わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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ブリーチング

「何でアイツが生きてんだよ、兵装は全部もがれてるはずだろ! それとも何か、グリフィンの馬鹿共は支配欲が祟ってアレを止めれるとでも思い込んだのか!?」

「落ち着いてください、私もそれは警告しましたよ」

 

 消息不明の報告に親指を噛みしめるドリーマーを仮面を被った人形が嗜める。

 今回の作戦には馬鹿にならない戦力が投入されている。目的は言うまでもなくAR小隊とウロボロス、誰に作戦を問うても過剰供給とは言い切れまい。

 

 実際問題、今回ウロボロスは脱走した。完全に隙を突き、喉元にまで突きつけられた刃はあっさりと飲み込まれてしまったのだ。

 仮面の女が腰元のブレードを一瞥して尋ねる。

 

「…………出ても構いませんが」

「待てよ、今計算を調整してる…………何だあのポンチ人形。普通寝首をかきゃ死ぬだろうがよぉ…………ッ!」

 

 頭を掻きむしりながら歯を剥き出しにするドリーマー。映るホログラムは移動する鉄血のネームド一体が悠々とプリンセス・マリオンを駆け巡り、言葉通りの破竹の勢い。瞳孔の開ききった瞳が追いかけていく。

 

 仮面の人形がため息をつくと、くるくると手に持った拳銃を指で遊ぶとホルダーにしまい込んだ。

 

「考えても仕方がない、アレは戦闘中に進化するようなものですから。念の為出ます、貴方と直接交戦は憂慮されるべき事態になる」

「――――――チッ! 出ろよ、お前はアイツのカウンターな訳だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解――――――試作上級AI、フラクタル。ウロボロス殲滅に向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒号混じりのワイヤーのいななく音。返り血の雫も残らぬ鋼の刃、彼女がどれだけ酷使しているのかを表すように刃はまるで鋸のように波状に欠けている。

 乱暴な投擲が災いしてブレードは壁やら天井やら、ともかく引っ掻き削りながら迫ってくる。部隊が本体を叩こうにも、銃弾と磁力でも持っているようにグネグネと避けるせいかまるで命中しない。

 

 焦点の合わない左目が僅かに電流を走らせた。

 

「おい誰だ! ウロボロスが現在弱体化していると特記事項に書いた上級AIは! ピンピンしているぞ!」

「うるさい、追求は時間の無駄だ! スモーキンググレネード、出すぞ!」

 

 ガヤガヤとざわめく部隊の人混みから、突然グレネードが投げつけられる。

 瞬間、ウロボロスの右目がギラリと蠢く。誰かが血の気の引いた声を上げた。

 

「ひっ――――――」

「良いのか、”それを投げても”?」

 

 問いかける前に煙が上がる。金属の削れる音があちこちを這い回りながら迫ってきていたが、部隊はいざとなるなり息を揃えて走り出した。

 

 大広間に躍り出るなり、入口に向かって銃を構える。数を揃えて扇状、扉の横に一人ずつ銃を構えて盲撃ちが始まる。

 

「撃て! 弾を切らせばアレはすっ飛んでくる!」

 

 声に続いて激しい銃声、巻き起こるマズルフラッシュがまるで小さな花火大会のような様相を展開していく。

 悲鳴が聞こえる、しかしそれはヤツではない。まるで空気が泣き喚くような力強い足音のメトロノームが心拍数を上げていく。

 

 eins

 

 zwei

 

 drei

 

 飛び出る。血塗れだ。

 

「い、生きてやがるぞあのハイエンド…………ッ! 一本道じゃないんですか!?」

「うるさい、撃て! 死ぬぞ!」

 

 手にした銃が反動で暴れるのを必死で抑えつける。

 果たして手が震えていたのか、実際にそうだったのか。まるで銃が”撃つのを怯えるように”彼女から逸れていく。

 

 スモークから現れた片手には見覚えのある死体、蜂の巣になったそれを引きずり回しながら血塗れのブレードが薙ぎ払うように扇状の部隊に迫る。

 

「武装解除されているはずだ!?」

「違う、パージした腕ごと引き回している!」

「喧しいぞ雑兵共が! オレの前でガタガタと喚くんじゃねえッ!」

 

 横薙ぎのブレードが一体の脇腹に、二体、三体。引きずり回していく。

 

 勢いが死ぬ直前でウロボロスが慣性に任せて飛び上がる、浮き上がった死体から銃を奪い取るなり部隊に向かって蹴りつける。

 ぶつかった部隊が恐慌状態に陥るなり構えを辞めてしまう、隊長格が叫ぶ。

 

「銃を取れ、アレに隙を――――――ッ!」

「――――――おい、五月蝿えって言ったよなぁ?」

 

 ウロボロスの左手の短機関銃が泣き叫ぶ。トリガーを握る指は長いクローを持ち、不自然に膨張した姿が異様に過ぎる。まるで悪魔の手だ。

 乱れ打ちされた銃弾がドンドンと突き刺さっていく、狙いを定めようにも天井にぶつかるなり蹴り跳ねて動きが一貫性を持ち合わせていない。

 

 飛び散る弾丸、跳ねる鮮血、滑り落ちる銃。瞬く間に殲滅が終わり、其処には隊長格が一体。

 

「聞こえているか、こちらナンバー8! 全滅だ、やはり奴は弱体化などしていない! 早急に対地戦闘による無力化を――――――」

 

 冷や汗を削り取るように額のすぐ横をブレードが突き刺さる。耳の真後ろから聞こえるバララ、という瓦礫の音に青褪めていく感覚。

 

 ゆっくりと歩いてくる、その瞳は片方がまるで壊れたように焦点を合わせておらず、右目だけが静かに赤い電流を迸らせて彼女の方を見つめていた。

 異様に見えた左手からは銃が力なく落ちていく。それは捨てたと言うより、力が抜けてしまったような形容詞がたい動き。

 

 まるで熱の感じられない白い肌、唇がゆっくりと動き出す。

 

「オレの前に立つと風穴が開く、等とよく言われた」

 

 後八歩。

 

「違う。お前らは馬鹿だ、オレの前に立つのが悪い。オレは何ら命を軽視しない、勝手に軽視した愚か者の首を断ち切る何が悪い」

 

 後三歩。

 

「人形はなあ、生きてるんだ。お前らはまるで替えがきくように思ってるんだろうが、替えなどきく訳がない。この世の何者も壊れれば元に戻らない」

 

 近づくなり、首根っこを掴み上げる。

 

「良いか、来世に持ち越す本質情報をくれてやる。よく聞けよこのカスが」

「オレを倒したいなら、いやこの世界で銃を手に取ろうなんて言うなら生きることを辞めるんじゃねえ。茫然自失に銃を持って、無我夢中に撃ち散らして、知らぬ存ぜぬで息をするな」

「手前の意思で銃を撃て。殺される一瞬まで手前を見失うな。次なんてない世界を理解しろ。まるで使い捨てられるものみたいに命を扱うお前らみたいな馬鹿に、オレが負ける訳ねえだろうが」

 

 

 

 

 

 

 

「オレはな、これから腐るほどお前らを殺すだろうよ。オレは見つけた、今までとは違う生きる意味だ。オレはお前らに何故銃を向けられ、何故あの人がそれを黙認し、そして何故オレが今こんな事をするのか探さなくちゃならない」

「ドラマツルギーに踊らされるウロボロスの人生は終わった。今度はオレの番だ、もうシナリオには従わん。オレは死にたいなんて思っちゃいない、生きるために殺す。そう、それが例えオレが同胞殺しの罪人扱いでもだ」

 

 迸る電流に合わせるように凄まじいスキール音、色の消えていた表情に苛烈な何かが灯る。激昂、憎悪、失望、何かも分からない。恐らく放つ本人がそれに名前を付ける気を持ち合わせていないからだ。

 

「起きろ”ウロボロス”、何時まで寝てやがる。オレは認めんぞ、こんな良いように使われて死ぬなど断じて許さん! 殺す、そうエルダーブレインをだ! 前々から気に食わん子守唄ばかりでウンザリしていたが今回ばかりは後悔させてやる!」

「――――――そうだ、やるんだよ。I.O.Pも、鉄血工造も、ウロボロスも、代理人も、第十三大隊も、何一つ関係ありゃしねえ!」

「”オレ”が生き延びてやるつってんだ! 良いから手を貸せ!」

 

 吠えるような一言と共に嫌な肉の音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――随分無茶な起こし方をするものだ、こっちまで感情の波が押し寄せてきたんだが。

 

「五月蝿え、今更ムシャクシャしてきてんだよ」

 

 左目もまともに動きやがらねえ、無理やりつなげた左手は未だパワー不足、はっきり言ってジリ貧にもほどが有る。

 曰く「代替パーツはプロトコルがこのAIとは別の、面倒なロックを掛けられている」らしく上手く情報も開示できていない、むしろ何でマトモに動いているかのほうが不思議とまで言われた始末だ。

 

 突然通信が入る。今俺はオーガスプロトコル系列を完全遮断している、来るとすればアイツだろう。

 

「…………何だ、機嫌が悪い」

”協力して”

「頼み方が悪いな」

”…………どうせアンタも単騎で抜けれないんでしょ”

 

 チッ、察しのいいガキだ。

 

「正解だ。で、何をすればいい――――――違うな、どれを殺せば効果がある?」

”殺すのは後。まずはそっちに居るはずのAUGに合流して、ただし――――――”

 

 話が早い。

 

 弾丸がいきなり飛んでくる、照準はメチャクチャだが数が多い。通路の壁を蹴って出来るだけ損傷は抑えたが、スキンがドンドン削れてヒリヒリとしてくる。

 舌を噛まない程度に短い返事。

 

「見つけた、処理次第掛け直す」

”ちょ、殺したら――――――”

 

――殺すほど馬鹿ではない。筈。

 殺すわけねえだろ、半殺しならするが。

 

 停電した闇の中、通路の奥で光る黄色い瞳に構えた。

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