電さんが救出できたことで、今後も同じように作戦を立てていくという方針が決まった。私、朝潮もそれに貢献することができて嬉しかった。私の行動予測によりほぼ無傷で救出出来たようなものだったので、今後も役に立てていきたい。
だが、深雪さんが敵地に立てなくなってしまったのは大きかった。次に鎖に触れてしまうと、あちら側に染められてしまう可能性がある。最悪、洗脳からの敵対だ。深雪さんと敵対するのは回避したい。
電さんの配属が決まった翌日、鎖の事実が新たに判明した。深雪さんが握りしめたままだった、鎖の断片から明石さんとセキさんが解析した結果である。
深海艦娘の行動範囲は赤い海から少し離れた程度である。鎖が領海内でのみ機能するからだ。つまり、深海艦娘自体が領海を拡げる行為をすることはおそらくしない。領海を拡げるのは別の深海棲艦にやらせる。それこそ、ウォースパイトさん……戦艦棲姫改のような。
「私の代わりはいるでしょうね。私ほどかはわからないけれど」
「改造ができるのなら、建造もできるだろう。我々の界隈でいう、大型建造で鬼級姫級も生成できるのだと思っている」
私達には縁のない話ではあるが、大和さんや武蔵さんのような強力な艦娘は、通常の建造ではなく大型建造という特殊な建造でなければ生まれることはないそうだ。私が出会った中では、大鳳さんもその一人。今でこそドロップする事象があるものの、しおいさんもそこに含まれていたらしい。
「もしかしたら私もあそこの建造で生まれたのかもしれないわね。まったく覚えていないけれど」
「建造ドック、あったのです。動いているのも見たことがあります。イロハ級はそれで生産されていました」
実際にあの場所にいた記憶が残っている電さんが言うのだから、深海棲艦が鎮守府運営していることは間違いないだろう。こちらと同等の設備を持ち、こちら以上の戦力を量産し続ける。厄介極まりない。
「最終的には陣地そのものを破壊する必要があるだろう。対地攻撃の手段も検討しようか」
「対地攻撃……ですか?」
陸上型の深海棲艦を相手にする際、特別に効果を発揮する攻撃、『特攻』がかかる装備というものが少なからず存在する。
「開発できない装備もあるから、今は手配中なんだ。数日で秋津洲君がいくつか運んできてくれると思う。それまでは深海艦娘の救助を最優先にしよう」
電さんは救出できたが、まだ7人もいるのだ。まずはその7人を救出しなくては。
その日の深夜。私は外の爆音で目が覚めた。鎮守府が揺れるほどの衝撃。地震かと思ったが、外が妙に明るくなったので慌てて飛び起きる。時間は丑三つ時。本来なら夜間任務担当以外は全員眠りについている時間帯。
「な、なに……? すごい音したけど……」
隣で眠る霞も流石に目を覚ました。同時に外がチカッと光り、もう一回爆音。再び鎮守府が揺れた。
起きたその足で部屋から出る。同じことを考える人が多いのか、廊下で顔を合わせることに。寝癖全開の皐月さんが慌ててこっちに駆け寄ってきた。
「朝潮! 窓の外見た!?」
「あれ戦艦の砲撃じゃないですか……?音といい、光り方といい」
「今日の夜間任務に榛名さんもスパさんも入ってなかったよね。じゃあ……敵!?」
こんな真夜中に、こんな近海に敵が来ることなんて今までに無かった。時間は私達が気付かなかっただけかもしれないが、場所は明らかにおかしい。
『緊急連絡! 目を覚ましている者は、目を覚ましていない者を起こして工廠へ避難せよ! 繰り返す!』
司令官の緊急放送が鎮守府内に響き渡った。
今、避難と言った。ということは、鎮守府が攻撃されているということだ。今までは夜間任務の部隊が発見した敵を掃討し、それが難しそうなら追加が呼ばれるという形式を取っていたが、発見したわけでなく明確に攻撃を受けている。近くにいるのではなく、ここに敵が向かってきたということだろう。
「霞! 工廠に行くわよ!」
「わかってる! 姉さん電探!」
着替えている余裕はないが電探だけは念のため装備。妖精さんが眼鏡と一緒にリボンも渡してくれたので、結びながら工廠へと向かった。
工廠には殆どの艦娘が集まっていた。まだ眠そうな人も何人かいるが、放送が切羽詰まっていたので寝たまま過ごそうと思った人はいなかった様子。
ここに来るまでにも何度か鎮守府が揺れる爆音があった。その内の1回は、鎮守府の近くに着弾したのがわかった。
「みんな集まったかい!?」
萩風さんを抱きかかえた司令官が工廠に到着。何が起こっても目を覚ますことがない萩風さんを優先して救助したらしい。今回ばかりは時津風さんもギリギリではあるが目を覚ましている。
「現在、夜間任務部隊が迎撃しているが、深海棲艦から襲撃を受けた! 増員を送る! 向かわないものは避難だ!」
また爆音。今度は工廠の近くに着弾し、大きく揺れた。私も少し足を取られてしまう。
「提督、アンタ怪我してるじゃない!」
「さっき廊下の窓ガラスが割れてしまってね。萩風君を守るために身体を張っただけだよ」
司令官の背中。大きな窓ガラスの破片が刺さっているのが見えた。萩風さんは無傷ということは、割れた瞬間に覆い被さったのだろう。おそらくそれは先程の近くで着弾したときだ。鎮守府が大きく揺れたときにいろいろと割れる音がしたのを覚えている。
何人かの艦娘から弦が切れるような音が聞こえた気がした。
「明石! 艤装を用意しなさい! 私が出るわ!」
「明石さん! 榛名も出ます!」
いの一番に出撃を希望したのは山城さんと榛名さん。その後に那珂ちゃんさんや夜に戦闘できないはずの雲龍さんまで出撃準備。
この4人の共通点は、ケッコンカッコカリの際に手の甲以外にキスを求めた人達である。いろいろと察した。
「朝潮、アンタも準備しなさい! あと霞も!」
「えっ」
「探照灯役と案内役! 最上がいるのはわかってるけど、そこまで向かうのはアンタが頼りなのよ! 戦場で探照灯は切ればいい!」
急に慌ただしくなった。寝巻きである作務衣のまま出撃することになるとは思いも寄らなかった。
「電、あたしらも行こう。気になることがある」
「は、はいなのです。明石さん、電と深雪ちゃんの艤装もお願いしますー!」
深海艦娘組も出撃。いつも見るより、真紅の瞳が爛々と輝いているように見えた。
工廠から出発する前に元深海棲艦組から気配の方向だけ聞き、索敵範囲を最大にしてから出撃。案内役という都合上私が旗艦という立ち位置だが、部隊の人数など関係なしに、出撃したいと言った者が次々と私の後を追ってくる。
夜間任務部隊は最上さんを筆頭に長良さんと古鷹さん、そしてガングートさん。その4人でも苦戦しており、さらに鎮守府自体が攻撃される状況だ。おそらく敵の数が相当多い。
「これ……ヒメの艦載機!」
「陸上型の3人も援護してくれてるのね。急がないと」
戦場へ駆ける中、見覚えのある猫耳のついた艦載機が私達の元へ。索敵範囲にそろそろ入るため、そこまで案内してくれるようだ。夜戦でも艦載機が飛ばせる深海棲艦だからこその行動。
「索敵範囲に入りました! 姫級……さ、3体! 戦艦棲姫1と装甲空母姫2! イロハ級は大量にいます!」
「押し潰そうとしてきてるわけね」
鎮守府への長距離攻撃は戦艦棲姫の仕業だろう。夜だというのに思った以上に正確な射撃をしてきた。もしかしたら改の方もしれない。反応は近いものだ。
「探照灯切ります! そろそろ会敵です!」
ついてくる人達に向けて叫び、霞と同時に探照灯を切る。私は電探の反応があるので問題ないが、霞は闇に包まれることになるため、そこからは手を繋いで目が慣れるのを待つ。
「最上さん!」
「援軍! 助けが来たよ!」
古鷹さんが探照灯を付けていたため、近付けばすぐにわかった。代わりに最上さんは夜だが仮面をした状態。訓練によりマスクをつけた状態でもある程度戦闘ができるようになったため、探照灯ありの戦闘も稀に行なっているようだ。
「朝潮! 探照灯つけていいから!」
「了解! 霞、探照灯再照射!」
仮面を付けているのなら戦場の光は気にならない。最上さんの合図で2人がかりで再度敵を照らす。想定通りの布陣。戦艦棲姫は改でもなく普通の方。精度が高すぎるのが気になったが、今は殲滅を優先。
「スポットライトが当たったね! 那珂ちゃん現場入るよ!
「よっしゃあ! 電、深海艦娘のスペック、見せてやろうぜぇ!」
「は、はい! 電の本気を見るのですっ!」
一番槍でトップスピードの那珂ちゃんさんがイロハ級に突撃。古鷹さんも加えた3人分の光をステージライトに見立て、先頭集団に
「やっぱり、前よりよく見える! 左目だけだけど!」
威力もさる事ながら、精度が段違いに上がっている深雪さん。深海艦娘の侵食を有用に使うために深海艤装で出撃しているが、大幅なスペックアップだ。
電さんもそれに続いて攻撃しているが、深雪さんと同じくらいのスペック。オーバースペックと言っても過言ではない。
「援護するわ。攻撃隊、発艦」
「え、夜にですか!?」
「そのための艦載機は持ってきているわ」
雲龍さんが取り出したのは鬼型の式神。戦艦水鬼との戦闘で使ったミナトさんの艦載機だ。あれなら夜にでも飛ばせる。元々いた陸上型の仲間の艦載機と共に、イロハ級を一網打尽にしていく。
「数が多すぎ! 被弾できないんだからもっと減ってぇ!」
そう言いながらも全部避けている長良さん。味方の艦載機の爆撃すらもすり抜けながら攻撃していた。自分の身を守るために特化した、私以上の行動予測で善戦している。探照灯で照らされた戦場なら不意打ちも無い。
「夜にこの数は初めてだね。楽しくなってきたよ」
「最上さん、割と壊れてますね」
「夜にこんなに人が集まること、なかなか無いからね! ああ楽しい!」
仮面を付けているのに器用に敵を倒していく最上さん。那珂ちゃんさんの撃ち漏らしを悉く撃ち抜いていった。最上さんは天龍さんや深雪さんとは真逆で、テンションが上がれば上がるほど真価を発揮するようだ。
皆の健闘でイロハ級は粗方掃除された。ガングートさんと榛名さんが装甲空母姫を1体ずつ相手し、山城さんが戦艦棲鬼を引きつけている状態。驚くべきことに誰も傷を負っていない。
「死ぬ前に答えなさい。誰にこの場所を聞いたの」
「キイテナドイナイワ。
会話中でも撃ってくるが、もはや当たり前のように素手で払い除ける。
「わかった? この場所が? どうやって?」
「ソレヲオシエルホドオロカデハナイワ!」
自律型艤装で殴りつけてくるが、それすらも払い除ける。軽く払ったように見えたが、艤装の腕が逆方向に曲がっていた。
「うちの提督が怪我したのよ。アンタのせいで。その償いをしてもらうから」
左の拳にキス。このルーティンは本当に全力の一撃だ。今回は演習でなく実戦。手加減も何もない、一直線の暴力。
「人様の
たった一撃。艤装によるガードも貫き、何もかもを破壊して、戦艦棲姫の本体に拳を捩じ込んだ。泊地棲鬼の時よりも酷い、子供にはお見せできないような有様だった。少しの間ハンバーグ食べられないかもしれない。
山城さんの一連の流れを見た電さんが怯えきってしまっていた。深雪さんに抱きついて震えている。初めて見たらああもなる。
「山城さん。提督は榛名の旦那様でもあるので……」
「私の旦那でもあるぞ」
「誰も私だけの人だなんて言ってないでしょうが」
他の2人もエゲツない状況だった。
ガングートさんは血塗れの艤装の腕で死にかけの装甲空母姫の頭を掴み、消滅を待っている状態。艤装は形を成していないほどに破壊されているため、本当に容赦なく殴りつけたのだろう。
榛名さんは煤で汚れている程度だが、先程までの戦場が文字通り火の海になるほど砲撃を叩き込んでいた。海が燃えるなんてなかなかお目にかかれない。
「敵反応全て消えました。戦闘終了です」
「愛の力怖いわ」
霞がボソリと呟いた。司令官の怪我を見て、あの榛名さんですらここまでの荒れた戦闘をやった。愛の力は偉大である。
事後処理をして帰投。最上さん達夜間部隊も、補給のために一時帰投するとのこと。動き回る那珂ちゃんさんはガングートさんが担ぐことで何とか止めている。
「助かったよ。夜にあんな部隊来ること、今まで無かったから」
「全員無傷で良かったです。戦艦棲姫が鎮守府を攻撃してたからでしょうか……」
「そう、それ。ボク達との戦闘中も、あいつだけが無視して遠くに撃ってたんだよ」
戦艦棲姫だけは目的が違ったということだろうか。
確か山城さんとの会話の中で、この場所がわかったと言っていた。ここ最近は哨戒任務でもあまり敵は確認しておらず、変わったことと言えば、北の敵の領海が狭まり、こちらにウォースパイトさんと電さんが配属したことくらい。
「あっ、まさか……」
「何か思い当たる節ある?」
「戦艦棲姫が狙ってたの、鎮守府じゃなくて電さん……!?」
ウォースパイトさんは浄化により艤装も何もかもが艦娘となっているが、電さんは戦ったときのままこちらに配属されている。もしかしたら、電さんの身体の何かが、敵に探知されているのかもしれない。
皆が工廠に集まった後の攻撃で、工廠が揺れたのは電さんが工廠にいたから撃つ場所を工廠に合わせていたから。これなら全て繋がる。
「朝潮、多分それ当たり」
「深雪さん?」
「司令官に頼んで、あたしが旗艦の通信設備借りてったんだ。あたしと電が出撃したら、鎮守府への攻撃が止んだんだと」
電さんが大きく移動を始めたことで、長距離砲撃をやめたと見てもいいだろう。
つまり、電さんがここにいることで、敵は鎮守府の位置がわかるようになったということだ。おそらく先程の敵は北端上陸姫の手の者だとは思うが、本拠地に直接攻め込んでくるなんて思っても見なかった。
今後は鎮守府の防衛にも力を注ぐ必要が出てきた。こんな真夜中にも攻撃してくるとなると、人員確保は必要不可欠だろう。援軍誘致はすぐにでも実行されそうだ。
戦艦棲姫の体力は400。おそらく山城はそこに1600くらいのダメージを叩き込んでいる。ミンチよりも酷い。