わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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匣の中の悪魔

 ヤバいな、体中から擬似血液が止まらねえ。これは死ぬわ、流石に俺でも分かる。

 

『そうだな。長くは保たん、計算するのは……まあ億劫だな』

 

 そうだよな。自分の死ぬ時間なんてカウントしたくねえし。

 

 身体から生命が抜ける錯覚。この出血量はかなり致命傷だ、早めに何とかしてもらわないと絶対に死ぬ。俺は上級AIに過ぎないからなあ、バックアップもないし。

 

『…………死ぬが、まだなんだろう?』

 

 まあ、そうだよ。死ぬから静かにしてましょうって柄じゃねえんだ、俺って。

 死ぬにしたって最後まで何か、こうやり通したいことってのは有る。

 

『立てるか? わたしが端末は何とかしてやる、持ち直せ』

 

 分かってます、分かってますよウロボロス殿。全く、知らない間に俺がこき使われてやんの。何でだ? 最初は俺が周りを振り回してたはずなのにな。

 

 危険な場所でも部下を連れてったし、阿呆の行列でストーリーはしっちゃかめっちゃかにしてやったし、今だって無茶な命令をしちまった。幾ら何でも酷いのは俺だって知ってるさ。

 

『――――主様はまだ暴れてなど居ないよ。周りを気にしていた』

 

 そうか?

 

『そうだ。もう今は、そんな事はしなくていいが』

 

 そうなの?

 

『ああ、思う存分に暴れていい。生命の際限など蹴り飛ばし、周りの都合など笑い飛ばし、今やりたいように出来る。おぬしは漸く、初めての自由を手にしたのだぞ?』

 

 そうだったのか。

 

『せっかくの大舞台だ、派手に好き勝手にやればいいじゃないか――――別に、わたしで良ければ一緒に死んでやる。独りでもない』

 

 まあ、実質一人だけどな。

 

『いいや、二人だ。昔も、今も、最後まで』

 

 おいおい。照れるぞ、告白されてる気分だ。

 

『はっ、誰がこんな阿呆と』

 

 言ってくれるねえ、酷いやつだ。

 でもそうだよな。俺ってやつはこの期に及んで、何かお綺麗事に殉じようなんて誠意を見せちまった気がするな。

 

 違うだろ。俺達は、そういうものじゃない。俺達に与えられた生命の意味は、俺達が生きている意味は、俺達がこの思考を止められない理由は、そんなクソみたいなお綺麗事は関係ねえ。

――身勝手に、滅茶苦茶に、理不尽に、踊るぞ。

 

 りょーかい。じゃあ。まず、端末を起動しよう。最後までやってやろうじゃないか。

 

【俺達が何と呼ばれてきたか、奴らに思い出させてやろうじゃあないか】

【地獄を引き連れ夜の帳を蹴散らそう。覚めぬ悪夢は食い潰せる。終わらぬ惨劇は飲み干せばいい。消えない銃声を嘲ってやれ】

【そう。全てを呑み尽くす故に、輪廻する無尽の強欲故に。わたし達の名前は――――――こう名付けられたのだから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に死んだと思いたいけど…………」

 

 グローザの呟きに一〇〇式が笑うと、それは起きた。

 

 時が凍りつく。砂煙から鈍い煌めきが映ったかと思えば、這いずり回るように飛び出してきた巨大なブレードが突き刺さる。

 

「えっ――――――」

 

 一〇〇式は思わず目を白黒させて自分の身体を見た。

 大きな、大きなブレードが腹を貫いている。伸びたワイヤーは砂煙の奥へと続き、段々と痛みがはっきりと現れてくる。熱くなる身体にAI機能が異常をきたしだした。

 

 口から血が垂れ流される。状況がはっきりと分からないまま苦痛だけが増していく、周りの空気も凍りついたような状態で誰も微動だにしない。

 一〇〇式が不思議そうな、胡乱な目つきで横のグローザを見る。

 

「けほっ…………グローザさ、ん。これ、刺さって――――」

「一〇〇式!」

 

 声は届かない。急速に住処に戻っていくブレードをグローザ達が必死で撃ち続けたが、抵抗虚しく一〇〇式の身体が砂煙に呑み込まれていく。

 

 頭の張り裂けそうな激痛を伴って引き摺られた一〇〇式が、躍起になって跳ね回るブレードを引き抜こうとするが抜けない。後ろの返しが生体パーツを抉って更に口から血を吐き出す。

――何で。

 問いは現れた悦楽の滲んだ女の嗤いで返答される。

 

「すまねえなあ、もう手加減は出来そうになくてさ」

「てか、げん…………?」

 

 意味が分からないと、首を振る一〇〇式だがその眼に敵意は消えていない。素直に彼はその最期を称賛する。

――殺すには忍びない、とでも?

 

「いいや、一周回って失礼だ」

 

 後悔などなし。虚ろな瞳に雷が疾走る。

 

 ゆっくりとした目つきで、少女が左手に持っている機関短銃を見る。まるで獲物を見つけたように剥き出しの左カメラがギョロギョロとそれを舐め回すように観察していくと、ゆっくりと彼の右手が伸びていく。

 

「悪い。これ、貰うぜ」

 

 ぶちり。肘から下を乱暴に引きちぎった。生体パーツをスキンから食い千切り、段々と奥まで抉り、最後に骨格をへし折る。

 声にならない激痛に歯がガチガチと音を立てる。一〇〇式が絶叫するが――――其の眼はそれでも、彼を睨む。

 

「ああああああああ――――――ッ!」

「マジで加減出来なくて…………ごめん」

 

 彼は本当に申し訳なさそうに嗤った。優しいのか、狂っているのかも分からない柔らかな表情だ。

 外では恐怖に呑まれて慄くばかりの一同に、45が奮い立たせるように手を挙げて叫んでいた。

 

「撃って! ウロボロスは――――――死んでないわ!」

 

 中から聞こえる断末魔と同時並行に響いた指示に、空気がどす黒く濁る。

 錯乱と命令遵守の法則にエラーを吐き出しながらFALを筆頭に砂煙への乱射が開始される。

 

――あーあー、味方ごと撃っているな。主様が無茶なやり方で脅かすから。

 ウロボロスが愉快そうに嗤うと、彼も釣られて更に口端を吊り上げる。

 何時だってそうだった。彼は地獄に笑って咲き乱れる彼岸花、その姿は畏れ多く、なのに何故か親しげに、そして誰よりも残虐で。

 

「――――――――はははっ! 人形に恐怖なんて感情を与えた人間様のミスだなあ!」

 

 彼は飛んでくる弾丸を全て一〇〇式を盾にして受け止めていく。

 最初は彼の手を振り解こうと抵抗していた力が段々と弱くなり、弾丸に体を震わせて呻いていた声が段々と小さくなり。ゆっくり、ゆっくりと小さな身体が壁にもたれ込む彼にのしかかってきた。

 死んだのだろう。彼は興味を示さない、生き様にだけは賞賛を送った。

 

 弾幕冷めやらぬ内、彼は腕ごと奪い取った機関短銃を乱射する。おおよそ弾丸の発射方向だ、幾つか悲鳴が響いた。

――流石、わたしが認めた主だ。

 

「命中、位置覚えたか」

 

――当たり前だろう、わたしを誰だと思っている?

 彼はまた大笑いをしてみせると、ゆっくりと軋む体を起こしながら答える。体中が電流を纏うと、それは電磁となって小さな砂塵を帯び始める。

 

「じゃあ――――――」

 

 彼が寄りかかってきていた肉塊からブレードを引き抜いて、真っ直ぐ蹴っ飛ばした。

 誰かがぶつかる衝突音と共に砂煙から躍り出る。軽くしゃがみ込んで飛び出しただけだと言うのに、砂煙はあっという間に彼らを避けていく。まるで畏れているようだ。

 

 調節機能の壊れたワイヤーがズルリと伸びるとブレードがのたうち回る、まるでそれは尻尾のようにしなって遅れながら彼の首筋を通り過ぎた。

 

「行くかぁっ!」

「目標捕捉! 嘘でしょ、あんだけ弾を馬鹿みたいに使ったのに死なないって!?」

 

 416の叫びにゆらりと振り向いたウロボロスが電流を血走らせた紅く、真っ赤な瞳でせせら笑う。ギョロギョロと辺りを見回す剥き出しのカメラが紅い尾を引いてまるで流星のごとし。

 

「オレが死にたくなるまでオレは死なねえんだよ――――――ッ!」

 

 ガタガタと嗤ってワイヤーごとブレードを振り回す、ぶつかった9のダミーに引っ掛けると瞬く間に飛んで消えていった。

 後ろからグローザが射撃しようとすると、機銃端末が彼女を追い回す。誘導ミサイルまで飛んできている状態ではとても加勢できない。

 

 四方八方から浴びる銃弾を避けようともしない。スキンを食い破ろうと彼はもうそれに何も思わない、何せ()()()()()()()()()()()()()

 

「端末と本体が全く別の目的で動いてる!?」

「ご名答、しかし遅い」

 

 予測不可能、そんな想定が出来るAIは此処には居なかった。

 

「テメエも偽物か」

 

 ぶつかった勢いに倒れ込んでいくダミーに飛びかかって足をつけると、半狂乱に鳩尾から右肩までブレードで切り裂く。

 吹き出た疑似血液に塗れたのも気にせず、体を大きく捻るとダミーを足場にして上に飛び上がる。

 

 天井に足がつくと途端に窓硝子が全て割れた。腕パーツを失ってウロボロスの動きに自由運動を起こすブレードがしなると、ぐるりとうねり倒す動きに一同が息を呑んだ。さながら蛇、唯暴れるだけの金属パーツには残虐さが宿っている。

 円盤端末からパイルバンカーを打ち出すと、捕まえた416にニヤリと一笑。

 

「次、お前」

 

――では同時斉射だ。息はソチラが合わせろ。

 何かの断末魔のような摩擦音を上げながらブレードを手首まで巻き戻すと、彼の瞳が一際紅く尾を引いていく。

 

「了解――――――耐えろよ? 雑兵共」

 

 そう呟くと、ブレードが明後日のカラビーナに突き刺さる。同時並行でミサイル、機銃の連続投射、今までに比べても残弾を考慮しない言葉通りのバースト射撃。

 共鳴、彼らは味わうように呟いた。

 

【スティンガー、バースト…………ッ!】

 

 カラビーナをすぐさま引っ張り上げて、416に向かって飛び込む。単調な動きだが同時に放たれた誘導ミサイルと機銃のせいで邪魔が出来ない。

 引き上げられていく416にカラビーナを叩きつけると、至近距離で一〇〇式を撃ち込みながら地面と衝突。凄まじい量の液体が吹き上がるのと同時に、身体の潰れていく嫌な音。衝撃でダミーの内部構造が壊滅したらしい。二体分纏めてグチャグチャだ。

 

 すぐにブレードが砂煙を払うと、ギロリと赤いアイパーツが蠢く。忙しなく標的を一体一体確認する動きはまるで化物の其れ。

 

「コレも違う」

「皆ダミーを近場に配置! ダミーを身代わりに出来ないと一瞬で終わる――――!」

 

 45の指示をウロボロスは一言たりとも聞く気はない。

 ダミーから腕ごと416を奪い取って持ち替えると、肉薄してきた9に構える。

 

「何だ、死にたがりかよお前」

 

 UMP9が構えられた瞬間に消える。

 気づけば後ろを走る姿に目を剥く、反応を見て彼が呆れたように唾を吐いた。

 

「じゃあ殺してやる、ダミーだろ?」

 

 そのまま引きずっていたブレードで9を絡め取ると、左肩をしならせてモーニングスターのように振り回しだした。

 言葉通りの質量兵器に一同が必死でかいくぐろうとするが、おかげで銃を構える暇がない。誘導ミサイルに時折衝突するダミーすら居る始末だ。

 

 飽きたように突然ダミーを投げ捨てると、ダミーが遠方で射撃していたカラビーナと衝突しながら軋みを上げる。

 

「あーあ、これ性に合わねえ。次試すか」

 

 そう言って今度は一目散に45の元へ走っていく。幾ら弾丸を放っても消えるような速度で避けてしまう、お話にならない。

 

 すかさず45がダミーを投げつけると、すぐに背中からブレードが突き出て血飛沫の牡丹が咲き乱れる。

 ダミーが持ち上げられると、歪に嗤った彼の顔。

 

「ははっ、良いねえ! でもこれはいい武器だ!」

 

 そのまま左腕ごと身体を急回転してダミーを本体に投げつける。凄まじい勢いで投げつけられたダミーに45が歯を食いしばりながら壁に激突すると、僅かに壁が砕けて小さく血を吐く。

 

「滅茶苦茶だね――――」

「そうかい!? 寄ってたかられちゃあ加減も出来ないさ!」

 

 急激にハイテンションに宣うと突然射撃音と共に彼が前のめりによろける。

 背中に斜めの弾痕が残る、零れる血を無視しながら首を鳴らすとウロボロスが振り向いた。

 

「G11、君はオレの愛用の端末で歓迎しよう」

「は? アイツ何言って――――」

 

 すぐ横に佇んでいた機銃端末にサマーソルト。

 凄まじい量の弾幕にウロボロスが何かを叱りつける。それはG11に飛んできた誘導ミサイルの音で掻き消されてよく聞こえない。

 

 ダミーに刺さったままだったブレードがぐねぐねと暴れ回りながら回収されていく。それを演出するように45の方から血飛沫が噴き上がった。

 

「阿呆、それでは弾切れする。そんな腑抜けは後でも殺せるさ――――――それより構えろ」

 

――ああ、そうか。まあわたし達ならそうした方が良いかもしれない。

 すぐに横に馳せ参じた機銃端末が、また誘導ミサイルと共に乱射を開始。放たれたパイルバンカーはカラビーナのメインフレームに命中、ウロボロスが愉快そうに嗤う。

 

「つーかまーえ――――――たぁっ!」

「けほっ!」

 

 引き合う勢いで思い切りブレードを刺す。コアを一突きだ、他のダミーも行動不能。ガタリと膝から崩れ落ちていく。

 血を吐き散らすカラビーナが、死に体でニヤリとウロボロスに笑う。

 

「命乞いなんて、してあげませんよ………………」

「そうかい。良い顔をする、オレの好みだぞ」

 

 そのままブレードを上に引き上げると血飛沫がウロボロスを覆い尽くす。

 くるりと回りながら首を刈り取ると、生首を持って引っ被るように擬似血液をごくりごくりと飲み干し始める。遠慮も倫理も有りはしない、彼に有るのは「生命を燃やし、燃え盛る生命をぶつける事」だけだ。

――手段など言ってられない。補給しておけ。

 

「言われなくてもそうするよ」

 

 狂ったように肩ごと上下させて嗤う。

 416が理解への拒絶反応を押さえ込みながら歯をぎりぎりと鳴らして睨みつける。

 

「この悪魔…………ッ!」

【悪魔ぁ? うーん、違うなぁ】

 

 パイルバンカーが地面とぶつかって跳ねながら416の横を通り過ぎるが、彼の顔は一際歪に愉悦を形どる。

 壁に刺さったパイルバンカーに引っ張られて肉薄し始めた。

 

 弾丸じみた勢いで416に向かうが、怪我の功名というべきか。横のダミーと位置をくるりと入れ替えてその場を凌ぐ。

 それが分かっていないのだろうか、衝突したダミーに言葉が続いていく。

 

【オレ達はウロボロス――――――悪魔なんて良いもんじゃねえよ】

 

 ブレードを胸に差し込むと、そのまま蹴ってその場に背を曲げて着地する。

 刹那に伸び切ったブレードが真っ直ぐと手首まで疾走る。気色の悪い作動音を上げながらダミーを手元まで引き寄せると、ブレードを抜き取ってメインフレームへ放り投げた。

 

「45、お前が先だったよ。悪い悪い」

「本当だよ、浮気者」

 

――あやつ、動じないか。厄介だぞ。

 ウロボロスの思案する声に構わず、彼がStingerを掴んで半狂乱に飛びかかる。

 

「殺せば良いんだろ。もう一発だ、用意しろ」

 

――はいはい。全く、AI使いの荒い主様だなあ。

 Stingerの作動部位が全て展開されると、グローザを追い回していた機銃が彼の直ぐ側に集合する。

 

 ブレードを45に放り投げながら全力斉射。誘導ミサイルの群れが敵軍に襲いかかり、二頭の鉄の蛇が獲物を追い回す。

 

「これで終わりだぞ――――――お前だけでも死んでもらおうじゃないか」

「…………………」

 

 迫る蛇に、彼女は汗一つ流さない。ブレードが45の直ぐ側まで迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、マジかお前…………」

 

 避けられた。否、45は避けなかったから、当たらなかった。

 彼の避けるだろうという想定は完全に外れた。45の首筋を掠めたブレードが奥の壁に突き刺さる。

 

「おしまい。私はアンタを恐れない」

 

 脳天目掛けてUMP45が乱射される。

 彼の身体が勢いよく45に飛び込み、バランスを崩し、地面に擦り付けられながら通り過ぎていく。45はまるでそれを当然のように眺めると、そのまま脳天から狙いを外さずに射撃を続けた。

 

「…………成る程。そりゃあ完敗、だな」

 

 全てが命中したわけではなかったが、幾つかが命中。同時に機銃とパイルバンカーの動きが止まってガタリと地に落ちた。

 無感動に呟く声で、狂騒の終わりが告げられていく。

 

「――――――ウロボロス、撃破完了」

 

 それに反抗する者は、もう出ては来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、これもしかして三途の川手前ってやつ?」

「まあそうなるな」

 

 うわっ、何か美少女居る。

 真っ暗な空間。言葉通り真っ暗、多分これもう死んでるな、何か自殺した時も既視感有るような無いような。

 

――いやー、にしてもだな。

 不躾に彼女を見回すなりつい唸ってしまう。

 

「いやーウロボロス可愛いなー!」

「なっ!? 何だ急に、死ぬのかもう死んでいるが更に死にたいか!?」

 

 あらあら、顔真っ赤にしちゃって。

 俺はこの顔つきであんなヤベーこと言った挙げ句、カラビーナの生首から血とか飲んじゃってたのか…………うわ急に罪悪感。でもハイになるとああいうことしちゃう性だから仕方ないよなあ。

 

 ってか俺自殺前の服装じゃん、うわー何か一周回って感慨深いような嫌なような。超ラフじゃん、ウロボロスの際どい衣装に比べて超ラフじゃん。

――はい、息抜き終わり。

 

「…………で、俺死ぬのかコレ?」

「さあな。感覚器官は完全にトンでいる、コアは生きているから辛うじてこうやって脳内会議は出来るくらいと見ておけ」

「派手にやられたなー、まあヘッドショット喰らいまくった気もするし仕方ないか」

 

 仕方ないか、ではないわ馬鹿。と頭を思いっきり叩かれる。痛い、こんな感覚を再現しなくてもいいですよね辞めて下さい。

 

――しばらく無言。じーっと俺を見るウロボロスの顔は複雑だ、怒ってるような、哀れんでるような、でもちょっと満ち足りた感じもする。当たり前だけど、顔を見ただけじゃ何も分からない訳で。

 取り敢えず頭を下げておく。

 

「…………何だ、急に」

「悪かった。お前の生命を無駄遣いしたよ、死んでも償いきれねえ」

 

 身勝手に生きたにしても、コイツにぐらいは俺は頭を下げる道理が有るはずだ。

 せっかく貰った生命は思いっきり無駄遣いだ。正直、今となっちゃ生き恥を晒してでも最後は逃げるべきだった気もする。

 

「頭など下げなくていい、わたしが自分の意志で許した事だ」

「それでもだ。お前に甘えすぎた」

「もう良いって」

 

 無理やり顎を持って顔を上げられる。怜悧な瞳が俺の奥底まで見透かすように睨みつけてくる。

 

「わたしはおぬしに何もかも明け渡してなど居ない。わたしは「粗末にされていい」と認めなくては粗末に扱う事など許さん」

「………………そうか。まあ、そう言うなら」

 

 これはこれで思い上がりってか。いやはや、天狗は良くない。

 

 

 

 

 

「あのー、手を離して」

「いや。今聞いてやる――――――本当に死にたいか?」

 

 は? 何だ急に。

 思わず顔を顰めてしまう。

 

「俺はこの短編小説一冊にも満たないちっぽけな人生でずっと宣ったぞ、死にたいって」

「そうだな」

「其の為に戦ってきた、推しの首だってもいだ」

「そうだな」

「最後なんか大暴れだ、動画で300万再生出来る神作画じゃないだろうか」

「そうだな――――それで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いざ死ぬとなったおぬしはどう思った。今、どうしたい」

 

 それは。

 いや、それは卑怯なことを言うものだ。あの時も同じ結論だったのを、お前は知ってるだろうに。俺が最後に、空中で何を思ってへしゃげたか。

 

――でも。だからこそ、聞いてくれたんだな。

 

「有難うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――死に、たく…………は、ないな」

「まだ動くって…………凄まじい執念」

 

 立ち上がることも出来ない化物は、未だに足掻いていた。

 血反吐を吐きながら、地べたを這いつくばって、惨めさなど受け止めた。誰よりも弱者を嫌った彼は、この場の誰よりも弱者たるその無様さに甘んじた。

 

――だって。

 

「死にたく、ないしな…………」

 

 つかつかと歩いてきた45が服の襟元を持ち上げると、顔を突き合わせる。抵抗はない、そんな力はもうないのだろう。

 其の右眼は胡乱。左のカメラは既に動いてすら居ない。生気は薄くて、指一本動かすのが絶大な苦痛を伴っているのが見れば分かる。アレだけの動きをしたのだ、内部機関もずたずたなのは想像に難くない。

 

 恐らく世界でもそう知る者は居ないだろう、そんな苦痛を受け止めながら尚。眼には僅かな光が有った。バチリバチリと電流が45の白い肌を撫でるように伝播する、力は緩まない。

 45にも理由は分からなかったが、だからこそ殊更に真剣な眼でソイツに問う。

 

「聞いてあげる。どうして、死にたくないって思ったのかしら?」

「…………面白いことを、聞くな。ははは――――」

 

 白い手のひらが蜂の巣になる。45は何故か苛立ったような表情をしている。

 

「はっきり答えるべきよ。これだけ殺して、何が足りないの? アンタは答える義務がある」

「――――――理由。理由なあ、取って付けていいか?」

「構わないわ。今、此処で私を納得させて」

 

 

 

 

 

「最初から、死にたくなかったからだ」

「部下に恵まれ…………上司に恵まれ………………友人に恵まれ…………宿敵にすら、こう問いかけられる――――――」

「オレの生は、ハリボテの命は――――――こんなに、綺麗に飾ってもらった」

「勿体無いだろ?…………だから、わたしは。オレは、死にたくなんて無い――――――物足りないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やーっとゲロったか、戦闘狂のとんちき」

「――――45! 避けて!」

 

 突然弾丸の雨あられが45達に降り注ぐ。

 グローザの掛け声で辛うじて避けた45達が、素早く指示を出して物陰に逃げ込む。銃弾の数は尋常ではない。数体の鉄血ということはないだろう。

 

――何でだ?

 放り捨てられた彼には、その影が明ける朝日に照らされて全て見えていた。

 

「ったく、長えんだよ。そんなのなあ、オレ達全員知ってるよ」

「全く理解に苦しむぞ。其の程度の当然の欲求、何で口に出さないんだ? 私には真面目にわからないな」

「――――まあ、ウロボロスさんですから。気難しい人なんで」

 

 帰還命令を出した全員が集合していた。

 ハンター、処刑人、第十三大隊。誰一人欠けていない、彼が確かに最上級命令で下がらせた兵全てが出揃っている。

 

 虚ろな瞳が驚嘆に揺れると、スケアクロウが眼だけでニヤリとした。

 

「何で、居るんだ…………」

「わたくしが代理人様に真っ先に報告させてもらいました。「死にぞこないが居る」、と」

「どうりで話に出てこなかったわけだ……ご苦労さん」

「忠誠を誓った身ですので、お構いなく」

 

 驚愕は有ったが、違和感はなかった。スケアクロウには完全に自由行動をさせていたから、まあそういうこともありえただろう。

 大事を取って「本作戦とは切り離した権限」を与えたのが失敗だった。立場上は同格なのだ、てっきり全軍が下がればあっさりと見限ってくれると思っていたのだが――――――まさか軍そのものを動かすとは予想していなかった。

 

『ウロボロス。一つ見誤ったようね』

 

 響く声は懐かしい。凛として、冷えていて、でも少しだけ暖かい。聞くだけで何故か涙が出てきた。

――ああ。いっつも卑怯な人だ、大事な時は何時もアンタが絡んでんだよ。

 

 いよいよ返すものが思いつかなくて困る、と彼は辛うじて笑ってみせる。

 

「なるほど…………確かに、代理人殿の指示なら。無力化出来るわけですね」

『そういう事です。全く、役立たずどころか問題児よ――――――――――さあ、今度こそ帰りなさい。朝帰りとは感心しませんね』

「すみません…………一つだけ」

『何かしら? 一つ答える毎に指をへし折りますが』

「何で――――――――オレを助けるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方が言ったのでしょう――――役に立たない部下が居ても、長い目で見てやれと』

 

 言ったっけなあ、それ。

 まあ良いや。

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