展開、球磨の性格が共にクソい
最近ちょっと調子に乗った言動の目立つツインテの口から語られたのは、中々に衝撃の事実だった。
「さ、サルベージ?」
「そ、そんなっ! そんなの聞いた事ないクマ!」
なんと。
先程の怪しいコトこの上ない建造は、普通の新規建造では無くて、サルベージ、と言うものだったらしい。
なんでも、一度沈んだ
「ぼでぃをけんぞうしたのはうそじゃないです」
頭を俺に鷲掴みにされたまま、まだ苦しい言い逃れを試みるツインテ。
お前俺がちょっと感心してたら……いっつもそうだなお前!
ちょっとくらい最後まで感心させてくれよ!
「じゃあ……それじゃあ、球磨は本当に、一度は沈んだクマね……確かに、覚えてるクマ。と言うか――」
いつの間にか白っぽくなった髪が元の色に戻っている球磨ちゃんが、何かに気づいたように、バッ、と絶賛吊り下げられ中のツインテを指差した。
「そっ、その妖精さん、なんか見覚えがあるクマっ! 海の底から、な、なんだか
ワナワナと震えながら、長~いアホ毛を荒ぶらせる球磨ちゃん。
「…………との証言があるわけだけど。お前、まだなんか黙ってるコトがあるんじゃないか?」
そう言って、じぃーー……っと睨んでみると、ツインテはしらばっくれるような顔で目を反らす。
その
……そう言えば。
「……なぁ、ツインテ。お前、建造するとき他にも候補を上げてたな。あの子達もひょっとして……」
そう言って、チラッと球磨ちゃんを見る。
建造直後の取り乱し方といい、球磨ちゃんのコレまでの言動といい、なんかスゲェ嫌ぁな予感がする。
具体的に言うと……この球磨って艦娘、最近どっかの戦いで
球磨ちゃんは、真剣な顔でツインテ妖精を見つめていた。
「…………詳しく聞かせるクマ」
@@@@@@@@@@
セーラー妖精さんが持ってきてくれた海水入りのバケツに片手を突っ込んで、ツインテ妖精さんが一人ずつ名前を上げてゆく。
新しい名前が告げられる度に、球磨ちゃんの顔色は目に見えて悪くなっていった。
「いすず…………しまかぜ」
「そんなに、たくさん……! …………何が……いったい何があったクマ……五十鈴も島風も、トラックにいたはずクマ……っ!」
ツインテ妖精が、これでぜんぶです、と言ったとたん、崩れるようにうつむいた球磨ちゃん。
髪も肌もすっかり白くなってしまい、セーラー服は真っ黒だ。
白球磨ちゃん……とか言う空気じゃないってコトくらい、コミュ障の俺でも分かる。
しばらくはそっとしといた方がイイかな? イイよね?
俺はそっと立ち上がり、絶対邪魔するであろう妖精さん達をまとめて抱え、「お、俺、ちょっとお茶入れてくるわ……」とうなだれる球磨ちゃんに背を向け――――
「待つクマ゛」
「ふげっ!?」
ズボンの裾を両手で掴まれ、地面に激突した。
妖精さん達は素早く腕の中から飛び降りて無事だ。
お前ら……。
「な……なんスか、球磨さん……?」
「
うわぁ、顔ぐっちゃぐちゃ……涙と鼻水でエラいコトに……。
俺はたじたじになりながら、仕方なくリュックからポケットティッシュを取り出し、泣きべそ球磨ちゃんに渡してやる。
なんかちょっと湿ってるけどその様子なら関係ないだろ。
球磨ちゃんは、「あ゛りがどクマ……」と言って、一袋使いきる勢いで鼻をかみ、涙を拭ってゆく。
あー……あー……ティッシュもあんまり持ってきてないから……あー……。
見れば、ひとしきり涙を流して多少は落ち着いたようだ。
目元も鼻もまだ赤く、潤んではいるが、服の色や顔色は戻った。
髪はシュンとしたアホ毛までまだ白い……なんかお湯につけると色が変わるオモチャみたいだな艦娘って。
フシギ。
「グスッ…………みっともない所を見せたクマ……」
「ああ……いや、うん、ゴメンねなんか……」
「…………? なんで提督が謝るクマ?」
いや、目の前で突然美少女にガン泣きされてみろよ、超困る。
俺がそんなイケメン的経験値
見えねぇよな?
うるせぇ!
「へたれ」
「ちきん」
「どーてー♪」
俺が最後の一匹を思い切り外に放り投げていると、目元をゴシゴシと拭った球磨ちゃんが真剣な表情で見上げてきた。
自然と背筋が伸びる。
「む、ムシのいい話なのは分かってるクマ…………でも、もし……もし沈んだ仲間も、球磨みたいに助けられるなら…………て、提督さん、お願いだクマ! 何でもするクマ! 資材も、絶対いつか返すクマ! だから……だからどうか、他の子達もサルベージして欲しいクマっ!!」
叫ぶように、そう言い切った。
蒼い炎の燃える瞳には、悲壮なまでの覚悟が見てとれる。
…………それだけに。
「お願いクマっ!! お願いくっ……マ…………どうしたクマ? な、なんかスゴい汗クマよ……?」
「……言いにくいんだけど……」
「……っ! わ、分かってるクマ! 建造に掛かる莫大な資材も、手間も、時間も、費用も…………でもっ……!」
「あ、ああ、うん。いや、俺もね? そうしてあげたいのは山々なんだけど……その、し、資材が……」
冷や汗をだらだら流しながら、しどろもどろに事情を説明しようとする俺に、球磨ちゃんが掴みかからんばかりに迫ってくる。
「く、球磨が集めるクマ! 球磨の所の提督も……他の鎮守府も、絶対に説得するクマ! 危険な遠征だっていくらでもこなして見せるクマっ!! 補給さえして貰えれば、今直ぐにだって……っ!」
アカン。
ギブ。
無理、俺にはムリ、言えない。
こ、こんな必死に仲間のために頑張ろうとしてる美少女に、そんな残酷な事実を突きつけるなんて……!
チラッ、と、妖精さんズを見る。
「いいはなしだなー」
「なけるです」
「つづきがきになる」
「えいがかけってい」
なんかミニサイズのミカン箱に腰かけて、シマシマの紙コップからポリポリとお菓子を食べつつ目元をハンカチで拭っていた。
完全に
つ、使えん……と言うか、勝手に柿ピー出したなコイツら……!
いつの間にか頭の定位置に収まっているツインテのほっぺをつついてみる。
ぷひゅー♪ と空気を吹き出す。
うん、お前には期待してなかったよ。
腹を決める。
「……球磨ちゃん?」
「! は、はいクマッ!」
「無いんです」
はっきりとそう言う。
「な、無い……? だ、だから、そこをなんと――――」
「ホントに何にも無いんです」
気分は、『無』だ。
コンビニの夜勤で、半袖なのにイカした長袖模様が見える、明らかに不機嫌なイカついドライバーさんに、「貴方のおっしゃるタバコの銘柄、最近取り扱いをやめました♡」、と告げる時がごとき、完全なる無我の境地。
俺の、およそ感情というものの見られないコンビニスマイルに、球磨ちゃんも何か違和感を感じたらしい。
興奮で赤らんだ顔に、やや戸惑いの色が混じる。
「な、何も……クマ……?」
「本当に何にも無いんです」
重ねて、淡々と告げる。
「球磨ちゃんの建造に、なけなしの資材を全部使っちゃいました。もう、燃料の一滴すら残ってないです」
一秒。
二秒。
俺の言葉を理解するのに時間がかかっているらしい。
興奮で赤く紅潮していた顔は次第に白くなり、次にだんだん青くなって、最後にまた赤くなった。
せっかく戻ってきた髪はまたも真っ白である。
あ、なんかワナワナ震え始めた。
「………………ク」
「く?」
俺は次に何が起こるかを大体察しつつ、コテッ、と首をかしげた。
妖精さんズが一斉に耳をふさぐ。
「クマ~~~~~~ッッッ!!!」
ガランとしたワスレナ鎮守府に、艦娘の超かわいい悲鳴が響き渡った。
@@@@@@@@@@
「自称って、どういうことクマっ!!」
「ハイ。スミマセン」
俺は司令室の冷たい床に正座させられていた。
妖精さんズも連帯責任だ。
横一列に行儀良く並んで、短い足で一緒に正座させている。
あの後、それはもう凄い勢いで掴みかかってきた球磨ちゃんの圧力に負けて、俺はこの鎮守府(笑)で自称提督を始めるに至った
だって球磨ちゃん、
やっぱコイツ球磨じゃなくて熊だよ白熊だ。
艦娘怖い。
「い、いくら平和のために居ても立ってもいられなかったとは言え……艦娘の護衛も付けずに一人で海に出て、漂流して、漂着した無人島で勝手に鎮守府開発って……!!」
おおう……改めて他人の口から聞くと、凄まじいな。
そんな考え無しのバカが本当に実在するのだろうか?
はい、私です。
さすがにハーレム云々については言ってない。
俺の溢れる正義感の暴走という事にしておいた。
すっとこツインテは妖精さんハーレムを作るためとかややこしいウソを口走りやがっていたので、物理的に口をふさいである。
まあ、ミカン箱の上でワナワナと震えながら湯気を吹いている球磨ちゃんを見るに、あんまり意味はなさそうだけどな!
「やっ、やるコトが無茶苦茶過ぎるクマっ!!」
「おっしゃる通りでゴザイマス」
ビシッ! と突きつけられた指(とアホ毛)に、俺はイタズラがバレた小学生のごとき従順さで素直に頭を垂れる。
ほらっ、妖精さん達も頭を下げなさい!
「ちっ、はんせいしてまーす」
「いっしょうやりませーん」
「あ、きいてなかった」
「なんもかんもせいじがわるい」
「せきにんのいったんはくまにある」
「あ゛あ゛っ!?」
「こっ、コラッ!? す、スミマセン、ウチの子が失礼な事を……ちゃ、ちゃんと言って聞かせますから……!!」
反省ごっこに飽きたのか、今度は非行に走る若者みたいな反抗を始めた妖精さん達を、慌てて後ろに隠す。
サングラスなんか出して、今時そんな『けんかじょうとう』ハチマキ流行んねーよ……あ、コラッ、妖精さんがそんな下品なハンドサインしちゃダメっ!
「お前が一番問題クマ、この提督モドキ」
「はぁうっ!? ご、ゴメンナサっ!?」
さりげなくすべての罪を妖精さん達に着せようとした俺に、球磨ちゃんの鼻水ティッシュが、ベチャッ、と直撃する。
スナップが効いた良い
きちゃない……。
「はぁ…………なんかどっと疲れたクマ。とにかく、球磨の艤装を確認したいクマ。建造した時、少し位は給油されてるはずクマ…………工廠はどこクマ?」
「ハイ、あっちです」
「案内するクマ」
「ハイ」
俺はしびれる脚に鞭打ってノロノロと立ち上がると、ミカン箱からピョン、と飛び降りた球磨ちゃんさんを先導して、コウショウへ向かった。
妖精さんズ、今はちょっと脚にペチペチすんのヤメロ。
俺に効く。
「一つだけ…………」
「ん?」
後ろから、ボソッと呟く声に、振り返らずに返事をする。
「……球磨を、助けてくれたのは…………ホントに感謝してるクマ」
…………。
…………そういうの、困る。
振り返らなくて良かった。