欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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蘇る感覚

ケッコンカッコカリという特大イベントを終わらせ、自らの限界を超えることに成功した私、朝潮。実感はまだ無いが、練度の限界を超えたということは、出来ることがさらに増える可能性があるということだろう。

 

それからまた幾日か過ぎ、地道に周りの小拠点を鎮圧していた。残っていた小拠点は、戦艦水鬼のような強力な敵もおらず、現在の鎮守府の力でも充分抑え込める範囲。特別なこともなく、淡々と処理が進んでいる。

そろそろ北の大拠点の攻略も視野に入ってきた。だが、戦艦棲姫改は本当に強敵だ。それを倒すためにも皆がケッコンカッコカリをしたようなものだ。

 

「ほぼ準備は出来たと言ってもいいだろう。あとは皆の強化を出来るだけしていきたい」

 

会議でも司令官は艦娘の強化を打ち上げた。

あの騒動、山城さんの事件の後、若干関係がギクシャクしたところもあったが、今では今までと変わらない関係で運営できている。覚悟を決めたのは司令官だった。

 

限界を超えたことで、成長の幅も広がった。さらに訓練を積めば、戦艦棲姫改に太刀打ちできる力も手に入るだろう。

だが、その訓練をどうするのかが問題だった。今まで通りの訓練だと、効率が悪くなってきている。訓練自体に慣れてしまっているからだ。今の訓練は、実力を伸ばす訓練じゃなく、実力を落とさない訓練になっている。

 

「もっとハードな訓練にするってのもな。今以上となると、それこそ殺し合いのレベルになっちまう」

「友軍の依頼も今のところないね。そうなると、訓練と演習しか強化する手段は無いだろう」

「演習するにしても、ここでやるのは得策じゃないよな。見せられないものが多すぎる」

 

理解が得られるならいいが、今のこの鎮守府の状況、初見で受け入れる人はまずいないだろう。陸上型の深海棲艦の陣地が併設されてしまっているし、そもそも鎮守府内に普通に深海棲艦がいる。

 

「……爺さんに連絡してみるか」

「元帥閣下にですか?」

「ああ。困った時は頼るべきだろう。曲がりなりにも上司なんだから」

 

あの最強の艦隊である護衛艦娘を持つ元帥閣下なら、何かいい訓練方法など知っているかもしれない。司令官が頼れる上役の人が元帥閣下くらいしかいないというのもあるが、いないよりはマシだろう。

 

司令官が元帥閣下に連絡を取ったことで、事が大きく変わりそうだった。なんと、護衛艦娘の方々が3度目の来航。元帥閣下が大本営から逃げたいタイミングと一致したらしく、赤い海調査という名目で鎮守府にやってくることとなった。この名目も2度目である。

赤い海の拡張は毎日の掃討任務により現状維持されている。未だに黒の陣地まで行けておらず、存在の一部を電探で確認しただけに過ぎない。この件についても元帥閣下には細かく説明する必要はありそうだ。

 

「あのジジイ、また私をダシに使いやがった」

「代わりにこちらも訓練してもらえるのですからWIN-WINでしょう」

「まぁそうなんだがね。今回は冷やかされるな……指輪のことで」

 

今までと違い、今回はアポあり。明日の朝に到着するとのこと。事前に準備ができるとはいえ、以前と同じように普通に出迎えるだけだろう。3度目ともなれば、皆慣れたものだ。元帥という地位の人が来るにも関わらず、誰も緊張していない。

 

「今日は今までと同様の訓練で。では、解散」

 

最強の艦隊との訓練、どのようなものなのだろう。今までと同じことをやったとしても、手に入る練度は桁違いに思える。明日からはハードになりそうだ。

 

 

 

その日は、誰もが待ち望んだことが起ころうとしていた。その瞬間のため、皆が工廠に集まっている。事情を知らない龍田さんも天龍さんに連れられて来ている。

 

「天龍ちゃん、これは何の騒ぎ〜?」

「シンの艤装改造が今日で終わるんだ。ついにアイツ、泳げるようになるんだよ」

 

そう、シンさんが欠陥(バグ)を克服するのである。陸上では歩けないままではあるが、潜水艦としての力は完全に戻る。それはシンさんの念願であり、私達の念願でもあった。

一時期は絶望で心を閉ざし、何をしても無反応な状態だったシンさんも、希望の光が差し込んでからはとても元気になった。それはこの時を信じていたからだ。シンさんもこの時のために頑張ってきた。

 

「あの脚が不自由な潜水艦の子ね〜。え、もしかして、脚が治る……の……?」

「治るってわけじゃないんだけどな。艤装だけは動くようになるんだよ」

「それでも凄いことよ〜? 欠陥(バグ)が治るようなものじゃない」

 

龍田さんが驚くのも無理はない。艦娘の欠陥(バグ)は絶対に治らないことは明石さんが証明済みなのだ。そして、それを何らかの手段で乗り越えることも不可能である事も証明済み。私達はどうしてもこの問題とは付き合っていかなくてはいけない。

 

それを今、覆そうとしている。

 

「それじゃあ、シンちゃん、大丈夫でちか?」

「ウン、ダイジョウブ、ギソウダスネ」

 

海に浮かんだ状態でスタンバイしているシンさん。万が一のために両サイドにゴーヤさんとセンさんがついている。

シンさんが展開した艤装は、改造前から形はほとんど変わっていない。自分と同じくらいの大きさのクジラのような艤装が、しっかりと下半身を包み込む。

 

「じゃあ、泳いでみて」

「ウン……!」

 

最初は潜らず、海面で。ゆっくりとだが前に進み出す。ゴーヤさんもセンさんも補助をしていない。シンさん自身の力でも前に進んでいた。

 

「ススム……オヨゲル……! オヨゲルヨ!」

 

少し海面を動いた後、すぐさま海中に潜った。以前がどのように泳いでいたかは私達にはわからないが、いつも見るゴーヤさん達のように急速潜航したかと思ったら、勢いよく海上に飛び出す。クジラというよりイルカだった。それだけ軽快に泳げているのだから、完全に戻ったと言っても過言ではないだろう。

 

工廠は歓声に包まれた。この鎮守府では初めての『欠陥(バグ)が治療できた者』だ。細かいことを言うと違うのだが、潜水艦としての性能が100%戻ってきているのだから、治療できたと言ってもいいだろう。深海棲艦だからというのもあるだろうが、それでも充分だった。

 

「シンちゃん、よかったでちね……」

「アリガトウ……アナタタチノオカゲデ、イモウトハモトニモドッタワ」

 

泣きそうなゴーヤさんとセンさん。

 

「デッチ! オネエチャン! イッショニオヨゴウ!」

「え、ちょっ」

 

そんな2人の手を掴み、海中に引きずり込んだシンさん。海中でセンさんも艤装を展開し、そのまま海へと出て行ってしまった。どれだけ喜んでいるのかがすぐにわかる。

 

「本当に良かったわ……」

 

最初から最後まで知っている霞は肩を震わせていた。

脚を失ったシンさんを、ずっと励まし続けてここまで運んできたのは他ならぬ霞だ。自ら死を選ぼうとしたところも、姉の救出を涙ながらお願いされたところも、全て見てきた。このシンさんの姿は感慨深いだろう。

 

「最初……本当に助けてよかったのかって思っちゃったのよ……。あんな状態を見てたらさ」

「……そうね。私もそうだった」

「でも、良かったのよね。私は間違ってなかった」

 

霞の頭を撫でてあげた。私達の選択は間違っていなかった。

霞は顔にも口にも出さなかったが私と同じ悩みを抱いていたのだろう。私は司令官に話して折り合いを付けたが、霞は一人で抱え込んでいた。それが時間がかかったものの、いい方向で解決したのだ。素直に喜べばいい。

 

「これからも救える命は救うわ。相手が拒んでも」

「それがいいわ。後悔するなら、救って後悔した方がいいもの」

 

見えている命は全て救う。霞ならやり遂げるだろう。私も同じように力を尽くしていきたい。

 

 

 

ひとしきり泳ぎ、満足したのだろう。最高の笑顔でシンさんが工廠に戻ってきた。ぐったりとした顔のゴーヤさんとセンさんを引き連れて。

 

「タノシイ! ヤッパリオヨグノタノシイ!」

「そ、それは良かったでち……」

 

ゼエゼエ言っているゴーヤさん。私は海上艦なのでそれほど疲れる泳ぎというのがちょっとわからないのだが、子供のパワーで引きずり回されたんだなと理解する。

 

「イモウトガ……ゴ、ゴメンナサイ……」

「い、いいんでち……元気になったことはいいことでちから……」

 

息も絶え絶えで海上に上がってくる。センさんは艤装さえ消せば普通に上がってこれるが、シンさんはここからが難しい。体型が子供じゃなければ、引きずり上げるのも辛かっただろう。

 

「ハイ、コレデイイ?」

「アリガトウ、オネエチャン!」

 

センさんが海からシンさんを上げ、車椅子に座らせた。これなら生活も充分やっていける。2人1組での行動になるのは仕方ないが、以前から似たような状態だったようなので、ほぼ支障無いと言える。元々地上で生活する方が少なかったらしいし。

 

「セン君、ここで一つ聞きたいのだけど、君達は今後どうしたい?」

「ワタシハ……オンヲカエシタイ。ココニシバラクオイテモラエナイカシラ」

「アタシハオネエチャントデッチトイッショガイイ!」

 

ゴーヤさんは随分懐かれたようだ。

センさんも最初は鎮守府全体に怯えていたが、ゴーヤさんをキッカケに周りに馴染んでいった。ここにいる深海棲艦ではお姉さんの方にあたるので、ミナトさんやセキさんとよく話をしているのを見かける。特にセキさんはシンさんの治療にも貢献しているので、感謝している気持ちが大きいだろう。

 

「なら、今まで使っていた部屋をそのまま使って構わないよ。正式に迎え入れようじゃないか」

「アリガトウ、テイトク。ワタシタチモ、ブタイニイレテクレテカマワナイワ。()()ノヒトリトシテ、オテツダイシマス」

 

こうして潜水艦姉妹も鎮守府に配属する形になった。今までは治療による居候という形だったが、本格的に参戦するとのこと。

 

姉妹共々、潜水艦としては超高スペック。ゴーヤさん達潜水艦娘は、爆雷を一撃でも受けると中破大破は当たり前の低耐久力が欠点だが、それを覆す耐久力を持っているのが特徴。特にセンさんは、艤装自体が自律型なおかげで生存能力が異常に高い。

代わりに、隠密行動には不向きという欠点もある。何故なら、深海棲艦同士は気配が読めてしまうから。深くに潜っていれば気配は薄くなるらしいが、それでも存在を知られるというのは問題。そのため、雷撃の戦力としての出撃をお願いすることになるだろう。

 

「大本営への報告は明日に纏めてやってしまおう。どうせ爺さんが来るからね」

「相変わらずの事後処理ですね」

「春風君の時と同じだよ」

 

いつもここに置くことを決めてからの報告だ。あちらがNOと言わないことがわかっているからとやりたい放題な気がしないでもないが、それが全ていい方向に進んでいるのだから問題ないだろう。そのうち文句を言われそうだが。




潜水新棲姫の件はこれで解決です。子供は元気な方がいい。不名誉なアダ名を持っていますが。
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