わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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渾沌

 俺は没個性だった。この一言で語れる程度のつまらない人生を送ったと思う、それがとても俺は嫌いだった。

 とはいえ誰もが知っての通り人は望んで没個性にはならないし、生まれたときから没個性じゃない。適応してるだけだし、俺も例に漏れない。

 

 普通に生まれて。

 普通に食事を摂って。

 普通に幼稚園に行って。

 普通に小学校に行って。

 普通に中学校に行って。

 普通に高校に受かって。

 普通に大学生になって。

 だから普通に自殺した。

 

 理由はない。「漠然とした人生に嫌気が差した」だとか「お先真っ暗だったから」とは言えるが、それは正義面した大人たちが「理由になってない」とか「君にはまだ先が有った」なんて無責任に宣うんだから理由には出来ない。

 一つ言えるのは自殺に後悔は今もないし、ましてや頭から真っ逆さまにコンクリートに向かう感覚は最高だったってことだな。俺はあの日、つまらない人生にオサラバしたことに反省はしない。

 

 俺は多分だが、もっと色々出来た。もっと頭の良い高校に、もっと良い大学に行けたし、知り合いの質ももっとよく出来たかもしれない(人間に優劣なんて馬鹿馬鹿しいが、実際優劣は有るからな)。人格者のフリも出来たかもな。

 でも興味なかった。俺は能力が低い無能ではなかったが、今あるものに上手く嵌め込まれる能力ばかり高い空虚な人間だった。俺は薄っぺらくて、だから何も望めなかった。多分、金を持ったりいい仕事についた所で何も感じなかっただろう。「その境遇に見合った」生き方に勝手に慣れていくだけだ。

 

 知り合いも、学歴も、思い出も、恋愛も、遊びも何もかもがハリボテで空っぽだ。惰性でやってることしか無いから、俺は人生で得たものにも、今後得られるだろうものにも全く執着が持てなかった。

 

 

 

 

 

 でもあの日、青白くて綺麗な肌を見た。そういう盤面がひっくり返ったあの日から少しだけ違った。

 やり直せるなら全力ってやつをやってみるべきだと思った。全力で生きて、無様に死ぬ外のヤツラが「とても美しい」とホンキで思ったし、俺はそういう死に方を求めるようになった。

 

 生きることに興味を持てなかったんだ、仕方ないだろ。目的意識を持たない事の苦痛だけをよく知っている俺は、目標が有るだけで羽が生えたように自由だった。今までは鎖だらけだったみたいに。

 そして今だ。俺は望んできた死が迫っている。それは理屈でもそうだが、身体が分かっている。避けがたい確率で俺は死ぬのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 それは俺の望みだったはずだ。そう今も言っている。

 意味のある死になるだろう。きっと泣いてくれるやつも居るし、憤るやつも居るし、怒り猛るやつも居るだろう。惜しんでくれるやつも、寂しがるやつも、決意を新たにするやつも居る。俺の死はちゃんと波紋になって、世界に残っていくのだろう。

 

 理想形だ。良い死時じゃないか。

 なのに――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その理由は、おぬしが見つけることだ」

 

 面倒くさい男だ。そんな事、考えなくても結論は出ているじゃないか。バカバカしい、本当に大バカ者だ。

 走ってはみているが身体が妙に重い、時々ふらつくのも気になる。視界もボヤける、恐らく「わたし」が急に動き出した弊害だろう。バックグラウンドの演算処理がもたつき気味なのが分かる。

 

 更に時間も無ければ長距離射程に向いた端末もない、仕方なく5つほど適当に見繕った端末を引き連れて走っている始末だ。応援に向かっても無事では済まない。

 

「フルスロットルのバカの発想は肌に合わないな、全く…………ッ!」

 

 ハンターの反応に残り1.8km、この速度なら間に合うかもしれない。端末は潰れるが仕方ない、替えは幸い置いてあるとのことだ。

 しかし、先程の報告ではもうぶつかっているらしい。面倒なことに「404小隊だけではない数」との報告だ、普通に見ればグローザ。最悪全く別の部隊。

 

 元々ハンターを救援しきれる可能性は低かったというのに、いよいよ切羽詰まってきている。片割れは随分と荒れているし――――――どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

『待たせたな、ハンター』

「おま――――――何で来た!」

 

 ビル街から走り抜けてきたウロボロスを見るなり、ハンターはぎょっとした顔で通信越しに叫ぶ。

 まさか言うことを素直に聞くとは思っていなかったとはいえ流石に予想外。

 

 突然の出来事に固まっていると、飛んできた弾丸に焦り調子でサマーソルト。ハンターはそのままその方向に銃を構えたがすぐに発煙弾で誤魔化されてしまう。

 

「指揮官は黙って見物してろって言っただろ!」

『はあ? まあ、指揮官はそうするべきだな。指揮官は』

 

 訳の分からないことを、と反射的に怒鳴り散らそうとすると通信に別の鉄血が横入りする。

 

『…………ウロボロスさんの無茶振りっていつものことなんで』

「お前、第十三大隊の隊長? おい待てまさか!?」

 

――まあ、そのまさかという事になるのだがな。

 何故か隊長は照れたような笑い声を通信越しに漏らすと、突然声を張り上げる。

 

『ええー、という訳で! ウロボロスは指揮の不可能な状態になった為、現時刻を持って本作戦の総指揮をこの私が務めさせていただきます!』

『だからわたしは増援に向かっていい。これで良いか?』

「滅茶苦茶だなお前!?」

 

 低空姿勢で直ぐ側まで走ってきたウロボロスの頭を思いきり拳銃で殴る。僅かに鈍色の瞳が潤むと、弱々しい表情で頭を抑えながら口を尖らせる。

 

「痛ぁっ! せっかく助けに来てやったのに酷いではないかぁ!」

「お前みたいなバカ、一発殴るぐらいしねえと気が済むかっての!?」

「うぅ、其処まで言うこと有るか…………?」

 

――ってかお前、そんな女っぽい仕草するやつだったか?

 何処と無くナヨっちいというイメージを抱いてしまったのに思わず顔を顰める。普段のウロボロスは専ら「鉄血で一番男前」という通り方をしていて、こんな普通の反応をするのはとても珍しいことだった。

 

 妙なギャップに動揺している内に、周りを飛び回っていた端末が逃げていくビークルを追いかけ回す。404小隊は其れを使ってゲリラ戦法をひたすら繰り返しているのだ。

 

「…………さっき報告してきた時も急にキャラ変わってたな、そう言えば」

「どうでも良いだろ。それより――――ほら、逃げる準備をしろ」

 

 ほらほら、と指差すウロボロスにハンターが怒鳴る。

 

「馬鹿野郎、此処捨てたらキツイのはお前だ!」

「五月蝿い、すぐに下がれ。下がらないならこの場で端末で蜂の巣にするからな」

 

――なんて強引な言い草だ、今のは演技かよ。

 有無を言わせない輝く瞳。ハンターが口答えしようとしても固まってしまう、普段とは違う怜悧な煌めきがコアまで一直線に貫いてきた。

 

 かと思えば少しだけウロボロスがフラツイたかと思うと、頭を振って今度は睨むような視線を向ける。

 

「早く行け。わたしも長くは保たない…………()()()()()()()()()()()

「……今日のお前は変だ、無理せず下がれよ」

 

 言われなくてもそうさせてもらう、と釣り上がったいつもの笑みで威勢の良い返事。ハンターは正直彼女の身を案じてはいたのだが、牽制は必要だろうとビークルに銃を構えると

 

「行けって言っただろ。アンタ、ホント物分かり悪くて困る――――此処でまた倒れたらあの人にぶっ潰されるぞ、帰りな」

 

 と妙な口調でウロボロスが溜息をつく。

――そうか。そっちがお前の元の喋り方か。

 

 妙な得心の行った表情でハンターが銃を下ろすと、ビークルから真逆に走り抜けていく。

 ウロボロスは見届けるまでもなく端末を大きく展開させると威嚇射撃を開始した。

 

「さて、『わたし達』は何処まで戦えるのか――――――――おぬし達で試そうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、ハンターがどっか行った! またウロボロスが迎え撃ってくる!」

「何ですって!? あの変態人形、また混戦がお望みってわけ!?」

 

 走り込んできたウロボロスに45がビークルを急旋回して逃げる。しかし速度は互角、流石の9も露骨に舌打ちしながらフラッシュバンを投げつける。

 

「誤魔化して逃げよう! 蹴りで人形を壊してくる奴なんか相手にしてたら一溜まりもないしね!」

「分かってるよ、G11と416は万が一に備えて銃は構えておいてね」

 

 45と9で勝手に話が進むのに二人はもう何も答えなかった。静かにダミー達が銃だけをしっかりと持って車の物陰に隠れる。

 

 鋭い閃光と爆音――――――だが、明らかに弱い。

 9が振り向くと何食わぬ顔で走ってくるウロボロス、恐らく彼女は拾い上げて遥か彼方に投げ捨てたと見るべきだ。

 

「やり口が滅茶苦茶だ!」

「そういう奴よ、ほら追いつかれる!」

 

 赤黒い電流が走ったかと思うと、ウロボロスの速度が明らかに急上昇する。まるで走る稲妻の様相で駆け抜けてくるモノクロの少女に416が振り向いて叫ぶ。

 

「無理! もう当たりに行った方がマシよアレ!」

「そっか。じゃあそうしようかな」

 

 45のあっさりとした返答と同時にビークルが急回転する。ハンドルを振り切ったままアクセルを踏み切っているらしい、目が回るの程度は人形なら耐えられる。

 

 ウロボロスの端末が回転する視界をチラつく。容赦なく始まる斉射に思わず車内にしゃがみ込んでしまう。

 

「45、あんた頭おかしくなっちゃったの!?」

「大丈夫、自信あるから」

「は!? 何の自信よ――――――」

 

 応える前に車のフロントに何かが大きくぶつかった音がした。

 そのまま引き摺られていく何かの大きさが416達は見るまでもなく理解できる、エゲツないやり方だ。

 

――でも、これもしかして。

 416が嫌な予感をして45に叫ぶ。

 

「待って、これもしかしなくても」

「――――――まあそうだ、随分なご挨拶だな。我が宿敵諸君」

 

 引き摺られた何かの居る右側から声がする。

 

「わたしはな」

 

 ソレは段々と足音を帯びる。

 

「殺すのも殺されるのも嫌いではない」

 

 最初はゆっくり、もつれながら。

 

「ただし」

 

 どんどん、どんどん足音が早くなる。

 

「まだ、足りていない」

 

 テンポが追いつく。

 次に――――何かが飛び上がる音と共に、車体が僅かに揺れる。

 

「では斉射、生き延びてみせるのだぞ?」

 

 そして、不敵に女が嗤った。

 今度こそ目標を捕捉した全力斉射。機銃、突撃銃、機関短銃。判別できるだけでコレに相当するらしき端末達の一斉演奏。

 

 416達が近場のダミーを必死に盾にする。撃ち抜かれて生体パーツの抉れる音、骨格に当たって弾かれる軽快な音、まるで雑巾でも絞ったように液体が溢れる音。

――血が溢れる音?

 

 斉射が止む。416が銃と一緒にダミーから僅かに顔を見せると、左腕が捻れてズタズタになったウロボロスの姿。見た目以上にダメージは負っているのか、息は荒い。

 416達のフルバーストに掠り傷を負いながらウロボロスが左腕を見ると、少し恨みがましいようなイジケた顔で運転席の方を見る。

 

「左腕がボロボロではないか…………わたしだって痛いんだぞ」

「それはごめんね~――――――お詫びにもう一本もボロボロにしてあげるよ」

 

 45が飄々と返すと、また輸送車が急回転を始める。端に立っていたウロボロスがまず真っ先に振り落とされそうになる。

 

 しかし左腕がしがみつく。腕の到るところから端子がひり出している筈の白い腕が縁に掴まっている。偶然ではない、その指の第二関節は確かに縁を握っているのだから。

 

「ほ~う、体が宙に浮く速度か。何なら416達も振り落とされるな、イカレ人形め。呵々ッ!」

 

 装甲の外側で嗤いながら独りで喋る。45は返事をしない、図星だったのか敵と会話をする気がないのか。

 急に息を呑む声を上げると、ウロボロスは今度こそ一人芝居を始める。

 

「…………何? 別働隊?」

「はあ、成る程な。それを分かっていないと思ってハンターに向かって今突っ切ってきたわけか」

「まあ引っかかればわたしの負けだな、呵々ッ――――――いや、お前の何処が悪い。わたしの責任だよ」

「――――そうだな、助けに行こう。彼女達とは後でも殺し合えるしな」

 

 まるで誰かが居るように喋るウロボロスは、416達は単純に「恐ろしかった」。

 血迷ったなどと笑わせない「対話の空気」が確かに貼り付けられていた。まるで本当に、此処にはもう一人人形が立っているかのようだ。

 

 独り言が終わると、突然左腕が離れて行く。

 

「ちょっと――――」

「お預けだ。腕もぼろぼろだしなあ――――――覚えておけよ? UMP45」

 

 恨み言と言うより、何処か楽しみそうな弾んだ口調で言い捨てると足音が走るビークルから離れて行く。

 416とG11はすぐさま構えるが、9が手で制した通り無駄だった。

 

「…………駄目ね、アイツ逃げてったわよ。足が速すぎる」

 

 416が冷たく呟くと、次には声が風に攫われていた。ビークルは最初から追跡など無縁の方向に舵を切っている。

 G11が大事を取ってスモーキンググレネードを投げると、煙の中で無骨なタイヤが地面を抉り走る。45が顎に手を当てて思案に入るのを見ると、ずっと静観していた9が助手席に外側から飛び乗る。

 

「45姉、アレは正面突破は無理。ジャミング装置の前に始末しようよ」

「まさか車で轢いてもピンピンしてるなんて思わなかったな~、ゲリラ戦法の破り方が滅茶苦茶過ぎ。相当面倒な仕事みたい…………」

 

 通りざまにビークルに飛び乗った45のダミーが振り向くと、中には血塗れのダミーが数体転がっている。一応と幾つか近くの周辺警戒に当たらせていて正解だった、無駄死には一応防げている。

 

 どれも大体が蜂の巣にされている。ウロボロスが使っていた端末の内一つに妙に高性能な機銃が有ったから、多分ソレの餌食にされたのだろう。

 

 G11が少し上の空になると、両肩を抱いてブルリとして泣きべそをかく。

 

「アイツがビークルを掴んできた時、あたし一瞬ビークルごと放り投げられるかと思った」

「まあ、あんな狂気じみた執念でしがみつかれたらね。あんたにしては珍しくよく堪えたわ」

 

 とても遠回しに416が慰めてやるが、G11はまるで気づいている様子はない。

――でも。ちゃんとダメージは入ってるみたい。

 

 至近距離で416を叩き込まれたウロボロスは、勿論此方ほど露骨にダメージを受けた様子はないが――――確かに負傷したような様子は有った。疑似血液も流れていたし、特に捻じ切れる寸前だった左腕は少し動かしにくそうにしていた。

 416がとぼけたような顔で45達に話しかける。

 

「どうやら電磁波はあのファンネルとは併用できないみたいだし、不死身の化物って訳でも無さそうよ? 活路が見えてきたじゃない」

 

 洒落にならない洒落のつもりで笑ってみせたのだが、45が窓から顔を見せるとニヤニヤとしている。416はすぐに素面に戻った。

 

「だね~、撃てば死ぬって分かっただけ大きな進歩だよ。よく分かってるじゃない、416」

「笑えないジョークよ」

「知ってる♪」

「やっぱあんた嫌い」

 

 45は真意の見えない作り笑いをしたまま操縦に戻る。

 それを確認するなり少しはしゃぎだした9が、固まっているG11とそれを何とかしようと悪戦苦闘する416の間に割って入る。

 

「ねえねえ! 陽動は上手く行ったけど、アッチでウロボロス倒してくれないかな!」

 

 あまりの希望的観測に416が鼻で笑う。

 

「無理よ、彼女達が幾らエリート人形とは言え――――――化物は殺せないわよ」




別に他作品に出ても構わんぞ。報告も要らん、パワーバランスを壊したかったら呼べ。コメディは…………分からん。出来るか?
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