欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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救出劇

翌日、哨戒任務開始。旗艦の天龍さんに続いて私、朝潮も出撃する。

今回の私の仕事は、今後の戦闘に役立てるために敵の挙動を観察すること。深海艦娘が同じ改造しかされていないわけないと思うが、1人わかればある程度は対策が取れるだろう。少なくとも、駆逐艦なのに艦載機を飛ばしてくるのはわかっている。それ以外に何かあるかどうかだ。

 

「深雪、覚悟は出来てんのか?」

「大丈夫だって。今のあたしは冷静だよ」

 

以前は突発的に電さんを見てしまったがために理性が弾け飛んだが、今回は覚悟の上で戦場に向かう。万が一はあるかもしれないが、こうなってしまえば深雪さんは暴走しないだろう。

 

「えーっと、ウォースパイトさん、私はここまでされなくても」

「アサシオがこの部隊の要なんでしょう? なら守らなくちゃ。Hold on tight」

 

私は途中からウォースパイトさん、いや、フィフのもう片方の腕に抱えられて運ばれていた。燃料の節約は出来ているものの、なんというか恥ずかしい。ものすごく過保護。

 

「いいじゃないか。戦場までは楽に行った方がいい」

「響の言う通りだぜぇ。朝潮にゃあいろいろやってもらわないといけないからな」

 

実際この移動方法は楽といえば楽。移動のことを考えず、索敵に専念できる。いわば、フィフの電探となっている状態。目を瞑っても目的地についているというのはありがたいかもしれない。

 

「何かの気配を感じるわ。そうか、これが元深海棲艦の感覚なのね」

「そうだった、フィフがインパクト強すぎて完全に忘れてた。やっぱり朝潮の索敵より早いんだな」

 

既に戦艦棲姫改との戦場を超えていたようだ。遠くに赤い海の端が見える。そろそろ先日に電さんと交戦した場所。

 

「索敵にかかりました。駆逐8、軽巡2、重巡2。駆逐の内2つは深海艦娘です」

「人数増やしてきやがったか。2部隊ってことでいいかなこいつは」

 

索敵範囲は最大だ。まだ会敵までは時間がある。フィフに下ろしてもらい、海上で息を整える。私はウォースパイトさんに守ってもらえる。が、おそらく敵に突っ込むだろう。今のウォースパイトさんは前世を引きずり戦闘を楽しみたいだろうから。

 

「Enemy ship is in sight. Open fire!」

「敵艦確認! 交戦準備!」

 

会敵。2部隊が同時にこの場に現れた。

片方は以前に見た電さん。鎖も修復されており、正気ではない。装備している主砲も何も変わっていない。

そしてもう1人。一番最初に見た叢雲さん。浦城司令官のところで見た姿ではないので、おそらく改二ではないのだろう。代わりに長柄の武器を持っているため、砲撃以外でも怖い。

 

「マタ来タノデス。懲リナイ人達ナノデス」

「イイジャナイ。愚カ者ハココデ沈メテヤルワ」

 

こちらを見て溜息をつく電さんと、見下すように睨んでくる叢雲さん。ここで素直に思ったことが口から出てしまった。

 

「叢雲さん、何も変わってなくないですか」

「っは、マジだ。何も変わってねぇ! 電みたいなギャップが無いから戦いやすいな。やっべ、意識したら面白くなってきた」

 

大爆笑の深雪さん。緊張感が抜けて、いい感じに冷静になった。天龍さんも笑いを堪えている。

会敵したというのにゲラゲラ笑う深雪さんを見て、電さんも叢雲さんも若干イラついたように見える。

 

「龍田、お前叢雲行け。同じ得物同士、やりやすいだろ」

「え〜、天龍ちゃんとじゃないとやる気出ないな〜」

「わかったわかった。じゃあ周りの雑魚やってからな。それと、あー、勝てたらご褒美で今日添い寝許可」

「見ててね天龍ちゃん。無傷で倒すから」

 

なんというか、龍田さんも扱いやすい人のようだ。過去の霞や春風を見ている気分。むしろ今は添い寝していないのかとちょっと驚く。龍田さんなら添い寝というより夜這いしてそう。その分危うさも感じるが。

 

「巫山戯タ奴ラ。ココデ皆殺シヨ」

「オレと龍田で叢雲の方に行く。響、深雪、スパさん、電の方頼むわ。朝潮、観察を続けてくれ」

「叢雲ちゃん、私と天龍ちゃんが相手してあげるわ〜」

 

天龍さんと龍田さんがうまく叢雲さんを引き離してくれた。挑発して海域を分けてもらえたため、私達は電さんに集中できる。

 

「悪いな響、お前の妹はあたしが貰うぜぇ」

「それは告白かい? 親族に許可を貰う同性カップルか何かかな」

「アホか。まずはあたしが引きつけとくっつってんだよ」

 

完全に電さんを無視した漫才。前回とは違い、あちらの神経を逆撫でするような行為。前回さんざん煽られたお返しと言わんばかりに馬鹿にしている。

 

「馬鹿ナ連中ナノデス。マタ抉ッテアゲルノデス」

 

今回は最初から艦載機も出してきた。手を抜くこともなく、全開でこちらを殺そうとしてきている。前回の戦闘からあちらもいろいろと学んだのかもしれない。

 

「うし、じゃあやるか」

「了解。ヴェールヌイ、随伴艦を駆逐する」

 

まず響さんは電さんを無視してイロハ級の掃討。叢雲さんと分断してもらえたおかげで敵の数は少ないが、分はまだあちらにある。駆逐艦とはいえ、深海艦娘は姫級の力を持つ難敵。さらには()()()()()()()()という大きなハンデもある。戦いやすい戦場にするのが先決。

 

「ウォースパイトさん、掃討を……」

「勿論。イナヅマ以外を倒せばいいのよね? 任せて」

 

一瞬、ウォースパイトさんの碧眼が春風のように燃え上がったように見えた。

 

「Fif, sit down. Sally go!」

 

玉座モードに変形させ、そのまま敵陣に突撃。あえて電さんを挑発するように目の前を通過し、イロハ級を攻撃していく。眼中にないと言わんばかりに無視。

申し訳ないが、煽られたら煽り返すというのが今回のスタンスだ。天龍さんが立てたちょっとした作戦であり、敵のやり方をそのままお返しする。それで敵が理性的で無くなるなら御の字。

 

「チョコマカト……雑魚ハ大人シクスルノデス!」

「当たんねぇよ。もう少し頭使えよな」

 

低速化の欠陥(バグ)を物ともしない動きをする深雪さん。白露さんと同様、自分の欠陥(バグ)に真摯に向き合い、それを活かす形で戦闘方法を訓練し続けていた深雪さんなら、本来姫級の力となった電さんもここまで翻弄できるのだ。冷静であればあるほど真価を発揮する。

 

「さぁて、どうすっかな……。1人でどうにかするのはやっぱ無理か……」

 

戦闘中でもしっかり考えている。いつもの猪突猛進さが嘘のように静かな戦い方。常にこれが出来ればいいのに。

 

「響さん、そちらは?」

「割と硬い。こいつらも改造されているみたいだ」

「了解。ウォースパイトさんと連携して各個撃破で」

 

指示をしながら観察を続ける。

電さんの艦載機は、艦載機としての力を使うわけでなく、それそのものを武器としてぶつけてくることが多い。言うなれば、コントロールできる弾丸。爆発しない分当たっても致命傷にはならないが、それでも重傷は否めない。

そして鎖は以前と同じ。定期的に鈍く輝き、それに合わせて電さんの瞳も鈍く光る。やはりあの鎖から何かを送り込まれて今の状態になっている。

 

「っ、響さん5時!」

「おっと、助かったよ朝潮。Спасибо」

 

稀にその艦載機が響さんを狙うことがあった。それに関しては私が全て見切っている。行動予測もまだ余裕だ。

 

「アサシオ、もう終わるわ」

「了解。終わり次第、こちらへ」

 

ウォースパイトさんの活躍で、響さんが手を焼いていた重巡や軽巡が即座に処理された。超火力の戦艦主砲と強烈な格闘戦は一撃でも敵に死を振りまく。あんな敵と戦っていたのかと思うと、よく勝てたなと驚くばかり。

その間も電さんの情報は全て覚える。深雪さんが避けに徹してくれたおかげで、パターンが大体掴めた。これなら行ける。

 

「よし、大体観察は終わりました。深雪さん、行動予測……『未来予知』可能です」

「お、来たか。じゃあ……朝潮、頼むぜぇ!」

 

目を瞑る。久々の『未来予知』だ。脳の限界は前以上になっているはず。だが追加装備のソナーまでフル稼働の行動予測になるので負荷は大きい。ウォースパイトさんに守ってもらい、自分を計算外にすることで負荷を減らす作戦。

 

「響さんも大丈夫ですか?」

「問題ない。朝潮の指示に従う。無理はしないように」

 

一息つき、思考へ没入。確認する反応は、深雪さん、響さん、そして電さん。艦載機が合間にあるためそれも追加。さらに鎖の位置も把握。戦闘音が遠のき、私だけが無音の空間へ。手のひらに戦場を乗せ、全てを見る。

自然と指輪を意識した。山城さんと同じだ。今の私は司令官と共にある。気持ちが入った。これならやり通せる。

 

「開始します。深雪2時移動、響10時移動」

「っしゃあ、行くぜぇ!」

 

深雪さんと響さんの行動パターンはさんざん見せてもらっている。どういうことをされても計算を修正が可能だ。

 

「急ニ動キガ……!」

「深雪3時回避10時攻撃。響9時回避4時攻撃射角は上へ」

 

深雪さんには電さんの装備する主砲を、響さんには周りを低空で旋回する艦載機を攻撃するように指示。特殊弾頭のため、破壊力は折り紙付き。少し腕に怪我を負うかもしれないが、軽傷になる程度のはず。

当然、避ける位置だって計算済みだ。撃たれそうになったら何処に動くかくらいは観察している。

 

「艦載機1機撃墜」

「ナイスぅ! こっちも主砲を破壊するぜぇ!」

 

隠し球は無いはず。持っている武器を破壊すれば、攻撃は出来なくなる。艦載機が何もない空間から出たことを考えると、同じように生成できそうな魚雷に注意した方がいいだろう。

だが、私はそれが来たところでどういう挙動をするかは計算できている。春風とレキさんから、深海棲艦の戦い方は学んでいる。

 

「コノ……!」

「深雪1時回避、響10時回避6時攻撃」

 

予想通り魚雷を生成してきた。が、その数は少ない。全ての攻撃方法を使えるようになったせいで、その1つ1つが少ない。主砲に攻撃力を寄せたのがわかる。

回避してもらいつつも、響さんには艦載機の2機目を墜としてもらった。これで外から邪魔をするものは無くなる。

魚雷の射線には私も入っていたが、そこはウォースパイトさんが主砲により全て破壊してくれた。さすが守護者、最高の守り。これからも女王様は頼りにさせてもらおう。

 

「深雪9時攻撃。射角下げて」

「見えたぜぇ……!」

 

ここで鎖に攻撃。ほぼ不意打ちと言ってもいいだろう。咄嗟に躱したようだが、特殊弾頭は掠めただけでもヒビが入るほどの威力になっていた。若干動きが遅くなる。

 

「響3時攻撃。射角下げて」

「了解。もう少しだよ」

 

さらに鎖に攻撃。躱した直後だというのにうまく形状を変えてくる。深雪さんの攻撃した位置から若干ズレたが、ヒビがもう一つ。

 

「鬱陶シイ! 雑魚ノクセニ! 抵抗セズニ死ネバイイノデス!」

「電の口にそういうこと言わせんなよ。はーっ、見っともないねぇ」

 

電さんに余裕が無くなってきたのが動きから手に取るようにわかる。避けた位置に攻撃が飛んでくるなんて思わなかったのだろう。私の予想ではそろそろだ。

 

「同時、深雪4時攻撃。響2時攻撃」

 

同時攻撃で躱すタイミングをあえて与える。代わりに、射角からして右にも左にも行き場を失わせた。そうなれば、鎖がやることは一つしかない。()()()()()()()

 

「イッ!?」

「……以上!」

 

行動予測『未来予知』終了。目を開き、状況確認。想定通りの形。頭痛は微かにするが、我慢できる程度。電探はまだ切らず、鎖の動向にだけ注視する。

 

「よし! 外れたぁ!」

「ウォースパイトさん、電さんを確保!」

「Fif, Go, go, go!」

 

外れたタイミングを逃さず、即座に指示。最初からこれを狙っていた。破壊出来ずとも、電さんから鎖が外れるこの瞬間だけを、ずっと狙っていたのだ。こうなってしまえば、あとは電さんを鎖から引き離すだけ。

 

「やらせねぇよ!」

 

電さんの首輪への再接続を狙う鎖を掴んだ深雪さん。電さんを助けるためにその動きを食い止めた。

が、これが悪手であるとすぐに気付かされる。

 

「深雪ちゃん! それをすぐに離してぇ!」

 

正気を取り戻した電さんが叫んだ。同時に鎖が鈍く輝く。

 

「なっ、ギッ……!?」

 

主砲を持っていない左腕、鎖を掴む手から深雪さんに()()()()()()()()。あれはまずい。今まで電さんに流れ込んでいた何かが深雪さんに入ってしまった。

 

「破壊する!」

 

深雪さんが掴んでいるおかげで動きが止まっている鎖を響さんが破壊した。深雪さんに流れ込む何かはその時点で止まり、鎖は海中へと沈んでいく。こちらにやってくる気配もない。鎖だけ撤退した様子。

 

「んだよこれ……電はこんなことされてたってのかよ……!」

 

苦悶の表情で膝をつく深雪さん。それだけなら良かったのだが、少し流れ込んだだけで深雪さんの身体に多大な影響が与えられていた。

鎖に触れていた左側だけ瞳が真紅に染まり、髪の一部が白くなっている。電さんと同じ、深海艦娘の要素に書き換えられていた。

 

「深雪さん!?」

「あたしは大丈夫だ! それよか天さんの方!」

 

そうだ、今はこちらに専念していたが、天龍さんと龍田さんは叢雲さんの部隊と交戦中だ。反応を見る限り、随伴は全て処理したようで、叢雲さん相手に2対1の状態にはなっている。

 

「私が向かいます! 響さんとウォースパイトさんは2人を!」

「朝潮も無理をしちゃいけない。全員で行くよ」

 

『未来予知』の影響で軽くフラつく。1人で行くのは危険かもしれない。解放された電さんはウォースパイトさんが、書き換えられかけた深雪さんは響さんが支えて、天龍さん達の戦場へ向かう。

 

「天龍さん、そちらは!」

「大丈夫だ。叢雲と交戦中。龍田が善戦してる」

 

まだインカム越しではあるが、息を聞く限り本当に善戦している様子だが、何があるかはわからないので急いで合流した。

 

「はい、次」

「コイツ……! 海ノ底ニ消エロ!」

「はい、次」

 

攻撃を全ていなしている龍田さん。主砲による攻撃も、艦載機による攻撃も、長柄の武器の攻撃も、魚雷ですら、その薙刀一本で処理している。天龍さんの技術どころか、山城さんやガングートさんの技術すら吸収していた。ほとんど訓練の一環にしか見えない。天龍さんすら腕を組んで眺めているような状態である。

 

「姫級と言っても大したことないのね〜。最初の威勢はどうしたのかしら〜」

「その辺にしとけよ龍田。叢雲泣いちまうぞ」

「コノ……巫山戯ルナァ!」

 

敵に同情するレベルになってきた。煽られたから煽り返しているようだが、実力を見せつける形で煽っているのでおそろしくタチが悪い。手を抜いて、わざと攻撃が何も効かないことを知らしめている辺り、敵に回したくないいやらしさ。

 

「電さん救出完了です!」

「よくやった! 龍田、やっぱり鎖を斬りゃいいみたいだ。やっちまえ」

「絶対に直接触らないでください!」

 

最後の忠告に関してはおそらく意味がわからないだろうが、やらないでくれればいい。

 

「じゃあ、終わりにしましょっか。叢雲ちゃん、もっと強くなってから来てほしかったわ〜」

「許サナイ! アンタハ絶対ニ許サ……ッグ!?」

 

鎖に引っ張られ、海中に沈んでいってしまった。電さんがやられたことを察知したか、一度撤退したようだ。一度に2人助けられれば良かったのだが、今は1人でも助けられたことを良しとしよう。

 

「逃しちゃったわ〜。ま、いっか」

「よくねぇけど、電が助かったならいい……って、み、深雪お前どうした!?」

「あの鎖に触ったらなんかなっちまったみたいで……。あたし自分がどうなってんのかわかんないんだ……」

 

意識には障害がない。身体だけに影響があったようだ。これは帰投してから調べる必要があるだろう。

 

少なくとも、あの鎖に触れるわけにはいかないことはわかった。ただの艦娘が深海艦娘に書き換えられるということは、今後どういう悪影響があるかわからない。




電に暴言を吐かせるのは心苦しかったですが、そういう文章だけ筆が早いのは何故なんでしょうね。
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