浄化された戦艦棲姫改であるウォースパイトさん、そして大本営からの出向という形で長門さんが仲間に加わった。戦艦の戦力増強により、今まで以上に任務が効率的に行えるようになったのは大きい。
そのウォースパイトさん、片脚が不自由ではあるが艤装のおかげで戦場に出ることはできるという。それを確かめるため、興味がある者は工廠に集まった。私、朝潮もどのようなものか気になるので参加。
「こんな艤装初めてですよ。弄りがいがあって楽しいです!」
明石さんも今までになく楽しげにウォースパイトさんの艤装を運んできた。いや、運んできたわけではない。
「なんだこれ」
「艤装……?」
元々のウォースパイトさんの艤装は可変型。戦闘中は他の艦娘と同様に、腰に接続された形状である。だが、それは戦闘形態。航行形態として、完全な
が、ここのウォースパイトさんは一味違った。ガングートさんや照月さんと同様、艤装が前世に引っ張られている。元戦艦棲姫であるウォースパイトさんの艤装は、あの時の自律型艤装から生体パーツを省いたかのような形状。深海棲艦らしいグロテスクな部分は取り除かれ、こちら側の艤装であることはわかる。だが、言ってしまえばロボットである。
「スーパーロボットだー!」
「かっけー!」
それに大興奮の皐月さんと深雪さん。
ウォースパイトさんはその艤装に車椅子から降ろされ抱きかかえられた。この姿を見ると、雷撃回避のために自律型艤装に抱えられた戦艦棲姫を思い出す。
「Sit down」
ウォースパイトさんが指を鳴らすと、自律型艤装は玉座の形状に変形し、着席した状態となった。確かにこれなら戦闘もできるだろう。一応脚部艤装もあるので海上に立つこともできるそうだが、脚のこともあるのでウォースパイトさん自身がそれをすることはないだろう。
「Stand up」
次の合図で再び人型に変形。着席したことで本人との接続がされたようで、抱きかかえた状態でも不安定ではない。
主砲による攻撃はどちらのモードでも可能。航行形態では速力が上がり、戦闘形態では耐久力が上がるそうだ。速力が上がると言ってもウォースパイトさんは低速戦艦。戦闘形態だと極端に遅くなると言った方がいいかもしれない。
「ね、出撃できるでしょ?」
「想定外すぎるわ! なんやねんこのメカは!」
「艤装よ。名前は……そうね、
安直だがわかりやすい名前。自律型艤装フィフも、ウォースパイトさんに合わせて親指を立てた。意思があるかのような動き。
世の中には意思を持つ装備を持つ艦娘もいるらしい。秋津洲さんが運用する二式大艇という飛行艇には意思があるそうだ。妖精さんが操縦しているのではなく、無人で飛んでいる。フィフもその一種になるのかもしれない。
「ま、まぁ心強いしいいんじゃねーかな。戦艦棲姫が仲間になったってことだろ」
「戦艦棲姫の自律型艤装の艦娘仕様ってことですね……」
その後、深雪さんを筆頭にウォースパイトさんの艤装に座りたがる人が続出したのはいうまでもない。戦艦になった気分だということで私はおろか、霞まで体験した。あれは何というか、興奮する。
敵側の状態はさておき、戦艦棲姫改を倒したことにより、赤い海の範囲が若干狭まったことが哨戒任務により確認された。領海が小さくなったことはいいことである。
そのため、少しの間は敵の対策を考える時間とし、私達は英気を養うこととなった。今日1日は自由時間。訓練したいものは許可さえ取れば良し。哨戒任務も今日だけはお休みということになった。
今は今日配属したばかりのウォースパイトさんを案内していた。こういう役割りは大概私がやるようになっている。姉妹艦がいるのならその人にやってもらうのが定石なのだが、ウォースパイトさんは当然姉妹艦がいない。
「ここはいいところね。変わったものも多いけど、私を受け入れてくれたもの」
「同じような境遇の人もいますからね」
「アカシにも感謝してるわ。電動の車椅子を用意してくれるなんて」
ウォースパイトさんの車椅子は、シンさんの使うものと違い、単独で行動できる電動車椅子になっていた。いつも保護者が近くにいる子供のシンさんとは違い、ウォースパイトさんは1人で行動することも多くなるためだ。
実は、自分で車輪を漕ぐのをウォースパイトさんが拒んだというのもあったりする。やろうとしたら袖が引っかかったらしい。
「Fifを使えればよかったのだけど、廊下が狭くなるもの、やめておいたわ」
「あれで室内を歩き回るのはさすがに……」
「でも便利だもの」
自律型艤装を常に装備しておくというのは、便利だとしてもさすがに危険だ。全武装を外したとしても、その膂力で何もかも破壊してしまう。外にいるときならまだしも、室内は無理だろう。
「ところで」
「なにかしら」
「何故私はウォースパイトさんの膝の上に乗せられているのでしょう」
今の私はウォースパイトさんの膝に座っている。ウォースパイトさんを椅子にしているようなものなので、とても申し訳ない気分。車椅子はそれでも移動しているので、正直晒し者のような気分だった。
「私がしたいからしているの。貴女には特に罪悪感が残っているのだから」
「う……それを言われると私も無下にできないんですが」
私の右腕を撫でてくる。ガングートさんにはジョークを言っていたようだが、頭の中は罪悪感でいっぱいだったようだ。
私が死にかけたのもそうだが、ガングートさんに至っては3回とも入渠ドックによる治療が必要なレベルの大怪我。特に2回目は、全身骨折と内臓損傷という一歩間違えば轟沈のレベル。自分が許せなくなってもおかしくはない。
「I want to apologize for what I’ve done. I can’t tell you how sorry I am……」
「ウォースパイトさんはもう戦艦棲姫じゃないんですから、私は気にしていませんよ。それに、やられた事で私は成長できました」
これに関しては感謝してもいいと思っている。今の戦い方になったのは紛れもなく右腕を失う怪我をしたことがキッカケ。二度と同じことが起こらないようにと決意できたし、戦闘の恐怖を改めて思い知ることもできた。私はあれで強くなれた。
「だから、大丈夫です」
「I don't know how to thank you enough……貴女は本当に素晴らしい子だわ。ハルカゼが慕うのもわかるわね」
そこまで褒めちぎられると恥ずかしくなる。
「私も朝潮型を名乗った方がいいかしら」
「絶対にやめてください」
ウォースパイトさんと鎮守府を散歩していると、前からドタドタとした反応がやってくる。反応は3つ。その内1つはウォースパイトさんのように座っての移動。こうなると反応の正体は1つしかない。
「アサネエチャン! ナニヤッテンダ!」
「ウォースパイトさんを案内しているんですよ」
レキさんが飛びつこうとするが、私がウォースパイトさんの膝の上とわかると急ブレーキ。その後ろからシンさんの車椅子を押すヒメさんもやってくる。
「What a lovely kid! 貴女達もここの配属なのかしら」
「ソウダゾ! イス、シントオナジダナ!」
「ウォースパイトさんも脚が不自由なんです。でも艤装を付ければ動けるんですよ。シンさんと同じですね」
ヒメさんも最初は警戒していたが、脚が動かないシンさんと同じだとわかると、ちょいちょいと私を退かし、自分がウォースパイトさんの膝に座った。妙に満足げ。
「そうだわ、貴女達に艤装を見せてあげましょう。まだ海上でのテストはしていないもの、いいわよね」
「おそらく大丈夫かと。なら工廠に戻りますか」
「大丈夫、この子達と行くわ。アサシオ、Thank you very much indeed」
今来た道を引き返していった。ヒメさんは自動で動く車椅子を体験したかったようだ。シンさんの車椅子は代わりにレキさんが押していくことに。
3人とも気配からウォースパイトさんが元深海棲艦だということはわかっていただろう。それでも早速友達になった。この社交性は本当に見習いたい。
「長門さん、深海棲艦とはいえ子供なので、そこまで警戒しなくてもいいですよ」
「なっ、ば、バレていたのか」
「電探の性能は伝えたはずですが」
壁の陰に隠れていた長門さんに忠告。反応的に、鎮守府を動き回るレキさん筆頭の深海棲艦幼女組の動向が気になったのだろう。本来は敵である相手に不安なのはわかるが、ここで仲良く暮らしているのだから、あまりマイナスに捉えないでほしいものだ。
「大本営とはあまりにも違う環境なのでな。すまない」
「いえ、お気持ちはわかります。ただ、ここに敵はいないので安心してください」
「ああ、あの子達もただの子供だ。可愛いものじゃないか」
工廠に向かう後ろ姿を眺めて慈悲に満ちた笑顔を浮かべる。元々子供好きな性格なのだろう。戦闘中とは打って変わって優しい雰囲気。
「子供はあれくらい元気な方がいいんだ。戦いなんて知らない方がいい」
「そうですね……」
「早く戦いを終わらせて、子供達がのびのび暮らせる世界にしたいものだよ」
そんなこと考えたことが無かった。この戦いが終わったその先、私は一体どうしているだろう。せめて死なずに、司令官の隣に立っていたい。
ウォースパイトさんと別れたので、今度は長門さんと散歩をする。が、先ほどのウォースパイトさんの言葉が妙に気になっていた。長門さんも同じようだ。
「ウォースパイトの艤装……気になるな」
「変形するところは見たんですけど、動いているところは見ていませんね」
「どう戦闘するのかは事前に知っておく必要があるだろう。見に行かないか?」
「そうですね。おそらくレキさんとの
流れからして、いつもの場所での鬼ごっこだろう。あの艤装で鬼ごっこ、勝ち負けが付くのだろうか。ただの水の掛け合いになるのでは。
海沿いの道に向かうと、予想通りレキさん達が準備をしていた。相変わらず保護者として春風も参加。今日は遊びの一環のため、ウォースパイトさんの膝の上にはヒメさんが陣取り、シンさんも艤装を展開して海に浸かっている。
「あら姉さん。長門さんも一緒なのね」
「ウォースパイトさんの艤装が気になって。今は……玉座の状態か」
霞と合流。新人の戦闘は気になるらしい。霞も戦艦棲姫改とは戦闘経験があるため、因縁はある。
「Princess、しっかり掴まっていて」
「ン、ダイジョーブダ」
「Fif, Stand up!」
玉座が変形して人型となる。まさに白くなった戦艦棲姫。片腕はウォースパイトさんを抱えるために使っているので、白兵戦をするにしてももう片方の腕しか使えない。代わりに肩や口内に装備された大型主砲は健在。腕に副砲まで取り付けられ、砲戦に主眼を置いた装備となっている。
「オ、オオ……! スゴイ!」
「少し揺れるわ。Be careful」
レキさんも突如変形した艤装に興奮している。今までにない大きな相手だ。狙いはいくらでも付けられるが、どういう挙動をするかは未知数。
「ジャア、ハジメルゾー!」
「どうぞ。レキが先攻だったわね」
早速不意打ち気味にレキさんがウォースパイトさんに射撃。まず水浸しにしてやろうという悪戯心のようだが、そんなに甘くなかった。もう片方の腕でしっかりガードしている。ヒメさんを濡らさないようにしていた。フィフは紳士なのかもしれない。さすが英国。
「ウオー! トメタ!」
「Princessを濡らすわけにはいかないもの」
「デモ、アシガヌレタゾ!」
レキさんは1度に2発撃つ。1発目はガード出来ていたが、2発目はガードの隙間から感覚がない方の脚に当たっていた。フィフも手を立てて「ごめんね」と言っているように見える。これは完全に意思がある。
「こっちの脚は気付かないのよ。なら今度は私がoffenseね」
「ヨーシコーイ!」
フィフの肩の主砲がレキさんに狙いをつけた。大口径に狙われるのは、レキさんも経験済み。榛名さんや清霜さんとも遊んでいるので、戦艦からの砲撃の避け方は知っている。
「Fire!」
相変わらず恐ろしい威力だった。水鉄砲とはいえ、演習で吹き飛んだ私は痛いほどわかっている。レキさんはそれを華麗に避けるが、即座に対応。副砲も合わせて追い詰めていく。
「スゴイスゴイ! ソレニカッコイイ」
「Thank you. Fifも喜んでいるわ。Sit down!」
砲撃をしながら玉座モードに変形。移動速度が変化し、避けるタイミングをずらす。玉座での砲撃は人型の時よりも精度は低いようで、牽制の砲撃が多い。が、逃げ道は確実に潰していく。
「Stand up! Fire!」
航行中にそのまま変形。レキさんを狙うと見せかけて、主砲は春風に向いていた。そういうフェイントもできるとなると、こういう場で倒すのも地味に難しい。
「え、こっちですか!?」
「貴女も参加しているのでしょう? なら当然」
そこからは春風もあちら側になり、さらにはシンさんもダミーの魚雷を使った横槍を入れるようになり、しっちゃかめっちゃかに。
それでもウォースパイトさんの動きは目を見張るもので、変形のタイミングもさる事ながら、アクロバティックな動きで躱すのは見ていて壮観だった。戦艦棲姫の時には見たこともない、空中からの射撃はさすがに驚いたものだ。
「あの女王様、やんちゃ過ぎない?」
「前世が出ているのかも……。ほら、戦闘に快感を覚えるっていう」
「戦闘狂なのか、あの
戦闘を軽蔑するという名を持つウォースパイトさんが、前世を引きずり戦闘を楽しむようになってしまっていた。以前とは違い、破壊を快感としている節は無いようだが、本人が折り合いをつけているのなら問題は無いと思う。むしろ元々お茶目な性格なのかも。
「あれだけやってるのにヒメさん全然濡れていませんよ。ウォースパイトさんの脚はビショビショですけど」
「普通にすごいわ。本体を守ろうとする戦い方、戦艦棲姫そのものね」
子供と遊ぶウォースパイトさんは、それはもう生き生きしていた。レキさん達も既に懐いている。元深海棲艦という境遇を関係無しにしても、こうなっていたかもしれない。
頼もしい仲間が増えた。今後は戦艦の戦力として、大いに期待できる。
戦艦棲姫の後ろについている通称『16inch三連装砲さん』が艦娘側の艤装となり、可変式スーパーロボットになったのがFifです。玉座形態航行モードと、人型形態戦闘モードの2パターンの変形を可能とし、ウォースパイトをサポートします。