欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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演習終えて

最強の艦隊との演習で、自分の危うさに気付くことができた私、朝潮。計算に自分が含まれておらず、周りしか見えていなかったことで、結果私が轟沈判定を受ける羽目になってしまった。他人を守るために自分を蔑ろにするのは、司令官が許さない。考え方を変えて、これからも鎮守府に貢献していく決意ができた。

 

その後、私以外の人達も演習させてもらった。私も何度か回数を重ねさせてもらい、自分の戦い方を見直すことができた。少なくとも私はあれ以降、相手の攻撃は当たっていない。

 

「本当に当たらないな……。割と狙っているんだぞ」

 

演習休憩中、長門さんにもその点は褒めてもらえた。行動予測を自分優先で使うようになったことで、大振りの戦艦の攻撃には基本当たらない。

 

「雪風を相手にしているようだ」

「やっぱり雪風さんも行動予測をしているんですね。勉強になります」

「雪風をお呼びですか!」

 

これまで何度と演習をしてきたにも関わらず、未だまったくの無傷である雪風さん。参加していないときに注視させてもらったが、やはり攻撃の前に回避行動に入っていた。私の目指す先、できるようにならなくてはいけない技能である。

 

「雪風さんは回避のときに相手の行動を予測して動いていますよね」

「行動を……予測?」

 

首を傾げる。長門さんも苦笑していた。

 

「雪風は、来るかなーって思ったので避けているだけです。そしたら本当に来るのでビックリです!」

「雪風は予測なんてしていないぞ。思った通りに動いてあの成果だ」

 

なんというか、レベルが違った。この人には勝てないと即座に理解できた。

考える前に動いてる。そしてそれが全て()()()()()となる。だから常に無傷。おそらく雪風さんを倒すためには、物量で押し潰すしか手段がない。その物量ですら回避しきる可能性がある。

私とは最初から方向性が違った。考えてから動く必要がある私は行動予測を覚えようとするが、動いたら当たらない雪風さんに予測は必要ない。

 

「幸運の女神のキスを感じちゃいます!」

「幸運だけで片付けちゃうんですね……」

「戦ってみて、そう思えることが多々あったと思うがどうだ?」

 

予測の外に出る行動が多かったのは確かだ。適当に撃った弾が当たる。波に足を取られ攻撃方向が変わる。どれも全て偶然起こったことだ。その偶然が、全て雪風さんのいい方向に流れる。

 

「確かに偶然が続きました。あれは真似できませんね」

「真似をしてはいけない戦い方だ。あれは雪風だけのものだからな」

「そうですね。私とは次元が違いました」

 

だが、回避のタイミングは参考になった。あれだけ早くから動けるようになるほどには行動予測を極めていかなくてはいけない。

 

 

 

周りが少し暗くなってきて、本日の演習は終了。結局一度も勝つことはできないどころか、誰か一人に轟沈判定を与えることもできなかった。健闘はできているものの、勝ちに結びつかないのは残念だ。

だが、練度が上がっているのは実感できた。前よりも戦場が見える。自分を優先したとしても、視野が広がったと思える。曳航しながらの演習も、無傷で終わらせることができていた。

 

「ケッコン効果出とるな。うちだけやなく蒼龍でもいい動きできとったで」

「動きやすいのはやっぱり龍驤さんですけどね。小柄なのがありがたいです」

「うちもこればっかりは自分のお子様体型に感謝しとるわ。蒼龍じゃああはいかん」

 

栄光(曳航)の架け橋』は実戦経験から逐一改良されており、現在ではさらに使いやすくなっていた。アームの伸び縮みはその筆頭。あれを使っている時だけは、私は腕が3本あるように錯覚する。同じように使える霞も同じことを言っていた。

 

「それにしても一航戦はホンマ強いな。軽空母じゃどうしても艦載機の数で負けてまう。制空権全然取れへん」

「2人がかりですしね……レキさんと組んで同等くらいでしたか」

 

それでも空母棲姫2体がかりより少ないと赤城さんは言っていた。深海棲艦の姫級は過剰なスペックで、最強の艦娘を簡単に凌駕してくる。1体に対して6人がかりもざら。赤城さん達ですら、最悪の部隊で来られたときは連合艦隊でごり押ししたそうだ。資源度外視のパワープレイで、それでもギリギリだったとか。

私達の鎮守府には万能戦力であるレキさんが存在する。航空戦力も水準以上であり、単体でいうなら加賀さん以上の搭載数を誇っている。レキさんをどこに配置するかで、戦況は大きく変わるだろう。

 

「航空戦力足りんのはやっぱしんどいな。空母棲姫が出てこんこと祈るか」

 

うちの鎮守府は航空戦力が足りないのは1つの問題だ。空母3人をフル活用しようとすると、追加で曳航役が2人必要になるのもなかなか大きい。私はともかく、もう一人の曳航役をどうするか考えることになってしまう。

 

「あ、ちょうどええとこに。おーい一航戦ちょい教えてくれー。朝潮、ホンマ今日はありがとなー」

 

片付けの終わった赤城さんを見つけたので龍驤さんが駆け寄っていった。空母は空母同士でないとわからないこともあるだろう。

 

龍驤さんと別れたら今度は汚れを落とした春風が私の元へ。春風も今回の演習はよく戦っていた。残った未婚勢の中でも、あと少しでケッコンできるほどの練度になっていたからだ。

 

「御姉様、お疲れ様でした」

「春風もお疲れ様。健闘できてたわね」

「そんな、私もまったく勝てませんでしたし、轟沈判定も受けてしまいました。武蔵さんは本当にお強くて……」

 

春風はその深海棲艦の力を活かして武蔵さんへと特攻している。使いこなせていることを見せるため、さらには大戦艦の戦い方を直に学ぶため。春風自身は駆逐艦でも、出力は重巡を超え、荒さだけなら戦艦並。武蔵さんから学ぶものも多いと判断していた。

実際ボロ負けというわけではなく中破くらいまでは持って行けていた。回を重ねる毎に動きは洗練されている。

 

「でもおかげさまで、練度が限界に達したようです。指輪を戴くこともできました」

 

左手の指輪を見せる。春風の艤装は左腕全てを埋め尽くすタイプのため、残念ながら戦闘中には指輪を見ることができないが、練度の限界はしっかりと超えたようだ。

 

「おめでとう。私とお揃いね」

「はい、御姉様とお揃いです。これを機に、この制服を御姉様の改二丁仕様に変えたいと思っているのですが」

「調子に乗んな」

 

霞が後ろからはたいた。さすがに聞き逃さなかったらしい。

霞も指輪を貰ったことで雷撃の精度がさらに上がっている。ケッコン効果は絶大だった。

 

「痛い……」

「それを許してるのだって譲歩も譲歩よ。脱げっつっても脱がないし」

「春風は特例がいくつもまかり通ってるんだから、我慢なさい」

 

そもそも黒の着物を羽織っているため、私の改二丁制服にしたとしても多分変化がわからない。そのままでいた方がいいと思う。あと着替えられたら今度こそ私の心が折れる。

 

「ここの春風は本当に面白いな!」

 

このやり取りを見て武蔵さんがまたもや春風をわしゃわしゃと撫でる。大型犬をあやしているような撫でかたが、春風の首にダメージを与えないかとヒヤヒヤする。

実際、春風は武蔵さんにも比較的懐いていた。護衛艦娘の方々の中では一番春風を気にかけてくれており、ここに来てからも度々話をしてくれている。外の人といい関係を築けているのはいいことだ。

 

「む、武蔵さん、わたくし首がもげそうです」

「朝潮、少し春風を借りるぞ。長門にな、ちゃんと教えてやらねばならんのだ。こいつの良さをな」

 

言うなり春風を担ぎ上げてしまった。借りるというのは物理的にも持っていくことも意味していたらしい。できればもっと人間らしく扱ってあげてほしい。ワタワタする春風がこちらに助けを求めてくる。

 

「春風、何かあったら私を呼んで。武蔵さんなら信用できるでしょう?」

「ま、まぁ、はい……」

「大丈夫だ。長門もあれで貴様らのことは認めているからな!」

 

結局武蔵さんがそのまま春風を運んでいってしまった。残された私と霞は、ただただそれを眺めるしかできなかった。

 

 

 

夜、会食も終わり、全員が自由な時間。護衛艦娘の方々は大人が多いためか、会食後、そのまま酒盛りになってしまった。司令官や元帥閣下もそれに巻き込まれてしまい、まともなストッパーがお酒を飲まない長門さんだけに。

私達駆逐艦(こども)は、長門さんの手筈で談話室に逃がしてもらえた。そのまま久しぶりの駆逐艦定例会へと発展する。残念ながら萩風さんは落ちているが、姉2人の力で談話室に運び込まれた状態。

 

「結局一度も勝つことはできませんでしたね」

「誰も轟沈判定まで持っていけなかったもんねぇ」

 

吹雪さんとお茶を飲みながら話す。吹雪さんも健闘はしたものの、雪風さんに翻弄されていた。オールラウンダーだからこそ善戦できるかと思っていたが、相手も同じオールラウンダーのために実力差がはっきり出てしまったところもある。

 

「深雪共々ボッコボコだよ。雪風ちゃん、結局最後まで無傷だったもんね」

「さすが奇跡の駆逐艦です。適当に撃った弾が一番いい位置に飛ぶのは想定外ですよ」

 

演習の外から見ていた時も、私の視点は基本的に雪風さんだった。電探フル稼働、行動予測を常に張り巡らせても、雪風さんの動きはたまに予測を大きく超えることがあった。

その筆頭が攻撃に攻撃を当てるあの技。あれのせいで全てのタイミングが変わる。ただ弾くこともあれば、跳弾で別の攻撃に変化することもあった。

 

「あたしも酷い目にあった!」

「白露さんが一番いいところまで行きましたよね」

「それでも勝ててないからね」

 

一番善戦したのは白露さんだ。雪風さんを追い込んでいる最中に長門さんに後ろから撃ち抜かれるという苦い経験があったものの、あのまま行けば無傷では無かったように思える。

 

「指輪のおかげでいろいろ見えるようにはなったんだけどねぇ。前よりも動けてるのは実感できたなぁ」

「それは私も。練度の限界を超えるっていうのはわかったよ。自分に伸びしろが見えたっていうか」

 

皆で指輪を眺めている。ケッコンカッコカリをしてから、こうすることが増えていた。

司令官との繋がりを再認識する行為ではあるものの、見る人が見たら惚気だそうで。あのときでも、山城さんが事件を起こした後でも、手の甲以外にキスを求めた駆逐艦はさすがにいなかったので、恋愛感情的なものを持っている駆逐艦はいなかったように思える。私もそうだし。

 

「あっち側の人、指輪付けてた?」

「付けてなかったね。練度限界の状態で私達より上ってことかな」

「うへ……めちゃくちゃだなぁ」

 

実戦経験の差が如実に出ているのかもしれない。対応力が段違いだった。

以前に神通さんと北上さんの時にも感じたことだ。これ以上強くなるために必要なのは対応力。対応力を伸ばすためには、実戦経験がモノを言う。こればっかりはすぐに伸ばすことができない。

 

「経験だけはなぁ。どうにもなんないもんなぁ」

「濃厚な戦闘はしてるんですけどね。回数は少ないので……」

 

今はできることから埋めていくしかないだろう。少なくとも、この演習で何かを見つけたい。幸い、元帥閣下はもう少し滞在するようなので、学ぶ時間はある。

 




実戦経験の差を埋めるのは才能なんですけど、艦娘に才能の差はありません。個体値の凌駕は、個体差になりますかね。筆頭は山城。
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