第1話
ー 日本 ー
とある別荘にて
オギャァ オギャァ
薄暗い部屋の中から、赤ん坊の鳴く声が聞こえる。所謂夜泣きというものだろう。しかし、聞こえるのは赤ん坊の声だけではない。
ドガァッンッ バゴォッ ガッシャァァァァン
といった、壁に物がめり込む様な重い音やガラスが砕け散る様な音が響く……パチッという音が鳴る。部屋が明るくなり、部屋の状態が映し出された。
窓ガラスは割れ、タンスは壁にめり込み、しまいには粉々になった家具が散乱している。そして、その部屋の中央には火のついた様に泣く赤ん坊が居た。
この未曾有の状況の中、部屋の電気をつけた男。風祭 真は、赤ん坊に近づきながらぼやく。
「……いい加減泣き止んでくれ…一体何が気にくわないんだ…『新』?」
真は泣いている赤ん坊を抱きかかえると、涙でぐしゃぐしゃになっている顔を優しく撫でる。真に抱きかかえられると赤ん坊は、次第に落ち着いていき、少し経つと眠った。
(…これが世に言う夜泣きと言うやつか、
今日もうこれで3回目だ。しかも、今回はサイコキネシスまで…頼む次こそは、泣かないでくれぇ…)
そう、真は自身の手の中で眠る赤ん坊に祈った。
赤ん坊の名は、風祭 新。
真と愛の結晶である。
新が寝たことを確認し、俺は、部屋の中央にある揺りかごに新を移す。そして、部屋から出て作業に戻ろうと思った。が、そこで足を止める。
(まさか、新のやつ…俺が側にいないことを分かって… そうか、これが資料にあった『呼応反応』の一種なのか。)
流石に、1日に3回も同じ目に合えば、この様に考えてもおかしくはない。いや寧ろ、少し考えれば必然的に分かる事だった。
(直接、『呼応反応』で呼べばすぐにわかったのだがなぁ…)
新は、俺…つまり、
『呼応反応』というものを簡単に説明すると、第3の目というものを持つ俺たちが、全感覚を互いに送受信し合うことができる能力である。
ざっくりといえばテレパシーだ。
しかし、新の場合、これらをうまく扱えていない。その為、新のは代わりに、赤子の象徴である 泣く という方法を使ったのだろう。
だが、泣いても俺が一向に来ない為、サイコキネシスで部屋をめちゃくちゃにし、俺を呼んだというわけだ。
(ぬう。もし次、俺が離れればこの部屋が崩壊しかねん。となると、作業は一旦中止せざる得ないか…まぁ仕方がない今日は休むとしよう。)
困った息子だなぁと思いつつ、散乱した家具の残骸を退け、なんとか寝るスペースを作る。
そっと横になり、意識が段々と遠くなっていく。その時、突然 キィン…という音が頭に響いた。
ー はな…で…ね…おと…さん… ー
途切れ途切れの言葉が聞こえ、即座にその言葉の意味を理解した俺は、新のゆりかごを引き寄せる。
「 ああ、離れるもんか。お前は俺が守る。
だから、安心して眠りなさい。」
そして、新のふにふにとした腕をそっと握り
朦朧とした意識の中でも、その言葉をはっきりと伝える。
安心したのか、新の顔が少し緩む。新へ優しい眼差しを向けながら、俺の意識は深く落ちていった……
同刻
ー アメリカ ー
CIAのオフィスルーム
カタッ カタカタッ タンッ タッタン!!
オフィスに軽いリズムでキーボードを叩く女がいた。しかしその女は、所々に包帯を巻き頰には大きな絆創膏まで付けており、オフィスという場所に少し不釣り合いな風貌だ。
ガァー、ガァー
隣のプリンターから一枚の紙が出てくる。
そこにはこう書かれていた。
TOP SECRET
TARGET
CHORD NAME
「 MASKED RYDER 」
…ISS壊滅と、風祭 真の脱走から、約1年の歳月が経った現在。ここ、CIAのオフィスの一角では、これの対応に追われていた。
「 はぁ、まさか…仕留め損なってたとはね。まさに怪物…いえ、兵器になり変ったのね…真。 」
女はため息を吐きそうぼやく。女の名はセーラ・深町。
財団を追うCIAの諜報活動員である。彼女は1年前まで、CIAのコマンドチーム指揮官であった。しかし、今はこのオフィスフロアの一角で今のような、事務作業(報告書作成)に専念している。なぜなら、本部の命令により、現場から離脱を命じられ指揮官も辞任させられた。
そう、左遷だ。
理由は、1年前の任務の失敗にあった。
ISSの壊滅と、改造兵士の処理及びデータの奪取が目的だった。
そのうちの2つの項目、ISSの壊滅とデータの奪取には成功した。ただ、前者に関しては犠牲者が多く出てしまい、本部から苦情ともとれる報告を受けた。
まぁ、コレについては人員増員を怠った本部にも非があるとして、あちらもそこまで強くは言ってはこなかった。
しかし、左遷させられた一番の理由は、改造兵士の処理…風祭 真の抹殺失敗についてだ。あの時、ISSのヘリに飛びついた風祭 真を、ロケットランチャーで撃ち落としたまでは良かった。が、その後の調査で彼の死体が発見されなず、さらに調査を進めると、彼が生きている可能性が浮上。決定打だったのは逃走経路に使われたと思われるISSの地下道で、彼の足跡が発見され事だろう。
ー 改造兵士が生きている ー
この事実に、今、CIAをはじめとした財団を調査していた組織が、血眼になりながら彼を捜している。
「 真…貴方は一体、この状況の中どう生きるのかしらね… あら?」
私は、不意に窓に張り付いているものものに目を見張った。
それは、飛蝗だった。その飛蝗はまるで、こちらを覗き見ている様だった。
その目は、あの時の………真の目に似ていた。
ガァッン
その目に少し苛立った私は、窓を思い切り叩く。その飛蝗は衝撃に驚いたのかポロっと落ちた。あまりにも呆気なく、下のごちゃごちゃした人混みの中へと…窓から落ちていった。
その様は、1年前の彼、そして、今の私に似ていた。
「皮肉ね… 本当に…」
あの時…そう、1年前、最後に真に会った時。私は、無機質そうに見えるあの赤い目の奥にあるものを見た。それは、苦しみの絶望の中で『生きる』ということを諦めない意志。
私は、あの時の彼の目を忘れる事が出来ない。
直後、
ピーッ ガァー ガァー
本部からFAXが送られてきた。
新な任務だろうか…私はもう用済みなはず…だが、送られてきたFAXにはこう書かれていた。
TOP SECRET
ANTI "MASKED RYDER " COMMAND
COMMANDING OFFICER
NAME
Sara Fukamti…
「 なッッ!!」
辞令書の内容を読み驚愕した。
それと同時に、少し口角が上がっていく。
なるほど、左遷した私を呼び戻すとは、本部も随分と手をこまねいているらしい…
「 真…いえ、MASKED RYDER。貴方に引導を渡すのは私よ…そうでもしなければ、私は、あの哀しみに溢れた目を忘れる事はできない…」
私は、辞令書を握る。
力が入りすぎたのかクシャっと音を立て紙が寄れる。
( 次こそは、必ず…… )
飛蝗が落ちていった窓を見つめながら、私は、1年前のターゲット 風祭 真 への執着心を燃やす。
そして、窓にうっすらと映る私の目は、情を捨て、ターゲットを追い続ける1年前の頃に戻っていた。
比喩表現への補足。
セーラの言った皮肉とは、
飛蝗が落ちていく様→左遷させられ指揮官の地位を失った自身。
飛蝗が人混みに落ちていく→未だ見つからない真
という事です。
分かりずらかった方申し訳ありません。