翌日から、警護任務のローテーションを行いながら、援軍の人達との連携や、深海艦娘対策の訓練を始める。そして、数日後に2度目の救出任務に出発することとなった。私、朝潮も救出任務には参加予定である。観察の重要性が認められているのは、私の存在が認められていることと同義なので嬉しい。
こんな戦闘中な鎮守府ではあるものの、本来ここにいない人達と一緒に暮らしているという環境が少し楽しかった。旅行に行ったかのような錯覚。自分達の鎮守府なのに。
いつも通り朝食のために霞と一緒に部屋から出ても、廊下には昨日まではいなかった人を見ることができる。まず1番に出会ったのは敷波さん。髪も結んでない状態を見るのは初めてで新鮮。
「おふぁよぉ〜……」
「おはようございます敷波さん」
「もっとシャンとなさいな」
寝癖もえらいことになっていた。制服もちゃんと着れていないので、道すがらに直してあげる。
「こういう出向は初めてだからなんか楽しいよ……だから昨日妙に眠れなくて……」
「わかりますよ。私もそちらにお邪魔させてもらったとき似たような感覚だったので」
これからの戦いは辛いものが多い。せめてこういう場では楽しめるようにいたい。常在戦場と気を張り詰めているより、身体にも心にも健康的だろう。
「敷波、アンタそんなに朝弱いの?」
「今日だけだから。あたしより朝弱い人いっぱいいるよ。ほら、あれとか」
敷波さんが指差す先。夢うつつな夕立さんがフラフラと歩いている。もはや夢遊病と言ってもいいのではないか。後ろからいろいろと持って器用に夕立さんの身嗜みを整えている時雨さんは素直に凄いと感心した。
「いつもこうなんですか?」
「夕立と江風は朝に弱くてね。江風が心配だよ」
言いながらも髪を梳かしながら着替えまでこなしている。歩いている人を着替えさせるとか、慣れていても難しいだろう。一応ここ廊下なので、当たり前のように夕立さんを脱がすのはどうかと思う。
「ほら夕立、起きなよ。用意終わったよ」
頭を軽く揺すっても未だ夢の世界の夕立さん。と、食堂の近くにまで来て急に目を覚ます。鼻がヒクヒク動いていた。
「いい匂いっぽい! 朝ごはん何?」
「今日の当番は古鷹さんと高雄さんですね。焼き魚とお味噌汁かと」
「ここは艦娘が食事を作るのかい?」
「給糧艦いませんから。私や霞も作りますよ?」
そのおかげか、料理のスキルは緩やかにだが上がっている。手の込んだものは作れないが、簡単な朝食程度なら出来るようになった。
艦娘にそんなスキルはいらないという人もいるだろう。だが、司令官は戦後のことも考えて私達に家事をやらせてくれている。戦闘だけではなく、人間として出来ることをこの場で全て学んでいる。
「え、霞料理できんの!?」
「ある程度はね。ここで出来ないと全員に迷惑かかるわ」
最初は大変だったというのは霞の名誉のためにも黙っておこう。玉子がまともに割れなかったのは私も同じだし。
午前中から演習による連携訓練。私は全員と連携が出来なくてはいけないので、その演習を常に観察し続けることになる。たまに参加もするが、私は救出することも出来ないようなものなので、基本的には相方任せ。
「どうよ朝潮、援軍の奴らは」
演習を眺めているところに天龍さんがやってきた。山城さんとガングートさんが防衛線警護に、龍田さんは神通さんにみっちり稽古され、皐月さんは連携訓練の真っ最中。天龍さん以外は出払っているようなもの。少し暇になったらしい。
「やっぱり強いですね。夕立さんに至ってはもう深海艦娘に対応しました」
「さすがソロモンの悪夢。オレと春風と戦艦棲姫やったときにも即座に対応したぜ。戦いやすかったもんだ」
選定した駆逐艦ではトップの実力であろう夕立さんは、すでに戦闘に対応。連携も始めており、今は白露さんとの連携が完璧と言ってもいいほどに上手い。さすがは姉妹である。そこに時雨さんを加えた白露型の
「あとは長波さんが凄いですよ。駆逐艦の誰とでも相性がいいです。まさか皐月さんとの連携が即座に出来るとは思いませんでした」
「白兵戦と連携できるのは逸材だな」
「吹雪さんに近いと思いましたね。吹雪さんも誰とでも組める人ですし」
皐月さんは鎖破壊に最も適しているであろう駆逐艦。砲撃より刀による切断の方が確実性がある。天龍型姉妹も勿論だが、小回りが利き、駆逐艦との連携がしやすい皐月さんは当然ながら今回の要の1人だ。
そこに合わせることができる長波さんは、誰とでも連携ができると言ってもいい。
「そちらはどうです? 龍田さん、今神通さんにマンツーマン指導を受けてるんですよね」
「ああ、神通が乗り気なんだよ。チラッと見に行ったが、龍田が倒れてるところ見たのはあれが初めてだったな」
さすが二水戦式訓練。他人に弱みを見せない龍田さんが、そこまで無防備な姿を見せるとは。
休憩として演習の反応から少し目を離し、2人の反応を追ってみた。今でも一緒にいるのはわかるが、反応がぶつかり合ったり離れたり、追いかけ回したり迎え撃ったり。ただただ喧嘩をしているようにも見えてヒヤヒヤする。
「龍田は強くなったかな。オレを倒すくらい強くなれって言っといたが」
「龍田さんだとそれを変に受け取って、手段問わず天龍さんのことを殺しに来るような気がして……」
「まさかお前、それは無いだろ。いくら龍田でもそこまで」
龍田さんの動きが変化した。神通さんと共にこちらの方面に動き出す。その動きは比較的軽やか。天龍さんが何処にいるかわからないので、フラフラ歩き回りながらここに辿り着く。
「天龍ちゃ〜ん、ちょっといいかしら〜」
「おう、どうした? 神通に鍛えられてるんじゃないのかよ」
「実戦です。一度天龍さんにぶつけてみます」
にこやかな龍田さん。たった半日程度の訓練だが、成長を感じられる濃厚な時間だったようだ。昨日の最後とは打って変わって自信満々な表情。挫折を知ったことで龍田さんの中で何か変わったようにも見える。
「へぇ、じゃあ……本気でやってやるよ」
「天龍ちゃんの本気……というか今までは手加減してたの?」
「当たり前だろうが。せめて改二になってからだっつーの」
天龍型姉妹の戦いというのは、実は見たことがなかった。皐月さん曰く、スパーリング的なことはしているようだが、それはジムの簡易リングでのこと。今の言い分から龍田さんは本気でも天龍さんは流しているらしい。
「なになに、天さんと龍田さんの演習?」
2人の戦いの匂いを嗅ぎつけ、皐月さんが私の下へ。龍田さんに即座に追いつかれてしまい、これ以上差ができないようにと訓練に力を入れている皐月さん。龍田さんの弱点を知るためにもこの演習は見ておきたいとのこと。
「白兵戦同士の戦闘って、ほとんど見たことが無いです」
「めちゃくちゃハードだよ。砲撃が無い分、ただの喧嘩だもん」
特に山城さんとガングートさんの本気の演習は怖いらしい。あの時の北方水姫との戦闘を思い出してしまうほどだとか。
「一旦、天龍さんを客観的に見たいんです」
「そういうことかよ。じゃあ、好きなだけ見とけ。それでも簡単には負けねぇ」
話しながらも準備をしていく。元より天龍さんも龍田さんもダミーのペイント弾やらは必要ない。今持っているのは最初から模擬刀だ。ただ向き合い、程よい間合いを取る。これだけで準備は万端。
「じゃあ、行くぜ?」
「どうぞ〜」
先制は天龍さん。龍田さんは迎え撃つ形。今までと少し雰囲気が違う。自分から攻めようとは絶対にしない。天龍さんの戦い方を観察している。
演習は壮絶を極めた。が、基本的には天龍さんが一方的に龍田さんを攻撃するだけだった。
本気の天龍さんは、龍田さんに一切の攻撃を許さなかった。攻撃は最大の防御と言わんばかりに何もさせていない。攻撃が出来る隙をわざと作っているようにも見えたが、そこで攻撃したら手痛い反撃を受けることを龍田さんも察したのだろう、そのタイミングでは攻撃できない。
「すごいなぁやっぱり。天さんの技術、見て盗まないと」
「龍田さんもすごいですね。あれを全部防ぐんですか」
同じく刀を使う皐月さんも、この訓練は学べる要素の宝庫である。私にはわからないテクニックがいくつもあるのだろう。龍田さんも防御に特化しているのではと思えるほどに防ぐ。致命打は全て確実に回避。
「神通いい仕事してんなぁ。龍田、お前その方向性いいぞ」
「褒められると嬉しいわ〜。私の戦術は神通ちゃんに
天龍さんは『勝つための戦術』である。まっすぐ攻め込み、先んじて一撃を入れる。相手に何もさせない。龍田さんも今までその戦術を覚えようとしていた。理由は勿論、天龍さんの戦術だから。
だが、今の龍田さんは『負けない戦術』を取っている。相手の攻撃を全ていなし、隙を一切作らない。ほんの一瞬のタイミングを待ち続ける戦い方。神通さんの訓練で、猛攻から身を守り続けることで戦術が
「あの姉妹は似ているようで正反対ですよ。だからそのように鍛えただけです」
その龍田さん相手に天龍さんがどういう攻撃をするかをジッと見続ける神通さん。私も同じように観察。龍田さんのクセが完全に書き換わっているので、情報を更新しなくてはいけない。
神通さんの訓練により変化した戦闘スタイルは、龍田さんに合っているようだ。慎重だが隙を見逃さない。それが作られた隙なら攻撃もしない。急がない、少しのんびりとした戦闘。それに相手を巻き込む。
天龍さんが剛なら龍田さんは柔。確かに正反対だ。
「よく見えてるじゃねぇか」
「おかげさまで。目だけは良くなったわ〜」
「じゃあこれで終いだ!」
ガードを突き崩すための最後の一撃。龍田さんもしっかりとそれを受け止める。が、受け方が悪かった。
天龍さんの刀と、龍田さんの薙刀が、同時に砕けてしまった。
お互い模擬刀故に強度は実物よりも段違いに弱い。今までもずっと訓練に使っており、劣化が激しかったようだ。龍田さんは神通さんの訓練のせいか、短時間で大分酷使されている。
「うおっ……こいつは引き分けだな」
「そうね〜、これ以上は出来ないわ〜」
言いながらもお互い嬉しそうだった。特に龍田さん。ある意味目標が達成できたようなものである。龍田さんは負けていない。天龍さんは
「自分のスタイルが見つかったじゃねーか。龍田、もうオレを超えたようなもんだぜ」
「ちゃんと天龍ちゃんに土をつけないといけないのだけどね〜」
「まだまだ負けてやんねぇよ」
この姉妹はこうやって絆を深めていくみたいだ。危なっかしい反面、切っても離れないくらいの親愛度。お互いがお互いを考えているからこそ、これで成り立っている。
「んじゃあ、武器を直してくるぜ」
「このままじゃ訓練できないものね〜」
2人は武器を直すために工廠へ向かった。神通さんは見たいものが見れたようで、今度は連携訓練の方へ。深海艦娘との戦闘は未だ経験無しのため、ここで知っておこうという算段。今度は電さんが標的にされた。私には止められない。
「ボクも頑張らないと……!」
「皐月さんも頑張って天龍さんを超えましょう」
「勿論! 天さんに力じゃ勝てないから、もっと速く、鋭く!」
皐月さんも方向性は見えている。龍田さんが短時間であそこまで強くなったのだから、皐月さんも神通さんに教えを請うかもしれない。
天龍型は2人とも押せ押せなイメージが強いのですが、龍田は相手が一番攻撃されたくないタイミングを見計らって攻撃をするようないやらしさも兼ね備えていそうで。そう考えると天龍よりも上手なのかなと。