わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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収録予定はないはずだった「Kar98kとウロボロスの戦闘」です。
実のところ本編で一度たりとも書かない予定でしたが、気が変わったので。


三千弾の無駄撃ち

「は? あのクソ女との戦闘データが取りたい?」

「はい。ウロボロスさんが最大出力になったの、この前の作戦とあの時しか無いんですよね~」

 

 確かに無いな、だって基本本気出さないし。あんまやりすぎたら身体ぶっ壊れちまうだろ。

――え!? 主様それ気にしてくれてたんだ、もっと頭が悪いのかと。

 

 殺されたいらしいなお前。

 とはいえ実際CUBE作戦では結構粗末に扱ったからな、大体アレは作戦が悪い…………。別に俺だってあれくらい追い詰められないと無茶なことをする気はない。

 

 へらへらと話を聞きたいと宣うのは調整担当の鉄血人形。腕を取っ替えて以来、何だかんだ俺の専属と化している所は否めない。

 

「見るに要事には相当無茶をする方のようですし、どれくらいやってたか話を聞いておかないと困るんですよね。耐えうるくらいの調整は出来ないと私の気も収まらないので」

「本音は」

「ウロボロスさんの最大出力知りたいだけ」

「正直でよろしい、話してやる」

 

――ええ、今ので話すのか。

 正直に言われた方がまだマシだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら避けた避けたぁっ! 当たればハイエンド様だって一発ドボンだよ!?」

「言われんでも分かっとるわイカレ人形!」

 

 見開いた瞳が黒い残光を捉える。蠢きまわる外骨格の喧しい駆動音がボルトアクションを掻き消していく、群れる黒い流星を銃口が追っていた。五つ、まだ捉えきれていない。

 

 ウロボロスの端末は軽く数えても二十は下らなかろう。彼女の動きに合わせて不規則に追従する姿はまるで魚の群れのようだったが、規則的なようでそれぞれが僅かな遅延を持つ動きはとても生々しく気持ちが悪い。

 弾丸が飛び込んでくる、Kar98kが急いで横にスライド、僅かに外骨格を掠る。

 

 彼女の背中どころに留まらない無数の手足として伸びている外骨格は本来汎用性に特化したものだが、故に的として大きい。本来火力による圧倒的殲滅を可能にするが相手が相手だ。

 

「攻めだけは一丁前でも防戦はどうかな?」

「馬鹿言いなさるな、僕は両刀だ」

 

 発砲、発砲、発砲、発砲、発砲。どれもが僅かにピントをずらした逃げ場を塞ぐ射撃、走りながらもウロボロスを的確に狙っていた。

 しかし端末がまるで庇うように射線に割って入ると爆散、悟ったKar98kが舌打ち。

 

 音が切れる前に首筋を弾丸が通り過ぎていった。舞い上がる銀髪に思わず冷や汗。

 

「おいおい油断し過ぎだろうが、もっとちゃんと弾ァ見やがれ…………!」

「やはり最高だ。殺す」

 

 凄まじいコーナリングを道のど真ん中で始めるなり、端末の群れが一斉にKar98kの元へ走り出す。思わず口元が吊り上がってしまう。

 迎撃、回避。プロセスは単純、貼られる弾幕はさながら軍隊。まるでKar98kを黒く塗りつぶそうかと言わんばかりの物量の暴力が彼女を瞬く間に取り囲んでいく。

 

 Kar98kの銃口が全て明後日の方向を向くと同時に硝煙を吐き出した。

 命中、五機の端末が森の中へ落ちていく。

 

 ウロボロスがせり上がってきた、近づく殺気に暴風に巻き込まれた錯覚。

 

「しゃらくせえ、端末の自動操作に頼るなんぞ!」

 

 近場の端末を一つ引き回すなり小脇に抱えて乱射を開始する、Kar98kの動きが焦りに乱れる。

 彼の銃捌きはそもそも理論だっておらず、揺れる身体に巻き込まれてあまりに乱雑。

 

 だからこそ、その支離滅裂は恐ろしい。戦場には本来不要な異物。

 

「君は昔から滅茶苦茶だ…………それでこそ僕を殺した、愛すべき隣人だよ」

 

 言葉切れ、同時に彼女の銃が1つ弾き飛ばされる、垂直に打ち込まれた弾丸からもう使用は叶わないと判断。フリーに切り替える。

 同時射撃、的確に四機撃ち落とす。

 

「邪魔な脚だ、もがせてもらうぞ」

 

 不穏な宣言、同時に眼光が赤く尾を引き始める。直感的にKar98kは外骨格に後退命令、迫る嵐に立ち止まる程の愚行も無い。

 

 自立浮遊しようと暴れまわる端末に引きずられながら、彼の身体が不規則な挙動で這い寄る。

 銃口を暴れるように揺らしながらまた弾を吐き散らす。避けきれず外骨格が僅かに軋む。

 

「おいおい下がる一方か!? 啖呵の割にゃあ弱いんじゃねえのか!」

「お望み通り全部壊してあげる」

 

 下がるのを外骨格に任せてKar98kがゆっくりと端末に構えていく。

 射撃、再装填、射撃。同時斉射に六機脱落、知らずしらずに彼は不協和音のような笑い声を上げていた。

 

 Kar98kの紅蓮の瞳が見開かれる。口元が張り裂けそうなのを必死に抑えている、彼以上に笑い声が脳内を絶えない。

 

「まだ残ってる、やっぱりこれぐらいイカれてなくちゃ相手になんないや!」

「良かったなご同輩、お前の退屈も今日で終わりだ! 地獄で退屈も不安もありゃしねえからな!」

 

 端末の一斉射撃、さながら質量を持った群れの咆哮。高速移動をしているとは言え避けきれない。

 悟ったKar98kが応戦、一つ銃を潰されたが構わず全力斉射。交代しながらとは言いようがあるが完全な総力戦、ウロボロスも迷うこと無く端末に振り回されながら懐に飛び込む。

 

 Kar98kが手に持った銃でウロボロスの脳天に構えるが、飛び込んできた彼の笑顔は不敵。予感に思わず照準を収めて直接殴りつける。

 

「察しが良いなクソ人形、だが痛くも痒くもない。まるで人間の女みてえだな、呵々!」

 

 長台詞を待つようにウロボロスが斜め上に消える、端末が無理矢理持っていってしまったらしい。

 

 銃声の大合唱。気づけば端末も手持ちの銃も使い果たしている、二人が手に持つ武器が最後の生存者だ。

 

「おいおい全部持ってくやつが有るか、高いんだぞコレ」

「お生憎様、僕は廉価でね」

 

 全外骨格を移動に回したKar98kは速い。森の中をキチキチと音を立てながら浮き沈みする彼女の姿にウロボロスが端末を引っ張り回して急旋回、そのまま凄まじい速度で加速する。

 

 ウロボロスの体中から覚えのない血が吹き出すなり更に速度が上昇、流石のKar98kも焦って発砲。

 

「速い、凄まじいな君は! 自壊を厭わぬ加速とは恐れ入った、いやはやバケモノが思いつくことってのは末恐ろしいね! はははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――何笑ってやがる」

 

 見えなかった。Kar98kは初めてその姿に自分の倒れ伏すビジョンを幻視した、恐らく人生で二度とは無かった経験だろう。

 

 端的に結論を並べるならば、”目にも留まらぬ速度でウロボロスは「既に」目と鼻の先を走っていた”。Kar98kはハイエンドモデルとして設計されている、そんな事は本来あり得ない。人間の動体視力など話にならない圧倒的な情報処理力も彼女の長所の一つであるからだ。

 

 外骨格が抑えようと蠢くが、彼女の僅かに歪んだ顔を見るなり彼は一笑に付す。

 

「今、オレが怖いと感じたな?」

「やっと拝めたぞ、テメエの本当の顔」

 

 掴みかかってくる外骨格を平然と片手で引きちぎりながら端末を胸元に突きつける。近づく無機質な死刑宣告、最早端末と彼自身に押し回されていた。

 応戦は間に合うだろうか、端末の方が速い? やってみなくては分からないだろう。

 

 ただKar98kは、蕩けるように顔を綻ばせる。まるで幸せに心が溢れてしまったような、もういっそ恐ろしいくらいの”幸福”の詰まった表情。

 

「ああ、やっぱり愛してる」

「…………よく分からんが死ね」

 

 瞬間、瞳の炎が戻る。

 

「が、駄目だ」

「殺すのであって殺されちゃ。堪らないけど、たまったものじゃない」

 

 銃を端末に突き刺す、ウロボロスですら目を剥いた。

 爆裂、二人が同時に吹っ飛ばされていく。

 

 外骨格の部品がカラカラと遅れて飛び散りながら、血が木、草、葉へと付着する。拙い現代芸術のような有様になった爆心地から遠く、二人が転がっていく音がした。

 音が止んでも誰も動かない。遠くで始まる戦火の大号令が響き渡るくらい、恐ろしい静寂が森の中を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな笑い声が森の中を這う。けたたましく、騒がしく、鬱陶しく、怖ろしい。

 息を切らしたのかまるで肺から空気が漏れるような凄まじい声、聞いたものが全てが正気を疑う声にも満たない騒音。撒き散らす程に森の暗がりが濃く染まる。

 

 鳴り響いて反射して、まるで暴れ回るように声が彼女に届く。焼け爛れたコートに包まれながら閉じられていた鮮血の瞳がゆっくりと開く。

 まだ嗤う。止まず、止まず、そして漸く止まった。

 

 彼の荒い声。

 

「いやあ、正気か? 端末の爆裂など死ぬほど見たはずだ。オレでも割と重傷だぞ、お前が無事に済む保証など粉微塵にもないじゃないか。実によくやる、オレの手持ちもしけた拳銃一丁ぽっちじゃねえか、代理人の忠告も聞いておくもんだな。まだ辛うじて武器は有るだけマシなのかねえ、ははは」

 

 声に目をぎょろりと向けると、ゆっくりと立ち上がる傷だらけのモノクロ。夥しく血を流し、髪留めは爆ぜて失せたのか豊かな射千玉がさらりと溢れ出している。

 構えた拳銃は凄まじい全長だ、弾頭も恐らく人間が扱えるサイズではあるまい。暴力、ただそれをぶつけるだけで生物は負傷できるほどの規格外。漆黒に鈍く光る銃身がしっかと彼女を捉える。

 

 姿勢はまるでなっておらず、銃を持つ手だけがはっきりと彼女を指し示す。半ば意志力というものなのだろう、目は焦点が合っていない。

 

「さあ立てよバケモノ、同類同士仲良くしようじゃないか。馬鹿みたいに弾を無駄撃ちして、空虚な言葉に思索を凝らし、最後に無意味に死んでいこうじゃないか」

 

 彼女も渡されていた拳銃をゆっくりと構える。脳天にしっかと、白銀の重々しく伸びた銃身が息を殺す。奇しくも彼が持つそれと大差ない、”非人道的”な銃だろう。

 

「愛だぁ? 抜かせ、お前のは親近感だ。いやそうであるとオレは断定してやる、お前なんぞに愛されても答えてやらん。敵は敵、塵は塵、芥は芥、屑は屑。今更オレ達が人間らしく振る舞おうなど、それ自体が既に傲慢だ。観客のブーイングで失意の内に死んでいくだけに違いない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五月蝿いなあ、好きで何が悪いんだい!?」

 

 発砲。ウロボロスが頭から吹き飛ぶと、そのまま後ろの木に激突する。

 支えにして辛うじて立ち上がりながらも、ゲタゲタ笑いながら明後日の方向に倒れ込んだ顔。まるで首が言うことを聞かなくなっているようにKar98kを見ようともしない。

 そのまま彼女に向かって撃ち返す、適当な照準が彼女の脚元を掠めた。

 

 Kar98kの瞳が僅かに潤むと、銃を構えたままゆっくりと近づいていく。

 

「君はいつもそうだ」

 

 撃つ。右人差し指が飛んだ。

 

「周りの評価を勝手に決めつける」

 

 撃つ。左肘が欠ける。

 撃つ。脇腹に風穴。

 

「違うだろ、君はそうじゃない」

 

 撃つ、撃つ、撃つ。計三発。

 どれもKar98kの胸元周辺を撃ち抜く、Kar98kが疑似血液を口から吐き散らす。

 

 けれど其れに負けないくらいの涙が溢れていく。

 

「馬鹿だ、人のして欲しい事は知ってるくせに、自分がどうなりたいか分かってない…………」

 

 最早乱射するように引き金が忙しなく引かれる。彼も支える力がないのか更に照準は滅茶苦茶で、もうどれが命中しようと彼女は構わなかった。

 

 後数歩、ウロボロスがポツリと零す。

 

「黙れよ、お前が何を知っている」

「知らない。知らないから、君も知らないと駄目だ」

「出会って数十分のやつに何が分かるんだかな、呵々」

 

――違う、二度目だ。

 言葉が出なかった。言ってしまったら終わりのような気がしたのだろう。

 

 彼女がウロボロスという人物に出会ったのは正確には二度目だ。だがそれを証明する手段はなく、一度目というなら彼女は既に一度死んだ。

 あの電脳世界で最後まで孤独だった彼を知っているのは、このKar98kと呼ばれている其れだけ。ある種誰よりも、彼の起源に近い。

 

 手が引き金を引く指に届く。

 

「君はもっと、愛されて大丈夫だよ」

「はははは、訳の分からんことを!」

 

 同時に彼女の左眼が撃ち抜かれた、大きく上体だけが仰け反っていく。

 終わらない。無理矢理に戻した体勢、彼の顔がゆっくりとこちらを嘲笑いながら向いていくのが見えた。

 

「オレはオレだ。干渉するな、バケモノ風情」

「ヤだね、僕は君が好きなんだから」

 

――おいおい、コイツ本気かよ。

 ズレた視界で呆れた。けれど気持ちに反して笑顔が溢れる。

 

 理由は知らない、知る必要もない。

 Kar98kが両手で彼の顔を覗き込むと、風穴の空いた笑顔を見せる。

 

「やっぱり僕、多分君は殺せないや」

「そうか、じゃあ暫く寝てろ――――――――クソ”女”」

 

――やっぱり覚えてるんじゃないか。

 弾丸に倒れ伏す直前、Kar98kが淡く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………死んでなくてよかった。よく帰ってきたな、Kar98k」

「指揮官さん、今はそんな場合じゃないでしょう? アチラのハイエンドに腕をやられてしまったので、替えてもらいたいです」

「…………お前の宿敵さん、ちゃんと答えてくれたか?」

「フラレちゃった」

「――――――――そっか。でもお前笑ってるし、良いんだろうな」

 

 

 

「ハイエンドNo.0319 Kar98kの代用パーツを急げ! 私用には付き合った、働いてもらうぜ!」

「ふふっ、了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――とまあ、こんな感じで彼と殺し合うのは最高に楽しかったなぁ!」

「殺し合うのを楽しむな変態人形。何で俺はこんな人形の指揮に回ることになったんだろうな…………」

 

 そりゃ君が運がないからさ、転生者があろうことかS09地区担当になるなんて不運以外の何だって言うんだい?

 

 それにしてもCUBE作戦が僕の預かり知らぬところであったそうだけど、これは全くもって許されないね。UMP45に話を聞いてもはぐらかされるし、何でも企業秘密なんだってさ。彼との思い出を独り占めとか流石に殺す所だった。

 呆れた顔でラーメンを啜る指揮官が嫌な予感に震えながら尋ねてくる。

 

「それでー、あのー。お前さ、要するに殺せる所で殺さなかったの?」

「…………あっ、バレた?」

「職務怠慢極まりねえ、お前じゃなかったらコア潰されてるぞ。馬鹿」

「でも君はする気無いんでしょ? やっさしー」

 

 バカ言え、非効率だろと顔を逸らされる。

 

 そう言えば彼と最近喋れてないし、そろそろ手紙書こっかなー。




クソ”女”というのがどういう意味合いを持つ呼び名なのかは「わたくしがカラビーナです」の「撃てば撃つほど恋しくなる」を参照ください、特定人物にしか彼は使わない呼び方です。

ウロボロスの内面を何処まで答え合わせすればいいか迷いますね、正直読者が予想しているものとは大分違うみたいなので。
ほ、ほんへは何時か更新したいね…………?

ずばり掛け算はどれですか

  • ウロボロスx代理人
  • ウロボロスxグリフィンの変態
  • ウロボロス(表)xウロボロス(裏)
  • お前固定CPナメてんのか逆のしかねえよ派
  • CPしない聖なるオタクです
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