ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG14……DEATH

 

 

 ロッキーを連れた双子のチッチとピッピが小川の流れに沿う道を元気にトコトコ歩いていく。

 

 「おばぁちゃ~ん」

 

 チッチとピッピは小川でイモを洗うバァチャン2人組に声をかけた。

 

 「おんやまぁ、さんぽがい?」

 

 「えらいねぇ~、さぁ、ひと休みひと休み」

 

 バァチャン達は小川で冷やしていた野菜を引き揚げる。

 

 ざるの中で清流に浸されていたキュウリやトマトがキラキラと宝石のように輝いた。

 

 「よーぐ冷えでるよぉ」

 

 バァチャンはチッチとピッピにキュウリを手渡す。

 

 「おいし~い」

 

 「おばあちゃんのはたけってたからのやまみた~い」

 

 ボリボリとキュウリを頬張るチッチとピッピ。

 

 バァチャンたちは皺だらけの顔をニッコリさせる。

 

 「そうがい?お天道様いっぱい浴びてっがら体にもいいんだぁ」

 

 「バァチャンの畑のもん食べればす~ぐ元気になっちゃうよ 」

 

 田舎によくありがちなほのぼのとした光景が大きなクスの木の下で繰り広げられているとき、バァチャンたちのトウモロコシ畑を挟んだ一本むこう側のあぜ道をメカが高速で横切っていった。

 

 ロッキーだけがメカに気がついてバウバウ吠えている。

 

 メカの後ろに乗せられたシャチとペンギンは帽子が飛ばないように手で押さえながら、もう片方の手でガッシリと手摺にしがみついていた。

 

 顔面には容赦無い風圧がバババババと直撃する。

 

 まわりの風景が有り得ないくらいの物凄い速さでビュンビュンと通り過ぎて行く。

 

 自分たちを木が避けてるような錯覚すら起きる。

 

 「おれたちィィィィ!!」

 

 「風になってるぅぅぅぅ!!」

 

 リヴァース・マウンテンに突入した時以来の衝撃を感じながら、シャチとペンギンは悲鳴に近い叫びをあげた。

 

 グランドラインに入ってから信じられない天候の変化や嵐に遭遇したことが何回もある2人。荒海に乗り出したことを後悔したことは無かったが、このメカに乗り込んでしまったことは激しく後悔していた。

 

 デコボコ道で激しくバウンドするメカが横転しないよう、絶妙なハンドル操作で押さえ込んでいるラチェット、慣れっこのクランク、尻を強打しまくるシャチ・ペンギン。

 

 4人を乗せたメカがカーブに差し掛かる。

 

 ギャギャギャギャ!!

 

 タイヤが派手に擦れるを音をさせながら慣性ドリフトを決めたラチェット。

 

 年がら年中サクラが咲いている並木道の直線コース──通称・狂い咲きサンダーロードに突入した。

 

 どんどん加速するメカ。

  

 丘を登り、ゴリオ爺さんとホリプロのいるイモ畑の横道をあっという間に駆け抜ける。

 

 入り江へ向かう下り坂で、ヘアピンカーブに猛スピードで突っ込んでいく。

 

 もはや死の予感しかしないシャチとペンギン。

 

 「どわァァァァァァ!!」

 

 メカはインベタの更にインという、空中に描くラインをぶっ飛んだ。

 

 インベタとはインコースにべったりの略で、最短距離を走行するために内側に張り付きながらコーナーをまわる走り方である。

 

 そのインベタの更にインというのは、コーナーをアクセル全開でジャンプして飛び越えるという、今は亡きマギーの父親トムの農作業用トラクター走行テクニックをラチェットが受け継いで再現したものだ。

 

 高低差の大きいスプロケット島・イロハ坂特有のヘアピンカーブの地形だからこそ実現可能なオキテ破りの地元走りである。

 

 インベタの更にインを成功させたラチェットとクランクのまぶたの裏に、伝説のトラクター野郎と呼ばれた頭文字D─トム・ドナルドのキラリとした笑顔が浮かぶ。

  

 メカはガタガタと道を走りながら、入り江の手前へと到着した。

 

 後部座席でシャチとペンギンがげっそりしている。

 

 「……テメェら……うちの船でおかしな真似したら承知しねェからな……」

 

 心身共に疲弊したシャチとペンギンはヨロヨロと立ち上がりながらラチェットたちを睨みつけた。

 

 「はぁ?アンタら相手に何ができるっつんだよ?おおかた海賊なんだろ?まぁ、重病人がいるらしいし、うちの社長のOK出てっから協力するけどよ~」

 

 既にシャチとペンギンに危険視されるくらいの乱暴な運転で2人を散々な目に遭わせたラチェットだったがその自覚は全く無い。

 

 メカから降りるとトランクから荷物を取り出した。

 

 4人は各自手分けして道具やイモを抱えると、岩場を下って入り江に足を踏み入れた。

 

 ラチェットは入り江に来たついでに自分が置いていったはずの手帳をキョロキョロ探しているが、どこにも見当たらない。

 

 窪地がそのままになっている砂浜を歩きながらペンギンが問いかけてきた。

 

 「そういやぁ、おまえらこの穴が何か知ってんのか?」

 

 「この穴はっスね……」

 

 ペンギンに事情を話そうとするクランクだったが、消えたウォーターセブンモデルの腕時計を思い出してズーンと沈みこんだ。

 

 「なんだよ急に!?」

 

 「情緒不安定かよ!?」

 

 シャチとペンギンが怪訝な顔をする。

 

 「実験してたら失敗したんだよ」

 

 手帳が見つからないラチェットがムスッとしながら言った。

 

 「実験失敗?やっぱおまえら危ねェな……」

 

 ペンギンとシャチは暫定クレイジーな奴らを用心深い目で見つめた。

 

 ふと、何かに気がついたペンギン。

 

 「………とりあえずアンタらが変な気起こさねェ限り、身の安全は保証してやるけどよ……」

 

 ペンギンはクランクの体に必要以上にピタリと近づいて肩を組んだ。

 

 (ゲイッ!?)

 

 クランクが硬直する。

 

 こちらが変な気を起こす前に別の意味での変な気を起こされたのか?身の安全を保証してやるかわりに身体を差し出せと言われたら、結局は身が安全で無くなってしまうので本末転倒だ……クランクはダラダラと冷や汗をかいた。

 

 しかし、次の瞬間にペンギンが目の前にちらつかせてきたのは、クランクが胸ポケットに護身用として忍ばせていたはずの拳銃だった。

 

 「こういう物騒なもん持ってんのは良くねェよなァ~」

 

 クランクの額にペンギンが銃口をつきつけた。

 

 「あ、あの……それはっスね……!!」

 

 額に当たる冷やりとした鉄の硬い感触。

 

 クランクは震えながら両手をあげた。

 

 「まァ、使うか使わねーかの問題だけどな」

 

 ペンギンは青ざめたクランクを見てニヤリと笑う。

 

 そして、拳銃を指先でクルッと1回転させるとクランクの胸ポケットにスッと戻した。

 

 「おお~っ!すっげぇ!さすが海賊だな!」

 

 スムーズな一連の動作にパチパチと拍手を送るラチェット。

 

 クランクはこの状況で身内のピンチに拍手をしてきたラチェットの神経が一番怖いと思った。

 

 シャチはラチェットの胸ポケットをチラリと見る。

 

 「おい、アンタも何か隠し持って………」

 

 ラチェットの胸はどこからどう見てもペッタンコだった。

 

 「ねェな」と、シャチ。

 

 「ああ、ねェな」と、同意するペンギン。

 

 「オイ……それはアタシのバストサイズのことか?」

 

 ラチェットはこの2人にお見舞いしてやるグレネードランチャーのひとつでも持ってきてりゃ良かったと思った。

 

 

 ラチェットたちは、シャチとペンギンが岩場の影から引っ張り出してきたボートに荷物を乗せた。

 

 ボートで入り江を出るラチェットたち。

 

 沖に面した岩場の陰に停泊している船があった。

 

 不気味に笑う海賊団のマークと、DEATHの文字。

 

 「ラチェットさん……DEATHっス……」

 

 「まぁ……アレよな……結局あいつらの船にLOVE&PEACEとかペイントされてても不信感は拭えねェだろ、同じ同じ……」

 

 「そうっスね……」

 

 シャチとペンギンに聞こえないようにヒソヒソ話すラチェットとクランク。

 

 「つーか、めずらしい構造だな……」

 

 ラチェットは初めて見る型の船を興味深そうに見上げた。

 

 「あ、きたきた!オーイ!」

 

 船の甲板から声が聞こえてきた。

 

 白クマが甲板の上で手を振りながら喋っている。

 

 ボートから立ち上がるペンギン。

 

 「ベポ!はしご下ろせ!」

 

 「アイアーイ!」

 

 ペンギンが指示を出すと甲板から縄ばしごがダラリと下がってきた。

 

 その様子を見ていたラチェットとクランクは口をあんぐりと開けた。

 

 2人はガレージでベポと遭遇しているものの、喋っているのを見たのはこれが初めてだった。

 

 それ以上に衝撃的だったのは、メカでぶっ飛ばして来た自分たちよりクマの方が先に船に到着しているということだ。

 

 ラチェットは自分のメカのスピードに絶対の自信を持っていた為、クマに負けたという事実を目の当たりにしてショックを受けている。

 

 「どんだけ足の速い猛獣なんだよ……いや、喋る機能がついてる……メカか!?」

 

 「ハイブリッド過ぎるっス……!!」

 

 職業病で何でもメカだと思ってしまうラチェットとクランクはベポが高性能なクマ型ロボだと勘違いした。

 

 「よしっ、ベポっ!うけとれよー!」

 

 ボートに積んだ荷物をペンギンが船の上にほうり投げると、ベポは上手にそれをキャッチした。

 

 「なんて滑らか……」

 

 素晴しい動きが再現されているベポの機能に感心しながらラチェットとクランクは縄ばしごをよじのぼって行った。

 

 ラチェット達が甲板へ着くと、この船のクルーであろう男たちがジロジロ見てきた。

 

 そろいも揃って“DEATH”の文字が放つ雰囲気が似合う、柄の悪い面構えをしている。

 

 ベポから荷物を受け取るラチェットとクランク。

 

 「コイツの外装、本物の毛皮使ってんじゃね?」

 

 「リッチっスね~」

 

 職業柄、ついついベポを観察してしまう2人。

 

 「おい、遊んでんじゃねーよ」

 

 「こっちだ、こっち!」

 

 シャチとペンギンにうながされるように甲板から船内へ続く廊下に案内された。

 

 薄暗い通路。

 

 船の中は薬箱を開けたときのような匂いがした。

 

 それを何故か懐かしいと感じるラチェット。

 

 急にバターンと廊下に倒れた。

 

 「!?」

 

 ビビるクランク、シャチ、ペンギン。

 

 ラチェットは直ぐにガバッと起き上がった。

 

 「ハッ!?なんだ!?」

 

 まわりを見ながらキョロキョロするラチェット。

 

 「こっちが聞きてェよ!!」

 

 いきなり倒れたり起き上がったりしているラチェットにシャチとペンギンが突っ込む。

 

 「今なんとなく感覚がズレた気がしたんだよ……」

 

 意味不明なことを言うラチェット。

 

 クランクは心配しつつ首を傾げる。

 

 「ズ、ズレた?なんスかそれ?」

 

 「自分なんだけど自分じゃねェっつーか、身体と意識が……いや、意識と意識が2センチくらいズレた感覚になったんだ」

 

 ラチェット自身も我が身に起こった謎の感覚に驚きながら手足を動かしている。

 

 「おまえ、あんだけ無茶苦茶な運転してクラクラしてんじゃねーの?」

 

 「こっちだってまだフラフラだっつーの」

 

 シャチとペンギンは倒れたラチェットが結局はピンピン元気そうにしているのを確認すると、あきれながら前を歩き始めた。

 

 「きっもち悪りぃ感覚だったな~」

 

 頭をボリボリ掻きながら何事も無かったかのように歩いて行くラチェット。

 

 

 通路の奥に案内され、ドアを開けるとそこはちょっとした手術室のような感じになっていた。

 

 診療台と数種類の医療機器が置かれている。

 

 「うわー、けっこうスゴイの使ってんスね!」

 

 揃えられた機器を見てクランクが感心している。

 

 部屋の奥にはローが立っていた。

 

 ラチェットたちはクマ型ロボに乗って来たと思っていたが、実際は彼の持つオペオペの実の能力があるからこそ早く到着していたのだ。

 

 「よろしく頼むぜ、修理屋」

 

 腕組をしたローがラチェットたちを見据えながら、壁に背をもたれかけている。

 

 「こいつの機嫌が悪くてな」

 

 ローは部屋に設置してある機器に手を乗せた。

 

 ラチェットは機器の側に近寄る。

 

 「輸血用のポンプみてェなやつか?」

 

 「ああ、これは全身の血を入れ替える交換輸血用のポンプだ。電源は入るんだが、作動させた途端設定がリセット状態になっちまう」

 

 ローの説明に耳を傾けながらポンプの電源を入れるラチェット。

 

 計器を見つめながらダイヤルを調整する。

 

 作動スイッチを押すとウィン…と本体が小さく鳴った後、設定値がリセット状態になってしまった。

 

 「通電状態の異常だな」

 

 ラチェットはポンプの電源を切ると、工具を取り出し作業を始めた。

 

 クランクが補助をする。

 

 複雑に配線が張り巡らされた機器の内部をラチェットがチェックしていく。

 

 いつのまにやら部屋の入り口あたりにも船のクルーたちが集まり始めてガヤガヤしている。

 

 クランクは柄の悪そうなクルーたちを横目でチラリと盗み見た。

 

(………もし、修理できなかったらどうなるんだろう……)

 

 ハラハラしながらラチェットの補助をする。

 

 「おいクランク、NB―27412983……このコネクター端子と同じタイプのやつあるか?」

 

 ラチェットは拡大スコープを手にしながら機器の中に顔を突っ込んでいる。

 

 「は、はい……見てみるっス!」

 

 クランクは機器の中に取り付けられているコネクターを確認したあと、運んできた荷物の中をゴソゴソあさった。

 

 シャチがラチェットの隣にかがみ込む。

 

 「原因わかったのか?」

 

 「ああ、電源基盤とメイン基盤を繋いでるリード部のコネクターが劣化してんだよ。だから通電状態が悪化して、内部電圧が初期設定値より低くなってリセット状態になっちまうみてーだな」

 

 ラチェットが機器から顔を出しながら説明した。

 

 「おお!やるじゃねーかおまえ!」

 

 ただの危ないアホなんじゃないかと心配していたメカニックが意外にしっかり仕事することに感心するシャチ。

 

 「難しい故障じゃねーから、コネクター端子さえ交換すれば何とかなるぜ?」

 

 ラチェットは余裕の笑みを浮かべた。

 

 強面のクルーたちからは歓声が沸き起こる。

 

 「ラチェットさん……」

 

 クランクが身動きひとつせずに俯きながら呟いた。

 

 「同じの無いっス……」

 

 沸き起こった歓声が大ブーイングに変わる。

 

 完全なるアウェイでDEATH軍団に取り囲まれているクランクは、自分の全身からサーッと血の気が引いていくのを感じた。

 

 

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