのだろうと覚悟した。やはり落ち度である。全員の記憶から消したい。
「龍ちゃんから聞いてたけど、朝潮大分避けられてたね」
「はい、やっとコツを掴んだようです」
「顔面爆撃のこと考えると、大分進歩してるよ」
こちらもおそらく一生弄られるネタだろう。払拭するくらい活躍しなくちゃいけないのではないか。俄然やる気が出た。
蒼龍さんの訓練は、龍驤さんほど爆撃の精度が高くない代わりに、艦載機の持続時間が長く、弾が当たられないと1機でも長く相手をする羽目になる。避けやすいといえば避けやすいが、それが同時に3機発艦となったりするので、早期決着を要求される。
「私も龍ちゃんくらい精度高い爆撃をしたいんだけど、妖精さんがまだ操縦しづらいって言うからさ。練度を高めないとね」
「空母はどういう訓練をしてるんですか?」
「私は弓道型だから、毎日的を射ってるよ。これが結構大変でね。陸上で艤装装備しながらの行射だから」
龍驤さんは式神型だが、蒼龍さんは弓道型。矢を放つことで、その矢が艦載機へと変化する。当然ながら、発艦は弓道と同じスタイルで行われる。
蒼龍さんの艤装は私達とはまったく違い、背中に矢筒をかけることと、肩に飛行甲板を装着することのみ。とはいえ普通に矢を射るにはとても邪魔なのは言うまでもない。そのため、普通の弓道とは違うスタイルを自分で見つけるしか無いらしい。
「オレらにはわかんねぇ苦労だよな。空母は攻撃の仕方が違いすぎる」
「ですね……でも私は天龍さんの苦労もわかりません」
「あー、オレは艦娘からも少し離れてるからな。明日からは山城姐さんと一緒にガンさんの格闘戦訓練も付き合わないといけなくなった」
ガングートさんも当然格闘戦専門の艦娘として運用されることとなる。天龍さんや山城さんと同じ訓練をしていくのだろう。なら、ジムの常連になる可能性は高い。
「あ、さっきガングートさんの艤装見せてもらったんだ! すごくカッコよかったよ!」
「どんな感じだったんだ?」
「ほとんど北方水姫そのままなイメージでした。本来なら無い手の部分があって」
それを聞いた天龍さんは、悪いことを思いついた顔をした。隣の蒼龍さんも何か察したらしい。
「天龍、ほどほどにしておきなよ?」
「わかってるわかってる。せっかく艤装に手があるんだし、もっと器用になってもらおうって思っただけだよ」
私も察してしまった。おそらく手を使っての緻密な作業をやらせるんだろう。動かし方に慣れれば戦術が拡がるだろうが、ものすごく大変そうだ。
だが、格闘戦の仲間が増えたことは天龍さんは大いに喜んでいた。艦隊の中でも屈指に危険な戦闘だ。自分以外にもいればできることも増えてくる。
新しい仲間、ガングートさん。私も出来ることがあれば手伝ってあげたい。格闘戦の戦艦相手に私のできることは高が知れているだろう。それでも。
ガングートもバグに縁のある艦娘。手に入った直後、戦艦ル級のグラフィックになっていました。元深海棲艦であるのも、そこで頷けるのではないでしょうか。