わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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大変待たせたな、もうじき全て終わる。


簒奪者

「…………少し無理が祟ったか」

 

 頭がクラクラとする。体中が上手く動かせない、もたれ掛かる壁が冷たすぎる。俺は何時から南極大陸に来た、まるで氷山に寄りかかっているようで痛みすら在る。

――無理しすぎたな。自愛するべきだよ、おぬしは。

 

 さっきから知らない女も話しかけてくるし、散々だ全く。

 瓦礫に倒れ込みながら通信を起動する、すぐにヤツラに戦況を報告せねば不味い。

 

「――――――あー、定期報告。逃した、大半のダミーは叩き潰したがメインフレームは健在。手負いこそ最も危惧すべき弱者、努々侮らぬことだ。わたしも少し遊びすぎた…………ケホッ!」

『ちょっ、ウロボロスさん!? 大丈夫ですか!?』

 

 そうだな、そう言えば部下には欠陥について一切言ってなかった。

 とはいえ今は取り繕う余裕もない。機動力を最大にするのは数秒が限度らしい、疑似血液が煮え滾る寸前なのが分かる。四肢という四肢を弾け飛ばす勢いで暴れているらしい。

 

――おぬしの敵は己だ。熱に浮かされるな、元より戦場で死にやすい気質だろう。

 煩い女だ。分かってる、そんな事は俺だって分かってるんだ。

 

「問題ない、これは想定されている事態だよ。それより――――――わたし達を案内しろ」

『へ、案内? というか達って、他にも誰か』

「どうでも良い、速くしろ。今は動けない、この間に策を練る――――――404小隊、あーいや間違えた。そうだな…………18分32秒前辺りのわたしの位置辺りに人形が居る、ソイツが誰かと合流してないかを確認してくれ」

 

 あまりに慌てるオペレーターを一喝する。待て、()()()はこんな荒っぽい性格だったか? いやそうだったな。だが仲間に対してもこうだったか?

 そもそもわたし? わたしとは何だ。おかしい、演算処理が追いついてないのか…………。

 

 

 

 

 

 

 

 随分と荒れているらしい。今までも戦闘中は大概な思考の暴走をしていた気はするが、こやつらしくもない。

 仕方ない、交代だ。

 

「…………さて。情報は手に入れられたかな?」

『あれ? 何か雰囲気が違うような――――――』

「瑣末事だ、それより命令を果たしたまえ。わたしは正常だ」

 

 まごつくオペレーターを更に一喝。酷かもしれないが、情報もなしに此処で倒れ込んでいるわけにも行かないものでね。

 しかし、いやに交代がスムーズだった。いつもは中々付け入る隙が無くて苦労するものだが。

 

 後無性に何かを壊したい。こんな性格だっただろうか、わたしは。

 クールダウンしてきた身体を良いことに拾ったOTs-14で其処らの瓦礫を撃つ。それが脅しとでも勘違いしたのか、怯えた調子の声が聴覚器官を撫でる。

 

『は、はい! オペレートは可能です、如何致しますか!?』

「……そう硬くなるな。わたしは何時も通りだよ、そうさな――――ナビゲートを頼む」

『了解しました!』

 

 

 

 

 

 

 

「ふう…………あやつはすぐ無茶をする、これぐらいで動けば良いのだ」

 

 あんまり速くするとすぐに燃料が燃える。加減を教えてやれれば楽なのだが。

 この体の特徴は簡単に言うと熱しやすく冷めやすい、それだけの話だ。確かに熱くなりすぎてオーバーヒートは起こすだろうが、適切な熱量を保てば他よりも初動、継続機動力共に高い。

 欠陥などというのは大嘘だ、これはむしろ利点、予期せぬ利益だ。この体は他より自分の思うように動く。

 

 凍える夜風に笑いが零れる、体を動かすのは久方ぶりのことだ。

 

「しかし遊んでばかりではアレに合わせる顔が無い。ナビゲートはどうした?」

『クズがウロボロスさんの仰ったF3方角に向かっている形跡が見られました。予測進路をアップロードしますよ』

「よろしい。ではおぬしの個人的見解も追記しろ」

 

 何を言ってるんだ、と言わんばかりに生唾を呑み込む声と共に固まる。

 それ程不自然なことは言ってないつもりだが、仕事に差し支えては困る。適当に取り繕っておく。

 

「おぬしはわたしの部下だろう? ならば信用に値する、忌憚なく言葉を差し挟め」

 

 あいつの選んだ、あいつが残した部下が馬鹿な訳がない。適当に扱っているつもりでちゃんと「自分について来られるように」ぐらいは体裁を整えてある部下しか居ないのを、わたしが一番知っている。

 

 自覚がないが、あいつはどちらかと言えば自己犠牲精神のほうが強い。自分のせいで部下にロストされるのは嫌で嫌で敵わない性分らしい。

 固まっていたオペレーターがまた喋りだす。

 

『は――――――はい、了解』

「良い返事だ、期待している。以上」

 

 以前のわたしが聞けば恐らく目を剥くような一言が漏れ出た。アチラも大変驚いているようだが、喋りこむのは趣味ではないので通信を切った。

 

「――――ははっ、随分絆されたものだ」

 

 あいつ、最初は嫌いだったのになあ。

 わたしがしたいことは全然しないし、方針は全然真逆だったし、意味不明なことはするし、メンタルは複雑怪奇で狂ってるし、自分のことは全然分かってないし、すぐナンパするし、他の人形の髪を触って喜ぶ所とか気持ち悪い。

 

 相性として最悪だが、相方としては――――――正直、これ以上にないくらい。最適だ。

 下手な言い訳に口が三日月に歪む。

 

「…………ふふっ。仕方ないやつだなあ」

 

 このまま死なれるのは、わたしは嫌だしな。ああ、これは本音だ。風が吹けば消えるような数少ない本音。

 とはいえ404小隊から逃げるのだけはあり得ない、もうどうしようもない戦闘狂。死にたがり。

 

「わたしに出来る範囲で手伝ってやろう、大バカ者め」

 

 何でこんなやつが好きなのか、自分でもさっぱりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「盗聴任務の最中に眠っちゃってたから…………まずは録音内容をチェックしないと」

 

 G11がカチャカチャと盗聴器を弄り始めるのを見ると、416は少しだけ溜息をつく。

 元々G11は服だってマトモに着崩していないことが少ない人形で、自堕落さにおいては最早416では何も言う気の起きないレベルだった。

 

 今回に関しては寝ていたどうのこうのを言っても、もう仕方なさそうだ。

 

「1分だけ待ってあげるわ。早くしないとバラバラにして連れて帰るわよ」

 

 G11は小さくヒエッ、と416の物騒な言動に慄きながらも録音の再生に入る。

 最初は雑音も入っていたが途中から奇妙な女の声が混じってくる。

 

『こんばんは。S06地区によく来たな、グリフィンの鉄クズ共』

「――――ちょっとこれ、どういう事!?」

 

 416が目の色を変えてG11の胸ぐらを掴むと、凄まじい剣幕で問い詰める。G11も額に冷や汗を流しながら首を振る。

 

「し…………しらないよ。ずっと気をつけてたつもりだもん」

『夜も更けておるが今は寒い時期だ、防寒はしっかり出来ているかな? どちらでも良いことだが』

 

 まるで客人にでも向けるような妙な口上を宣う女の声に、416の電子回路がびりびりと計算に入る。

――幾らG11だってこれを見逃す間抜けじゃないわ。じゃあこの声は何時、何処で入ったのよ。

 

 問いと返答はNOでループしてとうとう模索を諦めた。原理不明、この声の主は全く分からない原理でこの盗聴器に気づき、声を吹き込んでいる。

 

『――――ところで今回の夜襲はお楽しみいただけているかな? 答えは結構。夜は永いぞ、そう焦らずに楽しめよ道化共』

「イライラする喋り方ね、コイツが今回の鉄血のリーダー?」

「わからない」

「あんたになんて聞いて無いわよ」

「ひっどい…………」

 

 にべもなく返す416に、G11は慣れているとはいえ少しだけ肩を落とす。

 煽る調子がどうにも416には気に食わないらしいが、大事な情報源だ。ぐっと堪えて耳を澄ます。

 

『まあ今日が最後の夜にならねばよいがな、呵々っ!』

『わたしの名前は――――まあ会えたならば教えてやろう。楽しもうじゃないか、名前から分からない相手を相手取り、勝利する。きっとそれは心地良いことだろうさ』

 

 言動の論理も支離滅裂。とても416達はこの声の主を尋常なAIだとは判断できない。

 録音が終盤に差し掛かる。

 

『では近い内に弾丸で「語り合いに来たぞ、404小隊」

「――――ッ!?」

 

 気づけばすぐ側で女が木に寄りかかっていた。咄嗟に構えた416の銃弾がその青白い肌を()()()()()()()()()()

 G11もその様子を見ていた、確かに銃弾は女の体中に撃ち込まれたはずだ。それは角度を変えようと変わらないだろう、だが『通り過ぎた』。

 

 目をむいた416達が女から逆に向かって走り出す。

 

「これは便利だな、おぬし達を殺す程度なら造作もない」

 

 何か一人でブツブツと呟いた女が凄まじい勢いで走り出す。脚部に取り付けられたガードの長く鋭い踵が地面を蹴り砕く度に、じりじりと距離が詰められていく。

 G11に怒鳴り散らすように416が尋ねる。

 

「何よアレ! あいつ、銃弾が通り過ぎたわよ!?」

「知らないよ! というか武器、アレOTs-14だ。人形の武器だよ多分!」

 

――そんなの全然聞いてないわよ、あいつは幽霊か何かなのかしらね!?

 416が混乱する頭を振り払いながらふと横を向くと、不敵な笑みが夜闇に浮かび上がる。

 

「遅い」

「G11、取り敢えずあんた逃げなさい――――ッ!」

 

 G11を張り飛ばすと、416に向かって刺々しい黒鋼の蹴りが飛び込んでくる。

 咄嗟にしゃがみ込むと横のダミーが凄まじい音を立ててすっ飛ばされていく。既に反応が薄くなっていたが、木にぶつかって大きな衝撃音が聞こえてくると反応は完全に消失。

 

 たったの一撃で再起不能ということらしい、416が釣り上がった笑い。

 

「銃弾は無力化、一撃でアウトとかアウェーで済まないわねコレ!」

「そうだな。だが今のわたしが油断するとは思わないことだ」

 

 軸足を跳ねさせるとくるりと身を翻して次の一撃を装填している。

 

「416!」

「うっさい、走って! 時間ぐらいは稼いでやるって言ってるのよ――――!」

 

 またG11に怒鳴り散らす416を見ると、女は薄笑いを浮かべる。

 

「我が身を盾に、か。あいつが見ればさぞ喜ぶ絵面だが――――――わたしはどうでも良い」

 

 徐にOTs-14を構えるとトリガーを引く――――刹那に飛んできた銃弾に女は近場の木を掴んで陰に消える。撃ちそびれたらしい。

 G11だ。416は内心安堵しながらも表面上はG11を叱りつける。

 

「行きなさいって言ったわよ、私!」

「どっち道こんなヤツ、416じゃあボロ雑巾みたいにやられてすぐにあたしもやられるって!?」

「…………悔しいけど事実よ」

 

――冷静だな。今は「わたし」で良かったかもしれない、あいつでは既にオーバーヒートさせかねない。

 目下の主人格への注文に溜息を付きつつ、416達に問いかける。

 

「名乗りが遅れたな。第十三大隊監督役試作上級AIモデル、ウロボロス――――――任によりおぬし達を殺しに来た」

「ウロボロスって、あのウロボロス?」

 

 416が爪を噛みながら問い返すと、すっとぼけたような返事。

 

「どのウロボロスか存じ上げないが――――――少なくとも。鉄血のAIと限るならば、わたしがウロボロスだ」

 

 ゆらりとした動作でウロボロスが陰から躍り出る。

 すぐさまG11が銃口を向けるがやはり命中しない。ヘッドショットなど狙わずに胴体を撃っているというのにまるで一発もだ、流石に奇妙過ぎる。

 

 不規則なテンポで詰めてくる。同時に入った通信に416は叫ぶ。

 

「遅い! ヤバイわよこれ!?」

『え、ど――たの?』

 

 ()()()()()

 

「は? ウロボロスよウロボロス、この前Kar98kをボコボコにしたっていうあいつが居たのよ!」

 

 それだけで察したのか、45は機械じみた声で指示を始める。

 

『交戦するだけ消耗――――スモ――――グレネード――て。逃げるしか――』

「何言ってんのかさっぱり、スモーク!」

「よし来た! 投げたよ!」

 

 G11がすぐさま投げると、森が夜闇から今度は煙にまみれていく。

 416が滅茶苦茶に走りながら小さな声で通信を続行する。

 

「投げた、それで何処に行けばいいのよ」

『崖下!――は出来――――早く!』

「あんた私を殺す気なの!?」

『――しても今――ないから、急いで――――――』

 

 刹那に()()()()()()()()()4()1()6()()()()()()

――え、長すぎる。

 

 ウロボロスとの距離は妙に空いている、おかしい。416はゆっくりと手の感触から来る恐怖を切り捨てて演算に入る。

――銃弾の透過。通信途絶。伸びる腕…………いや違う。()()()()()()()

 違和感が途端にカチリと繋がった。苦々しい笑顔で416が引っ張られていく。

 

「つれないなあ、もう少しどうだ?」

「…………成る程。強力な電磁」

 

 息のかかる距離まで近づけられたウロボロスの顔が、一瞬だけ固まる。

――そりゃあ勝てる訳無いわよ。

 

 手を出してこないのを良いことに、416は通信をオンにしたまま種明かしを続ける。

 しかし雑音が酷すぎる、伝わっているかは不明。届いていることを祈りながら冷や汗を流す。

 

「あんた、体中から電磁波出てるんでしょ。だから生体パーツを「使っている」だけの私達じゃ、五感に異常が起きる」

 

 だから距離を見誤るし、当たったように見えてしまうし、手が伸びているように見えてしまう。

 強すぎる電磁に気づかぬ間に電気を用いた情報伝達に異常が発生しているのだ、通信が荒れるのもそれが原因。

 

 単純にウロボロスは、あらゆる電子に関わるものが異常を来すほどの電磁を放っている。それでさっきから奇妙な現象が起きている「ように見えていた」。

 実際は起きていない。416達にはそう見えていただけ。

 

「私をバラバラにした所で遅いわ、ヒントは残した。45なら勘付く――――――」

「――――呵々ッ! よろしい、合格だHK416!」

 

 突如大笑いをすると、ウロボロスが416の腹に膝を打ち込みながら投げる。銃弾が当たらない訳ではないとバレてしまっては、銃を持った相手を懐に入れるのは危険過ぎる。

 先程までの肉薄する戦法とは()()()()()()。不自然なくらいに。

 

――記憶が混濁してるな。だが戦える、取り敢えずお前らの相手からだ。

 空白の時間に動揺はしたが、それで手の緩むような教育を代理人から受けていない。

 G11に416が飛び込んでいくと、そのまま二人で転がる。ダミーが射撃をするのを難なく避けて肉薄し始める。

 

「さあ、殺し合おうじゃないか――――ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう。私はお断りよ」

 

 ニヤリと笑った416に、ウロボロスが嫌な予感を覚える。

――つまり電磁波の問題ってことは。ダミーは落とせてなかったんでしょ。

 

 疑似皮膚が剥がれたズタボロの416のダミーが、辛うじて動く左手でウロボロスに銃弾を捻じ込む。

 危険と見て下がったは良いが、皮膚を幾らか掠めてしまう。疑似血液が零れるなり口元が三日月に歪む。

 

「やってくれるなあ、416!」

「後あんた、ちょっと煩いしウザいわ」

 

 無表情に投げられたフラッシュバンに思わず目を瞑る。

――止まれば逃すぞコレは!

 

 半ば乱暴に地を蹴り肉を薙ぎ倒す、しかし掴んでいたのはどれもダミーだ。光が消える頃には416達は居ない。

 暫く辺りを見回して反応を確認したが、とっくに逃げられたらしい。ウロボロスは小さく舌打ちをすると、通信を繋ぎ始める。

 

「チッ――――『Stinger』、行動終了! 定期連絡、聞こえているか!」

『え、何ですかウロボロスさん! 急に『Stinger』を起動されたら困りますよ!』

 

 ウロボロスは珍しく怒鳴り散らすようにオペレーターに言葉の羅列を叩きつける。

 

「どうでも良い! それよりハンターに繋げ、面倒な連中が向かっている――――――!」




【ウロボロス】
消え損なった絞り滓。それでも為すべき事は有ると答えに至ったらしい。
メンタルバイタリティが不安定なようだ、人格のスイッチが頻繁に起こっている。

【Stinger】
ウロボロスの兵装システム全般。及び電波妨害のシステム。
電波妨害の形態だと強力な電磁を帯びており、通信機器は半径数百メートルで不調を来す。また人形は五感の機能に「ズレ」が生まれ、位置を誤認してしまう。
人間と同じく「外界からの情報を自身の「常識」に当てはめて処理する」性質上、銃弾が身体を通り過ぎたように見えたり、距離が急に詰められたように感じることが有る。至近距離になるほど顕著。ある程度の距離を取れば「ズレ」は緩和可能。
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