午後からは元帥閣下直属の艦娘、総勢6名による訓練、演習が始まる。あちらは大型艦5人小型艦1人という極端な編成ではあるが、これは赤城さん提案のものでもあるらしい。
赤城さんの見たことのある最悪の敵編成は、戦艦棲姫3体に加え、空母棲姫2体に駆逐古姫1体という6体編成。全員姫級な挙句、役割分担も出来ており、あらゆる攻撃を対策された状態である。
「これはまた圧巻だな……。一航戦に大和型、ビッグ7に奇跡の駆逐艦とは……」
「儂も割と本気で来たからの」
司令官と元帥閣下は陸から演習を見守る形に。これは以前から変わらないスタンスなのだが、位置が少し近い。より細かく分析するためだろう。
「演習に連合艦隊っていいんだっけか」
「ダメに決まっておるじゃろ。それでも負ける気は無いがな。さ、久々に見せてくれ加藤。お前の
「嫁って言うなジジイ」
こちらの部隊は、援軍無しで考えている最高の通常部隊。戦艦棲姫改にぶつけるために練られた布陣だ。
旗艦はなんと私、朝潮。旗艦故に生存率を上げ、情報収集を優先的に行うためである。とはいえ荷が重いのは確かだ。
随伴は同じく情報収集のための青葉さん、戦艦棲姫改にぶつけるための超火力として山城さん、ガングートさん、清霜さん、そして、満を持してのレキさん。主砲は魚雷以上に効きづらいが、大和型主砲ほどの大火力なら通す可能性はある。そこで清霜さんとレキさんの出番だ。以前に効いた内部爆破狙いは青葉さんが行う。
「空母がいないようですが大丈夫ですか? 制空権は大事ですよ?」
「いろいろ試させてください。今回はこの部隊で行きます。それに、空母はいないわけじゃないです」
後ろに待ち構えるレキさんを見て何かを察した顔をした。戦艦レ級の怖さは赤城さんも知っていることだろう。さらにいえば、私達のレキさんは通常のレ級からさらに訓練を重ねている状態だ。
「あの子も私の妹なので」
「朝潮型の制服着てますもんね……わかりました。ではあまり手加減は出来ませんが、お互い健闘しましょう」
握手して所定の位置へ。
こちらは山城さんとガングートさんを先頭にした複縦陣……かと思いきや、片方の列の先頭は清霜さん。初手に火力をぶつける算段である。
対する相手は、長門さん戦闘の梯形陣。つまり、あちらも初手にぶつけてくるということだ。
「清霜さん、あれ」
「初手に胸熱アタック来るよね。だからあたしもこの陣形にさせてもらったんだから」
初めてやるから上手くいくかはわからないとは言うものの、清霜さんは自信があるからこそ選んだ戦い方だ。山城さんもガングートさんも了承した。
「でも、初手の初手は作戦通りに行きましょう。胸熱アタック、来ないなら来ない方がいいので。青葉さん、よろしくお願いします」
「はいはい、そういうのは青葉にお任せ!」
私は最後尾で一航戦の艦載機を墜とす役目だ。あともう一つ、司令官にも許可を貰い、この戦場では行動予測を本気で行う。頭痛と鼻血は覚悟の上だ。頭が壊れる前にさすがにやめるが。
「では行きましょう」
「勝つ気で行くわよ。少なくとも武蔵には」
「あのビッグ7までいるとはな。ははは、胸が熱いな!」
全員高ぶっている。やる気は充分だ。
「アサネエチャン、レキ、ダレヲネラエバイイ」
「基本は空母の2人ですね。制空権をレキさんのものにしてしまいましょう」
「ワカッタ! マカセロ!」
こういう場での戦闘は初めてのレキさんは、昨日からずっと楽しみにしていた。ここにいない艦娘との戦いは、普段以上に心躍るものなのだろう。
あちらでの未知数は唯一の駆逐艦、雪風さんだ。あの精鋭の中に紛れてくるということは、一番警戒しなくてはいけない相手だろう。駆逐艦と侮ることは絶対にしない。
緊張感が演習場を支配する中、開始の合図が鳴り響いた。同時に相手戦闘の長門さんと武蔵さんが構える。
「武蔵と一斉射か、胸が熱いな!」
「あまり出来ないからな! まずはこれでどれだけ耐える!」
想定内だ。だからこそ、初手に青葉さんに合図。
「よく見えますねぇ。撃ってくださいと言っているようなものですよ!」
お得意のヘッドショットだ。狙いは当然長門さん。出鼻を挫ければ、戦況は勿論こちらに傾く。だが、
「お守りします!」
雪風さんの砲撃が
この1回だけで、雪風さんの実力が痛いほどわかった。少なくとも命中精度は青葉さんより上。さらに行動予測までついてきている。そうでなくては飛んできた弾に、自分の弾を当てるなんてできない。そして雪風さんはそれを全て
「左舷に回避ぃ!」
「主砲、一斉射! 撃てぇーっ!」
動揺しかけたが、すぐに気を取り直して回避指示。身体の向き、一斉射の相方、構えてから撃つまでのタイムラグまで計算して回避方向は決めた。清霜さんには別の役割があるからここで終わってもらうわけにはいかない。
指示のタイミングが良かったか、一斉射は全て回避。作戦通り、梯形陣の横につくことに成功した。
「ほう、全て避けたか」
「朝潮に計算されていたな。まぁいい」
あちらからすれば、こちらを単横陣で受け止める状態。私と清霜さんはこれを狙っていた。清霜さんがどうしてもやりたいと言い、青葉さんとレキさんを巻き込んだ必殺技。
「清霜ターッチ!」
「このまま突っ込むんですか!? 結構無茶でしょぉ!」
「キヨネエチャンイケー! タッチターッチ!」
本来は
実際この作戦は意表を突いたようで、回避に専念してもらえた挙句、戦艦3人とその他3人で綺麗に分断。戦艦側には山城さんとガングートさん、その他3人には清霜さんと青葉さんがつくことができた。レキさんと私は真ん中を突き抜け、今度は対空に移行。
「まさかネルソンタッチをしてくるなんて、予想外でしたよ」
「分断されたわ。艦載機はこちら側に集中させましょう」
一航戦から艦載機が発艦。数はやはり多く、最初から全機に近い。私とレキさんだけでは全機墜とすのはまず不可能。回避を優先に攻撃に移る必要がある。が、
「青葉さんバック!」
「えっ、うわおっ!?」
雪風さんの砲撃が青葉さんの鼻先を掠めた。こちらがヘッドショットを狙うからだろう。雪風さんも同じことをしてきた。気付かなかったら青葉さんが終わっていた。
「当たりませんか! 不意打ちだと思ったんですけど!」
「私に不意はありませんから!」
艦載機をどうにか墜としながら行動予測。戦艦3人はひとまず2人に任せるとして、こちらは私含まず3対3。そこに艦載機も含まれる。計算するものが多い。
艦載機からの爆撃は基本的に当人に判断してもらう。そこまで計算していたら私の頭が即座にパンクする。さすがに全員陸上型深海棲艦からの回避訓練を受けているだけあり、対爆撃の回避は指示いらずでスイスイ避ける。
「レキさん、一航戦に雷撃!」
「リョーカイ! マズハコレダナ!」
蛇状の艤装から魚雷を大量に吐き出し、一航戦の両方を狙う雷撃。ここでの動き次第で清霜さんの行動を変える。その清霜さんも大振りながら赤城さんを狙って砲撃中。回避はされやすいものの、行動にある程度制限を与えている。
「そのまま艦載機!」
「ヨーシ! コッチモダ!」
魚雷を吐き出していた艤装が上を向くと、同じ口から艦載機も吐き出された。艤装で生成されたものではあるが、ちゃんとダミーのものだそうだ。実弾が出ていたら大問題である。
ここで目を瞑り念入りに行動予測。赤城さんと加賀さんは分断せず一緒に雷撃と清霜さんの砲撃を回避。雪風さんは青葉さんとの撃ち合い。レキさんは完全にフリーの状態。戦艦側からの横槍は無し。次に動く位置と、雪風さんの攻撃方向まで計算。
「青葉さん6時回避3時攻撃! 清霜さん4時攻撃! レキさん赤い方に突撃!」
目を開けて一気に指示。レキさんだけは雑な指示になったが、空母に対して一番効果的なのは近距離まで攻めること。突撃に対して雪風さんの攻撃もない。
清霜さんの砲撃は雪風さんへ。青葉さんの砲撃は加賀さんへ。そしてレキさんは赤城さんへ。行動予測を絡めた対象変更からの同時攻撃。これならどれかは当たると踏んでいた。
「雪風は! 沈みません!」
清霜さんの攻撃は見事に回避された。撃つ時にはすでに回避行動に入っていた。回避直後の無理な体勢からの砲撃で青葉さんの弾も撃ち落とす。
行動予測の範囲の外に出られた。おそらくだが、あの砲撃は狙って撃っていない。
「痛た……さすが戦艦レ級、精度もいいですね。わぁ、右肩が真っ黒」
唯一、レキさんの突撃はうまくいき、そのうちに放った主砲は赤城さんに命中。しかし、すんでのところで避けられ、中破止まり。とはいえ艦載機の使用を制限させられた。私とレキさんの負担が半減。
「レキさん、次は青い方です」
「ヨーシ! モッカイトツゲキダ!」
青葉さんと清霜さんも察したようで、レキさんと3人同時に加賀さんへ砲撃。逃げ場を完全に塞ぎ、1つを雪風さんが落としたとしても、残った2つのうちどちらかが当たる。
「雪風」
「りょーかいです!」
集中砲火を受けた加賀さんはなんとか被害を抑えるために回避行動に移った。そのタイミングを見計らって雪風さんが動き出す。
目を瞑り念入りに行動予測。雪風さんの進行方向は、撃ち合っていた青葉さんの側面。ちょうど真横から撃つと、青葉さんの直線上にレキさんがいる。さらにその先に私。全員に避けさせないと誰か一人が犠牲になる。
加賀さんが回避に専念してくれていたお陰で艦載機からの攻撃は止んだ。赤城さんは既に発艦もできていない。戦艦側は山城さんが武蔵さんを、ガングートさんが長門さんを抑え込んでいる。
大和さんがフリー。主砲がこちらを向いている。狙いは私か。
「レキさん後退して5時主砲! 青葉さん前進して9時攻撃! 清霜さん6時攻撃!」
回避のために自分も急発進。私は2人から狙われている状態だ。急いでこの場から逃げないとやられる。青葉さんは回避してもらいつつ雪風さんへ、清霜さんとレキさんは大和さんへ攻撃指示。
しかし、予測通りにいかないのが戦場だ。私の指示の直後、雪風さんが少し波に足を取られた。
「っと!」
「えっ、嘘ぉっ!?」
そのせいで主砲の射線が変化。避けた先の青葉さんに当たる形に。嘘みたいな攻撃を受け青葉さんは大破判定。当然そのせいで青葉さんの砲撃は逸れてしまい、雪風さんには当たらず。
大和さんの砲撃も回避が一筋縄では行かない。撃つ寸前にこちらに対応してズラしてきた。砲口はしっかりと私を捉えている。
「あぁっ!?」
「アサネエチャン!」
足が浮くほどの衝撃で吹き飛ばされた。一撃で轟沈判定。代わりにレキさんと清霜さんの砲撃が大和さんに当たり、中破までは持っていけた。だが、旗艦轟沈である。余程でない限り、こちらの負けは揺るぎない。
「ここで一度止めておこうかの。演習終了じゃ」
元帥閣下の言葉で演習が終わる。残念ながらこちらの敗北という形となった。
私が轟沈、青葉さんが大破、あとこちらからは反応でしかわからなかったが、山城さんとガングートさんが中破。戦艦3人との戦いでかなり消耗していた様子。
対するあちらは、赤城さん、大和さん、武蔵さんの3人が中破、加賀さんと長門さんが小破。
こちらとしては健闘はしていた。私が轟沈判定でなければもう少し行けたかもしれない。
「朝潮ちゃん、大丈夫!?」
演習が終わったことで大和さんが駆け寄ってくる。正直腕が無くなったかと思うほどの、とんでもない衝撃だった。以前改二となるための訓練で清霜さんからも相当な数撃たれているが、ここまででは無かったように思える。
「だ、大丈夫です。物凄い衝撃でした……機関部艤装が無かったら死んでましたね……」
「強引に射線をズラしたから、変な当たり方したかもと思って……」
「耳鳴りが少ししますが平気です。いい経験になりました。二度と当たりたくないですね」
戦艦主砲直撃の恐怖は知っているつもりだったが、ここ最近はあのトラウマを忘れかけていたようだ。恐怖心を忘れてはただの無謀になってしまう。私は特に、回避に専念しなくてはいけない立場だ。今回は旗艦でもあったわけだし。
「朝潮、アンタその戦い方始めてからダメになってる部分あるわ」
「山城さん?」
「周りを見過ぎて自分のことが疎か。先に自分が動いてから指示しなさいよ」
こういうことは言われてからわかるものだ。
行動予測をする際、毎回自分を含まない計算をしていた。自分も含めた計算をしたのは龍驤さんを曳航しながらの戦闘だけ。私の死が龍驤さんの死と直結するためだ。無意識に自分を蔑ろにしていた。自分が死んでも戦況に影響がないと思っていた。
「前に私に言ったわよね。全員が自分に頼るくらいになるって。もうなってんの。アンタの死は全員の死と直結してんのよ」
山城さんにそんなこと言われるとは思わなかった。途端に今までの戦闘が恐ろしいことをしてきたと思えてくる。
周りの仲間達も揃って首を縦に振ってくれる。そんなに信用されていたんだと、今更ながら実感した。そうでなければ指示に従ってはくれないだろう。
「本当に勉強になりました。まずは私自身がちゃんと避けられるようにならないといけませんね」
「わかればよろしい。計算はまず自分のために使いなさい」
おそらくそれが出来ているのが雪風さんだ。回避行動の中に、私に近い行動予測が何度か見えた。撃つ前に回避行動を取るなんてまさにそれ。
まずは雪風さんのように絶対に無傷で戦場から帰られるようにしよう。まずはそこからだ。
「私は武蔵にまた勝てなかったのが気に入らないわ」
「無意識に左手で攻撃するの控えてるからですよ」
山城さんが目を見開いた。自分でも気付いていなかったらしい。実は山城さん以外全員気付いていた。ケッコンカッコカリ以降、山城さんは左手を庇う戦い方をするようになっている。
「山城よ、戦闘中にまで惚気を持ち込むな。指輪が大事なのはわかるがな」
「な、なな、何を言い出すのかと思ったら。気のせいじゃないかしらね」
汚れ方が左右でまるで違うことに自分で気付いてしまったのだろう。利き手が右であるにしても今までとあまりに違う。
本来の戦艦山城はこうまで司令官に懐かないそうだ。姉一筋、姉依存がデフォルト。ケッコンカッコカリしてもスタンスはあまり変えないとのこと。だが、姉がおらず、姉が配属する見込みが無いから、依存する対象がいない。結果、うちの山城さんはこれである。
「ああ、武蔵に指摘されるなんて不幸だわ……」
「青葉達は言わなかっただけで」
「青葉、次の演習相手をアンタにしてもいいのよ。私に実弾はいらないんだから」
変に触れると殺される。バレバレだけど見守ることにしよう。山城さんも自分に戸惑っているのかもしれない。
朝潮が行動予測を使うようになったのは60話「宵闇の覚醒」から。そこから朝潮は、戦艦水鬼戦の龍驤曳航の時以外、自分を含まない計算をしています。戦闘回数は少ないですが。