欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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待ち侘びた再戦

電さんの首輪から小型の艤装を引き剥がすことで、敵に場所が悟られなくなった。しかし、一度バレてしまっているため、今後も敵からの襲撃はあるだろう。昼夜問わずだ。

そのため、援軍誘致を早めることとなった。その到着が今である。今回は人数が多いので、2回に分けてやってくることになった。そのうちの先発部隊、先頭にいたのは神通さん。

私、朝潮はいつものようにその出迎えに来ていた。司令官とガングートさんも一緒。選定した私達が立ち会うのが妥当という判断。

 

「先発援軍部隊、旗艦神通、並びに随伴6名。今日付で配属させていただきます」

「ありがとう。短い間だがよろしくお願いするよ」

 

神通さんを先頭に、戦艦水鬼との戦いを手伝ってもらった北上さん、大井さん、大鳳さん。私が話をさせてもらった鈴谷さんと熊野さん。蒼龍さんと並び二航戦と呼ばれる飛龍さんの計7人。後発組で駆逐艦と戦艦がやってくるとのこと。

 

「後発組は午後に到着します」

「了解した。全員が集まってから現状を話そう。だがその前に見てもらいたいものもある。電君、深雪君、来てもらえないか」

 

工廠の裏に待機していた電さんが深雪さんに連れられてやってきた。援軍の皆は当然ながら息を呑む。深海棲艦であるなら、あちらの鎮守府にレキさんを連れていった甲斐あり驚くことではなかったが、知っている艦娘が深海棲艦のように変化しているのは見たこともないだろう。

 

「今回の敵の犠牲者だ。こうなっているものがあと7人いることがわかっている」

「これは……何があればこんな姿に」

「敵の姫級がドロップ艦を改造してこの姿にしている。深雪君は救出時の事故でこの姿になってしまった」

 

当の本人達はこの事実を受け入れているので悲壮感も何もない。深雪さんはいつもの調子だし、電さんに至っては、昨日の処置による激痛を乗り越えたことでさらに心を強く持っている笑顔だ。

 

「今回の任務は3つ。拠点防衛、電君のようにされ敵側で活動している艦娘、深海艦娘の救助、敵本拠地の撃破だ。詳細は全員が揃ってからにしよう」

 

ここの鎮守府のやり方を知っていても、今回の状況に関しては言葉も無いようだった。

 

 

 

ここに来るのは初めての鈴谷さん、熊野さん、そして飛龍さんは関係者に引き渡し、残り4人は空き部屋に入ってもらった。部屋数が微妙に少ないことを話すと、北上さんと大井さんは相部屋になるとのこと。おそらく鈴谷さんと熊野さんも相部屋になるのではと話していたので、部屋の数は足りそう。

 

「さて、では天龍さんと決着を付けましょう」

「神通はこっちがメインなんだもんなぁ。喧嘩っ早いったらありゃしない」

 

私達艦娘はこれといった荷物を持たないので、部屋の場所さえわかればすぐに自由時間となる。旗艦である神通さんもそれは変わらない。

 

「天龍さんは今頃ジムだと思うので、私もご一緒しますね」

「お願いします。別に北上さんはついてこなくていいんですよ?」

「えー、つれないこと言うなって。あたしゃ神通がボコられるとこ見たいんだよー」

「勝つ気で来てますから」

 

相変わらずの関係のようだ。大井さんが苦労しているのがわかる。

 

足早にジムへ。神通さんがとにかく速い。どれほどこの時を待っていたのだろうか。

 

「天龍さん、お客様です」

「そろそろ来るんじゃねーかなと思ってたぜ」

 

ジムにはいつも通り白兵戦組が勢ぞろい。龍田さんも大分馴染み、皐月さんとスパーリング中。一番の新人で練度も低いはずなのに、互角どころか皐月さんをいなしているのが恐ろしい。

 

「よし、やるか神通」

「そのためにここに来たんですから」

「いや、そこは援軍のためと言ってくれ」

 

敷波さんから負けず嫌いと聞いており、あちらの鎮守府にお邪魔したときも熱烈なオファーも受け、何かと根に持っていることは理解している。山城さんやガングートさんも部隊が負ける原因となっているので割と敵対視している節も見えた。

 

「天龍ちゃん、この子は?」

「前に合同演習やったときにオレが勝った神通。リベンジに来たんだと」

「ふぅん」

 

皐月さんを一旦休憩させてから天龍さんに問いかける龍田さん。そして、神通さんを値踏みするような視線。外部で天龍さんに関係する艦娘を見るのは初めてのはず。距離感を測っているように見える。

 

「個人演習って形でいいんだよな?」

「はい。前回とは違いますが、似たようなものなので」

 

話はどんどん進んでいくが、私としては龍田さんの動向に気が気でなかった。叢雲さんに突っかかった春風を見ているような不安がよぎっている。それは後ろに立つ北上さんも感じているようだった。さすがの観察力。

 

 

 

天龍さんと神通さんの演習は許可された。あくまでも演習のため、お互いの実力を見せ合うのはいいことであるという判断。あの時から人も増えており、神通さんが初見の人もいる。筆頭は龍田さん。

結果、観客のように人が集まってしまった。私もその一人だが、観察により神通さんのパターンを行動予測に入れる仕事がある。

 

「外の奴と演習なんて久々だな。お前のとき以来だぜ。今回も勝たせてもらうけどな」

「あの頃とは違いますよ。白兵戦に不意を突かれただけですから」

 

神通さんの対応力は私も見ているためわかる。北上さんとの演習(ケンカ)で培われたそれは、おそらくここでも発揮される。知らないものを初めて見ても対応できる人が、すでに知っているものと戦うのだ。天龍さんでも苦戦しそう。

 

「貴女の次は山城さんに挑みます」

「それはやめとけ。マジでやめとけ」

 

演習開始の合図。同時に天龍さんは突撃。神通さんは迎撃。確実に一撃で終わらせるために急所しか狙わない神通さんに対し、砲撃全てを刀で払っていく。ここの白兵戦の人達は敵の弾を避けるということをしない。

 

「まっすぐ……!」

「前は見せてなかったな!」

 

天龍さんは缶とタービンしか積まず、高速移動での接近戦を行う。この速さに関してだけは前回の演習で見せている。

 

「っ……ここ!」

「いい位置狙うなぁおい!」

 

突撃の足元を狙い体勢を崩す。そこまで読んでの急旋回。さらにそこへの砲撃。それは刀で払う。

見ていても何が何やらわからなかった。動きが速すぎる。観察、予測、そういうところから超え、お互い直感から次の行動を決めているような、理解が難しい動き。パターンを入れようにも、私が追いつけない。

 

天龍さんも神通さんも、終始笑顔だった。お互いを認め合った仲だからこそ、戦闘行為自体を楽しんでいた。その笑顔は怖いが。

 

「っ……」

「なっ……」

 

攻防が続く中、天龍さんの刀が神通さんの主砲を弾き飛ばし、同時に放たれた神通さんの砲撃が天龍さんの刀を弾き飛ばす。お互い素手になってしまった。

 

「行かせねぇ!」

 

神通さんは急いで主砲を取りに行こうとするが、天龍さんはあえて神通さんに突っ込み、その腕を取る。

 

「何をっ」

「オレはなぁ、もう刀だけじゃ無ぇんだ!」

 

そのまま投げ飛ばしてしまった。こんなこと深海棲艦には通用しない戦法。深海艦娘を相手にしたときのことを想定した徒手空拳。鎖に触れないように相手の動きを止めようとした時、何が有効かを考えた結果、天龍さんは有り得ない策へと至った。

 

「これ……は……また想定外を……」

 

神通さんの関節を完全に極めていた。山城さんでもやらない接近戦、関節技だった。もうほとんど柔道やレスリングなどの格闘技の域に達している。鎖の位置を想定しているからか、腕だけを極め、動けないように固定していた。

前提条件として、相手が武器を持っていないこと。いくら関節を極めていたとしても、武器を持っていればそのまま撃たれて終わり。だが、これができるようになったことで、鎖を直接破壊できずとも武器を破壊して動きを止めるということが出来るようになった。戦略の幅が広がった。

 

「オレの勝ちでいいか?」

「お断りしたいのはやまやまですが……甘んじて受けましょう。もう次は無いですから」

 

神通さんがギブアップ。さすがにこれ以上極めると入渠が必要なレベルの怪我になってしまう。

演習をじっと見ていた北上さんは唖然としていた。北上さんが知っている天龍さんは刀を使った剣戟による白兵戦。それさえうまく封じれば勝機があると考えていたのだろう。現実はこれである。

 

「ホントめちゃくちゃだよ。艦娘の戦いじゃないじゃん」

「勝ち目、見つかりました?」

「計算全部狂ったっつーの。近寄らせない方法考えなくちゃいけなくなった」

 

もう苦笑するしかないようだ。

 

「ちなみにさ、あの天龍は山城さん相手にどうなの」

「勝てないかと」

 

比べちゃいけない。関節を極めようとした時点で、天龍さんが空を飛んでいるのが頭に浮かぶ。まず触れさせないだろうし。

 

「どうなってんのここの山城さんは。いや、前回見てるんだけどさ」

「先日、大本営直属、元帥閣下の護衛艦娘である武蔵さんと演習をして、一撃で轟沈判定に持っていきましたね。あと戦艦棲姫をパンチ一発でミンチにしてました」

「バケモンじゃん! 勝てるかそんなもん!」

 

お手上げのご様子。正直、山城さんが負けるようならこの鎮守府は終わりな気がする。

だが、次の戦場は山城さんを出撃させることができない。

 

「あ……龍田さんは」

「龍田なら複雑な顔してるねぇ」

 

天龍さんと神通さんの演習を一部始終見届けて、形容できない複雑な表情をしていた。

天龍さんが勝てたことへの喜び、天龍さんが楽しんでいたことへの嫉妬、天龍さんに攻撃をしていた神通さんへの怒り、天龍さんの知らない表情を見せてもらえたことへの感謝、その他諸々。

とはいえ、姉妹間の話に首を突っ込むほど私は偉くないわけで。龍田さんの心の問題が解決できるのは私のような他人ではない。天龍さんにそれとなく伝えておこう。気付いてそうだが。

 

「龍田さんは天龍さんに任せることにします」

「それがいいんじゃないかね。君、ちょっと背負いすぎだと思うよ」

 

そんなことを外の人に言われるとは思っても見なかった。

 

「他に頼んなさいな。あたしゃ知らん。外の人間だから頼られても困る」

「本当によく見てるんですね」

「鎮守府全域を監視してる奴にゃあ言われたくないねぇ」

 

なんだか北上さんとは仲良くできそうな気がする。なんでも駆逐艦嫌いという噂を聞いていたが、以前からそんな感じはしなかった。個体差だろうか。

 

「龍田、次はお前が神通とやりな」

「え、私が?」

「龍田さんも白兵戦……薙刀ですか。変化するのがリーチだけなら対応できます。御相手、願えますか?」

 

天龍さんの指示だから、と龍田さんも武器を片手に演習の場へ。

実際、龍田さんは好都合だと思っているだろう。天龍さんと(ある意味)仲が良く、悪態をつくような相手だ。その実力を吟味し、自分と天龍さんとの間に入り込みそうなら排除する絶好のタイミング。

 

「それじゃあ……お願いね〜」

「よろしくお願いします」

 

開始の合図を待たず、龍田さんの先制。それを見越したかのように薙刀を撃ち抜き、動くことなく攻撃を捌く。天龍さんも大概だと思ったが、神通さんも大概だ。長柄の武器相手に自分の間合いにならずとも攻撃を回避している。相手の間合いで相手を倒す、心を折るような戦い方。

 

「ここの龍田、天龍至上主義なんだっけ」

「そうですね……うちの春風みたいなものです」

「それよか深いでしょ。軸が1本しかない」

 

この演習も天龍さんのためにやっている。自分を支持してくれた天龍さんに恥をかかせないために神通さんに勝とうとしていた。

 

今までの龍田さんの行動は全て根幹に天龍さんがいる。

先日の戦闘の前に私への負担を気遣って電探を装備したように思えたが、あれは天龍さんの考え。天龍さんも私の負担のことを常々気にしてくれていた。それを汲み取っただけ。

電さんとの初戦闘の時、天龍さんの言葉が無ければ、躊躇なく電さんの首を落としていただろう。ほんの少し傷を負ったくらいだったが、それだけの激昂だった。

 

「天龍ちゃんの前で恥はかけないのよ〜」

「そうですか。それは残念です」

「残念?」

「大恥をかくことになりますから」

 

躊躇なく顔に対しての砲撃。薙刀を振った直後を狙ったため、武器で払うことはできない。紙一重のところで躱す。

 

「長柄の弱点は嫌でも大振りになるところでしょうね。そこは天龍さんと違うところでしょう。隙も大きい」

 

躱したタイミングで薙刀を握る手に対して砲撃。天龍さんなら回避できているものが、龍田さんだと回避できない。武器の差、練度の差と考えられるところはいろいろある。

龍田さんの一番良くないところは、北上さんの言う通り天龍さん至上主義であるがゆえに、戦い方すらも真似てしまっているところ。今まではそれで通用したが、格上相手だとこうも差が出る。対策を取られると簡単に瓦解するわけだ。

深海艦娘の叢雲さんの時は煽りに煽って理性的ではなくして結果的に通用したが、次は対策も取られるだろう。向こうもやられるだけではないだろうし。

 

「龍田さん、鍛え甲斐がありますね。次の出撃まで私がみっちり鍛えてあげましょう。天龍さんを超えたいと思いませんか? 貴女なら可能です。無論、私はそれも超えますが」

「もう勝ったつもりで」

「勝っているでしょう。形で見せないといけませんか?」

 

肩を撃ち体勢を崩し、脚を撃ち膝をつかせ、額に銃口を突きつけて敗北を認めさせる。

 

「神通容赦ねぇなぁ」

「貴女はこうなることまで織り込み済みだったでしょう」

「まぁな。龍田は敗北を知る必要があった。お前が適役だったんだよ」

「悪役を押し付けないでください」

 

如何せん、才能がありすぎるせいで龍田さんは今まで負けが無かった。天龍さんとの訓練での敗北は、相手が天龍さんゆえに敗北としてカウントしていないだろう。おそらくある程度戦えるようになってから皐月さんとのスパーリングを始めたのではないか。だから最初から対等以上。

ゆえに、今回の敗北で簡単に折れた。何より、天龍さんの前で負けたことが相当に響いていた。茫然として動けないでいる。

 

「龍田、ちょっと神通に揉んでもらえ。いい経験になる」

「て、天龍ちゃん、私……私……」

「龍田、オレを倒すくらいになれ。()()()()()()

 

天龍さんの応援は俄然心に響くのだろう。それだけで折れた心がすぐさま戻った。たった数秒で元に戻るのはさすがに驚いた。それだけ天龍さんに依存しているということなのかもしれないが。

 

「神通ちゃん、私、やるわ。天龍ちゃんが私に倒してほしいと言ったんだもの。強くならなくちゃ」

「二水戦式の訓練で、すぐに強くなりましょう」

「打倒天龍ちゃんよ〜。見返してあげるんだから」

 

妙な友情が生まれていた。打倒天龍同盟の誕生である。片方は望まれたが故に、片方は負けず嫌いが故に。

これがいい方に転ぶか悪い方に転ぶかは、今はまだわからなかった。




龍田は敗北を知りました。それをバネに立ち上がる力も持っているでしょう。その全ては天龍が根幹ですが。
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