ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG13……偉大なる祖父・ピーキー過ぎる孫

 

 ラチェットとクランクはガレージの裏に置いてある四輪駆動式のメカに仕事道具一式を積み込んだ。

 

 四輪駆動式のメカはラチェットが発明した物で、簡易なオープンボディに運転席と助手席があり、後部には大人2人が乗れるシートと荷物が収納できるトランクがある。

 

 「……えーと……ラチェットさん……この作業道具一式……もしかして……あの人たちの船で直接修理するつもりっスか……」

 

 クランクがゴクリと生唾を飲み込む。

 

 「機器をここまで運ぶのにいちいち往復してる場合じゃねェだろ、重病人がいるってんだからよ?まして医療機器なんてのはデリケートだからな」

 

 ラチェットはケロリとしながら運転席に乗り込んだ。

 

 「いつもながら気持ちの切り替え超絶早いっスね……今はオレのほうが、何か面倒くさいことに巻き込まれそうな嫌な予感がしてきたっス……」

 

 クランクが不安そうな顔で助手席に座る。

 

 「久々におもしろそうじゃねーか、どんな医療機器使ってんのか見てェし。クランクおまえ別に留守番しててもいいぜ?」

 

 ラチェットは排気音を鳴らしながらメカを発進させると、ハンドルをきってガレージの正面側に向かう。

 

 「いやいや、ラチェットさんをひとりで行かせる方が不安っスよ……アンタただでさえトラブルメーカーなんスから……」

 

 ブツブツ呟くクランク。

 

 自宅の玄関付近に乗り付けたラチェットはハンドル片手にメカから身を乗り出した。

 

 「おい!イモォ!」

 

 シャチとペンギンに向かって偉そうに叫ぶ。

 

 「ああ!?なんだとテメェ!!」

 

 いきなりイモ呼ばわりされたシャチとペンギンがイモを抱えながら凄んでくる。

 

 早速トラブルが発生していることにクランクは泡を吹きそうになった。

 

 「ちょ、バカっスか!?すみません!!この人かなり言葉が足りなくってスね!持ってるイモをこのメカの後ろに乗せろって意味なんスよ~!」

 

 クランクはラチェットが言いたかったであろうことを通訳する。

 

 長年の付き合いゆえの意志疎通である。

 

 ラチェットはシャチとペンギンをイモ呼ばわりした訳ではなく、抱えているイモをトランクに積めという意味で言っただけなのだ。

 

 「本当にすみませんっス~!」

 

 メカから降りたクランクはペコペコ頭を下げながらトランクを開ける。

 

 シャチとペンギン、ベポの持つイモを順番に預かったあと、後部座席に手を向けた。

 

 「後にあと2人乗れますからどうぞっス!」

 

 それを聞いたベポがいそいそ乗り込もうとするが、ラチェットがメカに取り付けたクラクションをブッブーと数回鳴らした。

 

 「悪りぃけどクマは重量オーバーだ」

 

 ラチェットはベポに視線すら向けず呟く。

 

 背後に猛獣を乗せる気など無いというのが彼女の本音だ。

 

 ラチェットは白クマに背後からアタマをがぶりとかじられた自分の姿を想像していた。

 

 ベポがズーンと肩を落としながら無言でローの側に移動する。

 

 ローはシャチとペンギンに指示を出した。

 

 「先に行って案内しろ。ベポとおれは後から行く」

 

 シャチとペンギンはローの言葉に頷くと、メカの後部座席に移動した。

 

 「船は港っスか?」

 

 クランクがペンギンに問いかける。

 

 「いや、あの丘の向こうにある入り江だ」

 

 ペンギンが後部座席に座りながら言った。

 

 シャチも物珍しそうにメカに乗り込む。

 

 「こんな乗り物初めて見たぜ」

 

 「そりゃそうさ、アタシが造ったんだ。車輪内にそれぞれ独立した常温超電導モーターを組み込んだ四輪駆動式、アンチロックブレーキ搭載の1万2千回転の200馬力だ。ボディも軽量化しかたらパワーウェイトレシオは改良前の比じゃねェぜ」

 

 ラチェットが得意気にメカのスペックを説明する。

 

 シャチとペンギンは無表情で説明を受ける。

 

 ペンギンがクランクの方を見た。

 

 「おい、通訳」

 

 「凄いスピードが出せるってことっス」

 

 今度はラチェットの言葉を簡略化して伝えてあげるクランク。

 

 シャチとペンギンは半壊しているガレージと、自分たちが乗っているメカを見比べた。

 

 「なんか……大丈夫なのかこれ……」

 

 シャチもペンギンも不信感を顕にしている。

 

 「大丈夫に決まってんだろ?ラダーフレームにしてっから頑丈だぜ、まぁモノコックと比較したらトーションに弱いとこが短所だけどな!」

 

 ラチェットはメカのギアを切り替えた後アクセルを思い切りガツンと踏み込んだ。

 

 ドゥルルン!と身体に響くような排気音をあげながらメカが発進する。

 

 「ちょっと待て!短所の意味がわからねェ!」

 

 後部座席からシャチとペンギンが騒ぐ。

 

 「しっかり捕まってて下さいってことっス!」

 

 クランクが通訳する。

 

 「はぁ!?」

 

 シャチとペンギンは慌ててメカのボディにしがみついた。

 

 排気音を聞いたイングリットが家の窓から手を振る。

 

 「いってらっしゃい~!」

 

 「おう!イングリット!例のことよろしくな!」

 

 ラチェットが絶交したはずのイングリットの方を向きながら笑顔で手を振る。

 

 完全に前を見ていないラチェット。

 

 「ダアアアア!おまえ前見て運転しろォォォォッ!!」

 

 シャチとペンギンが前方を指差しながら叫ぶ。

 

 4人を乗せたメカは土埃をあげながら遠ざかっていった。

 

 

 窓辺でラチェット達を見送ったイングリットはベポに気がつくとニッコリ微笑んだ。

 

 「あら~?白いクマちゃんがいるのね~おいで~」

 

 ベポにマフィンを手渡すイングリット。

 

 玄関先に残ったローに向かってホイールが申し訳無さそう頭を下げた。

 

 「いやはや……あの性格と口汚いのは勘弁して下され、腕が良いのは保証しますゆえ……マシンに例えるならうちの孫はピーキー過ぎましてな」

 

 「ピーキー?」

 

 聞き慣れない言葉を確認するロー。

 

 ホイールは苦笑いしながら説明した。

 

 「わしらメカニックが使う用語でしてな……限定的な範囲でだけ極端に高い性能を発揮するが、それ意外のことでは扱い難いという意味ですじゃ」

 

 「なるほどな、別に構わねェ。アンタの御墨付きなら間違いねェだろ……“ホイール・ベイカー”……一世代前、海軍科学研究所のトップだった奴の名前だな……」

 

 ローは口の端を上げながらホイールに視線を向けた。

 

 「いやはや……若いのにそんな昔のことをよう知っておられる……お恥ずかしい経歴ですわい……今ではもう難しいことは何もできやしませんからのう」

 

 ホイールは自分の経歴を知っていたローに少し驚いたあと、指先を何回かぎこちなく動かしながら手を握ったり開いたりした。

 

 その様子を眺めるロー。

 

 「バネ指か……指を酷使してきた奴に多い症状だ」

 

 「そなた医学の心得があるか……」

 

 日常生活に支障があるほどではなかったが、精密な作業ができなくなった原因をすぐさま言い当ててきたローを興味深そうに見つめるホイール。

 

 「まぁな……とりあえず仲間の容態が良くねェから、しばらくはこの島に停泊するつもりだ。指も診てやるよ。こっちの事情が落ち着いたらおれの方もあんたと話がしてみてェからな……ここに来たのは偶然だが正直驚いてる……あんたの存在もそうだし……孫もなかなか面白い奴みてェだ。こんな辺鄙な場所に世界水準を遥かに凌駕する技術が存在してるとは思わなかったぜ」

 

 ローは底の知れなさを感じさせるような余裕の笑みを見せた後、大太刀を握り直した。

 

 「なぁ、ホイール・ベイカー。随分前に聞いた噂なんだが……科学の進歩に大きく関わるような技術の設計図が盗まれたらしいな……あんた表向きはベガパンクとの世代交代で引退したことになってるけど本当はその責任を取る形で辞めたんだろ?そのとき盗まれた設計図はどうなった?」

 

 口の端を上げたままローが意味深な眼差しを向ける。

 

 顔色を探っている様でもあった。

 

 ホイールの表情は変わらない。

 

 「さて……その噂の出処は何処やら……世界は広し……壮大な伝言ゲームの果てに在りもしない話が出来上がるのはよくあること……それに、もはや研究所とは一切の関り合いが無いわしには与り知らぬことですじゃ…………」

 

 「そうか……余計な詮索だったな」

 

 ローはホイールに背を向けると、ベポを従え歩き始めた。

 

 「お客人……こちらも余計な詮索はしないつもりじゃったが……そなたが何者か興味が出てきましたわい……またお待ちしておりますぞ」

 

 立ち去っていく得体の知れない男の背中をまじまじと見つめるホイール。

 

 何処かで見たことがある様な面差しをしている気もしたが、思い出すことは出来なかった。

 

 「なんだか不思議な雰囲気の男性ね~」

 

 イングリットがのほほんと窓から顔を出している。

 

 「うむ、おそらく海賊じゃろうな……」

 

 考え込むかのように顎先をさするホイール。

 

 「えぇ~!旅芸人だと思ってた~!ラチェットたち大丈夫なの~?」

 

 ホイールの言葉を聞いたイングリットが両頬に手をあてながら心配そうな顔をする。

 

 「ああ、それは大丈夫じゃろう……あの男、その場凌ぎの短絡的な行動に出るタイプとは思えんからな……島に停泊する上、わしと話をしたいと言っておるからには余計なトラブルは起こさんはずじゃ……ラチェットたちに危害を加えたり、人質にとったところで何の得も無いはずじゃからの」

 

 そう言いながらも、心なしか普段より緊張した面持ちのホイール。

 

 「そっか~、まだコレの出番じゃなさそうね~」

 

 イングリットは微笑みながら小瓶を取り出した。

 

 「ん?なんじゃそれは?」

 

 小瓶の中にはラチェットの瞳ような深い紫色の液体が入っている。

 

 「私ね~もしものことがあったとき~、ラチェットから頼まれてることがあるの~。ラチェットね~、なんだかんだ言ってもホイールさんのこと凄く尊敬してるし~、大好きなのよね~。もしものことがあってホイールさんが独りぼっちになっちゃったら心残りらしくてね~、それで預かってる物なの~」

 

 「なんと……アイツ……なんじゃ……」

 

 ホイールがまさかの心遣いに思わずホロリとする。

 

 傍若無人な行動ばかり目につくラチェットだったが、そこから垣間見えた意外な一面……

 

 だからこそ余計、ホイールの心に染み入った。

 

 しかし、よく考えてみれば小瓶の液体は何なのだろう?用途は如何に?ホイールは首を傾げた。

 

 ちょっと嫌な予感がするホイール。

 

 「イ、イングリットちゃん……ラチェットが渡してきた小瓶の中身は何じゃ?もしものときに何を頼まれとる?」

 

 「頼まれたのは~、ホイールさんの飲み物に液体を混入させることと~、そのあと~、2年前くらいにラチェットからホイールさんサイズの棺の注文受けてるやつがあって~、それに入れて弔って欲しいんだって~。これたぶん毒薬~?ラチェットが地獄でまた会おうぜって言ってたし~。死んでも一緒にいたいなんて、かわいいわよね~」

 

 スプロケット唯一の葬儀屋の娘イングリットはニコニコしながら、とんでもないことをサラリと言った。

 

 「どんだけアホかぁぁぁぁ~ッ!!」

 

 ホイールの声が地獄の底まで届きそうなくらい響き渡る。

 

 

 そのとき、ガレージの電伝虫がプルプル鳴っていることに気がつく者は誰もいなかった…………

 

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