わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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暴力に満ちた怪物のようであり、
夜に咲く美しき花のようである。


月下美人

 今日は不思議な夢を見た。見ることが不思議なはずなのに、それに輪をかけて変わっていた。

 普段なら俺が殺されるまでの夢というのは以前も言っただろうが、今回はそういうのじゃない。

 

――――俺の記憶だ。それは他愛無いものの場合も有れば、忘れられない情景や、楽しかったもの。誰にも言わなかったが思う所の有ったもの、だから…………「未練」にでもなりそうな。

 代理人と初めて言葉を交わした時の記憶。S12地区に目をつけて初めてのアイツラとの会話の時の。ハンターたちとギャンブルを始めることになった時の。M4と初めて出会った時の。パーティーをした時の。Karと出会った時の。M4があの顔を俺に見せてくれた時の。

 

 他にも沢山だ。それは一日よりも長い時間、俺は自分のドキュメンタリー映画でも見るような状態だった。輝かしく、薄汚れて、俺が大事にしようと決めたモノを全て再確認した。

 見れば見るほど俺はこの身が少しずつ惜しくは思った。だって、この人生は俺には勿体なすぎるくらいに鮮やかだったから。

 

 元々何の特筆も出来ない人生だった。今回は、まあそんな事はとても言えない身のあるものだったと俺は思っていると改めて突き付けられた感じがする。

 

『本当に死ぬ以外に道は無いのか?』

 

 誰かは俺に問いかけた。聞き慣れた声だったが、誰なのかはっきり思い出せない。

 ソイツは此方を慈しむような、憎むような複雑な表情で俺をじっと見つめている。答えを待っているのだろう、俺は少し考えた。

 

 確かに道は有るだろう。別に逃げたって、あの人は俺に事情が有ったのだ――――――都合よく考えてくれるかもしれない。

 生きることは出来る。逃げれば。

 

「でも、逃げるのは駄目だ」

 

 その生には価値がない。俺はかつて「勝者であるくらいでないと万物に価値はない」と御大層に何処かで説いてみせたのだが、アレは少し意味が違う。

 乗り越えるべきものも乗り越えられなかった、それでのうのうと其処に在るだけのものには意味がない。

 

――それに。俺は未練は有っても心残りはない。したいことは有るが、しなければならないことはもう無くなったのだ。

 

『死ぬ必要など何処にもない。死んだ所で、何も変わらないとしても?』

「そうだ。俺が死ぬ場所は、此処って決めてたから」

 

 怖くないか? と言われるとそれは分からない。俺は自分から命を投げ捨てるマネは散々してきたが、逃れられない死に直面したことがない。

 逃げ場のない絶望でどうするかなんて分かる訳もないだろう。

 

『…………まったく。他所様の身体でよくそんな啖呵を切るよ、おぬしは』

「悪いな。■■■■■、俺と一緒に死んでくれないか」

 

 酷い口説き文句だったが、ソイツは諦めたように笑った。

 

『許そう。元よりわたしは寄り添うのみと決めている』

「有難う、最後まで俺に付き合ってもらえて助かる」

『愚か者め、愛の告白に答えんか』

 

 それはしかねるな。

 

「俺、二次元キャラには興味ない」

『嘘が下手だなあ、おぬしは………………元より邪魔などしないさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――おい、起きろよウロボロス!」

「…………ああ、寝ておったわ」

 

 座ったまま寝てしまうとは。ちょっと情けない。また夢を見ていた気がするが、内容がはっきり思い出せない。

 改造は終わったらしい。だいぶ血走った目をしたハンターと処刑人がウロチョロと本部を動き回る。確かにそのキレ、速度は以前よりも高い。

 

 二人は顔を見合わせるとニコニコとしている。

 

「速いな、これならAR15も殺れる」

「ブレードは何だかんだ重いと思ってたが、この体なら軽いぞ――――――この戦争、俺達の勝利だ!」

 

 それは死亡フラグだと思う。

 しかし実際問題として能力はかなり上がっている、今なら二人がかりで来られると俺も負けてしまうのではなかろうか。

 

 走りながらノンストップで乱射されるハンターのハンドガンは全て同じ地点に命中する。弾を新しい弾で押しのけて壁にめり込んでいく様は神業と言って相違無さそうだ。

 

「しかしリミッターと言うやつはこんな極端に私達を制限しているのか。ウロボロスにもまだ有るのかよ、リミッター」

 

 ハンターが興味半分の表情で尋ねてくる。

 

「有るには有る。だがわたしがこのStingerシステムを使う理由は、そのリミッターだよ」

「へえ、面白い話してるみたいじゃねえか。俺も混ぜろ」

 

 周りの石ころを上に放り投げて綺麗に等分する処刑人。お前はもう石川五エ門と勝負できるな、凄いぞ。

 

 二人の期待混じりの顔に押し負けた。観念して話すとしよう。

 

「あまり言うなと代理人殿に――――」

「殿ぉ? お前、何時からそんな畏まるようになったんだ。気色悪ぃ」

「あの方に忠誠を誓う事にしたのでな、あまりからかうとおぬしらでも承知せんぞ」

 

 割と冗談抜きで言ったからか、何か察したようにあっさりと下がった。それで良い、賢いことは良いことだ。

 

――俺の設計はそもそも上級AIどころか、並の鉄血と同じでもない。

 

「わたしはリミッターが機能していない、だから加減が利かぬ。初めて身体を使って代理人殿の前でテストした時に分かったことだ」

「へえ。つまりどういう事だよ」

 

 処刑人が分かっているのか分かっていないか怪しい顔つきで食いつく。

 

「本気で動くと中の疑似燃料が蒸発してしまうのだよ、だからStingerシステムで出来るだけ動かない戦法を選んでいる」

「お前何気にヤバい持病持ちだったんだな…………」

 

 逆に言えばそれだけの身体運動を処理できる回路も与えられた。これがStingerシステムでアレだけガチャガチャ数を動かせる理由だ。

 

 別にチート持ちでも何でも無く、「自壊しないギリギリ」で動く方法を覚えたから戦えているだけ。正直なところ、あのバカライフルとやってる時は自滅しかけた。だからこそアイツとはギリギリまでやりたかったんだが両腕がちぎれてはな、此方も相当やられたのも有るし。

 

 ハンターがゾッとした顔をするなり、何か気づくべきではないことにでも気づいたような顔で質問を重ねる。

 

「って事はアレじゃないのかお前…………戦闘狂なのって要するに」

「恐らく正解だ。殴ったり蹴ったりする方が趣味だからなのも有るやもしれん」

「唯の消化不良じゃねえか」

 

 まあそうとも言えなくはないな。

 正直な所、遠距離武器はつまらん。効率的に標的を無力化する事において強力だが、俺達(わたし達)みたいに「殺す過程に意味がある」ならば唯の興を削ぐツールに過ぎない。

 

 まあ後はあの人に「効率も品性も最低値でしてよ。お辞めなさい」と言われたのも有る、返す言葉もなかったよ。俺もそう思う。

 アレは何だったかな、そうだ、俺の試運転の初日だ。捕まえてきた戦術人形をサンドバックにしたんだったか、あんまりグッチャグチャにしてしまったからそう言われた、今思い出すとあの時の俺は相当おかしかったとは思う。

 

 電脳空間に居た頃に慈悲なんて何かを為すためには一ミリたりとも役に立たないし、中途半端も度を越すと敗者に失礼だと思うようになったから、俺にとってはそういう持論有りきだった。

 言われてみればやり過ぎだ。

 

「俺のブレード貸してやるぞ?」

「馬鹿を言うな、おぬしにはStingerシステムは処理しきれんよ。これで頭の出来が違う」

「チッ、ムカつく物言いだがマジだから始末に負えねえぜ」

 

 単に製造時期とかの問題だがな、鉄血は出来が良いからこそ改良も難しいし。初期ロットは初期の性能のままで戦わざるを得ないのだ。

 

 今のはお前が下だとかそういう問題でもない。俺は処理できるAIとして作られたから処理できるだけの話。

 

「おぬしはそのブレードをアホみたいにブンブン振っている方が似合うだろうよ」

「テメェ! 俺のこと馬鹿にしてんだろ!?」

「いや? 好ましく思うし、それなりに敬意を払って喋っているが?」

 

 俺って超適当だからさ、まず興味がなかったり目につかない奴は全部「雑兵」って呼んでるくらいだし。名前覚えた時点で実はだいぶリスペクトしてる方だぞ。

――ああ、俺がおかしいっていうのはもう気にするな。そういう性格だ。

 

 処刑人は目を白黒させる。

 

「お、おう。そうか」

「照れてるぞコイツ、攻めろウロボロス」

「馬鹿なことを言ってる暇があったら体を慣らしておけ…………わたしは部下共を見てくる」

 

 重い腰を上げる。座りっぱなしは体に悪い、燃料循環が滞るからな。

 部屋を後にする時、ふとハンターが呼び止めてくる。

 

「何だ?」

「お前、今日は変だ。何か有ったか?」

「初めて指揮を執る仕事だからな、気を張っておるのだろうよ」

 

 最後になるかもしれないしな。

 

「珍しい、お前もそういうの有ったんだな」

「おぬしらも初心は忘れんことだ――――――ああ、そうだ。言い忘れておった」

 

 踵を返す、ちょっとばかり長い話なのだ。

 俺がマトモに畏まるのが余程珍しかったのか、二人の表情は困惑の色が強い。まさか「今日死ぬかもしれん」と言っても信用されないしな、言っても仕方ないし。

 

「わたしがヘマをしたなら、其処は人形の安全を優先しろ。わたしは放っておけ、計画崩れしたなら精々暴れてやるさ」

「…………しおらしいもんだな。お前がそう言うならそうしてやる、人形優先だな?」

「――――――ああ。必ず、そうせよ」

 

 答えは聞かずに部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ウロボロス様。珍しいですね」

「何だ? 来ては困るのか?」

 

 相変わらず捻くれている、とスケアクロウの溜息。

 部下はまばらに集まっては銃の手入れをしたり、所持品の確認をしている。座って静かにそんな事を集団でやっていると少なからず威圧感は有るらしい。

 

 むしろ俺に話しかけてきたスケアクロウが不思議だ。

 

「ああ、ビットは精巧なパーツですから私も少し触りにくいのです。ですから別所で整備を頼んでいるので手持ち無沙汰――――――こういう事でしょう?」

「流石だ。いざとなればおぬしに指揮を任せた方が良い出目が得られそうだな」

 

 俺より余程察しが良い。実際何度か助けられたからな、間違いはあるまい。

――前も言った気はするが、俺は大見得を切るのには自信があるが身の伴った指揮は出来ない。個人芸こそ他よりちょっと出来るが、根本的に戦局を動かす側ではないのだ。

 

「勿体無いお言葉です。貴方様は既に十分な指揮者でしょうに」

「世辞は良い。わたしよりおぬしの方が指揮能力は有る」

 

 世辞ではありませんよ、と瞳が鋭く輝く。

 

 スケアクロウは俺の思いもよらない事を言うし、それが間違っていることは殆ど無い。だからそれも事実では有るのだろうが、現時点の俺は指揮に立つ側には程遠い。

 

「ともかく、わたしが指示を出せぬ時は任せるぞ。おぬしとあの隊長が居ればまあ死にはしまい」

「お任せを。貴方のような突拍子もない指揮は出来かねますが…………」

「やりたいようにやれ。過程など死んだ時にでも後悔すれば良い」

 

 見ての通り形など問わない性分だ。俺が欲しいのは「安全」という結果、それ以外のことなどとやかく言わんよ。昔読んだ仕事の本でも「瑣末事より最終目標に目を向けて常に動け」と書いてあった。

 

 スケアクロウは俺に怪訝さを隠しもせずに続けて問う。

 

「らしくないですね」

「ではらしいことでもしようかな――――――――おい、愚か者諸君! おぬし達の銃のメンテナンスを手伝ってやろう、希望する者から此方へ来い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、啖呵は切ったがどうしたものかな…………」

 

 歩きながらウロボロスは考える。偵察を指揮官が自ら行うのもおかしな話なのだが、彼女程となれば異論を唱えるものもない。思案に眼を曇らせながら闊歩する。

 

 先程のそれは大演説では有ったが、そんなものは無かったように穏やかな様子で森の中を歩く。Stingerのモードを切り替え、現在は周辺電波を完全に掌握できているからだ。 これは戦術人形の五感に影響を与えるほどの高度なものだが、しかし端末の機能停止が響きすぎる故に彼女は使い渋る。要は無用の長物だ。

 

 逆に言えば現在、彼女はこの周辺に有る「電波」に関わるものを全て把握している。例えばそれは盗聴任務に要する盗聴機もそうだろう。

 

「シナリオ通りにやってやろうか」

 

 ウロボロスは迷うこと無く一本の木の裏側に歩いて回る。一回り小さい緑のキャップに隠れた小さな体躯を見るなり、少しだけ嗤った。

 

 その顔をしゃがみ込んでまざまざと確認する、言うまでもなくG11。盗聴任務についていた404小隊の一体目。

 彼女が放つジャック電波の影響で五感が上手く働いていないのだろう、少しばかり顔を撫でたが起きる様子はない。

 

「…………ふむ」

 

 暫く観察していたがその様子に何か得る所があったらしい。おもむろにG11が設置している盗聴機に向かって歩いていったかと思うと、彼女は陽気に挨拶をしてみせる。

 

「こんばんは。S06地区へよく来たな、グリフィンの鉄クズ共。夜も更けておるが今は寒い時期だ、防寒はしっかり出来ているかな? どちらでも良いことだが」

「――――――ところで今回の夜襲はお楽しみいただけているかな? 答えは結構。夜は永いぞ、そう焦らずに楽しめよ道化共」

「まあ今日が最後の夜にならねばよいがな、呵々っ!」

 

 ウロボロスは少しだけ吐息を漏らすと考え込む。此処から既に「CUBE作戦」に響いてしまわないか、少しだけ心配したのだろう。

 

 彼女は何ら予め決まった既定路線を逆らう気がない。求めるのはそんなつまらない予定調和の蹂躙ではなく、後一歩までその首に手を伸ばす予想外の殺戮。

 とはいえそんな細かい内容まで覚えている訳もなく、結局は思いつくままに彼女は雄弁に語る。

 

「わたしの名前は――――まあ会えたならば教えてやろう。楽しもうじゃないか、名前から分からない相手を相手取り、勝利する。きっとそれは心地良いことだろうさ」

「では近い内に、弾丸で語り合おう」

 

 さて、こんなものか。

 彼女は満足したように辺りに設置した音声作動式爆弾とワイヤートラップを確認すると、別部隊からの通信を受け取る。

 

「何だ? 今ようやく盛り上がりそうだったのだが」

『クズです。一部隊、ダミーはそこそこ居るようですが如何しますか』

「特徴と数を言わんか」

『数は…………不明。我々のレーダー基地の索敵範囲のギリギリに、何体か居るのは認められます』

『見た目は青い髪のシュノーケルをしたチビ、ブロンドの小洒落た昭和の女優みたいなカッコの女と他数種』

 

 ははっ、なるほどな。感心したように嗤う。

――OTs-14、通称Groza(雷雨)。彼女はウロボロスを止められる人形と記憶されている。

 

 実際に一度交戦しながら生存し、最後にはウロボロスと同等に渡り合ってみせた404小隊に隠れた正しい英雄。ウロボロスとしては彼女は直々に殺したい。

 どうせ生き残るだろうがそれに彼女は興味が無い。問題はソイツがどれだけ自分を追い詰めてくれるか。それが分かれば十分なのである。

 

 高笑いをすると口を吊り上げ答えた。

 

「わたしもソイツを殺しに行く、部隊を整え泳がせろ――――――多少作戦概要に突っ込んでも構わん。待て」

『了解しました。今よりクズ共の移動経歴、及び予測進路をウロボロスさんの位置情報に照らしながらナビゲートします』

「良いだろう。死体が転がっておれば報告せよ、奴らなぞ拾い物で十分だ」

 

 さあ。やっと殺せるぞ。

 ウロボロスは零れる殺気も隠そうとしないまま疾走りだした。




ゲッカビジン(月下美人、学名: Epiphyllum oxypetalum、英名: Dutchmans pipe cactus、A Queen of the Night)とはメキシコの熱帯雨林地帯を原産地とするサボテン科クジャクサボテン属の常緑多肉植物である。(Wikipediaより抜粋)
花言葉は「艶やかな美人」。
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