展開、球磨の性格が共にクソい
妖精さんに頼んで艤装の燃料を水偵に移し替えている間も、球磨ちゃ……球磨は何に腹を立てているのかずっとプリプリと憤慨している様子だった。
「大体ずっとおかしいと思ってたクマ……妖精さんがこんなにベッタリなついてる提督なんて見たこと無いクマ…………それに、妖精さんは滅多に担当装備なんて変えたりしないクマ……きっとこの変態ペド提督モドキにいいい、イヤラシイことされてタブらかされたんだクマ……!」
おーい、全部聞こえてますからねー?
なんなんだろうか、艦娘って見た目通り多感な時期の女子みたいな中身してるんだろうか。
こんな二頭身のフシギ生物に発情なんてするハズ無いだろうに……ぬいぐるみとかネコとか、そんな感覚じゃないか?
しゃべるけど。
うーん、居心地悪いぜ。
え? 妖精さん印の艦娘燃料?
そっすか、便利っすね。
「妖精さん達も、辛かったら球磨にちゃんと言うクマ……! 本土と連絡が取れたら誰かマトモな提督さん紹介してあげるクマ」
「おおきなおせわ」
「まとがはずれてやがる」
「ていとくさんはわたさんぞー」
「ていとくはわれわれのものです」
「むしろわたしたちはていとくさんのものだー♪」
「もっとらう゛をよこせー♪」
「……いったい何したらこんなに妖精さんに好かれるクマ……八人しか居ないのに……」
球磨の失礼な提案に、俺の脚なり腰なりにしがみつきながら意味不明な抵抗をする妖精さんズ。
なつかれて悪い気はしないが、お前らがそーゆーコト言ってふざけやがるから絶賛思春期なクマちゃんが勘違いするんだろうが。
……でも実家の好き放題妖精さんどもなら千匹くらい持ってって欲しいわ。
モノホンの提督って、俺の百倍以上だから、大体十万とか百万匹くらいの妖精さんに取り憑かれるんだろ?
千匹くらい誤差じゃんね?
「ほきゅうおわったです」
「いつでもとべるぞー♪」
そんな事を考えている間に、どうやら準備が終わったらしい。
「おお、そうか。じゃあ……えっと、球磨、本土のどこに連絡すればいいんだ?」
「いきなり横須賀に連絡を出しても混乱されるかもしれないクマ……作戦の合同指揮をしてた岩川の
そう言って、パタパタと自分の服をまさぐった後、ジッ……と俺をイヤそうに見上げてくる球磨。
「……何?」
「紙とかペンとか、持ってるクマ?」
「ああ、そんならリュックの中にメモ帳とボールペンが――」
「さっさと戻って報告書と救援要請を書くクマ」
「は、ハイっ!」
@@@@@@@@@@
またそこそこ険しい道のりをえっちらおっちら戻って司令室にたどり着いた俺は、執務机に座って海水でゴワッゴワになったメモ帳に何かをせっせと書き込んでいる球磨を、じゃれついてくる妖精さん達を適当に構いながらボーっと眺めていた。
たんに鎮守府内を移動するってだけでいちいち十分くらい掛かるのはどうもキツいなぁ……さっさと道とか階段とか直さないと……いや、球磨が鎮守府に連絡入れたら俺もここ追い出されるんじゃねぇか?
うわぁ……短い提督生活だった……!
せめて一回くらい巨乳の艦娘とイチャイチャとかしたかったなぁ……。
ってか、その執務机、俺だって一回も使ったコトないのに、初めてを球磨に取られたんだけど。
切ない。
「………………よし、できたクマ」
そう言って、書き上がった書状を掲げて、ジィィーッと一度目を通す球磨。
「あの……ちなみになんて――――」
「軍事機密クマ。部外者には教えられないクマ」
「ハイ。サーセンっした」
目が怖いんだもんなぁ……これだから貧乳は。
「クマ゛ァ……? 今なんか失礼なコト考えたクマ?」
「滅相もない」
球磨が大切そうに畳んだメモ用紙を懐にしまい込む妖精さんに、念を押すように話し掛ける球磨。
「妖精さん、岩川の鎮守府まで、かなり危険な飛行になるクマ。頼んでおいてこんなコト言うのもどうかと思うクマが…………この任務、断ってくれてもいいクマ」
「むようなしんぱいだぜ」
「とばないようせいさんはただのぷりちーなようせんさんだ」
いっちょまえにカッコつけて不敵な笑みを浮かべるポニテとショート。
……時々思うんだけど、コイツらはどこでそういう知識を身に付けてくるんだ?
「……感謝するクマ。そのメモを岩川の提督さんにちゃんと届けて欲しいクマ。白くて立派な髭のお爺ちゃんだからすぐ分かるクマ。……幸運を祈るクマ」
「まかせろー♪ かえったらていとくさんとけっこんするんだ♪」
「ぱいんさらだをつくってまっててね」
それは帰ってこないヤツの台詞だよアホ妖精。
あ、そうだ。
「なあ、妖精さん。その鎮守府に報告したらさ、帰ってくる前に俺の実家に寄って、住み着いてる妖精さん達にココの場所教えてやってくれないか?」
そう、妖精さんに顔を寄せて頼む。
アイツら、鎮守府作ったら呼べって言ってたし、一応追い出される前に呼んでおかないとスネそうだ。
「まかせるです」
「ていとくさんのたのみとあらば♪」
球磨が報告書にどう書いたか知らないが、もしかしたら部外者の俺だけはこの危険地帯らしい無人島に放置される……ってコトになるかも分からんし、念のため人手……もとい、
そんな事を考えていると、球磨が驚いたように横から口を挟んできた。
「実家クマ? 実家にお前の妖精さんがまだ残ってるクマ? 本土まで二千五百キロもあるクマよ? そんなに離れたら、妖精さんなんてとっくにみんなどっかにいっちゃってるクマ」
「えっ? そうなの?」
なんだ、そういうものなのか妖精さんって?
と、頭の上のツインテに訊ねてみると、
「わたしたちはていとくさんひとすじです」
と、答えになってない答えが帰って来た。
たぶん、『我々は一生お前に付きまとってやるぞグヘヘ』と言う意味だろう。
そんなに俺が好きなら、もうちょっとくらい俺に迷惑掛けないようにしてくれても良くない?
「…………ひょっとして、お前スゴい提督だったりするクマ? 実家の妖精さんって、どれくらいいるクマ……?」
そう、恐る恐るといった風に聞いてくる球磨。
それに、海軍の人事局窓口で言われた事を思い出しながら答える。
「んあー、いや、お前が思ってる程はいねぇよ。なんか本物の提督の百分の一くらいだってさ」
千匹だか二千匹だかだもんな。
しかも全員好き放題と来たもんだから……この百倍をどう管理するってんだよイケメン提督どもは。
やっぱイケメンだと妖精さん達も素直に言う事聞いてくれるんかね?
俺の答えを聞いて、球磨は安心したような、拍子抜けしたような、何か複雑そうな表情で溜め息を吐いた。
「なんだ……驚かすなクマ。お前、なんか今まで見てきた候補生の連中とも違った雰囲気だったし、ひょっとしたら……とか思った球磨がバカみたいクマ」
「さいですか」
お前、俺だってキズつくんだかんなー……?
そんな露骨に前の男と比較して失望した風に言わないでくれよ……あ、いや、別に別れたワケでもないから今の男か。
ったく、これだから中古は――――
ゴスッ
「イ゛ったいっっ!!?」
「……よく分からないクマが、今なんかスッゴいムカついたクマ」
蹴った!
コイツわざわざ艤装履いて俺のスネ蹴ったよ!
提督イジメ反対!
俺提督じゃないけど!
「あー!」
「ていとくをけったなー」
「まあいまのはていとくがわるい」
「だいじょうぶ?」
うずくまる俺に群がってきゃいきゃい騒ぐ妖精さん達。
おおお……! や、止めろ!
今俺のむこうズネは枯れススキ並みにデリケートなんだ、ペチペチすんのヤメテ……!
「よーしのりこめー」
「わぁい♪」
悶絶する俺を完全に無視して、二匹の妖精さんが元気よく叫ぶ。
そして、衣装チェンジの時のようにペカーっと光ったかと思うと、いつも以上にちっこくなったポニテとショート妖精さんが、フロートを足場にしてピョンピョンっとコックピットに乗り込んだ。
「おーイテテ……ああ、なるほど、どうやって乗んのかと思ってたけど、そんな事もできんのな妖精さんって」
「お前そんなコトも知らんクマ?」
呆れたようにそう言いながら、精巧なミニチュアの様な零水偵を大事そうに持ち上げ、肩の横んトコのカタパルトに乗っける球磨。
カチャカチャと艤装を鳴らしながら、重い扉を開いて司令室の外へ出て行くのを慌てて追っかける。
ま、待って待って!
そんな大事なこと、俺抜きでやんないで!
球磨を追いかけて、全身に妖精さんをくっつけながら司令室の外に出る。
当の球磨は眩しそうに目を細めながら、壁の崩壊した廊下で日が
球磨の長い髪が、暖かな潮風を受けて大きくなびいている。
強い陽射しが反射して、キラキラとまばゆく光る
繊細な絹糸のような、流れるような髪の一本一本が、幻想的に輝いている。
はためく白いセーラー。
踊る赤いネクタイ。
鈍く輝く艤装。
澄んだ
「――――ぁ」
――――――キレイだ。
「――――ひどい鎮守府クマが、発艦にはちょうどいいクマ」
球磨がそう呟くと、ザァァッ、と、うるさいくらいの潮騒が耳に飛び込んできた。
「っ……!?」
み、見とれてた……!
今一瞬、周りの音が聞こえないくらい、目の前の小さな艦娘に見惚れてしまった……!?
ひ、貧乳なのに……!
「……お前ちょっと黙るクマ」
ギロッ、と横目で睨んでくる球磨。
おっと、声に出てたっぽい。
「うわき」
「ぎるてぃ」
「せいさいだー♪」
「や、やめっ、止めろっ! 痛いっ!?」
ツインテが俺の帽子越しに、俺のツムジ辺りをビシビシとつつき倒す。
同時に、俺の両脚にまとわりついた妖精さんたちが一斉に先程痛めたむこうズネをゲシゲシと蹴り始める。
や、止めろ、それはマジでシャレになら、アッー!
「…………クマァ……ちょっと黙るクマ」
呆れたような顔の球磨が、スッ……と左腕を真っ直ぐに持ち上げる。
水平に差し出された腕にそって、カタパルトがキュラキュラと向きを変え、青い海原に先を向ける。
バラッバラララッララララララ……
小さな排気口が黒い煙を吐き、プロペラが勢いよく回り始める。
その風を受け、球磨の髪が踊り、ディーゼルともまた違った匂いが辺りに漂う。
「イテテ……おっ、おおぉ…………!」
「うーん、なつかしいにおい」
「やっぱこのおとです」
「いいしあがり」
「わーい♪」
「とべー♪」
三座式コックピットの前と真ん中に座った妖精さんが、トンボみたいなゴツいゴーグルをつけて、グッ! と力強くちっこい親指を立てた。
「零水偵、発艦するクマ!」
ポンッ、という爆発音。
白い煙。
ブオッ、と吹き付ける風と火薬の匂い。
カタパルトに勢いよく押し出され、妖精さんを乗せた小さな零水偵は、いっそあっさりな程に、抜けるような青空に射出された。
「……!」
ピカーっ、と光をまとう零水偵。
次の瞬間、空を裂くように飛ぶ零水偵は、普段の大きさの妖精さんを乗せられるサイズにまで大きくなっていた。
ブロロロロロ……、と景気の良いレシプロ音を響かせて、妖精さんを乗せた零水偵が空に大きく弧を描く。
ピカピカのコックピットが、陽射しを反射してまばゆく輝く。
ワスレナ鎮守府をぐるっと一周回るように旋回した後、細く煙をたなびかせる零水偵は、キラキラと輝きながら本土へと向かって真っ直ぐに飛んで行った。
俺たちの希望をのせて――――
「……ふぅ、無事発艦できたクマ。後は救援が来る事を祈るだ――――何してるクマ?」
「ん、お、おおぅ……!?」
球磨は大きく溜め息を吐いて俺に向き返り、少し驚いたような、変な顔をした。
また俺は、気づかない内に雰囲気に当てられたらしい。
俺の腕は、最初よりはいくらかマシになったであろう、海軍式の敬礼の形になって、顔の横にしっかりと添えられていた。
ちなみに妖精さんたちも一緒になってピシッと敬礼している。
「し、しかたないだろ……俺は雰囲気に乗せられやすいんだよ……!」
慌てて腕を後ろにやりながら、言い訳のようにそう言う。
うわぁ、こっぱずかしい!
本物の軍属を前に、何をいっちょまえに敬礼なんかしてるんだ俺は。
顔アッツ!
「……まぁ別に、悪いコトじゃないクマ」
プイッ、と顔をそむけながら、そう吐き捨てるように言う球磨。
あっ、コイツ笑ったな!?
チクショウ、いいじゃんか! 別に、敬礼くらい!
ちょっとくらい提督気分に浸らせてよ!
「………………お前、そんな顔できたクマね」
「……ん? 今なんか言った?」
ボソッ、と何かを呟いた球磨に、思わず聞き返す。
何々? 俺はそこらの難聴系主人公とは違うよ?
例えお胸がちょお~っとばかし慎ましやかでも、貴重なフラグは見逃さないよ!?
「……生意気クマ。提督モドキが調子に乗んなクマ」
「うわ、顔コッワ! 止めて、キズつくから!」
「うるさいクマ。何か連絡があるまで、こっちはこっちで出来るコトをやるクマ」
冷たく言い放って、のっしのっしと大股に歩きながら司令室に戻ってゆく球磨。
くそう、やっぱり気のせいだったか。
さっきは不覚にもちょっと可愛いかもって思ったのにコイツ、俺のトキメキ返せよ……!
「ちっ」
「らぶこめのはどうをかんじるです」
「どろぼうねこめー」
「がるる」
「オメーらは何言ってんだ――痛った! ツインテ、髪、髪引っ張んな! 禿げたらどうしてくれる!」
妖精さんとぎゃあぎゃあ騒ぎながら、球磨を追いかける。
……そのイライラしたような足取りの球磨の頭の上。
長~いアホ毛が、ほんの少しだけ機嫌良さそうに、ピョンピョンと跳ねていたのを、妖精さんの相手に夢中になりつつも、チラッと盗み見る。
……やっぱ、帰れるってなったら嬉しいよなぁ。
はぁ…………俺も自分の艦娘、欲しかったなぁ……。
……あ、ツインテお前、今ブチブチって音したぞ!?
抜いた!? 抜いちゃったのか!?
「…………お前ちょっとくらいマジメにできないクマ!?」