展開、球磨の性格が共にクソい
さて、さながら処刑台に
まあ、そりゃそうだよな。
俺も最初見た時の疲労感ったらなかったもん。
まず司令室を出た所から球磨ちゃんの試練が始まる。
重い扉をよっこいせと開いて、妖精さん達をくっ付けたままずんずん先に行こうとした所で、俺は球磨ちゃんが後をついてきていない事に気が付いた。
「…………? あれ、どうしたの?」
肩の上の妖精さんを払い落として振り返る。
「……ここは鎮守府じゃなかったクマ?」
どこか呆然とした顔で、扉の間に立った球磨ちゃんが言う。
「え?」
「え? じゃないクマっ! どっ、どういう事クマ! ホントに深海棲艦の襲撃でも受けたクマっ!?」
球磨ちゃんがバタバタとせわしなく振り回す指先に目をやる。
もれなく割れた窓、
崩れた壁、
倒壊した床、
吹きだまった砂……。
……あー……、
「…………歴史を感じるよね?」
「最早遺跡の域クマっ!!」
あ、俺の最初の感想と同じだ。
そういや眠ったまんまで司令室まで運び込んじゃったから、この鎮守府跡の状況を見るのは今が初めてなのか。
一応さっき事情を説明した時に、無人島の廃墟を鎮守府として復興させようとしてるんです、とは言ったけど、そうか、『廃墟』のレベルをあの司令室基準で考えてたのか。
はは、やべぇ。
「…………うん、じゃあ、こっちだから……あ、階段所々崩れてるから落っこちないでね?」
……怒るスキも与えないくらいに畳みかけて誤魔化そう。
俺はコンマ数秒でそう決意し、スタスタと先へ進んだ。
「ま、待つクマっ……それが庁舎の中で使うセリフクマか……?」
庁舎二階の廊下から、大海原が百八十度の大パノラマで眺められる事に戦慄していた球磨ちゃんが、慌てて後をついてくる。
「はーい、出口はコッチデスヨー」
「…………床が無いクマ。壁もないクマ。ドアも窓もないクマ」
さっきから球磨ちゃんが小声でブツブツ呟いてるのがメッチャ怖い帰りたい。
「……あ、天井も無かったクマ……」
「ほ、ほらほらっ! コウショウはあっちだから、さっさと行きましょさっさと!」
その後、
「………………このレンガの山は何クマ?」
「な、何かなー? 妖精さんの遊び場かなー?」
「しゅくしゃです」
「さんかいだて」
「かぜとおしのよいちんじゅふ」
「その雨風を防ぐための建物じゃないクマ……?」
坂を下り、
「………………草むらクマ」
「ハハハ、何で鎮守府にこんな空き地があるのカナー?」
「ここはぐらうんどです」
「かくれんぼにさいてき」
「あそぼー♪」
「なんでグラウンドでかくれんぼができるクマ」
崩れて苔むした埠頭を歩いて、
「……………………骨……」
「その……えっと……」
「そうこです」
「からっぽになってはやすうじゅうねん」
「りっぱなあすれちっくになりました」
「…………」
ようやくコウショウにたどり着いたのだった。
「あ、ここです……ここがコウショウね」
「……入りたくなくなってきたクマ」
見れば、すっかり白くなってしまった球磨ちゃんが、虚ろな目で暗いコウショウの入り口を遠巻きに見ている。
一流鎮守府出の艦娘にはちょ~っと刺激が強すぎたらしい。
アホ毛までシュンと垂れ下がった球磨ちゃんを、妖精さん達がのんきに励ましている。
「たのしい?」
「じまんのちんじゅふです」
「こうえいにおもうです」
「うごけー♪」
「コラッ、やめなさい! ささ、どうぞどうぞ、中にお入り下さいな……ダイジョーブ大丈夫、ホントココはまだ大分マシな方だから!」
球磨ちゃんの頭に乗っかってアホ毛を引っ張り始めた妖精さんを引き剥がして、割と本気で中に入りたくなさそうな球磨ちゃんを促す。
こうなったらショックな事はまとめて処理しておいた方がイイだろう。
イヤな事は早めに済ますに限る。
「……ホントクマ? ウソだったら怒るクマよ……?」
虚ろな目で俺を見てくる白球磨ちゃん。
そ、そんな目で見ないで……俺だって昨日来たばっかりなんだよ……!
チラッと足元を見る。
コウショウに先に向かわせて、取り敢えずの体裁だけ整えておくように言っておいたお下げ妖精さんが、ぐっ、と指を立てている。
お前、信じるからな……!
「だ、ダイジョーブ……うん、多分」
自信満々のお下げ妖精さんに若干の不安を感じつつ、球磨ちゃんを引き連れてコウショウの中に入ってゆく。
そこには、先程の建造で殆どのガラクタを放り込んでしまったために、最初来た時よりもかなりガランとしたコウショウがあった。
「…………思ってたよりマシクマ……これでマシって言うのもどうかしてるクマね」
閑散とした内部を見渡し、壁や天井の穴に目線をやりながら球磨ちゃんが言う。
「でしょ!? いや、でしょってのもおかしいけど……艤装だったよね、あそこに置いてあるから……」
そう言って、二つ並んだ建造ドックまで球磨ちゃんをつれて行く。
その片方、底部分のせり上がった方の上に、球磨ちゃんの艤装がさっき落としたままに放置されていた。
「あっ……球磨の艤装クマ!」
そう言って、駆け寄って持ち上げ、ためつすがめつ眺めている。
……まさかソレまでおかしいってコト無いよね?
中身スカスカとか、ただの張りぼてだったとか……。
チラッと、心配していたもう片方のドックを見る。
例の暗黒プールの上に、お風呂のフタのような……というか、まるっきりシャッター式の風呂フタ(あのクルクル巻くヤツ)が被せられ、妖精さんの丸っこい字で『みちゃだめ』と張り紙してあった。
なんでコレでイけると思った!?
褒めろと言わんばかりのドヤ顔でアピールしているお下げ頭を乱暴に撫でて、冷や汗をかきながらソロソロと、球磨ちゃんの視線を切るようにドックの横に移動する。
なんとかコチラには気づかれないようにせねば……!
そこで、丁度点検が終わったのか、球磨ちゃんが顔を上げた。
「……間違いなく球磨の艤装クマ。細かい傷やクセっぽい所まで前のままなのがちょっと気味悪いくらいだクマ……」
どうやら艤装には問題なかったようだ。
「そっ、そうなんだ! 良かった……どう、航行できそう?」
「燃料が少ないクマ。弾薬は空っぽ……コレじゃあ、良くても近海をウロウロするくらいが関の山クマ……それか――」
そう言って、カタパルトから小さな水上機を持ち上げる。
「コイツに給油して、近くの鎮守府に助けを求めるか、クマ」
そう言って、俺を見上げる球磨ちゃん。
多少は希望が出てきたのか、色はすっかり元に戻っている。
「弾薬が無い時点で選択肢はほとんど決まってるようなものクマ……どちらにせよ、ココがどこだかわからないコトにはどうしようもないクマ。お前……はムリだから、妖精さんにこの廃墟のできるだけ正確な座標を聞かないと――何か隠してるクマ?」
そう言って、俺の後ろの風呂フタに目をやる球磨ちゃん。
やべぇ、もうバレた!
慌てて再び視線を切る。
「な、ナンデモナイヨー?」
「……見せるクマ」
無情にもそう言って、スタスタと回り込んでプールのフタに手を伸ばす球磨ちゃん。
すかさず、ガッ! と、足でフタを押さえる俺。
「……もう、ココがマトモじゃ無いコトは分かってるクマ。今さら隠し事は無しクマ」
そう言って、据わった目で俺を睨んでくる。
「ほ、ホントに止めた方がイイ。絶対見ない方がイイから……ね?」
「………………」
世の中にはね、知らない方が良い事がいっぱいあるんだよ球磨ちゃん……!
募金の行き先とか、公式絵師のお給料とか、気になるアノ子の男性遍歴とかね!
俺の真剣な意志が伝わったのだろうか。
球磨ちゃんはジッ……と俺とフタの張り紙を見比べた後、しぶしぶと手を引っ込めた。
し、しのいだ……!
@@@@@@@@@@
「ここのいちですねー」
「ちずかくです」
「えっとねー……」
そう言って、錆びた釘のようなモノでコウショウの床にガリガリと地図を描き込んでゆく妖精さん達。
そんな素直に教えてくれるんならさっさと聞いておけば良かった。
しかし……、
「できたです」
「いいできだぜ」
「…………おねしょ跡かな?」
妖精さんの描いた世界地図は、大陸の位置すらあやふやな、なんとも頼りないモノだった。
ほとんどシミか何かにしか見えない。
ここ! とか書かれても……太平洋の真ん中かな?
「ああ、もう、貸すクマ!」
そう言って、今度は球磨ちゃんが世界地図を描き直す。
「………………おねしょかな?」
「~っ! だったら自分で描いてみるクマッ!」
妙に自信ありげだったから、てっきりよほどキレイに描いて見せるのかと思えば、その地図の出来は妖精さんとどっこいどっこいだった。
ちょっと赤くなった球磨ちゃんが吼える。
かわいい。
「どれどれ、お兄さんが描いてしんぜよう……!」
ちょっと調子に乗りつつ、スイスイと地図を描く。
おまけで、赤道と北マリアナ諸島の大まかな位置まで書き込んでおいた。
「やりますね」
「さすがていとく」
「わたしたちとごぶですね」
「いいかんじです」
「う……無駄にうまいクマ……意外な特技クマ……」
釈然としないといった声で球磨ちゃんが唸る。
おお、今ちょっと提督感出てる! 出てない?
「え、そう? いや~、このくらいは学校で習うしね……フツーフツうっ!?」
「ちょーしに乗んなクマ提督モドキ。後その顔でお兄ーさんはボり過ぎクマ」
球磨ちゃんにカタパルトで外モモをはたかれ、軽く悶絶する。
その間に、お下げ妖精さんが地図にココの位置を描き込んでくれた。
「だいたいこのへんです」
「うーん……北マリアナの、更に北東辺りクマね? 見事にパラオ・トラックの反対側クマ……どうやったらこんな敵制海圏のど真ん中に漂着できるクマ?」
心底呆れたような目で俺を見る球磨ちゃん。
よせやい、テレるだろ。
「コレじゃ、基地に零水偵を飛ばすのは無謀クマ。……あの戦いで北マリアナを制圧できたとはとても思えないクマ。そうすると、前線基地までの間にどうしても敵の制空圏を突っ切る事になるクマ」
それを見て、球磨ちゃんが頭を抱える。
どうやら大分困った事態らしい。
つくづくヒドい所に流されたんだな俺。
しかし、地図を見てふと思いつく。
「……なぁ、球磨ちゃん。その飛行機、どれくらいの距離飛べんの?」
「……? 燃料満タンの巡航速度で、大体3,300キロクマ。あとそのちゃん付け止めるクマ」
あ、ハイ、サーセン……ちょっとデレたと思ったらコレだもんなぁ……不細工ってツラい。
「ゴメンナサイ……その、それならこっから本土まで届くんじゃ……?」
俺が恐る恐るそう言うと、球磨ちゃんはキョトンとした顔で一瞬固まり、慌てて地図に目を落とした。
「こっ、ここから日本までどれくらいクマ?」
「あーっと……大体だけど、二千…………五百キロくらいじゃないかな?」
確か日本からハワイの距離が六千……うんたらだったハズだから、そう大きく外れて無いハズだ。
自作の地図なんで自信は無いが、三千は無さそうに見える。
「……誤差を含めてもギリギリ届くクマ。でも……この廃墟に、水上機乗りの妖精さんがいるクマ?」
「ここにいるぞー♪」
「ひこうきはまかせろー」
そう元気良く言って、ポニテとショートの妖精さんがピョンっと前に出る。
気の早い事に、既に飛行帽を被り、コテコテのジャケットを着こんで張り切っている。
「ほんとはしでんかいしかのらないです」
「でもーていとくさんがどうしてもっていうならー♪」
そう言って、チラチラとこっちを見る妖精さん。
「……なんだ、言ってみろ」
「ちゅーください♪」
「あいのあるやつ」
そう言って、二匹揃ってほほを染めて唇を突き出してきた。
なんか鳥のヒナみたいだなお前ら。
「しちにおもむくわれらにー♪」
「さいごのたむけをー♪」
「お前ら墜ちたくらいじゃ死なんだろーが……ほれ、ほっぺでイイだろ」
そう言って、一匹ずつ抱き上げてほっぺにキスしてやる。
すると、妖精さんは「きゃー♪」と嬉しそうにくねくねし、身体中をキラキラさせた。
お前らのその時々光るの、なんなんだろうな?
ふと見ると、「ずるいぞー」「わたしたちにもちゅーしろー」「ようせいさんさべつだー」ときゃいきゃいうるさく騒ぐ妖精さんの横で、顔を赤くした球磨がワナワナと震えていた。
「……? どうした、球磨ちゃ……球磨。コイツらが飛んでくれるみたいだし、さっさと給油しちゃお――――」
「はっ、ハレンチクマっ! 妖精さんたらしクマーーっ!!」
えぇー…………。