『わたし達』が
『ガンスミスと』
『M1895の』
【銃器紹介!】
おおー、始まった始まった。侵入者に無理言って自動接続までしてもらえるように改良したオンボロラジオだが、音質の粗さが一周回って懐古趣味をくすぐられるねえ、これは。
――わたし達が時代遅れの銃の知識など必要か?
分かってないな―お前は。こういうのは趣味で聞いてるに決まってんだろ。
何時も通り息の合った男女の前置きが終わると、いそいそと今回のゲストが喋り始める。特に理由はないのだが、俺は男の方の声が非常に気に入っている。
暫く黙って銃の用語がカタカタと並べ立てられていくのを聞いていると、扉がノックされる。俺の自室さあ、訪問客最近マジで多い。
「はいどうぞ」
「ウロボロス、さん」
ぎこちない口調で入ってきたのは新入りのJeagerらしい、第十三大隊に所属しているのだとか。
別に敬称をつけられるほど高尚な存在だった覚えもないので、適当に座るように指示する。第十三大隊では未だに俺は「名誉監督」らしい。
――何だか野球みたいだな。
俺もそう言った気がする。
「別に「さん」は要らない、好きに呼んでくれ」
「いえ。あの、メットに怒られますので」
隊長の名前だったっけ、メット。俺一人も覚えないままあの部隊手放したからよく分からないけど。
――おぬし、わたしでもちょっとアレに思うぐらい適当だよな。
それは有るね。
喧しいラジオを切る。確かログは残してもらってるから、侵入者に言えば後でも聞けるはずだ。今日は何だっけ――――――何か、さるばとろとろが何とかかんとか。
――それ、何か聞き覚えが有るような。
ええ? 有るっけ。俺ない…………いや? 何か引っかかるな。うーん? さるばとろとろねえ…………。
まあ後にしよう。要件を尋ねる。
「それで何だ。見ての通り忙しいのだが」
「ああ、手紙です」
手紙ぃ? 俺に手紙って、そりゃまた古風な奴も居たものだ。そう言えばこの前匿名のラブレターとか届いた気もするが、アレは誰だったんだろうな?
――おい、主様の大嫌いなあやつの手紙じゃないのか。
え。あ、思い出したくなかったのに思い出してしまった。おい巫山戯んなお前。
――いや、その。何だ、悪かったな。
冗談だ。
「まあ有難う。中身は――――別に開封済みでも構わないが、取り敢えず現物をくれるか?」
「あ、は、はい。どうぞ」
普通の手紙だ。
――だがこの紙質。やっぱりあやつだな。
え~。やだなー…………まあ、でも読んでやらないのは可哀想だしなあ。
――おぬし、変な所が甘い。
仕方なく破って中身を読む。
拝啓、Ouroboros様。
僕です。今に限らずこの地域はとても寒いと思いますが、そろそろ上着くらいは着ていらっしゃることでしょうか。というか着て下さい、僕も人のことは言えませんが貴方を見ているとこのコートを掛けてあげそうです、そのままあらぬ所を触られては困るでしょう?
というかおへそを見ていると控えめに言って発情するのでいい加減にして下さい、精神的NLでも肉体的GLだと界隈で怒られてしまいます。僕も限界が近い。
さて、最期に会ってから随分経ちますが、まず生きておられるでしょうか? このお手紙、ちゃんと読んでもらえていますか? 後返信ください、寂しいです。そろそろメンヘラが出てきてしまいそうです、好き。
通りすがった404小隊から「瀕死には追い込んだけど、後はわからない」というお話を聞きました。あの人達大雑把すぎて思わず殺しかけました、正直真面目に心配してるのでお返事くださいね。お返事ください。ください。お願いだからかまって。
アレから色々有りましたが、君は顔を出していませんね。僕の予想では第六戦役でひょっこり現れる展開が美味しいと思うので、多分そういう感じなのだと思います。君、そういうの結構好きそうですしね。
イメチェンとかしてますよね? 僕もうウロボロス推しだからどんな服装でもバク褒めしちゃいますよ。何ならディスコの服装でも抱きついてそのままドールズフロントラインも吝かではない。
話が逸れました。
ともかく無事を祈ります。後結婚して下さい。敬具。
「は~、おキレイな字でゴミみたいな言葉を綴る女だな全く――――――言われんでもその内構ってやる」
ま、とはいえ本気とは行かないわけだが。
腕は千切れっぱなしだからマネキンみたいな雑なやつだし、左眼も大変グロテスクなので今は眼帯をしている。ぶっちゃけ縛りプレイ、端末もハイエンドなやつ以外は全滅したしな。
後、どうやら二重人格になった挙げ句随分とシステムに負担をかけたせいでそもそもStingerが暫く使えないとも言っていた。でも仕事有るんですよ、代理人厳しい。
――厳しかったらもうスクラップだよ。
まあ、そうか。
一人でうなずいていると、新人が恐る恐ると言った表情で俺にお伺いを立ててくる。
「どうした、質問なら受け付けるが」
「ああー、いや。ウロボロスさんってツインテールだって聞いてたんですが……………」
あ、そうだな。今日から髪型変えたし。
――確かにポニーテールの方がキャラでは有るがな。
だろ?
「イメチェンだイメチェン。ほら、眼帯とツインテって相性が悪いだろう?」
「はあ。まあ同意はしますけど」
「代理人殿が新調してくれた服もだな、前よりは少しばかり垢抜けたからな…………」
ハンガーに立て掛けたモッズコートを見る。フード付きのごついやつだ。
何でも特別製のやつらしくて、彼女なりに「俺に似合うもの」として作ったやつだと聞いた。そりゃあ着ざるを得ない、ファッションは好かれたい相手に好かれるために仕立てるものだからな。
――本当に忠犬だな。
もう其れでいいや。どうせ熱くなって脱ぐとは言え、まあ大事にしたいとは思ってる。
「ともかく、渡すものは渡しましたし失礼します」
「おいおい、待たんか。お駄賃だ」
逃げるように出ていくJeagerに、処刑人から奪った酒コレクションの一角を放り投げる。
目を白黒させる。まあ貴重なものだとは聞いている。
「こ、これがお駄賃ですか!? とんでもない酒じゃないかコレ…………?」
「まあな。おぬし、確かニュービーだろ――――馬鹿な先輩から祝いの品だ、処刑人を脅す時に使え」
「え、ええ…………!?」
――ろくでもない教育を後輩に施すんじゃない。
はあ? いや、ちょっとぐらい上司にやり返し出来る職場じゃないとなあ。むしろガッチガチの方がクソッタレ。
しばらくラベルをグルグルとさせて見ていたが、俺がさっぱり返しても受け取らない姿勢だから諦めたのだろう。妙に深い礼をして扉を開ける。
「ああ、それともうすぐミーティングが始まります。だから今度こそ概要くらいは聞きに来るように――――――代理人、かなり目が据わってましたよ」
「え、マジか。分かった、すぐ支度する」
いつも寝てるから覚えてないんだけどなあ、指揮も昔から隊長に放り投げてたから別に覚えて無くてよかったと言うか。まあエリートとかは覚えておけば士気下げたい時に役に立つけど、どうせ全部薙ぎ倒す感じになるし。
――屁理屈は良いから支度しないか。全く、肝心な所以外は本当に駄目だな。
自殺するような軟弱者ですしねー。
「さて、面白いやつは――――――居らぬではないか! つまんねー!」
少女が一憂に沈む。荒野の中でやれやれと肩を竦める姿は何処か親しみ深いものが有るが、それ以前に手に持ったダミーの頭の威圧感に目を奪われる。
ネゲヴが舌打ちをすると、すぐさま発煙筒を投げて距離を取る。先程の凄まじい健脚を見れば彼女達の移動距離など意味があるのかは不明だったが、ともかく逃げる他ない。
――おいおい主様、煙に巻かれているぞ?
「誰が上手いこと言えと。とはいえそうだな、今回は無理をするなと代理人殿には念押しされている…………」
少女はコートの袖から手を出すと、顎に当てて考え込む。ネゲヴ達に比べて明らかに緊張感に欠ける仕草は若そうな雰囲気を見せるが、伸びた背筋は軍人どうこう以前に何か毅然とした態度を感じる。
唸るような駆動音とともにコートの左袖にブレードが帰っていく。
「うむ、ではこれを試し振りして帰るか。本題はこちらではないしな」
桃色の後ろ頭に思いを馳せつつ、少女が浮き上がるように跳ぶ。
――この距離を詰めてくるっての!?
思い切り発煙筒の範囲外に飛び出した彼女がネゲヴ小隊を一望すると、鈍色の瞳を赤く光らせてニヤリと笑う。
「いきなり逃走とはつれないなあ、少し遊ぼうじゃないか――――――」
浮き上がっていた身体をネゲヴ達に真っ直ぐと向けると、空中を思い切り蹴る。恐ろしいことにその動きは確かに成立しているらしく、直ぐ側に流星のように落ちてくる。
巻き上がる砂煙に思わず咳き込む一同のすぐ首筋に、生き物のように不規則にしなるブレードが通り過ぎていく。
「ダミーはどーれだ…………コレかね」
「ダボール、避けて!」
ダボールがネゲヴの鋭い命令に思わず身を屈めると、横のダミーがしゅるしゅるとワイヤーに巻き付かれて少女の方に引きずり込まれていく。
暫くの無音の後、僅かに晴れた煙の中で笑う彼女のシルエットが映り出す。
「大丈夫だ、殺しはしない――――――まあ手足がもげても知らんが? 生きてるなら復讐でも何でも出来るのだし、大目に見ておくれよ」
生体パーツのちぎれるような嫌な音と共に5.56mm NATO弾が吐き散らされる。何故そんなものを少女が放てたのかは――――取り敢えず考えないことにして疾走る。
――随分兵装が違うけど、この反応。まさか…………。
有る限りの消耗品で誤魔化しながら、ネゲヴの思考回路が急速に回転する。嫌な予感がどんどん進み、じっとりと額には冷や汗が浮かび始めた。
奇妙な言動。
近接戦への積極性。
ハイエンドモデルでも一際高い運動性能。
嫌な予感が確定された。舌打ち。
「まさか「アイツ」も居ない時に出会うはめになるとはね――――――!」
「居ないのか、それは有り難い」
すぐ横まで走ってきていた死人面にネゲヴが息を呑んだ。
同時にオープン回線に声が入る。
『あらあら、報告から違和感はありましたが――――――本当に貴方でしたか』
突然入った通信に少女は目を剥いてバックステップを踏む。明らかに動揺した様子だ。
――よく分かんないけど、取り敢えず走るしかないわねコレ!
状況が掴めないことには一抹の不安を覚えつつも、隙を見てネゲヴ小隊は「彼女の戦闘領域」から脱出する。
息を呑みながら通信に少女が答えた。
「…………おい。お前来るのか」
『そういう事になりますね。お元気なようで何より、結婚式は早く挙げられそうで嬉しいわ』
「――――――うむ、本気を出すしか無さそうだ」
――色んな意味でな。
少女は複雑な表情をすると、手に持ったダボールを見て舌打ちして放り投げる。どうやら力不足と見たようだ。
暫く様々な悪感情に呑まれて凄まじい剣幕で固まっていた少女だったが、突然何かが奪い取られるような音と共に聞こえてきた喚き声に態度を一変させる。
『おい! お前がウロボロスか、早く答えろ! 返答によってはお前の眉間を蜂の巣にしなければならんからな…………ッ!』
「あー、成る程。M16も一緒か、元気そうで何よりだ」
『質問に答えろ!』
怖い怖い、と誰も居ないのに手を振っておどけてみせる。M16は通信越しにあからさまな舌打ちをすると、そのまままた別の声が入る。
Kar98kの穏やかな声が響いた。
『…………おかえり、割と本気で心配してたんだよ?』
「ははっ! 気色悪い声をだすなよKar98k、殺したくなってしまうじゃないか?」
珍しく彼女がニヤリと笑って返してみせると、大仰な長口上を何時も通り名乗りだす。
「わたしは代理人直属の元第十三大隊監督役、今は唯の一般兵だ。だいぶ降格されてな」
「では質問に答えるがM16、おぬしの予想は大当たりだ。ジャックポット、おめでとう――――――――」
「さあ、『わたし達』と殺し合おう」
今回は大混戦らしいぞ? 楽しみだな。
――わたしは片割れに酷使される未来に震えているよ。
そう言うなって、慣れれば楽しくなるさ。
義務感ではやるな。殺したいやつだけ殺せ、戦場なんてそんぐらいで行かないとやってられないからな。
――ついて行けないな。わたし、何でこんなのを選んでしまったんだろう…………。
何か生き残ったぞ、ははははっ。
いやあ何でだろわからないなあ。でも何というか、これで正解だという確信はあるぞ。
では、次は何処で会うかな? 戦場? 他作品? おまけ?
知ったことではないが、わたし達はいつだってこう宣おう。
「わたし達がウロボロスだ」