わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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「こっちを素直に書け」という六ヶ月に及ぶ姉貴からのお小言に敗北したので新章開幕です。思いついてはいたんですが、蛇足はダメかと思ってリメイクに逃げていたのが本音です。

あとがきは今回から私です。設定が過去とズレてても無視、話数増えてきましたからね、リメイクの設定も混じります。
という訳で何時も通りの”やつ”をどうぞ。

※よく見たらツインテのままだったのでポニテ描写に修正。


第七戦役
コースアウト


 カンダタは蜘蛛の糸に縋り、地獄から抜け出そうともがいた。結末は知っての通りであるが、しかし重要な点というのが一つ有る。

 彼は確かに運命に抵抗した。極悪人であろうとも、到底許されぬ道理であろうとも、しかし人は抗う自由がある。カンダタは確かにそれを行使した。それはきっと、何もしないことよりは高尚なのだ。

 その浅ましさを人は笑う。その身勝手さも人は笑う。その結末さえも人は笑う。

 

 だが。彼女は笑わない、何故ならば己がそうであるから。

 運命などもともと彼女の敵で、生きるだけで争うばかりで、まあカンダタの愚行ぐらい。むしろその貪欲さに頷く程に、彼女は運命に嫌われていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鉄血の奴らだよ! 完全に包囲されてる!」

『包囲か。包囲ねえ! 藁で囲まれた程度、踏みしだいて崩せばいいじゃないか!』

 

 SOPⅡの振り向きざまの叫びに、まるで空気の読めない銃声とともに扉越しの声が答えた。聞き馴染みはあるが、聞こえる道理はない。彼女は未だ、奥底で幽閉される身であったはずなのだ。

 プリンセス・マリオン。S05地区の中心部を占める留置場。更にその奥底、決して光も見れぬ金属質なちっぽけな一室。其処にいると、それでも慄くM45から報告を受けていた。

 

 しかし現実はそうそう変わらない。乱暴な乱射があちこちに反射する音を響かせると、同時に大仰な金属の衝突音。部屋の壁が僅かに妙な音をたてると同時に、肉が砕け散る凄惨な音が伴奏で弾き鳴らされる。

 

「何故貴様が生きている! 報告ではそちらには到底処理できない量の鉄血が――――――!」

 

 誰とも知れぬ声、ゲタゲタと女が笑い声を轟かせてまた壁がへこむ。

 

『到底処理できぬ量か! そうか、「あの程度で」鉄血はオレを殺せると思っていたのか!? 随分と舐められたものだ、死に際にログに残せ、全く足りておらんとなぁッ!』

 

 銃声が消えると銃が落ちる嫌な音、数度どころではない回数が繰り返されると、とうとう鉄の振り回される音も消えた。

 

 その場のM16が息を呑む、すかさずM4を後ろに隠しながら耳打ちする。

 

「…………最悪時間を稼ぐ、来たら走り抜けて逃げろ」

「でも」

「でもじゃない。緊急事態だ、まさかあのクソッタレが暴れだすとは――――――」

 

 

 

 

 

 M16の言葉は蹴破られた扉の激しい音でかき消された。

 

 

 

 

 

「クソッタレとはご挨拶な」

 

 白い顔に金色の瞳、左眼は焦点が合っていないからこそ右眼のまばゆい輝きが気味悪い。

 黒く艶やかな髪は相変わらずで、長すぎるのが鬱陶しいのか頭の後ろで一つに結わえられて垂れている。細身の白い肌と合わさり姿自体が生物感の薄いモノクロ模様を映し出していた。

 

「だがまあ、確かにクソッタレかもしれんな。取り敢えずわたしが聞きたいのは、おぬしらのそんなご意見ご感想ではなく――――」

 

 左手は歪で肥大化しており、力なくぶらさがったまま。恐らく動かせないのだろう、右手で握りしめるブレードからも左手の不便さは明確だ。

 じろりとあたりを見回しながら、M16とM4を見るなりニヤリと強烈な笑顔を見せつける。

 

「それで? 此処で怯えて大人しく死ぬか、仲間の仇であろうと上手く使って、皆殺しにしても生き残りたいか」

「選べよAR小隊。今回に限り、わたしは方針に従ってやる」

 

 ウロボロス。敵味方両者をして「最悪」と呼ばれた人形の一体。

 

「いい武器だとは思わんかね? まあ少しばかし噛み付くかもしれんが、そこはご愛嬌というものじゃないか」

 

 その笑顔は誰が見ても、やはり邪悪に違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「して、どうする。打開策はまるで無いとお見受けするが」

 

 あーらら、どいつもこいつも俺を睨んじゃってまあ。

 せっかくライバルキャラが助けに来たんだから多少派手にしてやろうという俺の粋な計らいのつもりだったんだが、どうやら警戒させたらしい。いやー何でだろうな。

 

 重ったるいブレードを肩にかけてからM16に聞き直す。

 

「ほらM16姐さん、わたしにも道を教えてくれたまえよ?」

「どういう風の吹き回しか知らないが、言葉を鵜呑みにしろと?」

 

 明らかな臨戦態勢。思ったよりやり過ぎたようですねぇ…………。

 とはいえ左目も訳の分からんポンコツをぶち込まれてまだ機能してないし、左手も「見てて痛々しいから」なんてアホくさい理由でブレード引っこ抜かれてつけられた超低性能。

 

 真面目に殴り合ったら俺が負ける可能性も有るくらいなんだが、俺なんかしたかな?

 

「鵜呑みにしろというか、このままだと死ぬぞ? ならば蜘蛛の糸にも縋るというもの、必然としてわたしの助力は素直に受けて構わないだろう」

「信用ならんな」

「信用なるかとかどうとかではなくてだな、突っ撥ねるならおぬし達はおそらく此処で死ぬだけだ。大人しく使っておけと言っている」

 

 俺は別にAR小隊が勝手に全滅しようがどうでも良い。

 だが今回は少しばかり俺も一人で殴り合うのは心もとない、愚かだが馬鹿じゃないもんでな。勝てない戦では同志が欲しいもんだ。

 

 俺はそろそろストーリーがうろ覚えになってきた。大体、ウロボロスがプリンセス・マリオンに幽閉されるとか意味不明だしな。はっきり言って指揮の才が皆無な俺には指揮者が必要になる。

 M4ないしM16はそういう意味では最適解だ。コイツラはハイエンド、おつむは悪くないだろう。この状況で俺の助力を蹴れるほど馬鹿に徹しきれないだろうし。

 

 SOPⅡが今にも殴り掛かりそうな眼でコチラを見てくる。

 

「何でお前みたいな鉄血のクズが力を貸すっていうのさ。AR-15が居なくなった理由だって半分以上お前じゃないか」

「そんなもの、謀略にかかる方が悪い」

「何だって!?」

「おぬしらなあ? 何だ、蜘蛛の巣にかかった蝶を憐れむタチか? 引っ掛かる方も問題アリ、そうだろう?」

 

 そんな偏った見方をしてもどうしようもない、わたしだって知り合いが何度か殺されかけたが気にしていない。戦争なんてそんなものだ、争いは醜くて殺し合いは無慈悲。そしてそれは参加した個人に責任など負わせるに負わせきれない。

 

「大体どちらからけしかけたにしろ、おぬし達も同じくらいにわたしの同胞を殺した。そんなつまらぬ事を引きずっていてはわたしは今すぐ此処を血塗れにして出ていくしかなかろうに」

「随分身勝手な理屈ね」

 

 M4が俺の首根っこを掴んでくる。あんまりにも感情的、払い除けた。

 

「気安く触るな、首を掻っ切るぞ」

「あんたが前線で何体こちらを潰したかなんてこの際どうでも良い、だけどAR-15があんな手段に打って出た原因なのは事実よ」

「だーかーらー、それに拘って今死ぬ気か?」

 

 さっぱり分からん。復讐は明日でも出来る、感情論ばかりで終わってるな。

 再三言うが俺だって殺された。偶々ハンターと処刑人はサルベージが利いたが、そうでなかったら相応に恨み辛みは持ってしまうかもしれん。

 

 だがそれで、今死ぬようなことはしない。復讐というなら、たかだかハイエンド一人なんてつまらない量で済ませる気がないからだ。

 

「M4、あの日は見逃したが今回はわたしではどうにもならん。覚悟と無謀だけでは何も成せんよ、落ち着け」

「よくもそこまでぬけぬけと言えるわね」

「これでおぬしは一応気に入っている部類だ。犬死はさせたくないのだ、それくらい理解しろ」

 

 俺には一生出来ない生き方だ。ある意味、羨ましいとも言う。

 自由奔放すぎると小言を言われた日も多いが、俺は死ぬ間際に感情の赴くままにはなれない。悲しいぐらいそこらへんは現代っぽいシステマチックさに毒されきった性格らしいのだ。

 

 今、短絡的な結論を出せる者であるからこそ。俺は生かすべきだと考える、少なくとも俺個人は尊びたいものだからだ。

 

「気に食わなければ後ろから撃ち殺せ。残念ながら今回はおぬしのわがままに付き合ってやらん――――――まあ? 動きもしないわたしに弾を撃ち捨てながら罵詈雑言を浴びせて快感を得るような死姦趣味だというなら好きにすればいいが」

 

 恨み言など、相手の反応を見てなんぼのものだと俺は思うがねえ。

 

「そうね、それも良いかもしれないわ」

「おいM4! 落ち着け、今回のコイツに関しては――――――」

「構わんよM16」

 

 そんなに欲しいなら銃くらいくれてやる。

 

「ほら眉間に当ててみろ、あの日と同じだ。脳天を撃たれれば死ぬぞ? こんな呆気ない復讐で満足か――――――おい、しっかり銃口を当てないと」

 

 何で俺がわざわざ照準まで合わせてやらにゃいかんのだ、情けない人形だな。

 構えもマトモにできちゃいないくせに眼だけは一丁前に俺を射殺さんばかりに鋭い。全く、感情ってやつは時々理屈を超えるからな。そういうものは己の益になるよう振り回してほしいものだが。

 

 冷ややかなM4の声。まるで恐ろしく何とも思わないが、腑抜けだしな。

 

「本当に撃つわよ、冗談だとでも?」

「撃てばいい。だがな、AR15は違ったぞ」

 

 AR15を引き合いに出したのが余程癇に障ったのか、急騰したみたいに目を見開いたM4が体中に力を入れる。

 

「お前なんかがAR15を知った風に語るな!」

「いいや違ったね、アレは利用される立場だって飲み込んだ。何故か? おぬし達に背を向けたくはなかったからだ、M4。おぬし達に僅かでも可能性を残すために、道化だって演じきった」

「五月蝿い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒鳴るのは趣味じゃないが、埒が明かんな。

 

「五月蝿いのはテメーだって言ってんだこの箱入り娘!」

 

 ったく、何で悪役がこんな説教垂れなきゃダメなのかさっぱりだ。AR15を本気で見習ってほしいもんだ。

 少し怒鳴ったぐらいで怖気づく辺りが情けない。そこまで一時の感情に身を任せられるなら、俺が睨んだくらい跳ねっ返してみせろってんだ。

 

 馬鹿じゃないんだから。

 

「良いかM4、オレはお前の中で悪役になろうが外道になろうが結構だ。だから誰も言わないことを、酷く個人的な意見を言ってのけてやる」

「いつまで泣き喚くガキの真似事を続ける気だ。お前が泣き叫べばコイツラは助かるか? 違う、お前は見殺しにすることになる」

 

 そしてそれを望まないのは、他ならぬお前だ。

 

「しみったれたお前を支えようとする仲間を粗末にするな。支えを失い困るのはお前だ、失った空洞に後悔するのもお前だ、お前がそれで良いならオレは責めんが、お前が納得しない結末に自分で走っていくんじゃねえ。虫酸が走る! 衝動任せにくだらん小悪党になるな、憎いと言うなら鉄血を地獄に陥れる覚悟を持て!」

「オレ一体殺して満足すると思ってる時点でお前は負けてんだよ、今のお前じゃ雑兵以下のゴミクズだ!」

 

 M16まで肩入れにかかってくる。

 

「貴様、黙って聞いていれば言いたい放題言うじゃないか」

「黙ってろ役立たず。甘やかすだけが姉の役目か? このままではコイツが一番苦しむというのが何故分からんのだ。死んだ事実に向き合えない人形が、生きる現実に向き合える訳が無い」

 

 話にならん。

 

「ともかく、通信はグリフィンのものと同期させておいた。今はお前の駄々に付き合ってやる、時間だって稼いでやる、どうせついでだ」

「くだらん死に方をしたいか、わたし程度を飲み干してでも抗うか。自分から逃げるな。どうせオレを殺したぐらいでお前は収まらん」

 

 それなら数を殺すしか無い。数を殺したいなら、俺は上手く利用したほうが絶対にいい。当たり前だ。

 

「では失礼する――――――撃ちたいなら撃てばいい、オレは今なら誰でも殺せる」

「だが、それで何が解決するのか。考えてから引き金を引くことだな」

 

 あー畜生め、何を偉そうに説教なんぞ。ウジウジしてるやつは嫌いなんだ、普段ならともかく今それをしたら大きなミスに繋がるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺が出ていくまでに銃声が響くこともなかった。走るわけでもなくゆうゆうと歩いて時間はくれてやったが、どころか構え直す音だって聞こえてきやしない。俺は手持ちのブレードだってマトモに構えてやしなかったのにな。

 

 だから辞めろと言ったんだ、この程度で撃てなくなるくらいなら。まあそこまで理解しろとも今は言わないが。

 その判断ができる人形を無駄死にさせるのは、俺には惜しい。




ウロボロスの左手と左目はI.O.P製の粗末な品で代用されています。感情が極端に上下した時のみ、外部接続のセーフティが外れて機能する欠陥品。もともと電子系に強いハイエンドなので。
ブレードは接続し直したいところですが、片割れが起きていない現状では不可能。専門の技師が必要です。
俗に言う「悪役が仲間になったら謎に弱体化してる」というお馴染みのアレ。

ちなみに最新のプロットで彼女が何をしているかと言いますと、「ガルム潰してる」です。そこにたどり着くことなんて有るのやら…………遅筆極まれり。
ちなみに時期が来たらウロボロスの過去についても詳らかにします。ブラックボックスの領域が結構デカイですしねえ。
改めて紹介。


【ウロボロス】
第十三大隊の元監督役。現代理人直属の「たった独りの実動隊」。
騒ぎが起きるとAR小隊の前にあっさりと顔を出した。現状は中立を語り、M4に対しても辛辣ながら助言を努めている。
片手と片目が最低限しか機能しておらず、メイン武装だったブレードも手に持たなければならない始末だが尚強力。今回に限ってはグリフィンの頼みの綱にもなりうる。

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