叢雲さんの救出には失敗したものの、電さんを救出し、無事に鎮守府へ帰投することができた。辛い戦いではあるが、対策した甲斐があり、全員ほぼ無傷。だが、深雪さんには大きな影響が出てしまった。
電さんと深雪さんは、セキさんによる調査の後、念のため入渠をすることとなった。その調査で、セキさんが苦い顔をする。
「……カンゼンニカキカワッテイル……モトニモドセナイ」
残念そうに呟くセキさん。
最初鎮守府に深海棲艦がいることに驚きを隠せなかった電さんだが、この場所がこういう場所であると説明されると笑顔で受け入れた。電さんが望む、全てを助ける世界がこの鎮守府では実現している。
「じゃああたしもこのままってことか」
「アア……ソンザイヲシンカイガワニカキカエラレテイル」
その後の調査で、電さんがどういう状態かは、本人の証言も含めて大方判明した。
ドロップ直後の電さんは、意識のないままに北端上陸姫に捕らえられ、そのまま深海側の謎の改造技術により今の外見にされた。
が、北端上陸姫が出来るのは外見だけのようだった。心は艦娘のまま。反発しようとしたところにあの鎖を接続され、あの振る舞いをさせられることになったらしい。その時の記憶も全てある。いわば最悪な状態の春風。
「鎖が付いているときだけ、心が真っ黒に染まる感じだったのです。言いたくないことも言っちゃって……」
「だから、鎖が無くなった瞬間に正気に戻ったのか」
「クビワハ、ズットツナガッタジョウタイニスルタメダナ」
ずっと握らせたままなのは戦闘に差し支えが出る。そこで首輪。常に接続した状態を維持するための手段だろう。身体の改造と同時に首輪も付けられているため、今は何をしても外せないそうだ。よく見れば首と隙間もなく、ピッタリと貼り付いている。
「あたしが深海艦娘に書き換えられたのは?」
「カイゾウトシハイハ、オナジシステムナンダロウナ」
辻褄はあう。改造は身体を、支配は心を深海側に染める行為だ。艦娘は深海側より心が強かったおかげで、常にそのシステムを使っておかないと支配できないのではということ。深雪さんはあれ以上鎖を握っていたら身体が染められた後に心を支配されていたのだろう。
鎖を破壊されたら撤退したのは、システムそのものが破壊されたからの可能性が高い。だから極端に破壊されることを回避していた。だが、あの鎖自体に意思があるようには見えなかった。
「鎖のせいとはいえ……深雪ちゃんにあんなことを……あんなこと思ってないのに……」
「気にすんなって。本心じゃないのはよくわかったからさ」
泣き出してしまった電さんを慰める深雪さん。吹雪さん理論でいけば、電さんは深雪さんの義理の妹だ。艦の時代のことも重なり、電さんは放っておけない存在なのだろう。
「今後、電さんや深雪さんが、その、あちら側のように振る舞ってしまう可能性はあるんですか?」
「アンシンシテイイ。ソコハアカシガホショウシテクレル」
「あくまでも身体が書き換わっちゃっただけみたいだね。中身は何も変わってない。でもあの鎖に触れたらまたああなっちゃうだろうけど」
明石さんがそう保証してくれるなら安心だ。鎮守府内で暴れられても困る。それに、深雪さんまでもああなってしまったら、無傷で押さえつけられる自信が無い。
「あの戦場に出ることはやめた方がいいけど、そうじゃなければいつも通りで大丈夫だよ」
「そいつは安心したぜ。よかったな電」
「なのです。これ以上ご迷惑かけたくないのです」
早速仲が良さそうでよかった。深雪さんの話を聞いたときは、この後も一悶着あるかと思っていたが、あまりにもいろいろありすぎて、電さんも深雪さんに対する罪の意識が払拭されたのかもしれない。
調査と診断が終わり、深雪さんと電さんは入渠。その間にいつもの会議を開き、今後のことを話す。
電さんが助けられたということで、今後は同じように戦っていく方針になった。武器を使う白兵戦、もしくは命中精度の高い主砲による鎖の破壊がメインとなる。そしてもう一つ。
「深海に関わる人員をあの海域に投入するのは困難と判断した。万が一鎖に捕らえられ、敵となってしまったら……私は悲しい」
深海棲艦の仲間、例えばレキさんを連れて行ったとして、鎖が接続されてしまった場合、書き換えるなどせずそのまま支配されてしまうだろう。下手をしたら鎖が無くなった後もそのままの可能性すらある。
こうなると戦場に出せなくなるのは春風とレキさん、そして潜水艦姉妹だ。元深海棲艦は身体自体は艦娘なので、まだ問題は無さそうという判断。深雪さんは少し微妙な状態。
「私も出撃できないわね。鎖くらい手刀で砕いてやろうかと思ったけど、素手はダメなんでしょ」
「首輪越しでもコントロールできるのだから、何か付けていても駄目だろう。山城君はやめておいた方がいいね」
山城さんも出撃制限がかかってしまった。戦場の特性から、素手での戦いは危険。最高戦力が使えないとなると、部隊の配分を考えなければならないだろう。
「今回はオレらに任せてくれや。龍田の練度の上がり方が半端ないんだ」
「見ててわかるわよ。あの子、本物の天才ね」
山城さんからの太鼓判。今後は龍田さんも頼りになる戦力だ。
今回の叢雲さんとの戦いでよくわかった。姫級にまで底上げされた艦娘を、たった1人で遊びでジリジリ追い詰めるほどに強い。敵が可哀想になるほどだった。ああいう人は練度など関係ないのだとわかる。
だが、それは全て天龍さんが関わっているからだ。そこが一番怖い。天龍さんに楯突くものがいれば、味方にでも容赦なく刃を突き付けるだろう。
「あとは、戦艦、空母、雷撃も少し厳しいね。火力が高すぎる」
「魚雷はいいかもしれねぇ。海中の鎖が破壊できりゃいいからな」
「なら雷撃は今度試してみようか。補助が入れば狙いやすくなるかな」
やはり1人助け出すことが出来た事実は大きい。トントン拍子で話が進んでいく。1回の成功で、皆さらにやる気が出ているようだ。このまま全員を救い出し、北端上陸姫を倒したい。
「あ、提督ー! ちょっといいですか!」
会議の場に珍しく明石さんが入ってきた。電さんと深雪さんの入渠が終わったらしい。傷を負っているわけでもなかったため、ただ少し眠っただけとなったそうだ。そして、深雪さんの変化は一緒に出撃した5人しか知らない状態である。
「深雪の件なんですが、やはり入渠でも治りませんでした。その代わり……ですねぇ。まぁこれ見てもらった方が早いので、全員に公表しましょう。電も一緒に」
「そうだね……皆を集めてほしい。これは知っておいた方がいいだろう」
驚きはするが、皆すぐに受け入れるだろう。ただ、深雪さんに関してはどういう反応をするか。会議に参加している姉である吹雪さんも、深雪さんが治らなかったという明石さんの発言にハラハラしていた。
いつものように全員が食堂に集まる。人数も多くなってきたので、会議室よりここの方が集まりやすくなった。深海棲艦組も勢揃い。この状況に一番驚いていたのは、唯一の出向者である長門さんだったりする。
「助けてくれてありがとうございました。暁型駆逐艦4番艦、電です」
まず電さんが皆の前でお礼を言う。この場にいるミナトさんやヒメさんと同じように色が変わり角まで生えてしまった電さんは、登場したときそれなりに驚かれた。逆にヒメさんは親近感が湧くらしく、いつもの人見知りがあまり出ていないように見える。
「もしかして、わたくしのお仲間が増えたのでは」
「春風とはちょっと違うけど、仲間かもね」
私達は春風の存在があるから、電さんが変わり果てた姿で見つかってもこの程度で済んでいる。色が違う艦娘というのが初めてではないことが、電さんにもいい方向に繋がっている。
ここでなら外見がコンプレックスになることはないだろう。能力が変化してても、ここにはオーバースペック組がいるし、何よりその変化内容がほとんど春風と被っている。
「電さん。わたくし、半深海棲艦なのです。似たようなものですね」
「はわ、半深海棲艦……電は深海艦娘ですから、近いのですね。よろしくお願いします」
黒い春風と白い電さん。心の歪みからヒメさん以上に人見知りな春風が、ああもすぐ仲良くなれているのは初めて見る。夕立さんの時よりも早い。むしろ春風から行ったのは本当に初めてのことだ。春風の成長にちょっと泣きそう。
「そろそろ出ていいかー」
「あ、どうぞどうぞ」
電さんよりも深雪さんが皆の前に出た時の方が驚きの声が大きかった。入渠がキッカケとなってたか、髪の白はより拡がっており、左側の3割は白く染まってしまっている。そして左の瞳は真紅。艦娘にも滅多にいない、オッドアイとなっていた。明石さんとセキさんの分析の結果、これ以上の侵食は無いだろうとのこと。
「み、深雪、それ……」
「電を救ったときに鎖を触っちゃってさ。そしたらこうなっちまった」
一番動揺した吹雪さんに対し、何も気にしてないと言わんばかりに軽い受け答え。鎖に触れてはいけない理由が目の前に現れたことで、今回の件がどれほど深刻かが全員に伝わった。
「で、明石君。先程慌てていたのは?」
「そうでした! 深雪はこの侵食の結果、深海艤装が装備できるようになりまして」
「左腕だけだけどなー」
深雪さんの影響は頭の左側と左腕。髪と瞳以外にも、腕の接続に影響が出てしまったようで、艦娘の装備が出来なくなった代わりに深海艤装が装備できるようになっていた。要するに、あの駆逐艦とは思えない出力の駆逐主砲で攻撃できるようになったということ。
右では通常の艤装、左では深海の艤装と使い分けることも可能。単純な戦力としての強化に繋がっていた。
「強くはなれたんだけど、あの海域には行けなくなっちまった。これ以上侵食されたら、あたしもあっち側みたいに洗脳されちまうしな」
「み、深雪はそれで大丈夫なの? お姉ちゃんすごく心配なんだけど!」
「大丈夫大丈夫。むしろ今なら白露とトントンだぜ。深雪改ならぬ深雪
あっけらかんと言うが、自分のことを
「深雪君は待機というわけでなく、他の戦場に向かってもらう。出来ることなら事が落ち着くまでは戦場に出てもらいたくないのだが」
「それは無理な相談だよなぁ。あたしだって艦娘だからさ。貢献させてくれよ」
「そう言われてしまうと、否定ができなくなってしまう。私はどんな事があっても君を信頼しているよ」
「りょーかい。新生深雪様を乞うご期待ってな」
いつものような笑顔。痛々しくも見えたが、本人が全く気にしていないので、これ以上触れるのは良くないと思った。過保護な姉である吹雪さんも、その様子に内心秘めたものがあったとしても心配するのはやめるみたいだ。
実際、これ以上心配すると、傷付くのは深雪さんではなく電さんだ。せっかく艦の時代のトラウマが払拭できているのに、別のことで責任を感じてしまっては元も子もない。吹雪さんにとっては電さんだって義理の妹。可愛くないわけがないのだ。
公表の場が終わり、電さんは鎮守府に一時配属という形となった。今でこそ治す手段がないが、もしかしたら元に戻すことも可能かもしれない。その時のために、今はここにいてもらう事が一番と判断された。
「これからよろしくお願いするのです」
「部屋は用意しておくよ」
「いや、ちょっと待った。少しの間だけ、あたしと相部屋じゃ駄目かな」
電さんの部屋の話になったとき、深雪さんが不思議な提案。相部屋を最初から希望するというのは今までに見た事が無かった。
「あたしが今まで会ってきた電ってさ、あたしと出会うと必ず
「そういう理由があるのなら却下する理由は無いよ。落ち着くまで相部屋を続けてくれればいい。なんならずっとでもいい」
どうしても艦の時代の嫌な思い出が夢に出るそうで、深雪さんと出会うと必ず夜眠れなくなるそうだ。深雪さん自身何度もそれを見てきたらしい。
さらにいえば、この電さんはそれ以上にトラウマが多い。洗脳され、深雪さんに暴言を吐きながら殺そうとした記憶が残ってしまっているのだ。それを慰められるのは他ならぬ深雪さんのみだろう。
「電、深雪で落ち着かないなら私の部屋でもいいから」
「特型長女の私もいるからね!」
「響ちゃん、吹雪ちゃん……! はいっ、よろしくお願いしますっ」
ここには
「この鎮守府はあったかくて素敵なのです。深海棲艦とも仲良くできているし、いろんな人がいて……」
「みんなワケありなんだけどな。協力しないとやっていけないんだ」
「それでも! ここは電の望んでいる世界なのです。 手を取り合って生きていけるなら……これが一番いい形なのです!」
その電さんの言葉に胸を打たれた司令官。感極まって電さんを力強く抱きしめて撫で回す。一時配属といえど、この鎮守府にいるのだから司令官の娘だ。最初からここまで同調してくれる艦娘もなかなかいないだろう。
「電君も私の愛娘だ! 一緒に世界を平和にしよう!」
「は、はわ、はわわわわ……」
「司令官、電がすげぇ困ってるから」
苦笑しながら司令官をどうにか引き剥がす。電さんは目を回してしまっていた。スキンシップも慣れていない相手だとこうなってしまうようだ。私達は慣れすぎているのかも。
深雪壊、髪にメッシュが入り、オッドアイになったというイメージ。外見は仮面ライダーエグゼイドの花家大我みたいなものと思っていただければ。あちらは右側もメッシュありますけど。