赤い海の中心部にて、離島棲姫とその亜種と交戦した私達。それはそこまで強力な深海棲艦では無いように思えたが、艦娘を書き換えた手駒を使って私達に攻撃をしてきたため、やむなく撤退を選択。私達がこの場に来るため、戦艦棲姫改を抑え込んでくれているガングートさん達機動部隊と合流する。
撤退中、電探にガングートさん達の反応が入る。未だ6人健在。しかし、戦艦棲姫改も健在。周りに援軍が多く来ており、6人のままで戦うのはかなり辛そうだった。
「調査完了しました! お手伝いしますぅ!」
「よく帰ってきた! 手伝ってくれ!」
戦艦棲姫改は自律型艤装に傷があったが、まだ小破というところ。接続部はそのままであり、本体に至ってはあれだけ雪風さんの雷撃を受けていたのにほぼ無傷だ。戦艦水鬼とは根本的な耐久力が違う。
対する機動艦隊は清霜さんが中破、ガングートさんと長門さんが小破。駆逐艦2人を増援から守りながらの戦いになっている。一航戦の艦載機だけでは処理できない数に囲まれていた。
「私は清霜さんに付きます! 天龍さん!」
「行け! オレらは憂さが晴らしてぇんだ! ここで確実に仕留めるぞ!」
デメリットにより燃料切れギリギリ状態の清霜さんに駆け寄り、私が運搬していたオヤツを渡す。自分で持っていた分は食べ尽くしたようだった。おそらくこの状態だったせいで中破まで持っていかれたのだろう。
「朝潮ちゃん、助かった……!」
「遅れました。すぐに食べてください!」
清霜さんの補給中、春風には増援の処理を指示。青葉さんと潮さんも先に増援を処理すべく、着実に1体ずつ始末していた。残った私含めた9人が戦艦棲姫改に立ち向かうことになる。一航戦の2人は戦場全体に艦載機を飛ばしているので、1人としてカウントするのは難しいかもしれないが。
まず私は清霜さんを曳航し、被害を被らない場所へ連れていく。ここからの私の仕事は、清霜さんへの補給と、艦載機があるなら墜とすことになる。今は空母がいないため、私は全力で補給。
「フエタワネ……ゼンインハホネガオレソウダワ」
「やれると思っているのか。めでたいなぁ!」
一航戦の空爆も、雪風さんの雷撃もまったく無視してガングートさんが白兵戦を挑んでいる。自分には当たらないと確信して攻撃を繰り出している。
「皐月、あれの主砲斬るぞ」
「了解。ガンさんが戦いやすいように!」
自律型艤装に設置された主砲を集中的に攻撃していく天龍さんと皐月さん。単体の耐久力と膂力だけでも酷いのに、戦艦の主砲まで抱えているのは厄介極まりない。まずは主砲だけでも落として、近接戦闘しかできない状態にすることを優先した。
「お手伝いします! 足元を破壊しますね!」
「私も手伝おう。雪風の撃った場所を狙う」
雪風さんは有言実行。撃った魚雷は綺麗に自律型艤装に直撃していく。長門さんとの連携で自律型艤装の片足を完全に破壊した。あれだけ苦戦した装甲も、立て続けに叩き込まれる超火力の前についに崩れた。
「これで足りたみたいだな。随分と、脆くなったみたいじゃないか!」
「コノテイドデ……カッタトオモッテイルノ?」
自律型艤装の口が大きく開いた。これは戦艦水鬼も使ってきた、向いている方向にしか撃てない超大型主砲だ。今向いている方向にはガングートさんしかいない。そのガングートさんはほぼゼロ距離である。
「ここで終わらせると言っただろう!」
それに対し、あろうことか、その口の中に艤装の拳を叩き込んだ。発射することができなくなった弾丸は、自律型艤装の内部で爆発を起こす。ガングートさんの艤装の片腕もその爆発により大破してしまったが、今までと違い、ガングートさん本人にはダメージがほとんどない。
「聞いているぞ。内部爆破が起こった後は、その艤装さらに脆くなるんだってな! 清霜ぉ!」
「はーい! 朝潮、お願い!」
「覚悟はできてます! どうぞ!」
オヤツを食べて多少回復した清霜さんに合図。私もちょうどいいところに曳航していた。中破状態だと反動軽減が厳しいと清霜さんが言うので、かなり危ないが私が後ろから支えることで精度を上げた。
「朝潮耐えてね! 撃てぇーっ!」
強烈な衝撃が私にもかかり、軽く飛ばされるが、清霜さんの主砲はまっすぐ狙った場所に飛んでいってくれた。
その砲撃は自律型艤装に直撃。崩れた脚とは逆側の腕を破壊した。完全にバランスが崩れ、まともに行動も取れない。
「ッハ、ハハハハハ! ヤルジャナイ!」
「まだそんな口が叩けるか。面白い!」
ガングートさんも、戦艦棲姫改も、既に艤装の腕は片方しかない。それでも殴り合いはやめなかった。2人とも楽しんでいる。これだけ苦戦させられた戦艦棲姫改と、戦いの中に何かが芽生えているようだった。
元よりガングートさん、いや、北方水姫は戦闘を介して山城さんと関係を持ち、満足して今の姿になっている。ガングートさんにとって、戦闘は特別なものなのかもしれない。
「マダ……マダヨ!」
自律型艤装の主砲は全て天龍さんと皐月さんが破壊し、奥の手とも言える口内の超大型主砲もガングートさんが艤装を犠牲に破壊済み。豪腕も片方失い、脚すら片方崩れ去った。本体は未だ無傷とはいえ、戦闘力は当初より激減している。
それでも戦艦棲姫改は諦めていない。隠し球と言わんばかりに、本体が主砲を構えていた。自律型艤装に隠していた最後の武器。おそらく本当に切り札なのだろう。ゼロ距離で戦うガングートさん相手だからこそ持ってきている。
「私の対策をしたのか。最高だな、貴様は! だが、私にも切り札はある!」
それに対しガングートさんも奥の手、魚雷を放った。白兵戦として戦うガングートさんには無用かと思われていたが、奇を衒って相手を動揺させるためには効果的だ。
戦艦棲姫改は一度ガングートさんの魚雷を見ている。この距離で魚雷を放てば両者共にタダでは済まないこともわかっているだろう。だからこそ、
「こいつで終わりにしよう。楽しかったぞ、改」
「……エエ、ソウネ、タノシカッタワ」
魚雷は海中に潜ることなく、戦艦棲姫改の本体が持つ主砲に直接ぶつけられ大爆発を起こした。
魚雷の爆炎が晴れたとき、ガングートさんは奇跡的にも大破手前で留まっていた。ギリギリのタイミングで自分の艤装を犠牲にしたようだ。艤装の両腕を失い、機関部のみが残った状態。
対する戦艦棲姫改は、自律型艤装での防御が間に合わず、本体の片腕と片脚が吹き飛んでいた。腰も大きく損傷し、半身そのものを破壊したと言える。
「……終わりでいいか?」
「オワリ……ネ……。ハ、ハハ、タノシカッタワ……アナタトノタタカイハ」
「そうか。私も楽しかったぞ。毎度毎度ボロボロにされたが」
自律型艤装の消滅が始まった。これで本当に戦艦棲姫改の攻略は終わる。傷だらけのガングートさんは長門さんが支えている。
「ミレン……クヤミ……ニクシミ……ウラミ……ナニモナイ……」
「あれだけ好き勝手やったんだ。気も晴れるだろ」
「キブンガイイワ……ソラガアオイ……」
今から死ぬというのに、憑き物が落ちたような笑顔の戦艦棲姫改。それほどまでにこの3度に渡る戦いは楽しかったのだろう。私も1回目の戦闘で失った右腕が疼くような感覚がした。
「イツカ……シズカナ……ソンナ海で……私も……」
満足しながら逝った。自律型艤装が全て消え去り、次は本体。かと思いきや
「……消えない?」
「хорошо! 赤城、加賀、こいつを運んでくれ! 浄化されたぞ!」
半身と同時に、戦艦棲姫改は一切の未練を失い、恨み辛みも消えたようだった。
仮説は正しかった。白だ黒だは関係ない。未練なく満足して逝ったことで、浄化現象が発生した。ガングートさん、照月さんも同様だった。これはもう確定といってもいいだろう。
周囲の援軍もほぼ全て撃破した状態。撤退にはちょうどいいタイミングだ。損害も戦艦水鬼の時よりは少なめ。姫3体よりはマシだったということか。それでも相変わらずガングートさんは傷だらけではあるし、清霜さんも限界ギリギリ。辛勝といえよう。
特に私達は、最奥で酷いものを見ている。心はまったく晴れない。
鎮守府に帰投。ガングートさんと清霜さんはすぐに入渠の流れに。長門さんは小破だがまだ軽いということでお風呂で済ませることにした。そして、浄化された戦艦棲姫改も入渠ドックへと入れられた。
今まであれだけ苦戦させられた敵が、仲間になる可能性が出てきた。黒の深海棲艦が浄化されたという危うい状態であり、もしかしたらこちらにまだ殺意を抱くこともあるかもしれないが、司令官は処分などしないだろう。
「よく帰ってきてくれた。青葉君、君達は黒の陣地で何を見た」
「あー……これは元帥閣下も一緒に聞いてほしいですねぇ。むしろ全員にお話ししたいです。ガングートさんと清霜さんは後からになってしまいますけど」
「わかった。今すぐ場を用意しよう」
青葉さんの怒りはまだ収まらないようで、笑顔も取り繕っているように見えた。本人は早く海図を書きたいけどと冗談混じりに話すが、目が笑っていない。
青葉さん筆頭に、調査隊の調査結果を全員に伝える場を設けてもらった。特に司令官と元帥閣下には聞いてもらわなくてはいけない。これは、最悪の決断もありえる。
通常なら作戦中の音声は鎮守府側にも聞こえているはずだ。だが、私達調査隊の音声は途中から完全に途切れたらしい。赤い海の奥に行くことで、通信妨害もされているのかもしれない。
「青葉達が最奥で見たものは、2体の姫級です。片方は離島棲姫、もう片方は……ちょっとよくわかりません。離島棲姫の色違い、というイメージでした」
「同じ見た目の別個体か、それとも亜種か……」
深海棲艦アドバイザーであるミナトさんから、北端上陸姫という名前が出た。見た目は離島棲姫とほぼ同様だが、装備がいろいろと違うとのこと。確かに少し違っていたように思える。差分レベルだが。
「なんか名前が言いづらいので、北端なんちゃらは青い方、離島棲姫は赤い方と呼称します」
「なんだか私達にも刺さる言い方ですね」
一航戦の赤い方、赤城さんがボソリと呟く。若干空気が緩くなったので、緊張感が解けて話しやすい状態にはなった。だが、ここからはどんどん話が重くなっていく。
「おそらくキーは青い方です。赤い方は補佐ではないかと思います。途中からの援軍を操作していたのが青い方だったので」
青い方が鎖を引っ張ったことで敵が出てきたのは確かだった。管理しているのは青い方なのだろう。
「その敵というのが……吹雪さんです」
「えっ、私!?」
部屋が騒つく。
「正確には、吹雪さんの外見をした深海棲艦……いや、あれは深海棲艦じゃないんでしたっけ。春風さん?」
「わたくしが見たとき、深海棲艦の気配は一切しませんでした。ですが、深海艤装を扱っており、外見もミナトさんのように変質していました」
白い髪、真紅の瞳、額の角、となると、ミナトさんやヒメさんが同じような外見である。白い髪というだけなら、ガングートさんもとい北方水姫も同じ。白の深海棲艦の特徴と言えなくもない。
「オレは同じようになった叢雲と交戦してる。少なくとも改二じゃ無かった」
「私は漣ちゃんと……」
少なくとも3人の
「まさか……深海棲艦にも鎮守府があるのか……?」
「可能性は高いじゃろ。今回の戦艦棲姫改でもわかる。改造されておるんじゃから、そういう設備があってもおかしくない」
そもそもイロハ級が湧いて出てくるにしても、数が多すぎる。量産されているのはわかるが、あの数が一気に来るということは、鎮守府の建造ドックでもない限り難しいだろう。ドロップだけで賄うことなんてできやしない。
むしろ深海棲艦の鎮守府とするだけで全て辻褄があうのだ。あの大量の敵も、改造された深海棲艦も、次にあったときに完治していることも。
ミナトさんもそのことは全く知らなかった。北端上陸姫という陸上型の深海棲艦がいるのとは知っていたが、交流自体はほとんど無かったらしい。
「詳しいことは、浄化された戦艦棲姫改から聞くことにしよう。友好的かはわからないがね」
「青葉もそれがいいと思います。では、早速ですが海図を書きますね。進撃にしろ迎撃にしろ必要でしょう」
「ああ、お願いするよ。潜水艦の子や朝潮君、潮君も手伝ってあげてほしい」
あの海域についてわかっているのは調査していた私達だけだ。まずは海図を完成させて、今後の戦闘で優位に立てるようにしなくてはいけない。
だが、敵が艦娘であるという事実は、大きな波紋を呼びそうだった。今までとはあまりに違う敵。あの容赦ない山城さんですら、躊躇いを感じている。
あちらはそれも狙いなのだろう。度し難い連中である。
戦艦棲姫改は、倒しても報酬が貰えるボスではありません。なので、浄化されたら『戦艦のうちの誰か』になります。そっくりさんもいませんしね。
今回の戦艦棲姫改、誰になるかは次回へ。