俺の先輩が可愛すぎるんだが 作:クールを装う先輩という概念
「や、やぁ? 奇遇だね?」
「……二年の廊下まで来て何が奇遇なんですか、先輩」
眠気もだるさも感じつつ帰ろうとしたところ、声を掛けられた。それは良く知る声で、簡単に言うと俺の先輩の声だった。
短めの髪を揺らし、そっぽを向く先輩。偶然を装いたかったようだが、場所が場所。しかも、この先輩はただの美人ではない。なんと、この学校の生徒会会長である。
そんなのに声を掛けられる俺の気持ちも考えて欲しい。周囲の視線がめちゃくちゃ刺さる。
……いや、そんな事はどうでもいい。偶然を演出したくて失敗している先輩を見て思う。何この可愛い生き物。
極めて平静を取り繕って答えを返すのがやっとだった。へたすりゃ吐血してた。
「そ、それもそうだね。うん。……で、なんだけど。今日は暇だったりするかい?」
「えぇ、生徒会の仕事もありませんし」
そう、俺も生徒会の一員であり、庶務を務めてる。……雑用とも言う。生徒会同士だからこそ、視線も少ないですむ。あと、先輩を眺めていても不審に思われない。この役職神か。
「えっとだね、そう。今日は生徒会が無いんだ」
「えぇ、ありませんね」
そんな、神様ありがとうと伏して感謝したいくらいの造形の先輩だが、そんな神の御子が俺になんの用だろう。仕事なら喜んでやる。先輩を観察出来るなら一秒でも早く頷いてしまいたい。
「えっと、あの……たまには一緒に帰らないだろうか」
「……」
「駄目かい?」
「えぇ、帰りましょう」
意識が飛んだ。先輩が可愛すぎるのがいけない。心臓が止まっていたせいで返答し損ねたが、駄目かい? の言葉と共に、小首をかしげる姿を見て心臓が超速で動きだす。ヤバい、マジで死ぬ。
なんとかして言葉を絞り出したが、あいにく死後硬直で表情が動かない。動かなくて良かった。だらしない表情を見られたら二階から飛び降りてた。
とりあえず、チャンスを逃すまいと先導するように歩き出す。何故先に行ったか? 馬鹿野郎、表情を見られたらヤバイからに決まっているだろう? 先輩にがっかりされるイコール世界の終わりである。何としてでもこの無表情は死守しなければならない。
とてとて、とついてくる後ろの先輩の声が耳に届く。
「……良かったぁ」
先輩、先輩。小声で言ってるそれ、聞こえてます。即死級の言葉を背中から刺すのやめて下さい死んでしまいます。
めっちゃ後ろ振り向きたい。めっちゃ後ろ振り向きたいけど、こっちも表情が崩壊してる。気絶しなかった俺を褒めてやりたいくらいだ。
結局、気づかぬふりをして前を少し早めに歩く。先輩がそれについてくる。
そんな日常が続く。「俺」と「先輩」のお話。
1.下駄箱
先輩の下駄箱と、俺の下駄箱は当たり前だが離れている。しかしだ、俺は先輩の見逃すまいとこっそり見張る。
彼女のクツ入れは、最上段。先輩は背が小さい方でもないが、大きいほうでもない。するとどうなるか、先輩は目いっぱいに背伸びをする。何それ天使か。
背伸びをすることによって見えるものもある。それは受験勉強やら、生徒会のデスクワークとかで運動する暇のないちょっとむっちりしかけの……
うん、少し放送事故があったが許して頂きたい。これは男子高校生のリビドー的何かなのだ。これ以上見ていると赤面が止まらなくなるので目を逸らしたさ。でも、もう少し見ていたくもある。
そんな悶々とした気持ちを抑え、自分の下駄箱へ。コロンと靴を投げ捨て履き替える。
「やぁ、待たせたね」
「いえ、大丈夫です」
タイミングぴったり。どうやら、のぞき見はバレていないようだ。
ちらり、と足の方に視線がいってしまう。……いかんいかん。これ以上見ると目がつぶれる。直射日光は目に危険なのと同様だ。先輩の足は失明の危険がある。
そんな魅惑かつ危険な太もも、もといおみ足から目を離し先輩を見る。ちょっと首を傾げる先輩が居て、結局目がつぶれた。
「先輩帰りましょう」
「うん! あ……いや、うん帰ろうか」
きりっとした表情を作り即座に誤魔化したら、何故かスポーツカーの速度でやってくる可愛さにひき殺された。
なんだあれは、可愛いの次元を超越している。こんなの見たら死ぬ。いや、死んだ。
結局何処を見ても死ぬ。そして、ちょっと感じる罪悪感から俺は目を逸らし、すたこらと道を行く。先輩がそれについてくる。
太陽がやけに眩しく感じた。
2.帰り道
季節は春。桜並木は軒並み全滅し太い幹を残すだけだが、俺には関係ない。何故なら極楽浄土の華を絶賛拝んでいる最中だからだ。
「桜、散ってしまったね」
「そうですね、とても残念です」
先輩がいれば桜なんてそこら辺のチリ紙と一緒です! なんて言えるわけがない。というかちょっと残念そうにしてる先輩が可愛い。KAWAII。あと数秒拝んでいたら、おそらく俺が散っていた。
クールを装う先輩が口を尖らせる。そして小声で呟いた。
「もっと、見たかったな……」
「ん”ん”っ!?」
「え? 何? 大丈夫!?」
「むせただけです。問題ありません」
「そ、そうか」
ふぃー、死後の世界が見えた。というか死んだ。
なんだこれは、なんなのだこれは。威力が高すぎる。強い、あまりにも強い。戦闘力たったの五の俺では、即死程度では済まされなかった。一周回って無表情だった、なんの感情もこれ以上出てこなかった。現実に出したら死んでた。
「ね、俺君。君はどんな花が好きかな」
「せんぱ……」
「せんぱ?」
「センパナイ草が好きですね」
「……そんな花あったかな?」
「覚え間違いかもしれません」
横から身体を傾けて質問するのは法律によって規制されるべきだ。でないと死者がでる。被害者は主に俺だ。
危うく好きな花と聞かれて先輩と答えるところだった。そんな変な回答、もとい気持ち悪い返事をしようものなら引かれる。そんな事が起きてしまえば一貫の終わり。この世の地獄が始まってしまうだろう。天使なのに地獄とか、先輩パナイ、センパナイ。
「私はね。き……」
「木?」
「そ、そう木が好きなんだ! ほ、ほら表面とかザラザラしてて素敵だろう?」
「確かに一理ありますね」
なるほど、先輩は木が好きなのか。ところで、先輩はなぜ危ない危ないと言っているのだろうか、木の知識を語ってしまいそうだったのだろうか。むしろ、バッチコーイ状態なのだが? 全てを受け入れる覚悟は済んでいるんだが?
ともかく、今度の先輩のプレゼントは苗木にしよう……
3.分かれ道
──ついにきた。それは世界の破滅を知らせる鐘であり、これから地獄が始まりますよ、という合図であった。
奴の名は分かれ道。先輩と俺を隔てるにっくき敵だ。いつか倒す。
しかし今は倒せない。かと言って引き延ばしも出来ない。何故なら先輩に迷惑が掛かってしまう。それは死ぬよりも避けたい。
だから、滝のように流れ出る涙をそのままに、別れの挨拶を告げる。
「では、先輩ここで」
「いやいや、その涙はどうしたんだい!?」
「花粉症です」
「花粉症!? それが!?」
「えぇ、今年は重いですね」
「そ、そうなのか……」
困惑する先輩可愛い。セットでお持ち帰りしたい。受け付けてない? そうか死のう。
花粉症は本当だが、あれは辛い。けど、先輩の笑顔はもっと辛い。胸が張り裂ける。
「と、とりあえず涙を拭うといい」
「……ありがとうございます」
先輩が差し出して来たのはハンカチ。しかもKUMAちゃんがプリントされているやつである。ギャップ? そんなものクソくらえだ。もうね、なんかね。ひたすらに神だ。
受け取るかどうかを巡って俺の中の天使と悪魔が千年くらい戦っていたがついに決着がつき、受け取るに至る。天使か悪魔か、どっちが勝ったのかは想像にお任せする。
先輩のハンカチを聖骸布を受け取る心持ちで受け取る。あ、指先触れた。一生洗うのやめよう。
「では、先輩。これは洗ってお返ししますので」
「別に気にすることはないよ、私が洗おう」
「いえ、絶対に完璧に致しますので」
「そ、そうかい? ではお願いしようかな」
でんせつの ハンカチ を てにいれた
おいおい、これではミーの勝ちではないか。しかし、あえて誓おうではないか。この布で絶対に変な事及び、妄想はしないと。これはキチンと洗って先輩にお届けする。それが、先輩に対する礼儀である。
「……では、先輩これで」
「あ、……そうだね。また明日」
「はい、明日もよろしくお願いします」
小さい川が出来そうなくらい泣けてしまいそうだが、それをグッと堪え先輩に別れを告げる。先輩の貴重な時間を無駄に使う訳にはいかない。
それはそうと小さく手を振るお姿はまるで絵画の様だし、夕陽とあいまって最強に見える。やはり神か、いや、天使か。
感動のあまり出てしまうため息をギリギリ抑えつつ、自分の帰路へ。もう一度振り返ると、先輩と目が合った。
ああああ、幸せ過ぎて辛い。と言わざるを得ないだろう。先輩は今日も可愛すぎる。そんなウキウキ気分でスキップしていたら電柱に膝ぶつけた。痛い。
これは、「俺」と「先輩」のお話。
先輩は今日も可愛すぎる。地球が回る理由なんてそれで十分だ。 by 俺