欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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提督との絆

南東拠点攻略で、鎮守府全体としても課題が見えてきた。今のままでは、北の大拠点攻略でも同じように怪我人続出になりかねない。後衛、かつ一切の攻撃をしない私、朝潮ですら中破である。いや、私が中破で無かったら龍驤さんが轟沈していた可能性があるので良しとしなくてはいけないのだが。

 

今のところ、戦艦棲姫改とも戦艦水鬼とも戦っているのは私と霞だけ。私が見てわかったことは、どちらも耐久力が異常に高く、雷撃ですら弾くということくらいだ。

正直、どちらが強いかはわからなかった。どちらも同じくらい危険な敵であるという認識。

 

「北の攻略で最初の難関は、やはり戦艦棲姫改だろう。戦艦水鬼と同等かそれ以上の力を持つ敵だ。先日の戦闘では、連合艦隊で臨んでも全員に傷を負わせてしまった」

「ありゃあ戦艦棲姫もいたからだ。戦艦水鬼だけだったらああならなかったと思うぜ」

「そうね。最初からあれに専念できたら、私も大破なんてしなかったわ」

 

今まで2回、戦艦棲姫改とは戦闘しているが、そのどちらもが単体相手であった。代わりにこちらも通常艦隊であり、私がヒメさんを抱きかかえて擬似空母化している状態。私はヒメさんと共に援軍を食い止める側に立っており、直接戦艦棲姫改と戦ったわけではないため、相手1体に対しこちらは5人。それでも苦戦しているし、撃破まで行っていない。

 

「連合艦隊で戦艦棲姫改が単体なら、まだ行けると思うわ。問題は、敵部隊に他の姫級がいる場合よ」

「姫級3体同時はさすがに無傷は無理だ。今回は山城姐さんが戦艦棲姫1体引き受けてくれたから何とかなったくらいだぞ」

 

ダメージを受けることは覚悟の上で戦わないと、勝つことはできないだろう。傷を恐れながら戦える相手でもない。肉を切らせて骨を断つ精神も時には必要。

 

「提督、覚悟決めてくれ」

「わかってるさ。一筋縄ではいかないことくらい。だが、死ぬ気でやろうなんてことは考えないでくれ」

 

当然だ。皆、この鎮守府が大好きなのだから、生きてここに戻ってくることを望んでいる。今の生活があるからこそ、私達はこんなに戦えるのだから。

 

「死ぬ気なんて無ぇよ。オレが死んだらまず間違いなく龍田が後を追ってくるからな」

「私も死ねませんね。春風が後を追ってきそうなので」

「へへ、お互い、妹が重いと辛いな」

 

天龍さんはいつもの気さくな笑顔だ。

龍田さんの依存は天龍さんも気付いているようだが、なすがままにしている。重い、なんて言っているが、それを楽しんでいるようにも見えた。帰ってくるための理由があるだけでも心持ちが変わるのは私にもわかる。そういう意味では、私や天龍さんも妹に依存しているのかもしれない。

 

「私も死ぬ気なんて無いわよ。まだ武蔵に勝ってないのに」

「うちもそんな気さらさらあらへん。司令官、心配すんなや」

 

私達の宣言に、もはや司令官が泣きそうだった。むしろ泣いてしまった。感涙に咽び泣く司令官は、どこか可愛らしかった。

 

「本当にいい子に育ってくれた! やはり君達は私の宝だ!」

「ああもう司令官、泣かないでくださいよ」

 

吹雪さんがすぐさまハンカチを差し出す。こういうところはやはり初期艦、司令官がどういう人かを最も理解している行動だった。

 

 

 

司令官が落ち着いたことで、会議が再開される。

 

「いやはや、すまない。取り乱してしまった」

「今に始まったことじゃねぇよ」

「で、今後はどうしていこうかしらね。ここまでやってもまだ力不足とは思わなかったわ」

 

訓練を続けるしかないところだが、これ以上の何かが欲しいのも事実だ。この鎮守府最強の戦力である山城さんですら無傷とは行かず、むしろ中破大破が当たり前の白兵戦型だ。艤装の改造も限界まで行われている。

 

「提督、あちらの方も覚悟を決めましょう」

「その時が来てしまったようだね……」

 

大淀さんに促され、司令官が立ち上がった。

 

「君達艦娘には、練度の限界があることはわかるかな?」

「痛いほどわかるわ。私は今の状態が限界なんでしょう」

「装甲空母の装甲を素手でぶち破れるまで行けりゃ充分だと思うんだが」

 

練度を数値化した場合、建造ないしドロップした直後が1、そして今の私達のように限界まで育った状態が99となるらしい。私ですらそこまで辿り着いているとは思わなかったが、改二丁になってからもうかなり経っている。改二丁になるための練度は、数値で表すと85だそうだ。

 

「山城君は肉体改造をしているからね。本来の限界からまた別の方向に進化しているのだろう。朝潮君も同じく、脳の使い方での進化だ。だが、練度自体の限界は既に来ているだろう」

「これ以上伸びないってことかよ。なら今の戦力で作戦考えねぇと」

「その限界を()()()するアイテムがある」

 

大淀さんが1つの箱を机に置いた。アクセサリーが入ってそうな小さな箱。装丁も綺麗で、戦場には似つかわしくない。

 

「こいつは?」

「指輪だよ。これを付けると、練度が限界を超える」

 

そんなあっさりと限界を超えてしまっていいのかと思うが、そんなことは今はどうでもいい。このアイテムを今までこの場に出してこなかったことが問題だ。

手っ取り早く強くなることができ、延いては生存率が上がるアイテムなのに、命を尊ぶ司令官がひた隠しにし続けた理由は何か。

 

「なんでこれをすぐ出さないのよ」

「強くなれるならさっさと付けようぜ」

「君達は女の子だから、これの重大さはすぐにわかるだろう。この指輪は、()()()()()()()()()()()()()()

 

会議室が静まり返った。指輪に手を伸ばした天龍さんも流石に硬直している。

 

「この指輪のメリットは、練度の限界を超え、さらに燃費が若干だが良くなる。至れり尽くせりだ」

「で、でも、左手の薬指ということは……」

「大本営は、この強化のことをあろうことか『ケッコンカッコカリ』と名付けた。つまり、強化と引き換えに、扱いがそういうことになる」

 

私達を愛娘として見ているからこそ、公表することができなかったということ。

よりによって、強化の方法が結婚とは思わなかった。つまりこれは司令官と結婚する扱いなんだろう。山城さんのような女性ならともかく、私のようなお子様でもそういう扱いになるのは、なんというか、法的に大丈夫なんだろうか。

 

「私は別に構わないわよ」

 

一切の躊躇なく指輪を手に取る山城さん。天龍さんですら躊躇ったのに。

 

「山城君、本当にいいのかい? 考え方はどうであれ、君は私の伴侶として扱われるんだよ?」

「ええ、いいわ。それに、これ『強化』って言ったわよね。別に私1人にしかできないわけじゃないんでしょ」

「うむ……重婚という形になるが、何人にでも渡すことができる。その分指輪を用意する必要があるがね」

 

それはそれでまた法的に大丈夫なんだろうか。

 

「で? 付けるだけでいいの?」

「私が付けてあげる必要がある。さらには、私が何処かにキスをしなくてはいけないらしい……提督との繋がりを作るんだとか何とか……」

「大本営酷いな! なんつーシステム作ってんだ!」

 

本当に式を挙げるところすらあるそうだ。それだけこの強化、結婚は艦娘にとっても重要なこと。たった一人の愛する者に渡す人もいれば、強化と割り切って全員に渡す人もいる。

司令官は、全員愛しているが故に、1人に決められない。結婚という言葉にされたことで複数人に渡すことができない。故に、今まで隠し続けてきたのだ。

 

「するなら手の甲にするよ。皆もこんなおじさんにキスなんぞされたくないだろう」

「私は何処でもいいんだけど?」

「山城君!?」

 

今までにないくらい山城さんが攻めの姿勢だ。戦闘中のような心持ちに見える。

 

「あ、いいこと思いついたわ。どうせ全員に渡すのよね。指輪全員分揃えて、一斉にやりましょうよ。キスの場所は艦娘に任せればいいじゃない」

「合理的ではあるが……」

「受け取りを拒否する奴には渡さなくていいのよ。ほら、簡単でしょ。その間に覚悟決めなさい。全員愛してるなら、全員と結婚するくらいの覚悟をね!」

 

めちゃくちゃなことを言っているが、実際この強化をするならオールオアナッシングだろう。1人に決められず、全員とできないなら、いっそやらない方がいい。そこはもう司令官に任せるしかなかった。

 

 

 

私達がケッコンカッコカリの話を聞いて数日後、司令官が全艦娘を会議室に集めた。はちさんや秋津洲さんまで含めた、本当に全員である。何か言うまでは内密にと言われていたため、この集まりがおそらくケッコンカッコカリのことなのだろうと勘付いているのは会議参加者だけだ。

 

「と、いうわけで……希望者とケッコンカッコカリをする。強くなりたいというだけで選ぶのは得策じゃない。いろいろな体裁もあるだろう。よく考えてほしい」

 

ざわつく会議室。強化に関しては全員喜んだが、その方法についてはやはり混乱している。

 

「練度が限界に届いていないのは春風君、萩風君、龍田君の3人。なので、この3人以外が対象となる」

「私は来たばかりだものね〜。最初から期待してないわ〜」

 

と言いながらも龍田さんの成長速度は凄まじく、すでに艤装を第一段階改造している。ほんの数日で戦力として出撃できるほどである。正直怖い。

 

「姉さんはどうするの?」

「……私はケッコンカッコカリしようと思ってる。今でもう限界と言われたら悔しいし……それに、司令官が相手なら嬉しいし」

「姉さんがするなら私もするわ。確かに司令官なら相手として申し分ないもの」

 

強化よりも相手が司令官だからするという方向になってきている。強くなりたいは二の次だ。そして、この鎮守府に司令官を嫌っている人などいない。もう全員とケッコンカッコカリする流れ。

 

「提督、これでわかったでしょ。発表したんだから、覚悟を決めてきたのよね?」

「ああ、まさか娘が伴侶になるなんて思っても見なかったよ。だが、大切なことには変わらない。私は受け入れよう」

 

ここまで来ると、今度は誰からケッコンカッコカリをするかという話になる。さすがにこれに関しては司令官が決めてきたようで、配属順とした。

というわけで、一番最初は吹雪さん。一番最後は霞ということになる。

 

「き、緊張しますね」

「一番長く付き添ってくれている吹雪君が最初がいいだろう。さぁ、左手を出して」

 

オズオズと左手を出す吹雪さん。その手をやんわりと掴み、指輪を薬指に通す。

 

「まだこれだけでは終わらない。私も困るのだが、何処にキスをしようか」

「最初の通り、手の甲で……」

「わかった。吹雪君、これからもよろしく」

 

そのまま手の甲にキス。

 

「ありがとうございます、司令官。私、司令官のこと信頼していますから、これからもよろしくお願いします!」

 

ここからは流れ作業のようにケッコンカッコカリが行われていく。あの天龍さんですら、恥ずかしげながらも嬉しそうに指輪を貰っていたのは印象的だ。そして、吹雪さんがキスは手の甲という流れを作ってくれたおかげで、皆が同じように進めていく。

 

だが、山城さんの順番、事件が起こった。いや、山城さんが起こした。

 

「山城君、左手を」

「ええ、お願い」

 

指輪をはめられ、キスの段階へ。

 

「提督、先に言っておくわ。私は貴方に感謝しています」

「山城君……」

「生まれたばかりの私は不幸としか思えなかった。艦の時代から欠陥だらけで艦娘となっても欠陥(バグ)を抱えて、扶桑姉様にも出会えない。ドン底だった。だけどね、今は幸せよ」

 

しみじみと話す山城さん。以前に北上さんが通常の山城さんのことを『ネガティブ戦艦』と形容していたが、ここの山城さんはネガティブのカケラもない。

 

「貴方のおかげです。ありがとう」

 

それだけ言って、司令官の頭を掴んだと思いきや、思い切り口同士のキスをした。まさに結婚、誓いのキス。見ていた全員、そして司令官も固まってしまった。

 

「これで成立ね。じゃあ私は限界を超えたか調べてくるわ」

 

やるだけやって、さっさと部屋から出て行ってしまった。静まり返る会議室。一番動揺しているのは、他ならぬ司令官だった。

 

「て、提督、続けましょう」

「そ、そそ、そうだね。次は誰だったかな」

 

大淀さんに促され次を呼ぶ。山城さんの次は雲龍さん。会議室の空気はまだ元に戻らないが、進めていかないと終わらない。

 

「雲龍君、キスの位置は……」

「口」

「はい?」

「山城と同じように、ここで」

 

自分の口を指差す雲龍さん。本人が望むのだからと司令官も渋々キスをするのだが、雲龍さんも司令官の頭を掴み、割と強めに事を済ませる。

山城さんが完全に流れを変えた。司令官に()()()()()()を持つ人は少なからずいるとは薄々思っていた。私はお子様なのでそういった色恋沙汰はよくわからないが、尊敬はしている。恋愛ではなく、敬愛。そういう意味では私も司令官のことを愛しているのかもしれない。

 

 

 

波乱の一幕もあったが、ケッコンカッコカリが可能な艦娘は全員指輪を受け取った。私はさすがに手の甲にキスをしてもらったが、雲龍さんの後も、何人かは別の場所を所望していた。榛名さんは頰、那珂ちゃんさんは額など、思ったより大胆にことを起こす人は多かった。

 

「……なんだか夢みたい」

 

指輪のはまる指を眺める。こんな身体でも、私は結婚という女としての大きなイベントをこなしてしまった。例え仮でも、結婚は結婚。私と司令官は夫婦として外から扱われる。

とはいえこの鎮守府に配属する艦娘はほぼ全員同じ立場だ。それを見れば、この鎮守府では強化と割り切ったケッコンカッコカリが執り行われたと誰もが察することができるだろう。

 

提督との関係が一層深まった。これからは司令官も、私達のことを娘であると同時に伴侶として扱うと言った。大切な存在だと、改めて話してくれた。

これだけしてもらえたのだ、死ぬわけにはいかない。何があっても生き延びなければ。

 




指輪を全員に渡すというのは、ケッコンという言葉のありがたみが薄れるような気もしますが、全員に分け隔てなく愛情を持っている証にもなるので、一長一短。
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