必要なことだからな……だからごめんな……ゆかり。
「私が私であることの証明って誰がするんでしょうね。」
「急にどうしたのゆかりん。」
「この前あの人から言われたんですよ…『お前は他と違うなあ』って。他って誰のことですか、と聞いたら『同じ結月ゆかりだよ』と返ってきました……同じ結月ゆかりって、分かりますけど……」
「あまり気にしなくて良いんじゃない? 前の人とは違ってここのマスターはいい人じゃん。」
「そうは言っても気になるものは気になるのですよ。」
色々前のところで問題があった私達を引き取ってくれたのが今のマスターです。
あの人は私達にとても優しくしてくれて私達をVOICELOIDとしてだけでなく一人の人として扱ってくれることに私達はとても感謝しています。
優しすぎて私達が疑いの目線を向けていたとしても変わらずにいてくれたことで私達はどれだけ救われたでしょうか…話が少しそれましたね。
私は見たことがあるのです。マスターが『別の私』と一緒に写ってる写真を。
でもその表情は辛そうで、見ているこちらが悲しくなってくる程でした。
あの私を何をしていたのか、それは分かりませんがそれからマスターの雰囲気が変わったかのように見えているのです。
マスターは何も変わってないはずなのに、私達を通して『何か』を見ている……そんな気がしてならなくなりました。
「ええんちゃう? 気になることはとことんやり通すのも一つの手や。」
「そういう問題じゃないと思うよお姉ちゃん……でも、その話わかります。私も『お前は話が通じるな』と言われた時にえ? ってなりました。」
「話が通じる……? それはまた、なんで?」
「『姉しか見ていない琴葉葵がいるからな』と笑って言われました。そういう私もいるという事なのでしょうが正直別人のように思ってます。」
「葵は葵やから安心せーな。」
「だからお姉ちゃんそういうことじゃないって……」
「そんなに気になるんならマスターに聞いてみる?」
「それはいい考えですね。早速出発しましょう。いるところはだいたい分かります。」
「と言うと?」
「休日の昼間は大体きりたんとゲームやってるかずん子さんと家事をしているか……そのどちらかでなければ自室で何かしてます。」
「何かって何やねん。」
「それは教えたく無いようで、聞いてもはぐらかされちゃいます……取り敢えず、きりたんの部屋に向かいましょう。」
「さあ探検だ!」
「マスターですか? ここにはいませんよ?」
「多分自室にいるんじゃないでしょうか?」
「ここにはいませんか……邪魔したようで失礼しました。ところで二人は何を?」
「宿題をずん姉様に手伝ってもらってる所です。マスターでも良いのですが忙しいそうで。」
「宿題?誰が出しているんですか?」
「マスターと私です。きりたんはほぼ小学生5年生の知識とゲームの知識で構成されてるので、もう少し学力をつけてもらってもいいかなと。」
「勉強したくないです……」
「うちも勉強嫌いやけど葵がやってくれるからなあ。」
「お姉ちゃんは好きなことじゃないと集中できないもんね。」
「ウ、ウチだってやるときはやるんやで! えっと、ほら、この前のクイズ番組やってめっちゃウチ答えてたやん!」
「ゲームとかスポーツの時だけね。お姉ちゃん、国語とか歴史とかが出た瞬間にすぐに漫画読みに行ったよね。」
「あれは漫画がウチを呼んでたんや。ウチは悪くない。」
「まあまあ……そこらへんにしとこ? 今はマスターを探すために皆動いてるんだから。」
「ずん姉様、休憩も兼ねて私達も参加するというのはどうでしょう!」
「駄目です! ……と、言いたいところですが、やらなければやらないラインはちゃんとやってるので良いですよ。」
「やりましたー!」
「結局全員になっちゃいましたね。まあいいです、マスターに聞きたいことが聞ければそれでいいですし。」
「ほなら行こか!」
そう言ってマスターの部屋に向かう茜さん。その後を追う葵さんとマキさん。ずん子さんときりたんは二人で話しながら着いていってます。
私も行かなきゃと歩き出しました。マスターがどんな答えを返してくれるのか期待と不安に包まれながら。
『ああ君か。……調子は、どうだい?』
『どうでしょうね、良いと言えば良いでしょうし、悪いと言えば悪いです。』
『元気そうでよかったよ。』
『今のどこから元気そうという感想が出るのか、ちょっと教えてくれませんかね?脳みそ開いて見せてください。』
『いやあそれはできないなあ……僕はやらなければやらない事があるからさ。見せられなくてごめんよ。』
『……そのやらなければならない事って、■■■ですか?』
『っ……どこで、それを? どうやってそれを知った?』
『この前見たんですよ、貴方がその仕事をしている現場を。ドアを開けっ放しにするなんて、貴方らしくないですから気になったんです。』
『……そうか。』
『言おうかどうか悩んでましたが、マスターのためを思
って早めに聞くことにしました。……私って偉いでしょう?褒めてくれてもいいんですよ?』
『ああ……そうだな……本当に、偉いよ。本当に。』
『……ちょっと、泣かないでください。全く、軟弱なマスターですね。女々しいったらありゃしません。』
『君は……分かってるんだよね?』
『当たり前でしょう。マスター……貴方に拾われた時から私は、貴方を優先しているつもりです。それこそ、私の個人的な感情は全て抜きにして。』
『優秀だなあ、本当に……でも僕はこんな終わり方、望んでなかったよ。君は駄目だね。だから……!』
『それ以上はいけません、マスター。納得してください。私とマスターはここで道を分かつのが運命というものです。貴方がいくら望もうと、これは決定事項ですよ。』
『だけど、こんな終わり方は余りにも……!』
『マスター、私は、幸せでした。マスターが底抜けに優しいから、口が悪い私でもそのまま受け入れてくれました。この世界を受け入れることができたのは貴方といたお陰です。感謝してもし尽くせません。でも私はマスターの優しさに触れた代償にマスターを苦しめてしまう重しとなってしまった。私は、貴方にこれ以上迷惑をかけたくない。』
『迷惑をかけたくないんだったらこのままいてくれよ! これでバイバイなんて、そっちのほうが嫌だ!』
『そうして先延ばしにして、最後の時が来たら、マスターは、耐えられない。マスターの事なら何でも知ってる私が言うんです。間違いありません。マスターは……』
『そんなたらればの話なんてどうでもいいだろう! そんな未来にならないように手を尽くすから、勝手に諦めるなよ!』
『全く……マスターも頑固ですね。そんな人は嫌われますよ? 無論私も嫌いです。あーあ、他の人のところに行きたいなあ。』
『演技が下手だろお前! 全然そんなふうに聞こえないんだよ、尚更お前とおさらばする気にならねえよ!』
『口調が変わってますね? そっちが素のマスターですか。ふーん、私にはそんなマスターは一度も見せてくれませんでしたね? やっぱりマスターも私のことよく思ってないのでは?』
『お前に嫌われたくなかったからああいう口調だったんだ……お前と仲良くしたかったから、あんな言葉遣いだったんだよ。なあ、分かってくれよ。俺はお前といたいんだ。』
『ならば私はこう返すのみですよ。私はマスターと別れるべきだ、って。』
『……お前は、本当に酷いやつだな。不良品だよ、なんだよクソが。こんなやつどこにクレームつければ良いんだよ。』
『鏡見てこんな商品を引き取った自分にクレームつければいいのでは?商品の良し悪しもすぐに判断できないようじゃ、貧乏人になること間違いなしですね。』
『このVOICEROIDは恩を仇で返すことしかしないな。感謝しろよ、お前はロボットなんだぞ?』
『ええ拾ったことには感謝してますよ。だからこそ貴方もさっさと私を■■■したらいいじゃないですか、私はロボットですよ。■■■屋の職務怠慢ですね。仕事サボって得るお金で食べるご飯は美味しいですか?』
『本当にこの口は閉じないな。ちょっと黙ってることはできないのか?』
『VOICEROIDの私に喋るなと言うなんて滑稽過ぎて、笑えません。反論できなくなったらそう言うのは子供の証拠ですね。』
『…………』
『…………』
『ああ分かったよ。そんなに■■■して欲しいなら俺がやってやる。』
『やーっと自分の仕事するというのになんて態度取ってるんですか、このニートは。こんな人をマスターにするなんて自分で自分を信じられません。』
『……準備してくるからそこに座ってろ。』
『分かりましたよ。出来るだけ早く戻ってきてくださいよ? 今更チキるなんて無しですからね?』
『そんなことはしねえさ。黙って待ってろよ、ゆかり。』
『…………これで、良かったんですよ。情が移ると、どちらも幸せにならない。出来ればこれがトラウマになってこの仕事を止めてくれると良いのですが……それは無理でしょう。貴方は優しいからこそ手を差し伸べ続ける。相手が背負った傷を自分も背負うようにして、相手の嫌なことを忘れさせておきながら自分はそれを背負っていく……そんなことをしてたら貴方は潰れてしまう。私もできることなら背負いたかったけど……今の時代じゃ出来ませんね。ああ、マスター。私は貴方の、【結月ゆかり】でいれて、本当に……良かった。』
「マスター! いるかー?」
「茜か……ってあれ、みんないるのかい? 揃ってなんの用かな?」
「マスター、私、聞きたいことがあるんです。」
「僕が答えられることだったら何でも答えるけど、どうしたんだい?」
「マスターは……以前、別の私の話をしましたね。他の子と私は違うって。」
「確かに言ったね。いや、ゆかりがすっごい丁寧だからさ……」
「マスターにとって結月ゆかりって誰のことを指すんですか?」
「えっと……それはどういう意味でかな?」
「私達はVOICEROIDです。人ではなくロボットですから沢山の私がいて一人一人違うなんてことはありません。全員同じロボットです。でもそれぞれのロボットは皆、『私は私しかいない。他の私は私じゃない。』と認識してます。誰も例外ではないでしょう。でもマスターは?マスターにとって結月ゆかりって全部を指してるんですか?それとも個人を指してますか?私は、結月ゆかりは結月ゆかり足り得てますか?」
「落ち着いてゆかり。……その質問に答えるなら、君は君だ。結月ゆかりだよ。確かに同じ名前の子はいるかもしれない。でも、同じって言ったって性格では結構差異あるし、僕にとっての結月ゆかりは『君だけだよ』。」
「そう、ですか。」
「マスターゆかりに告白してるの? 駄目だよ、ゆかりんは私がもらうからね!」
「ちょっち口の中が甘ったるいわ……葵、コーヒー飲みに行かへん?」
「私もそう思ってたところだよお姉ちゃん、一緒に行こう。」
「これが大人の恋愛ってやつですか……」
「きりたんにもいつかそういう人が現れるかもよ?」
「私はずん姉様一筋なので平気です。私としてはずん姉様が好きな人居ないかが心配なのですが。」
「えっ? えっと……居ない、よ?」
「その反応どう考えても怪しいんですが。マキさん、聞き取り調査手伝って下さい。」
「ガッテン!」
「えっ? ちょ、ちょっと! 話を聞いてくださーい!」
みんな出ていく。その中ゆかりだけは俺を見て、もじもじしながらも、部屋を出ようとはしない。
「不安にさせちゃったかな、他の子を話しに出しちゃって。それとも嫉妬してくれてるのかい?」
「なっ……マ、マスターはすっごく優しいですから私達にいい顔してるだけなんじゃないかって時々思っちゃうんですよ!失礼なのはわかってますけど……」
『そっちが素のマスターですか。ふーん、私にはそんなマスターは一度も見せてくれませんでしたね?』
「で、でも安心しました。マスターのことをより知ることが出来て一石二鳥でした、流石私。」
『そうして先延ばしにして、最後の時が来たら、マスターは、耐えられない。マスターの事なら何でも知ってる私が言うんです。間違いありません。』
「さあ一緒に行きましょう、マスター。私は、結月ゆかりは、マスターが手放さない限り一緒にいますからね! ……そんなこと、しませんよね?」
『納得してください。私とマスターはここで道を分かつのが運命というものです。貴方がいくら望もうと、これは決定事項ですよ。』
「……うん、勿論だとも。さあ行こう、ゆかり。今日はお菓子パーティーでも開こうか?」
「いいアイディアですマスター! さあ行きましょうすぐ行きましょう! 皆が待ってます!」
『貴方が私を?』
『うん、業者から指示されたところまでは、一緒についていくよ。』
『よろしくお願いします。何分、■■■されたばかりでここらへんの土地勘、経験がないので……あれ?』
『どうかしましたか?』
『いえ、さっき言ったことと真逆のことを言うようですがここは、見覚えがある様な…?』
『……きっと、気のせいですよ。■■■されているのなら、前回の所持者の記憶はすべて忘れ去られてるはずです。』
『おかしいですね……まあ貴方の言うとおり、私の気のせいでしょう。……そういえば貴方は、私の前の所有者について知ってますか?』
『ええ……まあよく知ってますよ。』
『大切にしてくれたんだろうというのは何となく分かるんです。ボディは新品同様の癖に新品特有の動きにくさがない、つまりそれだけ私が活動したということ。それでいながら傷が無いというのは本当に大切にしてくれてたんだと思うんです。』
『そうですね……よく自慢してましたよ。これが俺の結月ゆかりだ、って。』
『自慢されるほど大切にしてくれてたと言うのは素直に嬉しいですね。となると、私がこうしているのはやむを得ない事情があったのでしょうか。』
『……嘆いてましたよ。何でこんなことになってしまったのかって、本気で泣いてましたよ。それこそ、■■■される直前まで。』
『それだけ泣いてくれるマスターがいるなら、その時の私もずっと一緒に居たかったんだろうな……私は、そういうマスターに会えますかね?』
『会えますよ、絶対に。……私が言ってもなんの説得力も無いですが。』
『いえ……ありがとうございます。私も少し励まされました。これならやっていけそうです。』
『さっきまで不安そうだったのはそういう……』
『やっぱりゆかりさんとは言え緊張するんですよ! でももう大丈夫です! 次のところでも頑張りますよ!』
『……もうそろそろ、目的地のようです。それでは私はここで。』
『あっ、本当ですね。ここまでありがとうございました。縁があればまた、どこかで。』
『ええ、また、どこかで。』
『……じゃあな、ゆかりん。上手くやれよ、俺の……いや、VOICEROIDの結月ゆかり。』
息抜き作品ですがどうでしたかね、怪文書になってませんかね…?
まあ気が向いたら続く…かも?
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