欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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艦の因縁

大急ぎで帰投したおかげで、深雪さんの命は助かった。本当にギリギリだった。電さんのことを考え続けて、朦朧とする意識を繋ぎとめていたのが幸いしたそうだ。諦めていたら、今頃深雪さんは……いや、暗いことは考えないようにしよう。

轟沈寸前の大破ということで、深雪さんの入渠は一晩を有する。私、朝潮の大破の時と同じくらいの損傷。その間、作戦会議が行われた。今回の戦いで、深海艦娘救出の糸口が見つかっている。

 

「首輪に繋がる鎖です。あれが電さんを……深海艦娘をコントロールしています」

「あの鎖が首輪から外れた時だけ、電が正気に戻った。まさか殺してくれと言われるなんて思わなかったけどな……」

 

あの戦闘に参加している私と天龍さんが司令官に話す。

 

「ただ、あの鎖はかなりの強度です。駆逐主砲の砲撃で、僅かにヒビが入った程度でした」

「重巡主砲くらいの火力はいるだろうな」

「だが、重巡主砲以上の火力だと、深海艦娘自身の身体に危険が及ぶ、ということだね」

 

司令官も頭を抱える。おそらく答えは出ているのだ。今回の件、白兵戦が最も輝く場所。さらに言えば、山城さんのような接近戦でなく、天龍さんのような武器を持つ戦いが最優。

 

「深海艦娘救出は、2つの手段が考えられる。1つは、武器による白兵戦で鎖を破壊すること。もう1つは、巻き込まない程度の火力で鎖の同じ位置を攻撃し続けて破壊すること」

 

前者は勿論天龍さんだ。龍田さん、皐月さんも該当する。特に龍田さんは長柄のため、危険度も少なめ。

後者は青葉さんと白露さん、そして現在入渠中の深雪さん。高精度のピンポイント射撃なら、あの鎖でも破壊できるのではないかという考え。青葉さんの場合は、少しスペックを落とした主砲で攻撃することになるが。

 

「救出できる可能性が見えたのは大きい。だが、深雪君の大破は深刻な問題だ」

「あいつが無茶をしたからわかったってところもあるからな……暴走に文句が言えねぇ。オレにも責任はある」

 

天龍さんはああなることを最初からわかっていた。それだけ、深雪さんと電さんに大きな因縁があるということだろう。私が踏み込んでいいことではないかもしれないが、気にはなる。だが、それは今聞くべきではない。

 

「深雪君には目を覚ましたら話をするよ。北への哨戒任務は引き続き行うが、赤い海への接近は少し時間を置こう」

「そうだな……作戦がしっかり纏まってからの方がいいだろ。それまでに龍田を鍛えておく」

「あら〜、天龍ちゃん直々? 嬉しいわね〜」

 

今後キーパーソンになるのは武器持ちの白兵戦担当だ。その中で龍田さんは一番の新人。いくら才能があったとしても、実戦経験だけは覆すことができない。龍田さんはまだ皐月さんにも触れることが出来ていないそうだ。

 

「大本営には連絡をしておく。それと、浦城君の鎮守府からの援軍も、そろそろ受け入れ態勢を作らないとね」

 

深海艦娘の救出には、ありとあらゆる方面の艦娘が必要になるだろう。随伴だって当たり前のようにいるのだ。今回は1人だけだったが、纏めて襲ってくる可能性だってあり得る。

 

そこまでの方針が決まり、会議が終わった。辛い戦いになるのはわかっている。覚悟も決めたつもりだ。

 

 

 

翌朝、深雪さんの入渠が完了した。司令官から話を聞き、電さんの救出のために作戦を考えているということも伝えられる。深雪さんも今後救出作戦の根幹をなすことになりそうということも。

 

「救出作戦、あたしも絶対行くから」

「わかっているさ。君の気持ちは」

「さすが司令官、サンキューな。絶対に救ってやるさ」

 

怒りで理性を失っていた深雪さんも、一晩眠れば落ち着いた様子。ただ、いつもの調子に戻ったとは到底言いづらい。逸る気持ちもわかるが、もう少し冷静にならないと二の舞な気がする。

 

「あ、朝潮、昨日はごめんな」

「いえ、それは構いませんが……深雪さん、電さんと何かあったんですか?」

「……あー、このことはあんまり知ってる人いないんだけど、朝潮には教えとくか。出来れば他言無用で」

 

いつもの深雪さんとは思えないくらい、物悲しげで暗い表情。余程の理由があると見える。

 

「朝潮はさ、自分が艦の時のことってどれくらい覚えてる?」

「艦の時のですか……まぁ朧げですが」

 

自分が進水して(生まれて)から、沈む(死ぬ)までのことは、朧げながら記憶にある。はっきりと覚えていることもあるが、フワフワと浮かぶくらいのことの方が多い。特に死ぬ瞬間は、他人事のように感じられる。

そこまで鮮明に覚えていないのは、過去に縛られすぎないようにという艦娘特有の自己防衛本能だそうだ。一度死んだことを思い出すのは、やはり辛い。

 

「あたしはさ、割とはっきり覚えてるんだよ。特に死ぬ瞬間を」

「えっ……その、それは……」

「何処で、どうやって沈んだかもな」

 

私達艦娘には基本的に伏せられている、艦の時代の歴史。那珂ちゃんさんと萩風さんのような、上司と部下だったなどの関係性ならまだいい。深雪さんと電さんの関係性は、あまりにも悲惨で重いもの。

 

深雪さんは演習中に沈んだという経歴を持っている。私達が艦の時に体験した戦争に、唯一参加していない艦である。

そのきっかけが、電さん。電さんとの演習中に衝突し、そのまま還らぬ艦となった。

 

「あたしは気にしてないんだ。ありゃしょうがない」

「……そうかもしれませんが」

「でも電は物凄く重く見ちまってる。自分があたしを殺したって。初めてあたしを見た電は、顔を見るたびに泣き出すくらいだ。だから、その度にあたしは友達になってきた」

 

艦娘としての電さんは、別個体としてこの世に何人もいる。その一人一人と、出会った端から深雪さんは友達になっていった。今では顔を見ただけで泣き出すようなこともなく、普通の友好関係を持って接してくれているそうだ。別個体と出会うたびに、1からやり直しになるのが辛いと苦笑する。

 

深海艦娘となった電さんの言葉を思い出す。『また沈められたいか』……あれは確実に本心からの言葉ではない。駆逐艦電という個体は、その全てが深雪さんに対して深い後悔の念を持っているのだ。あの鎖に、北端上陸姫に言わされている。一番言っちゃいけない言葉を言わされている。

 

「今までで一番しんどい電案件だな。でも、絶対救ってやる。んで、友達になるんだ」

「そうですね……私も精一杯お手伝いします」

「頼むな。次は殴ってでもあたしを冷静にしてくれよ。電に恥ずかしい戦いしちまった」

 

そんな理由があるのなら、私は全力で支援しよう。萩風さんの時の那珂ちゃんさんと時津風さんの時のように、やりたいことがあるのならやらせてあげたい。

 

 

 

深雪さんが復帰したことで、次の戦いのための準備に取り掛かっていた。再びあの地点に行ったところで、また電さんが現れるかはわからない。だが、可能性としては高いと思っている。あちらは電さんで小手調べしようとしているように思えたのだ。

 

作戦を立てることに数日かかり、準備は整った。深海艦娘救出にあたって、どうしても戦艦や空母が連れていきづらいという難点がある。火力が高すぎるのが良くないというのは今までにない問題点だ。結果的に、水雷戦隊をちょっと弄った編成にしかできない。

 

「次の出撃は明日。前回遭遇した時と同じ時間とする」

「タイミング合わせりゃ、また電が来るかもしれないからか」

「そういうことだよ。そして部隊はもう決まっている」

 

電さんで無くても、深海艦娘と交戦した時のことを考え、救出できるメンバーで取り揃えられていた。

旗艦はやはり天龍さん。刀による鎖の寸断は今最も必要な手段。随伴に龍田さん、深雪さん、響さん。こちらも鎖を破壊することが出来そうなメンバー。そして後者2人は電さんとの関係者である。

龍田さんの驚異的な成長は目を見張るものだった。天龍さん直々の訓練ということで、その技術を全て吸収。すでに皐月さんと並ぶほどの実力者となっている。正直恐ろしい。

 

「5人目、朝潮君。君には負担をかけ続けていることはすまないと思っている。一つやってほしいことがあるんだ」

「なんでしょうか」

「深海艦娘の観察を続けてほしい。君が鎖の破壊に気付いたことで道が拓けたからね。なんでもいい、気付いたことがあれば全て報告してほしいんだ」

 

私はあくまで非戦闘員だ。そのため、事態をこちら側に寄せるために敵の出方を逐一観察する。これからの戦況を優位にするための、私にしかできない、私だけの仕事。

 

「了解しました。戦場の全てをこの目に焼き付けてきます」

「戦闘での観察、勝利のために『未来予知』の使用も許可する。負担がかからないように、程々にね」

「そこまで……はい、お任せください」

 

誰が有利になるか、誰が不利になるか、そこも重要になるだろう。鎖の動き、深海艦娘の動きに特徴が出ていれば尚いい。次の戦いのために、次の次の戦いのために、私は戦場に立つ。

そのためには『未来予知』まで使っていいと言われた。あれは結局のところ、敵側の理解が必要不可欠だ。できるようになれたのなら、それは深海艦娘を把握できたことに他ならない。

 

「そして最後6人目なのだが、これは一つの賭けだ。初陣がこんなことになってしまって申し訳ない。ウォースパイト君」

「あら、私?」

 

ウォースパイトさんの自律型艤装、フィフの力をここで使うという。主砲による砲撃では火力が高すぎるが、フィフは格闘戦が可能であり、意思を持つ艤装ゆえに繊細な動きも可能。いざという時のために、深海艦娘をその手で捕らえることも可能ではないかという賭け。

 

「いいでしょう。アサシオを守る者も必要でしょうしね。Leave it to me」

 

私を守ってもらえるというのなら心強い。観察に専念するとしても、周りの敵は怖いものだ。回避を始めると今度は観察が疎かになってしまう。

この数日間で、ウォースパイトさんもフィフを使った戦闘に慣れてきている。特に、ヒメさんやシンさんを抱きかかえた状態でレキさんと訓練しているのが大きい。戦艦棲姫改の時の、守護者であり侵略者である戦い方が戻ってきている。

 

「では、出撃までは各自英気を養ってほしい。解散」

 

会議が終わった直後、明石さんに部隊全員が呼び出される。明日の出撃に際して、新たな武装が完成したそうだ。私はその情報をいち早く取り入れるための同行。

 

「まず天龍、刀のバージョンアップが完了したよ。龍田と同じ、深海合金になったから、強度も斬れ味も上がってるはず」

「お、そいつはいいな。これで鎖を斬りやすくなる。オレで成果が出たら、皐月の方にも頼むぜ」

 

龍田さんはすぐにでも天龍さんに追い付くために刃を加工していたが、天龍さんは純粋に攻撃力を高めるための加工だ。

 

「龍田はご要望の電探だよ。朝潮のものよりは精度が低いけど、背中に目があるような状態にはなると思う」

「助かるわ〜。朝潮ちゃんの負担も少しは減るわよね〜」

「ありがとうございます。助かります」

 

龍田さんは唯一電探だけは装備できるため、それを戦闘に活かそうとしたそうだ。結果、自分の周囲だけは常に見られる電探が開発された。頭上の天使の輪に接続することで、龍田さんは背中に目を手に入れる。

私の負担まで考えてくれていたのは嬉しかった。戦況把握がとてもしやすくなる。

 

「響と深雪には、特殊弾頭を作ったよ。これなら鎖も破壊できるはず。これで良さそうなら、これからは全員にこれを使ってもらうからね」

「Хорошо」

「こいつがありゃ、電を救えるってことか。助かるぜ明石さん」

 

周りの被害を抑えつつ破壊力を増した特殊弾頭。代わりに、ピンポイントの射撃でないと十全の効果を発揮しないというデメリットが付いている。深雪さんにはそのデメリットはほとんど無いようなものだ。

 

「ウォースパイトさんは、フィフのチューンナップをしておきました。変形時間をより短縮しているかと」

「Amazing! さすがアカシね」

 

これだけの戦力強化がこの数日で行われた。明石さんは見ただけで疲れが溜まっているのがわかり、裏ではセキさんがうたた寝しているのが見える。相当な突貫工事だったようだ。

 

「朝潮、電探眼鏡をバージョンアップするよ。メンテナンスも同時にするから外してもらえる?」

「あ、はい。お願いします」

「少しだけど、海中も見えるようにするよ。鎖の話を聞いてるからね、潮の探信儀眼鏡ほどじゃないけど、無いよりあった方がいいでしょ」

「それは本当に助かります!」

 

私の電探には、スペックは低いがソナーが同梱されるようになった。海中の鎖を多少なり追えればということだそうだ。今まで海中が見えないことで増援のタイミングがわからなかったりしたので、このバージョンアップは本当に助かる。代わりに私の脳への負担はうなぎのぼり。こちらはゆっくりと慣らしていこう。私がうまく使えなくても潮さんに頼ればいい。

 

「よし、これで準備万端! 明日、頑張って!」

「明石の分まで戦ってくるからよ。これからも頼むぜ」

 

これなら誰でも鎖を破壊することが出来るはずだ。もう深雪さんは気持ちを入れ直している。電さんを目の前にしても暴走することは無いだろう。万が一するようなことがあったら、約束通り殴ってでも止める。




見ていただければわかると思いますが、私は『みゆづま』が大好物です。深雪の史実を見て驚いたものでした。
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