わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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「当たる構成だな」と思いつつ書いていたが(一話後書き参照)、いざこうなると身の振り方に迷う。
短編日刊4位だった、すげー。総合日刊以外は興味ないから気づかんかった、そう言えば短編でしたね。


『わたしを殺してみせろ』

「……ゲホッ…………ゲホゲホ!」

 

 M4は声を出そうと頭を上げるが、あまりに酷い惨状に思わず咳き込んでしまう。

 データをコピーしている最中、突然鉄血が襲ってきたまでは対応が出来た。現在もAR15とSOPⅡが捨てられた部隊を連れて足止めしているだろう、それは問題なかったのだ。

 

 突如始まった別働隊の攻撃。量も質も本隊に相違ないそれには防衛が保たなかった。

 

「M16姉さ…………ゲホッ――――どこ……?」

 

 小さく響く彼女の声に反応は返ってこない。無音が続くほどにM4の焦りは加速していく。

 思わず手で周りにM16が居ないかを探すが、手に当たったのは無機質な自分の銃のフォアグリップ。僅かな期待はあっさりと打ち砕かれたことに思わず息を呑んだが、甘えてばかりではどうしようもない。

 

 せめて敵が来た時にすぐに撃てるように。そう思って彼女がしっかりとフォアグリップから手元に引き寄せたその時だ。

 

「ははは、こんな時に姉の心配とな。おぬしは面白いな――――M4A1?」

 

 遅かった。聞き覚えのない笑い混じりの声。

 M4は思わず声の方向に銃を向けるが、それよりも早く銃が奪われる。声の主はしゃがみ込むなり耳元でせせら笑う。

 

「甘い甘い、おぬしではわたしには勝てんよ――――――今のままならな」

 

 首元に手が回される。細く、また怖気立つほどに冷たいそれがM4の首を強く、確かに殺意を持って締め上げる。

 辛うじて息が出来たがそれは敢えてやっているのが分かる、ソイツは彼女の苦しむさまを観察しようとしていた。少なくとも彼女にはそう感じる。

 

 ふわりと身体が浮き上がる、首元に掛かる負荷に思わず呻いた。

 

「――――――っく!」

「さあ、眼を開けよ」

 

 M4は言われるままに眼を開ける。

 

――その女は、いや少女が正しいのか。恐らく少女なのだろう、しかしその瞳の奥にはあまりに多くの死骸が積み上がっていて、とても実際の風貌は測れない。

 恐ろしく白い肌は鉄血共通のものにしても、その紅く残光を灯す瞳がM4には恐ろしかった。釣り上がる口端、向けられた浮遊する機銃の数々。やはりコイツはM4の様を観察し、期待し、悦んでいる。

 

 そのセーラー服のような格好は素肌ばかりを見せつけていて、余程「自分」という概念に自信があるのが見て取れる。

 

「…………わたしは生き物をこんな持ち上げ方をしたことがなくてな、息は出来ているかな? いや死んだならもうどうでも良いが」

「――――――わけ、の、わからない…………ことを!」

 

 首に伸びた手を両手で掴み、引き剥がそうと藻掻く。暫く女はそれを傍観していたが、突然笑みが失せたと思うと一際強く首を締め付ける。

――頭が。

 

 明らかな過負荷に思考が曇る。それを女も察したのか、抵抗が薄くなるとすぐさま力を緩めた。やはり敢えて生かしているのだ、それがM4には無性に恨めしい。

 弄ぶだなんて。無様な姿を見て楽しいのか、と。

 

 その意を汲んだのか、おどけたように嗤う。

 

「おおっと失礼、わたしの名前はウロボロス。尚、抵抗すればおぬしのこの銃で喉元から脳天まで撃ち抜く、下手に喋らぬことだな」

「ウロ…………ボロス――――?」

 

――鉄血ごときが、完璧を表す蛇を騙るのか。

 復唱するとウロボロスは、まるで聞き分けの良い子供にでも向けるような朗らかな笑顔を見せる。

 

「よく言えたな。覚えておくことだ――――――ああ、M16A1も動くでないぞ?」

 

 ゆっくりと、ウロボロスは瓦礫に首を向けると嘲笑う。

 手に持ったM4A1をM4の喉元に突きつけると、まるで号令でもかけられたように浮いていた機銃が一斉にその瓦礫に向けられた。

 

――――暫くすると、両手を上げたM16がゆっくりと瓦礫の陰から現れる。

 

「ねえ、さ――――ん」

「悪いM4、どうやらお見通しらしい」

 

 M16の舌打ちにウロボロスはまあまあ、と宥める。

 

「安心するが良い。わたしは幾つかM4に質問がしたいだけだよ、内容によっては殺す」

「だから悪い返答ならば殺す、並の返答ならば殺すという事――――――とはいえ、良い返答でも殺すのだがな?」

 

 M16の上げられた拳が強く握りしめられた。

 

 ウロボロスはそんなものは意にも介さず、M4の方に視線を戻す。途端に蛇に睨まれた蛙のごとく、M4にはその視線に対する反撃の姿勢を思い出せなくなってしまった。

 何をすれば良いのかも分からず僅かな呆然を含んだ瞳に、ウロボロスは真っ直ぐと質問を投げかけた。何故か彼女は銃を捨てる。

 

「では先ず1つ。今の本音を正直に述べよ」

「今すぐ、お前を――――――殺してやりたいわ」

「では次に2つ。わたしはおぬしにどう映る」

「鉄血のクズ、よ。見分けなんか…………つけるものか」

「では末に3つ。おぬしが情報を渡せば、姉妹共々助けてやると言えばどうする?」

 

 

 

 

 

「誰が渡すものか。私は此処に来るまでの仲間の信頼も、尽力も裏切らない。姉さんだって、そんな事をされてまで生き残りたいとは答えない」

「――――――ふむ」

 

 ウロボロスの眼が怜悧なものにピタリと切り替わる。顎に手を当て小首を傾げるのが何だかこの状況では気の抜けた馬鹿馬鹿しい動作にすら思える。

 

 M4の有りもしない心臓が酷く跳ねている錯覚。気に入られたいのではない、その動作の一瞬にでも隙が無いかと待ち望んでいるのだ。

 だが有る訳がない。代わりにウロボロスの眼が、口元が冷たくM4を貫く。

 

「おぬしは悪い回答どころか、最悪の回答をしたぞ――――――――殺す価値すら無いわ、雑兵め。恥を知るが良い」

 

 途端にM4の首から手を離し、服の首元を掴むと手の力だけでM16へと放り投げた。M16は突然の動作に対応しきれずM4を抱きかかえながら瓦礫の中に倒れ込む。

 

 砂煙の中で驚いた表情で此方を見るM16を、ウロボロスは殆ど無表情に近い様子で静かに見つめる。まるで理解も出来ない前衛的な名画を見ているような冷たい瞳にM16の思考が少し止まってしまった。

 

「情報など送る前に消せば意味がない。一度渡してしまい、油断したわたしを撃てばよかろうが――――――――矜持に拘り、それすら思い及ばぬ知能。もしくは賭ける度胸もないおぬしは兵などではない。ただの夢想家だ、殺す意義を感じぬ」

「が、その分不相応な誇りを評価してやろう。わたしの気が変わらぬ内に失せよ」

 

 M16には言っている意味が分からなかった。

――何を言ってるんだ、この女。

 

 その表情に大意を察したのか、ウロボロスはわざとらしく肩を竦めて呆れを表現してみせる。表情は本当に二人の行動に呆れているものなのが明白だ。

 

「はよう失せぬか。せっかくわたしが見逃してやろうと言っておる、好機を捨てるは兵の恥だろう?」

「わ、私達を生かして帰すってのか? お前…………」

「そう言っているのだよ、あくまでわたしは――だが。外の部下共はおぬしらが何とかせよ…………はぁ、興が冷めた。次に会えるならば――――――――そうだな、M4。よく聞け」

 

 

 

「わたしが「お前になら殺されていい」、そう思える答えを用意しろ。今のでは主人公気取りの愚か者よ、そんな馬鹿に殺されてやるつもりはない、わたしを殺してみせろということだ」

「そういう兵士になり、わたしの前にもう一度立てたなら――――――おぬしに敬意を払おうではないか」

 

 そう言うと、ウロボロスは酷く脱力した様子でM16から背を向けて階段へ歩く。機銃はしっかりとM16に向けられており、本当に隙だらけなのかいつでも殺せるのかが判断しかねる。

 

 消える直前、ウロボロスは

 

「せっかく殺せるチャンスを与えてやったというのに――――――まあ、主人公など大見得を切ってナンボなのか? わたしには分からんが…………」

 

 と愚痴でもごちるようにぶつぶつと喋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、スケアクロウ。聞こえているかな?」

 

 全く、ショーティーを付けていることをこれほど感謝したこともない。アレにわたしは殺される筋合いはないし、触れたくもないな。理想論と綺麗事は嫌いなのだ。

 

 そして同時に羨ましい。死の間際ですらあんな啖呵を切れる高潔さが。主人公になどなれようもない自分が影になって、アイツラは美しく見えてしまう。わたしは甘いと言うより身勝手だ――――――――そういうものは遺すべきだと考えてしまうし、実行してしまうのだ。

 ストーリーを壊すのも趣味ではないからな。予定通り、404小隊に殺されてやるとしよう。

 

『聞こえていますよ。まさか通信を繋いだということは――――――』

「ああ。しくじった、代理人に端子を幾つか引き千切られるやもしれん」

 

 スケアクロウは溜息をつくと、わたしの言葉に文句を重ねる。

 

『むしろそれで済むと思える信頼関係が羨ましいですわ――――――――まあ、しくじったことにしておきましょう。貴方がしくじるなんて、あの方は信じないと思いますが?』

「まあそう言うな。ハンターとの交渉材料として拳銃コレクションをくれてやろう。それで勘弁して、今はあやつらを追ってくれぬか?」

 

 言われなくても仕事はします。そんな無愛想な返事が来ると通信は切れた。

 

――さて、代理人に殺されるのは不本意だが。わたしはどういう処遇になるのやらな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、お前は何もお咎め無しと?」

「ああ。わたしが困惑したな」

 

 はい、ブラックジャック。お前弱いよ、処刑人。

 またギャアギャアと喚き出した処刑人のクレームをシャットダウン。もうあまりにも哀れなので顔にある程度出してやってるのだが、日頃の行いというか深読みされて逆に勝ってしまう。これがオオカミ少年ってやつか。

 

 戦闘の時は突っ切る馬鹿って事はないのに。アレか、気を抜くと直球馬鹿になるのか。

 ハンターもブラックジャック。互角か、表情を変えずに俺に尋ねる。

 

「最初に何て言ったか覚えてるか?」

「確か、『次はありませんよ』だったな。あ、処刑人はわたしとハンターに平等に酒を注げよ――――――敗者は相応の惨めさを味合わんとなぁ?」

「勝ったからって調子づきやがって、ったくよぉ! 笑って言うことじゃねえぞお前――――」

 

 俺がお前に負けたこと無いじゃねえか、常に調子乗ってるってか。え?

 ハンターはいい加減俺に勝ち始めた。スケアクロウはいつもいい具合でフォールドして勝負に出ない、俺がバストしたと見ると攻めて来るタイプ。ディーラーは不利だ、いい加減イカサマもさせてもらおうか。

 

 こういう時のために幾つかは学んでるんだ、代理人に相談したらピンポイントな本拾ってきてたのは笑ったけど。

 悔しそうに顔を真赤にして酒を注ぐ処刑人、いやあ格別格別。

 

「ほれほれ、急がんか」

「ウロボロスは敗者に全く容赦を知らんな…………」

「数千も負け組を見た後だとな、勝っているぐらいでないと万物には価値がないと思えるものよ」

 

 そんなもんか、と納得したハンター。

 

「そう言えば貴方の兵装、代理人様のアームの銃でしたわね」

「おお、お目が高いぞスケアクロウ」

 

 急に喋ったと思えば兵装の話なのは仕事人気質過ぎて不安になるが、それは正解だ。

 スケアクロウは賭け事の時はあのマスクを外す。曰く「アンフェアは好みません」とのこと、戦闘で手段を選ばないだけで誇り高い一派のようだ。是非部下にしたい性格ナンバーワンだぞ、俺的には。

 

 少し俺の反応にスケアクロウは得意げに口を緩ませる。顔に出てないつもりらしいからぶっちゃけ可愛いよな。

 

「あの戦闘は前日にいきなり駆り出されると聞かされたのだがな? 「兵装がないんですが」と言ってみたら、事前に改造していたものを寄越してくれたのだ。あの人には色々な意味で頭が上がらんよ」

「…………アレまさか生えてくるのか? 尻尾みたいに」

「一杯あるのだそうだ。要事の際はスペアを別に置いて取っ替え引っ替えもするらしいぞ?」

 

 全員が固まる。

 

「あのなっがいフリルスカートをたくし上げて何かサブアームをイジってる代理人…………怖いぞ、私は」

 

 おいハンター、具体的に想像できる言い方を辞めろ。

 あの人背が高くてな? あのクールな無表情のまま、スカートたくし上げてサブアーム弄ってるんだろ…………? 気持ち悪い。

 

「わたしだって怖い」

「オレだって喋りかけようとは思わん」

「仕事なら特に」

 

 スケアクロウ、お前は畏れを知るべきだ。




今回から当作品のウロボロスは姉貴呼びしていく。
姉貴は一話の途中あたりでぶっ壊れました、殺し合いを眺めてる時ね。仲間には世話焼きで遊び人な所もあるけど、まあ今回でお分かりの通り根本的にヒール気質。

感情移入は止めた方が良いですよ、俺は「悪」と認定してますし扱い方もそれ相応のものです。彼女はあまり正しくない。
代理人が甘い判定出した理由ですが、ウロボロスは異名がないので上級扱いではなくスケアクロウと同じで「スペアはない」。CUBE作戦でもそんな感じだし。戦場に出した時点で信頼は有ったという。

次回はどうしようか、処刑人を出して欲しそうな人が居たから一応出してみる。他にも鉄血で欲しいキャラ言ってみても良いぞ、頑張ってはみるさ。
おや、ウロボロスの一人称の様子が――――――?
ってかウロボロスの喋り方違うな。婆口調だったっけ、おぬしだけだったかな? 覚えてる人教えて、何かCUBE作戦のテキスト読めないし。
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