わたしがウロボロスだ   作:杜甫kuresu

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「おいハンター。わたしは昨日おかしくなかったか?」

 起き抜け。二日酔いじみた奇妙な感覚は何のために有るんだ、なんて鉄血工造を責めながら頭を抱えてハンターに問う。
 昨日の記憶がない。確かハンターと処刑者をボコボコにして、マジックをしてからだな…………それから、変な夢しか記憶にない。

 俺が傍からウロボロスを眺めている変な夢だ。
 ハンターは呆れたように溜息をつくと肩を竦める。

「お前はいつもおかしいよ。寝ぼけてないで代理人の所でも行ってこい、私は忙しい」
「うーむ…………アレは夢か…………?」

 アレは何だったんだろう。まあ、分からなくても困りはしないんだが。
 まあいつも通り、(わたし)は上手くやっていたんだろう…………ん?

「わたし?」


筋書きを決めるのは

「いいえ~、私は何にでも♪ 牛乳を注ぐ女~♪」

 

 今日も今日とて代理人の髪を弄る。最近当人もちょっと楽しみにしているフシが有るので俺も鼻が高い、まあ以前はこんな器用じゃなかったんだが不思議なものだ。

 ウロボロスの身体はひたすらスペックが高くて助かるよ。

 

 代理人が振り向く。

 

「その曲は何ですか――――――まさか貴方、牛乳がないと生きていけない食嗜好なのですか」

「真顔で言わんとって下さい、そんな訳無いでしょう」

「冗談です」

 

 だから貴方の冗談は俺ですら見分けがつかない。

 

「貴方は髪質が細くて柔らかい、しっかり手入れすればもっと色々出来るんですが――――――スケアクロウから拝借したいですね」

「彼女は作戦中です」

「ほう、スケアクロウは現在作戦中ですか」

 

 代理人がコクリと頷く、それ自体はいつものことだ。アイツはとても優秀だ、仕事が増えるのも当然。

――問題は後から出てきた、内容の方。気づかなかった、()()()M()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり第一戦役に入った。まだAR小隊がチート指揮官に出会う前――――――そして、スケアクロウが死ぬエピソード。

 

「ふむ、困ったものだ――――――よしっと、今日はハーフアップ。ご感想は?」

「少し髪が邪魔ですね」

「そうですか、直しませんけどね☆」

 

 デコピンされた――――――痛ッテェ!? ヤベえ頭弾けたかと思った!?

 

「痛い! そんなに強くデコピンしなくてもいいじゃないですかぁ!? ああ痛!?」

「………………その顔を見ているともっと強くやってみたくなりますね。何故でしょう」

「潜在的嗜虐趣味!? 辞めてくださいよ!」

 

 真顔で首を傾げられても俺のデコの半端じゃない激痛は収まらないから。

 思わず擦って頭の所在を確認する、代理人は何事もなかったように歩きだすのでこれはかなり酷い。怒らせるようなことしたかな俺――――――したかもしれんな、うん。

 

 急いでついていく。

 

「ああ、そう言えばアレは完成してます?」

「していますよ…………まさか「スケアクロウに加勢する」等とは」

「勿論言いますが、駄目でしょうか?」

 

 代理人が珍しく渋った表情を見せる。

 まあ戦績が成功率0%では上の説得も面倒だし、俺は所詮新人。カタログスペックが高くても「本来は捨て駒」、その程度なのだ。

 

 我儘なんて早々聞いてもらえる訳

 

「………………はあ、後に響く事は承知しているのね?」

「え? 行けちゃう感じですか?」

「何とかすると言っています、恩は着せますからそのつもりで」

 

 それは全然構わない、というか元からそのつもりだ。

 

「え、ちょっと恩が返しきれなさすぎて責任とって嫁に貰うぐらいしかイッタ!?」

「馬鹿なことを言わないでくださります?」

「ごめんなさい」

 

 デコピン痛すぎる、グリフィン製だったら即死だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿呆共、何時も通り最終確認をせよ。マガジン、スタングレネード、ワイヤートラップ、通信の調子は良いか、ダミーリンクは不調はないか」

「問題などありません、当然ですよウロボロス様」

「それもそうであったな。わたしの部下がそんな間抜けな訳がない」

 

 流し目で後ろの隊を一瞥すると、彼女の瞳から小さく赤黒い冥雷が疾走る。今日の彼女は何時にもまして寡黙で、かつ怜悧な表情ばかり見せている。

 普段から整った行進をする部下達も何時も以上に柔らかい足元に堅い足音を踏み鳴らす。広がる平原に敵影はなく、戦闘のウロボロスを筆頭に明らかにそこらの基地の鉄血とは違う威圧感が空気を蝕む。

 

 以前居たManticoreと言った大型兵器は参列していない、今回は彼女の個人的な我儘に相当する行軍であるからだろう。

 

 しかしあの日の軍勢が百鬼夜行であるのなら、今日の彼女達はさながらワイルドハント。一人一人が今は亡き神々に匹敵するとは言えずとも、少なからず人など歯牙にかけぬ死霊の匂いを撒き散らしている。背丈も武器も整えられた様はまさしく狩りの前触れ、もしくは厄災の前兆。

 

「それにかまけるなよ、今回は勝算ありきの消化試合などではない」

 

 普段なら念押しなどしないだろう、今日この日だからこそ彼女はそれを改めて忠告した。かの上官の忠告には金こそ有れど鍍金はない、素直にその忠告は隊列の最後列まで行き届いた。

 

――流石に主人公だ。俺達がどうにか出来るのかは不安材料だからな。

 前回の奇襲は代理人に取って代わる形だからこそ疑問は無かったが、今回は本筋とかけ離れたイレギュラーとしての増援だ。

 

 敵はグリフィンそのものではなく、主人公であるという「肩書」に有った。彼女は自分がどういう存在であるか理解しているし、その肩書がどれだけ自分達のような性分に対して特効薬じみた力を持つかも知っている。

 

 ウロボロスは突然に振り向かないままGuardの一体を指差す。

 

「ではおぬし。今回懸念するべき前回との違いを列挙せよ」

「はっ。では僭越ながら」

 

 彼女は一旦息を整えると、少し張った声で返事をする。恐らく部隊の後ろまで響き渡らせるためだろう。

 

「一に互いの軍の規模。ニに我々が後手であること。三に今回の鉄クズ共は「我々の殲滅」に重点を置いていることです」

「よろしい」

 

 ウロボロスが流し見ると、小さく笑う。

 

「つまりだな、わたし達は気合で何とかすると言っても差し支えはない。眼の前で仲間を惨殺しろ、落ちている死体を盾にしろ、要らぬ言葉で惑わし撃つが良い。手段は選ぶな、全てを用いて殺せ――――――――」

 

 続けて確認を取ろうとしたその時、ウロボロスの眼が僅かに煌めく。

 目を見開いたかと思うと、首を少しばかり横に逸らす。

 

――――――それは鈍色の流星だ。確かにウロボロスの脳天目掛けて正確に、真っ直ぐに、かつ鋭利に飛来する。

 

「避けろ」

「勿論ですとも」

 

 間髪入れずに重い地面を食いちぎる音。それは銃弾だった、少なくともこの平原地帯からのものではない。

 ウロボロスは遠方の森、或る一点を睨みながら振り向かずに続ける。

 

「今のは7.92x57mmモーゼル弾に見えたが、合っておるか?」

「せ、正解です。流石ウロボロスさんだ」

 

 世辞は良い、と呆れたような溜息を見せた後にまた遠くを睨む。

 部下達は見習ってそちらの方に目を凝らしてみたが、何も見えるわけがない。森林地帯が広がるのは距離721m、スコープと鉄血人形の視力を持ってしても本来は見えないだろう。あくまでウロボロスがハイエンドモデルである証左だ。

 

 しかしその距離から致命傷を与える銃などスナイパーライフルでも中々に無い。グリフィンの銃は旧式のものばかりだ。

 

「…………ほう?」

 

 ウロボロスが弾んだ声と共に手を僅かに上げた。「出せ」の合図である。

 後ろの兵は慌てること無く、整然と肩にかけていた大きなホルダーを地に立て、ロックを外して開ける。

 

「では開演だ――――『Stinger』、起動」

 

 まるで詩でも詠むような静かな号令とともに、ホルダー内の兵装達が次々に浮き上がる。後ろの浮遊パーツは同じようだが、銃口は機銃、ミサイル、突撃銃――――――多種多様な物があり、それは個性を持った軍隊である。

 

 不揃いながら彼女の後ろに馳せ参じる、それと同時期にウロボロスが振り向いて声を張り上げる。

 

「わたしは狙撃の主を追う。無事、スケアクロウの座標まで辿り着くように」

 

 突然の指揮放棄だったが、兵はたじろくことはなかった。

 まるで怖気づいた様子もなく隊列の中から一体の鉄血兵がウロボロスのもとにまで歩き、彼女に語りかける。

 

「貴方は聞かないでしょうし、私達もそれは止めません。ですがこれも鉄血としての務めですので――――――ウロボロス様、敵人形はたかだか一体でございましょう? 貴方が隊列を離れるほうが不利益かと私は」

()()()()()()()()()()()

 

 振り向く彼女の瞳に一同はもう止まらないことを悟る。具申した鉄血兵は隊列の前に立つと、号令をかけて進軍を取り持つ。ウロボロスが就く前の隊長だ、彼女の指揮能力は低くはなかったし今も衰えては居ない。ウロボロスは正直な所、それ程心配していないのだ。

 

 隊から離れていく彼女の瞳は紅い尾を引き、口元は今までになく釣り上がっている。

――嗚呼、良いぞ。良い弾だった、後少しで死ねたのだが。

 ウロボロスは無線を繋ぐ。そのチャンネルにはすぐに繋がった。

 

「良い狙撃だ、おぬしにならわたしは殺されても良いのやもしれん」

『…………お褒めに預かり光栄ですわ』

 

 声を聞いてウロボロスの口元がさらに釣り上がる。高揚、高揚、高揚。

――お前か。いや、彼女じゃないな。お前は違うやつだ、俺には分かる。

 

 だって、同類だから。

 ウロボロスはカタカタと一しきり笑うと、静かに問いかけた。

 

「名を名乗るが良い、どの道その名に意味はなさそうだが」

 

 通信の相手は少し固まった後、クスリと笑う。

 

『――――ああ、やっぱり。貴方、ちょっと装備が変だなとは思ったんです。()()()()()()()()()()()()()()()()、そうですね?』

「どうだかなあ? さあ、名乗れ。わたしが殺してやる」

 

 ふふっ、と取ってつけたような柔らかな笑い方をすると息を吸って女は応える。

 

『では――――御機嫌よう、ウロボロスさん。グリフィンS09地区所属、銃名『Mauser Karabiner 98 kurz』。我が従僕の要請により貴方を断罪します』

「はっ、下手くそめ。もう良い、素で喋れよ偽物――――――幾らそこら辺の馬鹿を騙せても俺は騙せんぞ。俺はKarちゃんが大好きだったもんでな、テメーみたいなイントネーションじゃあ満足できねえ」

 

 せせら笑うウロボロスの姿が彼女にはどう映ったのだろうか。ゆっくりとしたその歩みが数十を超えた頃、全く雰囲気の違う声が帰ってきた。

 

『良いね君、僕は好きだな。好ましい狂人っぷりだ、何よりも――――――――ねえ?』

「ああ? そうだな――――――そういうことなら(わたし)もお前は好きだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【マトモに本気でぶつかれる、数少ない敵だろうから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、まだ終わっておらぬのか?」

「ああウロボロスさん、良い所に! 早く指揮を代わって下さい。この馬鹿共、貴方が居ないと気合足りてないんです!」

 

 とはいえ俺も結構満身創痍なんだがな、アイツは良い。何時か殺してやる、殺されたいんじゃなくてアイツは殺したい。

 ビットは増量した11体の内8体がミンチにされた。全く、殺し損ねたのは鉄血として大損害だ。まあ両手をもいでやったから今回はもう出しゃばるまい。まさか足で槓桿を起こして撃ってくるとは思わなかったがな、あんな破れかぶれは満身創痍でなければ誤魔化しにもなっていなかった。

 

 あんなものは戦闘じゃない、唯の殺し合いだ。ああいうやり合いが出来るのはあの人形だけだろう――――――ああ、思い出すだけで堪らん。理屈も戦術も背景もない唯の傷害罪の重ね合い、これはこれで経験して良かったものの一つだよ、全く。

 

 というかつい衝動的に作戦を投げてやりあってしまったが、アレは正解だった。俺達がこの中でぶつかったら関係ないやつが巻き込まれて何体か沈んでたなこりゃ。

 

「ウロボロスさん! 激闘思い出してイキ顔キメてないで、ほら!?」

「だ、誰もイキ顔などキメておらんわ――――――――さて、此処からは切り替えるぞ。おぬしも切り替えろ」

 

 一声張ると、確かに部隊内の空気が変わる。普段から仕事をして欲しいものだな全く、これだからお前らは阿呆なんだ。

 Jeagerの持った一際長いライフル。一丁をひったくって構えてみる、スコープは勿論たいして変わらないが、重心配置だけで既に調整が細かく入っているのは明白だ。

 

「これが最新型か。彼女に早くわたし専用のものも配備して欲しいものだ」

「――――ウロボロスさん、貴方が無理を言って私達に配備してくださったんでしょう? 代理人様を困らせないであげて下さい」

 

 はて、何のことだかな? 俺は「うちの部隊は装備が古すぎます。もう少し新しくてもバチは当たらんでしょう」と言っただけだからな、本当に何のことやら。

 大体装備も整えず活躍せよ、なんてのはブラック企業だけで十分だ。俺達鉄血は奴らより上なんだろう? じゃあ装備だって上じゃないと駄目だし、当然その装備で勝たなくてはならないものだ。

 

 義務は権利を伴わなければ成り立たないよ。

 

「…………成る程、スケアクロウは大分押されておるな。前衛部隊はどうした」

「大分粘ってくれました。ですから、後はウロボロスさん。貴方一人が増えれば勝負は決しますよ」

 

 良い所を譲ってくれるじゃないか。出来た部下を持って俺は幸せか、いや阿呆だからそうでもない。

 スケアクロウが直接交戦している――――――何だアイツは。多分、Vectorか? スコープに収める、ちょこまかと動き回って非常に狙いにくい。

 

「…………………………shot」

 

 鋭い銃声。鉄血でなければ身体にダメージすら入りそうな反動だったが、それだけの口径なのもあってか一撃でSMGの人形は沈んだ。ヘッドショット、何時の時代も気持ちが良いものだ。

 

「そう言えばウロボロスさんって、電脳空間時代もKar98kを使ってたんでしたっけ」

「過去の事だよ――――――では、戦争を始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の結果を簡潔に報告しよう。

 多数の犠牲を出しながらスケアクロウは生還した、またウロボロスはその後意識混迷。どうやらKar98kとの単独戦闘の際の負傷が祟った可能性が高いと有るが、スケアクロウの報告によると彼女は戦闘中は何とも無いようだったとの報告もあり実際は不明。

 鉄血、ダミー計310損失。本体の損失なし。ウロボロスの部隊、スケアクロウの小隊としては痛手となった。

 

 グリフィン。

 Vectorがロスト。しかしS09地区の人形は練度が高いわけではなく人形の生体部品以外の損傷は特になし、スケアクロウを諦めた上級代行官ヘリアントスの決断は正解であるとされる。

 最高練度であるハイエンドNo.■■■■のKar98kは両腕を破損。仮称「ウロボロス」と長く交戦したという報告をしており、本部はウロボロスを最重要モデルと認定。第一種接触禁止措置を図ることを決定。

 Kar98kは疑似パーツで両腕を代替し善戦したが、後方援護込みのウロボロスには敗走。撤退戦の殿止まりとなったが、しかしウロボロスそのものとは拮抗する可能性が有ると指揮官は報告している。

 

 この戦闘に於いて互いの陣営は、痛み分けとも笑えない結果となったが――――――同時に。

 お互いの「最悪のシナリオ」は避ける形となったという運びである。




こっからはカッコよさ極振りを予定。とうとう変態人形が出てきたのでHELLSING、そして今回から長い。
とほくれすでは恒例の「やたらつよいもーぜるからびーなあはとうんとのいんつぃひくるつ」、次の主人公。あまり出ない予定。
「黒い蛇の化物」に対して「白い人形の英雄」。「十を以て一を制する」と「一を極めて十をも殺す」。対照的なキャラとして「別作品で主役張る予定」です。

次回から俺が喋るとネタバレしそうだし空気壊れるので前書きと後書きは姉貴にぶん投げます。

「初耳だが」

初めて言いました(スティバス)
返信も姉貴がいい? どっちでも良いんだけど、姉貴がやった方が後半戦感有るよねってだけ。
スリーサイズだって答えさせてみせるぞ(ステ

【Stinger】New!
ウロボロスの兵装システム全般を指す。
本来は専用デバイスを操作するが、本人の要望によりシステムを単純化。接続数を増加させており、多様な兵装を浮遊させる。
代理人の機銃しかり、数と種類を揃えたビットは量質共に高いことから高い対応力、戦闘力を発揮する。
故に彼女は闘争の体現だ。相手取るならば「兵士」とも「隊長」とも考えてはならない。
――――――あくまで「完璧な兵隊」を抹殺する心構えであるべきだ。
そう、彼女は存在それ自体で戦争となれるのだから。

【Kar98k】
どうやら転生者のようだ。
Kar98kの有効射程は人体の中央を想定するならば600m。721mで脳天を狙うなら、とうに「運命」が味方をしているという次元に他ならない。
ウロボロスが「群」ならば「個」の極地に居る存在――――らしい。
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