欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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深海の艦娘

戦艦棲姫改を撃破し、北端上陸姫という真の敵が判明してから、赤い海の範囲が狭まっていることが確認できている。そのため、現在は哨戒任務を続行することで敵の動向を調査する方向になった。

敵の目的は当然領海を拡げることだ。元戦艦棲姫改であるウォースパイトさんがあの場所に配置された理由も領海拡張のため。今でこそ狭まったが、何処かのタイミングで攻撃が始まるのは目に見えている。

 

私、朝潮の今日の予定はその哨戒任務。掃討任務に近い戦力を投入し、万が一敵側の艦娘が現れてしまった場合も考慮している。

旗艦は天龍さん。随伴は私、霞、深雪さん、萩風さん、そして龍田さん。天才的な才能で練度を上げた龍田さんは今回が初陣である。天龍さんと同じ部隊での出撃を強く望んだため、初陣ながら若干厳しい戦場に投入された。あまり心配はしていないが。

 

「敵の反応はありません」

「了解っと。この前までが嘘みたいだな」

 

しばらく進み、索敵担当の私が手早く調査する。海上海中どちらにも反応はない。元よりここには潜水艦が出た試しがないので、ソナーの起動は念のため。

 

「ここで戦艦棲姫改と戦ったんですよね。跡形もないです」

 

先日まで戦場であったこの場所は、もう赤い海ではない。現在の赤い海に辿り着くにはさらに北上する必要がある。そのため、ここからはゆっくりと北へ。

 

「少し念入りに索敵していきますね」

「そうだな。全員警戒態勢は解くなよ」

 

近付き過ぎないように索敵を続ける。いつもならここで戦艦棲姫改の横槍が入っていたが、もうその心配もない。今のところは何も不自然なものはないと言える。

 

「龍田はただ来ただけになりそうだな」

「いいんじゃないかしら〜。海のお散歩も乙なものよ〜」

 

何も無ければ哨戒任務はただの散歩になる。安全確認をしただけで鎮守府に帰って終わり。初陣はその程度で終わり、長距離航行の勘を掴むくらいにする方がいい。ここ最近の初陣はどうしても戦闘行為が付いて回っているが。

 

「何も無しで終わりたいですね」

「もしくは雑魚だけとかな」

「この子の試し斬りがしたいから〜、弱いのが出てくれると嬉しいわ〜」

 

龍田さんは結構物騒なことを言う。天龍さんの妹と言われて間違いなく同意できる。

 

 

 

赤い海の付近まで移動。足元の海の色が変化してきた辺りで電探に反応を確認した。

 

「あ……来ました。敵反応を確認。駆逐12……駆逐艦だけの連合艦隊ですか。1つ反応がおかしいです」

「お出ましか。駆逐艦だけってことは、向こうも哨戒部隊だな」

 

迎撃準備をする。今回は白兵戦組が2人のため、複縦陣で待ち構えた。初陣なのに先頭に置かれた龍田さんだったが、天龍さんと横に並べたことを大いに喜んでいる。

おかしな反応はあちら側に洗脳された艦娘だろう。こちらでは『深海艦娘』と総称することとした。

 

「会敵! ……やっぱり」

「早速こうなっちまうのかよ」

 

敵の駆逐連合の先頭、旗艦として出現したのは、真っ白な髪と真紅の瞳を持つ深海艦娘。

随伴の駆逐艦はいつも見る雑多なイロハ級なのだが、深海艦娘の存在で練度が上がっているようにも見える。いつものと油断してはいけなそうだ。

 

「艦娘ト会敵……殲滅スルノデス」

 

あちら側に傾いた春風のような、艦娘と深海棲艦が入り混じった反響する声。服も真っ黒に染められていた。艦娘とは一線を画していると表しているようにも見える。

私達が初めて見たときとは少し違った。あの時は終始無言で、無表情。どう見ても()()()()()()とわかる状態。だが今は違う。黒く塗り潰された意思がある。

 

「あれが深海艦娘……艦娘のままじゃない……」

「だから助けるのよ。霞、覚悟を決めて」

 

この最悪の敵を目の当たりにして、いろいろな感情が入り混じる表情の霞。同じように初めて見た萩風さんも無言で目を伏せる。

 

「電か。鎖は……海の中に繋がってるな」

「領海の中なら陣地から離れても行動できるんだと思います。まずは撤退させましょう。できることなら救助を」

 

深海艦娘は電さん。響さんの妹。ウォースパイトさんが電さんの名前を出した時、響さんが嫌な顔をしたのを覚えている。その時はそれだけだった。

だが、それ以上に因縁を持つ人がいた。ずっと外に出さず、怒りに震えていたのだろう。顔を見た瞬間、感情が堰を切ったように溢れ出した。

 

「電ぁぁぁ!」

 

深海艦娘となった電さんを見るや否や、部隊から外れてしまったのは深雪さんだった。電さんとは大きな因縁があるらしく、理性を保てないほどに激昂している。

 

「深雪! 勝手に飛び出すな!」

「天さんはわかってんだろ! 電はあたしがやるんだよ!」

 

あまりにも危険な行為だった。旗艦である天龍さんにすら逆らっての突貫。

そもそも深雪さんには独断先行したがる悪癖があるが、今回はいつもとは毛色が違った。決意の下に暴走している。

 

「くそっ、各自随伴をやれ!」

 

深雪さんの暴走は覆すことができない。この状態から優位に持っていくために天龍さんの指示が飛ぶ。

 

「朝潮さん、お願い!」

「了解! 反動軽減補助ですね!」

 

私は萩風さんの後ろへ。清霜さんの時と同様に、反動軽減のサポートをする。その間に索敵を念入りに行い、打開策がないかを考える。私の仕事は考えること。電さんを助け出す手段をこの戦闘の間にどうにか考えたい。

 

「撃つよ!」

「大丈夫です、どうぞ!」

 

清霜さんの時ほどではないが、私にもその衝撃が伝わってきた。未だ完全な軽減が出来ていない萩風さんだが、私が後ろから支えるだけで完璧な砲撃を見せる。今回の部隊の中でも最高の火力のため、これを頼りに指示を考えていく。

 

「ああもう! どこ狙っていいのかわかんない!」

「まずはイロハ級を倒しなさい! その間に私が考えるから!」

 

雷撃特化の霞は混乱してしまっている。一撃が重すぎるせいで、電さんを傷付けてしまうからだ。直撃したら一撃で轟沈させられるほどの力を持つ魚雷を使っているからこその悩み。まずは指示通り敵随伴艦を一掃することを先決する。

 

「天龍ちゃん、イロハはすぐに終わるわ〜。あれはどうするの?」

「くそっ、深雪が暴走するなんてわかってたことだってのに! 援護だ援護!」

 

天龍さんは深雪さんの因縁は知っているようだが、聞いている余裕がない。今は随伴を処理し、戦いやすい状況を作るべき。私はあくまでも萩風さんの補助を続ける。

 

「邪魔ナノデス……()()沈メラレタイノデスカ?」

「っぐ、電はそういうこと言う奴じゃねぇ!」

 

深海艤装を狙ってのピンポイント射撃を繰り返すが、あちらの方が上手。何処を狙っているかがわかっているので簡単に避けてしまう。避けると同時に肩や腿など、どうでもいいところばかりに攻撃を当てていた。重巡主砲並の火力なのに、器用に掠めて当てていた。

こちらが傷付けないように戦っていることがわかっている戦い方だ。わざと煽るようにして理性をさらに削ろうとしている。

 

本来の電さんは、深海棲艦でも助けたいと話す優しい人と聞いた。私達の司令官と最初から同調できる心を持っている、眩しいくらいに綺麗な人。

だが、今の電さんは真逆だ。深雪さんをあえていたぶるように戦っている。精神を抉り、致命傷を避け、死の恐怖を与えるための攻撃を、同じ笑顔で繰り出してくる。

 

「何か……何か……」

 

観察をし続ける。行動予測とは違う、戦況把握の拡張。あの動きの中にヒントが無いかを、ジッと見続ける。随伴も少なくなってきているので、集中して観察できた。

 

「十分楽シンダデショウ。戦場ヲ。経験デキナカッタ戦場ヲ!」

「てめぇ……!」

 

電さんの言葉の意味はわからないが、深雪さんの理性はどんどん削られている。もう深雪さんの砲撃はまともな精度じゃ無くなっていた。冷静にするための言葉も見つからない。

 

「早く戦闘を終わらせなくちゃ……考えろ……考えろ……」

 

皆の活躍でもう随伴はいない。そうなってしまうと霞も萩風さんも次にどうすればいいかわからない様子。戦闘を終わらせるためにも電さんを徹底的に観察する。

通常の艦娘と違うのはやはり首輪と鎖。その鎖は海に沈み、どれだけ動いても伸び縮みしていない。その鎖が、時折鈍く輝くように見えた。太陽光を反射しているのではなく、鎖自体が輝いている。

 

「鎖……もしかして。深雪さん! 鎖を狙ってください!」

「鎖だぁ!? そんな暇無ぇよ!」

「だったらオレと龍田でやってやらぁ!」

 

私の予想が正しければ、電さんはあの鎖を守るための行動をするはずだ。

 

「霞、萩風さん! 鎖を破壊して!」

「アッチノ方ガ邪魔ナノデス」

 

攻撃している逆の手を払うと、ボール状の艦載機が発生した。たった2つだけだが、駆逐艦なのに艦載機が使えるというだけでもとんでもないことだ。深海棲艦による改造で大幅にスペックアップしているのなら、艦種を跨いだ行動をしても驚かない。

 

「何してんだオラぁ!」

 

艦載機がかなりの低空飛行だったおかげで、私に向かう前に天龍さんが斬り墜としてくれた。観察に専念できる。

また鎖が鈍く輝いた。その時に電さんの目も鈍く光ったように見えた。鎖は何かと連動している。あの鎖さえ破壊すれば、電さんは解放されるのかもしれない。最悪の場合、何も変わらず行動範囲を拡げるだけになるが。

 

「天龍さん7時!」

「うおっ、っぶね……!」

 

艦載機を墜とした天龍さんを背後から狙おうとしたのは、行動予測ですぐにわかった。即座に指示して天龍さんに避けてもらうが、少しだけ掠めてしまったようだ。観察と行動予測の併用はまだキツイ。もっと早く指示しなければ。

 

「今、天龍ちゃんを傷付けたわね?」

 

龍田さんの表情が変わった。天龍さんが傷付いたことで、一気に逆上した。そういうところは春風に近い。

 

「龍田、オレなら大丈夫だ! 鎖を斬ってくれ!

「仕方ないわね〜。別に首を落としてもいいんだけど」

 

瞬時に背後に回り込み、海上に出ている鎖に向かい薙刀を振り下ろす。電さんは主砲を撃った直後、艦載機も出した直後だ。すぐには対応できないだろう。

が、鎖は生きているかのようにその攻撃を避けた。やはり破壊されることを避けている。鎖を破壊できれば、何か相手に不都合なことが起きるはずだ。

 

「余所見すんなよ電ぁ!」

「雑魚ハ引ッ込ンデテホシイノデス! 戦争モ経験シテイナイ役立タズガ!」

「電はそんな口聞かねぇっつってんだろうが!」

 

理性を削る言葉で怒りが限界を超え、一周回って深雪さんの精度が戻ってきていた。電さんの主砲を紙一重で躱し、龍田さんの攻撃を避けた鎖に対して砲撃を当てる。

が、鎖が破壊されることはなかった。直撃したのにほんの少しヒビが入った程度。

 

「駆逐主砲じゃあれくらいしか……!」

「姉さん魚雷は危険すぎるわよ!」

「私の重巡主砲だとタイミング合わせられないかと……!」

 

駆逐主砲以上の火力ならいくらでもある。が、それは電さん自体に被害が出る可能性が高いものばかりだ。重巡主砲も魚雷も、範囲が広すぎて巻き込まれてしまう。

範囲が狭く、火力が高い攻撃。そうなると、天龍さんか龍田さんしかいない。最も危険な白兵戦が、最も活きる時が来た。

 

「くっそ、なんだこの鎖! 勝手に攻撃避けやがる!」

「それだけ重要なのよ〜。だからこそ、破壊しないとね?」

 

より電さんに近い位置を狙い、避けることを難しくしているのだが、電さん自体がそれを察知し避けているため、2人がかりでもなかなか攻撃が当てられない。

ここで深雪さんが予想外の行動に出た。私も予測できなかった決死の行動。

 

「動くんじゃねぇよ!」

 

砲撃をやめ、電さんの攻撃を掻い潜り、飛び込むように抱きついた。主砲を装備した腕も掴み、攻撃を抑制。無理にでも鎖を破壊するために動きを封じた。

 

「ハ、離スノデス!」

「よくやった深雪! こんな鎖、叩き斬ってやらぁ!」

 

ようやく動きの止まった鎖に対し、天龍さんが刀を振り下ろす。

が、鎖は急に首輪から外れ、その攻撃を避けた。あくまでも破壊されることを拒んだ。

 

「アッ!?」

 

電さんの様子がおかしくなったのはそのタイミング。瞳に今までと違う光が灯り、ガクガクと震えだす。

 

「電!?」

「み、深雪、ちゃん……殺して! 早く電を殺すのです!」

 

正気に戻っている。声も深海棲艦特有の反響するものではなくなっている。

鎖が外れたことで、あの黒い意思が無くなっていた。予想通り、あの鎖が電さんをおかしくしている、身体は改造済みかもしれないが、意思を抑制するのはあの鎖ということで間違いない。

 

「馬鹿! 殺せるかよ! このまま救出する!」

「駄目なのです! すぐにあれは戻ってく……ッギィ!?」

 

天龍さんの攻撃を避けた鎖は再び電さんの首輪に接続。すぐに表情が変化し、元の状態に戻ってしまう。

 

「殺セト言ッタノニ、馬鹿ナ奴ナノデス」

 

電さんが正気に戻った際に拘束が緩んでいた。腕を掴んでいた深雪さんの手を振り払い、主砲を深雪さんの腹に押し当てる。

 

「サヨウナラ、深雪チャン」

 

主砲が発射された。砲撃は深雪さんの脇腹を抉り、腕もあらぬ方向に曲がる。辛うじて致命傷では無さそうだが危険な状態だ。

 

「ズレチャイマシタ……ヒビガ入ッタセイカモ……一度撤退スルノデス」

 

鎖に引っ張られ、電さんは海中に沈んでいった。

 

「っああっ……ぐ……」

「やべぇ、すぐに撤退だ!」

 

天龍さんが深雪さんを抱きかかえる。抉られた脇腹からは血が止まらず、もはや一刻の猶予も許されない状況。私達は早々にその場から撤退した。

 

鎖が無くなった途端、電さんは正気に戻った。そして、その鎖は破壊されることを回避しようとした。深海艦娘の救出は、あの鎖を破壊することでできるのだろう。今後の戦いは、それを念頭に置いて作戦を立てる必要がある。

 

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