ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG1……ホイール・メカニック・カンパニー

 

 

 グランドライン──

 

 

 太陽が消えてしまったかのような暗い寒空の下を、黄色い潜水艦が海上航行していた。

 

 吐く息があっという間に白くなるほど空気は凍てついている。

 

 「ウッへェ~!冷え込んできやがったぜ!」

 

 キャスケットを被った男が、両腕を重ね合わせながら甲板で身震いをした。

 

 「これくらい北の海に比べりゃ、どうってことねェだろうが……」

 

 【PENGUIN】というロゴが入った帽子を被った男が、への字に曲げた口を開いた……が、そう言う彼も寒さのあまり歯の根が合っていない。

 

 「だらしねェなー」

 

 白クマが余裕の表情で呟く。

 

 「うるせェ!全身が天然の毛皮に覆われてるヤツにゃ言われたくねェんだよッ!」

 

 キャスケット帽とペンギン帽の男が白クマを叱咤する。

 

 「スミマセン……ほんと……たくさん毛が生えててスミマセン……」

 

 白クマが肩を落としながらズーンと落ち込んだ。

 

 「雪まで降ってきやがったぜェ~」

 

 「次の島が常夏のリゾートだなんて思えねェなァ~」

 

 キャスケット帽とペンギン帽は落ち込む白クマの横で空を見上げる。

 

 そんな3人から少し離れた場所で、斑模様の入ったファーの帽子を被った男が甲板の縁に腰掛けていた。

 

 暗灰色の分厚い雲間から雪がチラついてくるのを眺めている。

 

 彼は膝上に無造作に伸ばしていた腕を軽く捻り掌を上に向けた。

 

 軽く開かれた掌の上に、ひんやりとした雪が舞い降りては一瞬で消える。

 

 彼はその繰り返しを表情ひとつ変えることなく黙って見つめた。

 

 「キャプテン?」

 

 「その薄着じゃ風邪引いちまいますよォ!」

 

 キャスケット帽とペンギン帽子の男は身に染みる寒さに抵抗すべく、その場で足踏みをしながら斑模様の帽子の男に声をかける。

 

 言葉を話す白クマが彼の様子を心配そうに見つめた。

 

 「キャプテン……気持ちは解るけど……まだ次の島は見えそうにないし……中に入ろうよ……」

 

 「………ああ……」

 

 素っ気の無い相槌を返す。

 

 男の視線は再び空へ。

 

 雪は頼りなげにひらひら舞いながら灰のように降ってくる。

 

 斑模様の帽子の男は何か物思いに更けるような表情を浮かべたまま、潜水艦のデッキに無言で佇んだ。

 

 

 

 

 

 

 グランドライン・スプロケット島────

 

 

 青い空。白い雲。心地よい陽気。やさしいそよ風が草木を揺らす。

 

 ここはグランドラインのとある春島・スプロケット島。

 

 リゾート地として有名なキューカ島の近辺に散在する島のひとつだ。

 

 人口は300人にも満たず、島全体が村として成り立っている。

 

 ところどころに点在する民家や、自給自足の為に耕された畑が田舎の風景に溶け込んでいる以外は見渡す限りの僻地だ。

 

 働き盛りの年代の男たちのほとんどが近隣諸島に出稼ぎに行っているような辺鄙な場所である。

 

 海軍が駐留しているわけでもなく、海賊が根城として占拠するには絶好のロケーションなのだが、この島はとても平和だ。

 

 グランドラインを進むために必要なログがキューカ島に引き寄せられること。

 

 海軍の軍艦以外は避けて通る海域“カームベルト”に近い場所に島が位置していること。

 

 この2つの好条件のおかげで、スプロケット島民たちは侵略や略奪などの脅威に晒されること無く、恵まれた気候の中でのんびり生活を送ることができていた────

 

 そんなスプロケット島に凄まじい爆発音が響いた。

 

 

 ドッガアァァァァン…………!!

 

 

 空気がビリビリと震動する。

 

 小川でイモを洗っていたバァチャンたちが、爆発した方向を見つめる。

 

 「おんやまぁ~、またホイールさんとこだべ~」

 

 「こないだの爆発よりゃあマシだべ~」

 

 バァチャンたちはさほど驚いた様子もなく、空に向かってゆらゆら立ちのぼる白煙を見ながらイモを洗った。

 

 

 

 白煙が立ちのぼる場所────

 

 深緑色の作務衣を着た小柄な老人が爆発現場へと駆けつけた。

 

 老人が営む会社のガレージからもくもくと煙が吹き出している。

 

 【ホイール・メカニック・カンパニー】

 

 会社の看板がガレージの壁からガタッと外れ、ズズーンと土埃をあげながら地面に落下する。

 

 敷地内に充満していた煙が風に流されていくと、無残にも半壊したガレージの全貌が現れた。

 

 ボロボロの壁、歪んだ骨組み、屋根は完全に吹っ飛んでいる。

 

 作務衣の老人・ホイールは茫然と立ち尽くした。

 

 ほぼハゲ頭の75歳に残された最後の髪の毛が風前の灯火であるかのように揺れる。

 

 「またやりおった……」

 

 草履で地面をジャリジャリ踏みしめながらガレージの入り口へと向かうホイール。

 

 ガレージの中から、紺色ツナギの作業着姿という男勝りな格好をした嬢が咳き込みながら這い出してきた。

 

 彼女はホイールの孫としてメカニック・カンパニーで働く、ラチェット、22歳だ。

 

 ラチェットの装着しているゴーグルは煤で真っ黒になっている。

 

 視界が遮られているのか、鬼のような形相で近づいてくるホイールの存在にラチェットは気づいていない。

 

 「ゲェッホ!ゲッホ!……チクショウ……あと1.21ジゴワットのエネルギーさえ発生させれりゃあ物理学的特性が破れるかもしれねェってのに……!クソッタレ!!」

 

 なめくじのようにズルズルと地を這いながら煙を逃れるラチェット。

 

 アタマには幾何学模様の派手な生地がターバンのようにゆるく巻かれ、蜂蜜のような色をした明るい髪の毛が肩のあたりまでこぼれる。

 

 年頃の嬢の顔は化粧で彩られているのではなく、煤と機械用オイルで真っ黒だ。

 

 ホイールはラチェットの前に立つと、目玉をギロリと動かして彼女を見下ろした。

 

 「………ハッ!!ホイールさん!?」

 

 ただならぬ気配を感じたラチェットは、慌ててゴーグルを首元までずり下ろす。

 

 生意気そうというか、良く言えば明朗快活な印象を受ける顔立ちのラチェットだが、ホイールが視界に飛び込んできた瞬間から表情が極端にひきつった。

 

 ほとんど髪のないホイールだが、怒髪衝天の勢いでラチェットを睨み付けている。

 

 「ラチェットォォォォ!!」

 

 ホイールが怒りでプルプルと震えながら大声で叫んだ。

 

 「いや、ホイールさん!誤解してっからマジで!この爆発はクランクの奴がさぁ~」

 

 ラチェットは後から這い出してきたもうひとりの従業員に親指をグッと向ける。

 

 「エェッ!?爆発に巻き込んだあげく、人のせいにするんスか!?鬼すぎるっス!!」

 

 紺色ツナギの作業着、茶髪のロン毛、キャップを後ろかぶりしたヤンチャそうな男……に見えて舎弟タイプのお人好し・クランクは、爆発の理由をなすりつけようとしているラチェットの言動に青ざめた。

 

 「ハァ~?同じ空気吸ってるショバで爆発したんだから、テメェにも責任は発生すんだろーが?こういうのを連帯責任っつーんだよ、連帯責任、わかんだろォ?だから、とりあえず腹決めて全部責任とれや、先輩のケツぐれェ持てよ、なぁ?」

 

 ラチェットがクランクの胸ぐらをグイッと掴む。

 

 「ヒィ~ス!連帯責任どころか、ただの責任転嫁じゃないっスかァァ~!どこのガキ大将の言い分スか!?しかも丸め込み方がチンピラすぎるっス~!!聞いてくださいホイールさんッ!オレ、さっきまでガレージ裏のお花に水やりしてただけなんっスよ~!!」

 

 ラチェットは22歳、クランクも21歳だというのに子供のようにギャアギャアと揉み合う。

 

 「両者問答無用じゃァァァァ!!」

 

 ホイールはゲンコツを振りかざしながらジャンプすると、渾身の力を込めてラチェットとクランクの頭上に叩き落とした。

 

 「いっでッ!!」

 

 ラチェットは頭を両手で押さえながらウンコ座りになって痛みを堪える。

 

 「オレもっスか!?でッ!!」

 

 クランクも頭を両手で押えながら痛みと世の中の理不尽さに耐えた。

 

 「そこに直れぃッ!!」

 

 ホイールの一喝で、ラチェットとクランクはすぐさま瓦礫に正座する。

 

 「この馬鹿!!何回ガレージをブッ飛ばせば気が済むんじゃ!!今年になって何回目か言ってみろッ!何をどうすればこうなるんじゃ!!1.21ジゴワットだなどと世迷い言抜かしおって!そんなエネルギーを発生させたらどうなると思ってるんじゃ!ガレージだけじゃなく同じ敷地内の家まで跡形もなく吹っ飛ぶわい!このブァァァ…ガッ!フガッ!」

 

 勢いよく説教するあまり、ホイールの入れ歯がカポーンと外れてミサイルのごとく口内から発射される。

 

 入れ歯がラチェットの顔面にぶち当たった。

 

 「ドゥェェェ歯ァァァァ~ッ!!」

 

 「うわぁ、精神的ダメージがハンパねェっス!」

 

 クランクはうろたえ、ラチェットは必死に顔面をゴシゴシ拭きながら瓦礫の上をのたうち回る。

 

 怒り冷めやらぬホイールは入れ歯を手に持つと更なる攻撃を開始した。

 

 「フッガフガ~!フガァ!フガガガ!フガ!!」

 

 手に装着した入れ歯がガッチンガッチン噛み合う。

 

 「やめろジジィ!!」

 

 「噛み殺されるっス~!」

 

 ラチェットとクランクが瓦礫だらけのガレージを逃げまわる。

 

 小さな田舎島の小さな会社、ホイール・メカニック・カンパニー。

 

 混沌とした状況の中で、ガレージの瓦礫の下から

  

 プルプルプルプル………………

 

 滅多に鳴ることの無い電伝虫の音がした。

 

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