わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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地獄で輝くのは英雄ではない。
地獄を飲み干す怪物なのだよ。


CUBE作戦
蛇は唆す


「愚か者の諸君に問おう。闘争は好きかな?」

 

 蛇は問う。腕を組んだその華奢な姿に死など似合うわけがない。しかし夜の帳に食われた彼女達の眼には、その姿が何よりも破壊という言葉の体現者に相応しく映る。

 

 鈍い鋼のような蛇の瞳が妖しく光った。それは魅了を帯びているが、同時に自由を与えている。奴は相手の何一つとして拘束しない、自由を与えた上でその全てを掌握する真性の魔性。

 此処に居る兵達の殆どに、その恐ろしさはもう理解できない。それは彼女達が求めているものと置き換わってしまっているからだ。

 

「わたしは好きだ。闘争が好きで、破壊に親しみ、蹂躙を嗜み、敗北を愛し、窮地を欲する者だとも」

「鉄クズ共がわたしの手にも触れられずに倒れるのは好きだ。わざわざ銃を手に持ち、その高潔さを犯し尽くしながら殺すのは実の所嫌いではない。ポリシーには反するのだがな、だからといってわたしの快楽に関わらんとは誰も言うておらぬ。あくまで圧殺する事に勝らないだけよ」

「同様に誇りを愛する。わたしに屈さぬ者は例外なく敬意を払おう、強さを振りかざすのではなく欲の為に振るう強者こそ蹂躙してみせよう、わたしは悦楽以上におぬし達の「捨てきれぬ人間性」を最も愛し、尊んで居るのだ。覚えておけよ愚か者共」

 

 下卑ている筈ながら何処か親しみの有る笑顔。吊り上がる口元に部下達は「やはり貴方こそが」とAIに電撃を走らせる。

 矛盾した蛇の理論では有るのだが、それは突き抜けて最早「それが『アレ』という存在なのだ」と納得させる個性、性格と解釈される。元より付いてきた馬鹿者共にはその些末な食い違いは意味がない。

 

 蛇が肩を竦めてみせる。

 

「とはいえ負けることが嫌ではない。肌が切れれば生を実感するだろう、流れた疑似燃料を見て血は流れていると嘯けるだろう、四肢がもげればわたしは完璧ではないのだなどと驕り悦ぶだろう」

「Mauser Karabiner 98 kurz。アレは良かったな、奴のようにわたしを生きていると思わせる力に関しては性愛すら持つやもしれん」

 

 が、待て。蛇は手でその論に待ったをかける。

 

「例えば殺され方でも沢山有るだろう?」

「そうさな、スナイパーで頭を吹き飛ばされるのは心地いい! しかしブレードで細切れにされるのは興を感じる! だがな、サブマシンガンの粗すぎる弾道を受け続けても藻掻き苦しむのはさぞ無様ではあるまいか! ああ待て待て、ウイルスでAIの端から端まで快楽で犯し尽くされるなどという屈辱も無しではない、何処まで辱めてくれるのか見ものよな! 呵々ッ!」

「ちなみに今のは死には至らずともわたしに縁有る痴態よ、どれもこれも物足らんかったが――――――――だからといって無意味ではなかったぞ? 流石に頭部を端であれ撃ち飛ばされれば焦ったものだ、ブレードの超振動の音を耳にするのは冷や汗が流れるさ、サブマシンガンの弾道は外れてくれと祈る時もある、ウイルスはもう最悪だったな! あと数十分あの耐久テストを受けておったらわたしは今頃快楽の奴隷か何かだったよ――――――いや、今も快楽の奴隷であるのは変わりないかな?」

 

 ケタケタと上手いことを言ったように一人でに笑っていたが、待機する兵達の眼差しに蛇は思わず畏まる。

 

「…………しかしこれらには一つだけわたしは条件を設ける。強者だ、形など問わぬ。わたしを陵辱するに足る圧倒的な破壊を持ち、制御し、振り翳し、そしてわたしを愉しませた者! これにのみ、わたしはあらゆる行為を被る権利を享受してやるのだ。弱者などにされて堪るか、そんな世間知らずはわたしがこの膂力を持って身の程を教えてやるとも」

「おぬし達も気づいておるかな?

 そう、わたしは身勝手だ

 自己中心的だ

 横暴だ

 利己的だ

 残虐だ

 偏執者だ

 傲慢だ

 恐らくわたしは鉄血という枠組みに於いて史上に今後超えるものの居ない、あまりにも鉄血という存在を軽視した人形だ。根本的におぬし達の事もどうでも良いのかな? わたしにだってもう分からぬ」

 

 わざとらしく考え込むような顎に手を当てる仕草。

 目を瞑っていたのも束の間の事で、蛇は直ぐに片目を開いて彼女達を一望する。

 

「故に約束してやろう。わたしはわたしの為に動く」

「わたしが興味を持つ者の味方だ」

「わたしが嫌いな者の最大公約数的天敵だ」

「わたしは、わたしの為に戦うのだ。おぬし達はわたしを何ら疑う必要はない、いや許さぬ。何故ならわたしは私利私欲だけで動いておるのだぞ? それすら信用できぬのは愚か者ではない、唯の鉄クズだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしはな、愚か者共。おぬし達が望む場所へと連れてきてやったのだぞ?」

「だから問おうじゃないか。おぬしらは何を望む? さあ答えよ、声を合わせてさあ早く! 答えなど一つだろう!?」

 

 彼女達は声を上げた。それは夜など食い潰す戦乱の声、敵など素知らぬ満開の声。

 

「戦争!」

「闘争!」

「殺戮!」

「蹂躙!」

「虐殺!」

「鏖殺!」

「破壊!」

「滅却!」

「ははははっ、良いぞ! そうだ、おぬし達には一体一体に違う答えがある、たった一つのおぬし自身の答えだ! 正解だ、声を揃えて同じことなど言ってみろ、おぬしらを殺してしまうところだったわ!」

 

 機嫌良さげに高笑う蛇に、彼女達まで表情が朗らかになっていく。それは戦火の前の兵士ではなく、戦場の前の勇士ではなく、掃除を前にした強者ではない。

 

「叶えよう、叶えてやろう、叶えてみせようとも! さあ、その銃で奴らを撃て! 辱めろ、辛酸を嘗めさせろ、絶望を叩き込め、勝利の味に酔え、ただひたすらに願え!」

「Ripperはあやつらの玉の肌を犯し尽くせ! Vespidはその整えられた肢体を撃ち崩せ! Jeagerはその麗しき面貌を粉砕しろ! Guardはその培われた矜持を陵辱しろ! Dragoonはお綺麗な戦術とやらを封殺してやれ!」

「堪らんだろうな、そう堪らん筈だとも! 好きに殺せ! 今夜はわたしが許してやろう、興奮を抑えきれずに屍体に弾を吐いても良い! 狂って連れ帰り拷問するも良かろう! 恍惚として服を裂き辱め、涙を流して震える声に快感を覚えながら殺しても構わん! 精神が崩壊するまで犯し尽くしてから殺すのも許そう! ありとあらゆる存在否定で絶望させながら殺すのも一興! 勿論ただ淡々と殺すことも結構だ!」

「わたしは全て許す! 自由はわたしが与える愚か者共への、愚か者の為だけの最大の特権である! では始めよう――――――我らは「作戦」の大義名分に於いて、奴らを性玩具の如く快楽の道具にしてやろうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ戦争だぞ、愛すべき愚か者共! 準備せよ!」




では、戦争だ。
――――ん? 結局わたしは一体どんな人形なんだ、だと?

知るか、わたしは「ウロボロス」だ。
其れ以上に語れるものなどない、語れてはならぬのだ。我々道化共は語れないものでなくてはならない。
善性も悪性も矛盾も全てわたしさ、それだけの事よ。
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