阿呆が二百も居るとは、ハーメルンも末期か…………期待される死に方でも目指せば良いか? あまり主人公らしい返しは出来そうにない、うむ。
ともあれ後半戦、蛇の奸計を刮目せよ――――――おお、今のダークヒーローっぽいな! 良い感じじゃないか、なあ!?
まあ今回わたしの出番有る――――これは有ると言えるのか?
息抜きというより今回は自己満ではなかろうか。わたしは責任取らん。
「…………ひっく。肝を冷やしたぞ」
「飲みすぎです、AIとは言え酔い潰れますよ」
飲まなければやってられない日もあります、はあ。代理人は強いからそれが分からないのですよ。
銘柄も知らぬ液体を泡ごと飲み干す。ジョッキを叩きつけるのに僅かな快感、揺れる視界の端にはデストロイヤーが居る。
ああ、口元に飯がついておる。
「デストロイヤー、口についておるぞ」
「え? あっ――――」
「しかたないやつよのぉ…………」
勿体無いな、取って食ってしまおう。ああ、視界がぐらつく。酒に呑まれたか、わたしもつくづく愚か者よな。
意識も視界もモヤだらけの中、デストロイヤーがバツの悪そうにわたしを見ているのだけが分かる。どうした、わたしの顔に何かついているのか?
「どうした、何かついておるかな?」
「え、いや――――――」
「ははは、おぬしの瞳は黄金に眩い。もっと見惚れておって構わんぞ~…………」
おお、頭を撫でようとしたのだが随分乱雑にしてしまったな。まあ酔っているからな、大目に見てもらおう。
――慣れてないのか耳をほんのり赤くして大人しくなる。新しい家に来た猫とはこの事か、いやあ眼福眼福。
アルケミストが悪酔いしながらわたしの肩にグランと手を引っ掛けながら頬を突き合わせる。近いのもそうだが、こやつは酒臭い。相当飲んだな?
「良い余興だったぞ…………それで、本命は如何に堕とすんだい。ウロボロス、もっと嬌声を聴かせておくれよ…………」
「待て待て、時も近いさ。あの人も飲めば流石に勝ち目があr――――――」
待て。この人、全然酔っていない?
顔色一つ変えずにゴクゴク飲んでいる。代理人は酒まで強いと来たか、どこまで隙の無い上司なのやらなあ。
――が、だからと逃げるは鉄血の恥よ。今しかない、勝負に出ようじゃあないか。
『ではぁ、これよりテーブルゲーム女王決定戦を始めるぞぉ! 酒は酔えども溺れるなよ、しっかと目を開けて我らが女王を見出そうではないか皆の衆ぅ!』
ボルテージはマックス、さて…………。
「結局わたしと、おえ…………貴方の一騎打ちなのですか、代理人」
「そんな調子で勝負になればいいけれど。まあやってみましょうか、ウロボロス」
またわたしは勝ってしまったか。全く、強者も楽じゃないものよ…………。
さてさて、壇上に置かれた一組のテーブルと椅子。周りには敗退者含めた鉄血の野次馬の衆、要するに決勝戦。
内容はシンプル、チェスだ。ただのチェス、一手に付き3分。早回しだ。
『おっとおっと、いつもの百合百合コンビで対決かい!? こりゃあオレ様もちっとは興味を持たざるを得ないなあ!』
『ハハハハ、もっとやれやれー! そのまま乳繰り合ってろー!』
ハンターと処刑人は頭がおかしくなってしまったらしい、実況を任せるのではなかったな。後でコロス。
「しかし、私に頭脳戦を挑もうとは思い上がりましたわね。格の差というものを教育して差し上げます」
「ほざいていればいいでしょう、今日のわたしは数段バカですので――――――!」
『『ダメじゃねえか』』
やかましい! 今日のわたしは凄いんだ! 多分!
手早く部下が整えたチェスボードを眺める。わたしが黒、彼女が白。嗚呼、その色の選択は大正解だ。
代理人の顔を見つめてみるが、彼女はやはり顔に出ない。どう打つかなんて想像がつかないどころか、何故か自然とどう手を打っても捻り潰されるネガティブな想像ばかりが頭を塗り潰してくる。
それはイメージなのか、それともそう思わせる風格が漂っているのか。
『まっ、泣いても笑っても決勝戦だ! オレの手足は言葉通りバッキバキだからぶっちゃけウロボロスに負けて欲しいけど、お互いがんばれよ!』
『頑張れ頑張れ―! もっと殺し合えー!』
一人おかしくはないか。ハンターは酔うと語彙力と品が失われるようだな。
さて。トスをしようか、ポーンを持つ。
「では左」
「貴方の色と同じ白、先手は貴方です。代理人殿」
では、と代理人がわたしの左手のポーンを取ろうと身を乗り出して――――――――倒れた。
比喩ではなく、そのまま机に倒れ伏してしまう。突っ伏した代理人は眼をポヤポヤと開けたり閉めたり大変忙しそうであるが、起き上がれる様子がない。
思わず変な声が出る。
「え?」
『は?』
全員ハモってしまう。それはそうなるだろう、わたしもビックリだ。
取り敢えず揺すってみるが、代理人の眼は完全に動けないことを示す蕩けたものでとても試合続行とは言えない。
――――観客席に居た夢想家がケタケタ笑った。
「いやあ、傑作傑作! 代理人が酒を飲むなんて何事かと思ったけど、あたしが来たのは大正解だね。うんうん、皆いい顔をしてるよ」
「何を言っている夢想家、わたしに分かるように喋れ。苛つく」
こんな時までトリックスター気取りは気に食わない、ちゃちゃっと本件を喋れと。
夢想家はイライラとさせてくる長い長い嘲笑の後、ゆっくりと代理人を指差す。
「代理人はね、酒に尋常じゃ無く弱いよ。多分一口、いや一滴目で酔ってる」
「ウロボロス? キミの誘いだから、強がって此処までやってみせたってことだよ! やっぱり傑作だよね、ハハハハ、ハハッ、ヒーッ! もう笑っても笑っても笑い足りないぞコレは! あの代理人がねえ!」
本気か? 予想外過ぎる、大体代理人に限ってそんな事は――――――――いや。
確かにこれはどうしようもないくらい酔ってるな。強がってたとしか言いようがない、顔に出ないのも有って分かりにくいだけか。
『あー、まあ夢想家を信じるか。じゃあ不戦勝でウロボロスの勝ちな! あーつまんねえの、頂上決戦がこの幕切れとは。三国志でももうちょい面白いってんだ』
『ほんと面白くねー! ハンターは怒っているぞ!』
『へいへい、ハンターはちょっと静かにな。お前ら、ゲームは片付けっぞー!』
「あぁ…………ちょっとばかし乱暴にお運びしますので、足をもつれさせないよう」
「きを、つけます…………」
本当に酔っているらしく、体重移動がフラフラとしている。わたしが変に手を離すと頭から床にぶつけてしまいそうだ。
あやつらは全く巫山戯ている。誰か運ぶのを手伝えと言ったのにニヤニヤとしてばかり、手を貸す気配が無い。鉄血に慈悲など要らない事は重々承知だが、無理難題を押し付けるのは鉄クズ以下ではあるまいか。
代理人は背が高い。わたしに肩を預けても、それはそれで少し歩きにくいだろう。
「大丈夫ですか」
「だいじょーぶ、れす」
「駄目ですね、外の風にでも当たった方がよろしいかと」
「そー…………です…………か」
ああ、駄目だ。この人はもうわたしの言うことをマトモに聞いていない、
――わたしでは出来ないことをしてみせたなら、それは素直に譲りどころというものだ。一つ二つではなく、全て駄目だったなら仕方あるまいよ。
仕方、ない。
「死人に口無し、同様に――――――敗者に口など要らぬからな」
「…………寒い」
寒くなかった。言葉にすれば寒いかと思ったが、わたしにはどうしても寒く思えなかった。
――夜空は嫌いだ。見るほどに、自分は星を飾る為の空だと思い知らされるから。
アレは何を思ってか、時折夜中に管制塔の頂上に座り込む。温かくもない甘ったるい珈琲を飲みながら、いつも一人で涙を零している。
理由など知ったことか。一等星が何を嘆くことが有るのか、わたしには到底分からぬのだ。分かれないし、分かってやれないし、分かってやりたくもない。アレは、恵まれているだろうに。
今日は一層寒いからか、三等星まで見えているらしい。綺麗なのは分かった、涙は出ない。
「あなたは、へやにもどりなさい。動力が不調をきたしては困ります、から」
「酔い潰れがほざくものよな。落ち着くまで待っていると言っているのです、甘えて良いと言うのに」
貴方を放置していては、転げ落ちてしまわないか不安になる。
――少しばかり頭を貸してやった。生き残るためだ、例え意識の端に追いやられようとも死にたくないのは当然のこと。だからわたしはアレに「戦うための頭脳」をもまるまるくれてやった。
アレは正しく使い、数千の屍の上に立ち、彼女に信頼され、仲間に信用され、部下に陶酔された。それはわたしに出来ないことだろうとすぐに分かった、アレはわたしと思考が違いすぎる。
劣等感がないと言えば嘘。だが受け入れるべきであるという言葉も真。複雑でわたしも自分が嫌になる。
「星を、みているのですか」
「そうです。貴方は星には何を感じますか」
「分かりません、今日初めて――――――見てみようと思いましたから」
それは、
代理人の目に星々が映り込む。彼女はそれに対して感傷を持たず、感想を持てず、愛着はないから綺麗に写し取られている。それは彼女の瞳に、もう一つの夜空が有るのではというくらい。
美しい煌めきは、わたしに無いものだった。また無いもので、いや。無いものばかり見つけるのが得意なのがもううんざりだ。
「貴方はコレを見て、よく泣いていましたね。何故ですか?」
「酔いは覚めたようですね。帰りましょうか」
「質問の答は」
代理人が立ち上がるわたしの手を取った。答えようもないというのに。
――どう答えたものか。わたしはアレが憎たらしいが、同様に好ましく思う。邪魔などしてやるつもりもないし、要らぬ世話もしたくはないのだ。
もうわたしは死んだようなもの。あの時、少しでも「私こそが戦うべきなのだ」と考えられなかったあの始まりの日。あの時点で、わたしは居なくて良いし居ないようなものだ。
酔いが覚めればまた何時も通りだろう。気が利き、力を持ち、言葉が他者を動かせるあのウロボロスは戻ってくる。
「明日答えましょう。それまでに名答を期待しております」
「そうですか、まあそれも良いでしょう」
どうやららしい回答になったか。代理人は諦めて立ち上がる。
まだ歩くのは辛かろうと手を差し出したが、一向に手が取られる気配はない。
「どうかしましたか?」
「いえ、今日は何だか萎れているようだと」
「実際そうですよ。貴方とチェスが出来なかったのは残念ですので」
まだ歩かない。何だ、面倒な人形だ。質問には答えてやったというのに。
代理人の眼は苦手だ。何故かわたしの全部を見透しているような、ありもしない幻想に囚われる。真っ直ぐな瞳というのはそういうものを度々見せるようだが、わたしは嫌いだ。
暫く待っていたが、もう諦めて手を引こうとした時。何時も通りの淡々とした表情だった。
「あの作戦の失敗は気に病むことではありません、私は貴方に倒しきれるとまでは期待しませんでしたから。後始末を損ねた私にも落ち度はあります」
「次の好機を、逃さないように。生まれた時から完璧など機械ですら有り得ません、貴方は次に成功すればそれで良いのです」
冷たいふりをしているが、気だけはよく利く人形め。
「早く行きましょう、貴方まで不調になる――――――」
「…………? 何故涙を流すのですか?」
「分かりません。早く行きましょう、本当にAIまで駄目になってしまいますよ」
ああ全く。わたしの事じゃないな、ああその筈だ。
――愛おしい程、アレは。おぬしは、わたしが欲しいモノを全部見せてくれるのだな。羨ましい。
羨ましいよ、もう。だから見ているものを壊したくない。
悔しいなあ。悔しいが、もう憎くて憎くて堪らんのだが………………わたしにこの理想は壊せない。見たかったものが見れて、何か満足してしまっているのだ。根本的な負け犬だ。
「…………もし。役に立たない部下が居たのなら」
「長い目で見てやってください。何か有る筈なのです、容易に捨ててやらないでください」
「我儘ですが『
我儘だ。我儘だが――――――
「私は価値の有るもの以外に興味は有りませんが――――――そうですね。ウロボロス、貴方は私の持っていないものを持っている側です」
「頭の片隅には留めておくとしましょう」
これぐらい、構わんだろう?
なあ?
短くも彼女は多くを重ねました。さあ、「答え合わせ」と行きましょう。
多くは語らず。代わってダークソウル風に解説を更新。
【ウロボロス】New!
元大学生。死を観過ぎた故に希死念慮にかられている。
義理堅く、慈悲深く、容赦無き実力者。ただし体の性か驕り不利になろうとする。強者故の怠慢だ。酒を飲んだ場合も少しらしくない言動が目立つ。
面倒見は良いが真似であり真性ではない。されど行われれば性格で、善行である。
天命に身を任せるが抗わない訳ではない。「英雄の条件」を満たさなければ仇敵を殺すだろう。
強者の権利とは死に様を選ぶこと。彼女にとって絶対の法則はそれだけだ。生きながらに死に親しむ姿はOuroborosに相応しい。
しかしそれらは本当に「彼」だけの性格なのか。それは計り知れない。
遅まきながら感想評価ありがとうございます。息抜きでももらえるのは贅沢事です、嬉しい。
スローガンは「乞食は一生の恥、未完も一生の恥」なんですが、今回は乞食しません。適当に気が向いたら評価したり感想入れてください。
俺が息抜きしてるのに読者に気を張らせてどうするんだよっていう。
次回から暴れる。しんみり終わり、世界を滅ぼしかねない大蛇が戻ってくるぞ。