ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG3……アホか天才か

 

 スプロケット島・ホイール・メカニック・カンパニー────

 

 

 混沌とした状況の中、瓦礫の下から電伝虫が鳴る音が聞こえる。

 

 プルプルプルプル………………

 

 いつもなら作業台の上にある電伝虫だったが、爆発後どこに吹っ飛ばされて、どの瓦礫の下敷きになっているのか見当すらつかない。

 

 微かな音を頼りに電伝虫を探すしかないような有り様だ。

 

 まだ怒りが醒めやらぬホイールだったが、入れ歯を口に装着した。

 

 「仕事の依頼かもしれんぞ!早よ探せいッ!!」

 

 ホイールが瓦礫を片付けながら怒鳴る。

 

 「ここらへんっスかね~?」

 

 クランクが音のする方向を確認しながら柱を持ち上げる。

 

 「おっ、この部品まだ使えんじゃねーか!ラッキー!」

 

 ラチェットは全く関係ないような場所で喜んでいる。

 

 「ぬぁぁぁにがラッキーじゃ!!電伝虫探せアホッ!!」

 

 ホイールはラチェットがいる方向に瓦礫を投げつけた。

 

 

 

 プルプルプルプル……プルプルプルプル……

 

 

 

 電伝虫はしつこく鳴っている。

 

 しかし、電伝虫は見つからない。

 

 「しつけぇなァ~」

 

 ラチェットが短く舌打ちをした。

 

 「こんなにしつこい電伝虫の鳴らしかたといえば、ゲンコツのおっちゃんじゃないっスかね~?」

 

 クランクはせっせと電伝虫を探す。

 

 「確かにしつこさはガープ並みじゃが、奴なら自宅の方の電伝虫に連絡してくるじゃろうての……何か緊急の仕事の依頼かもしれん……」

 

 そう言いながらホイールが屋根のトタン板の残骸を持ち上げたとき、奥の奥に見える隙間の中で、地面に横たわった電伝虫が死にそうな顔をしながらプルプルプルプルしていた。

 

 「アーッス!見つけたっス!ホイールさんそのままっス!」

 

 クランクが隙間に手を伸ばす。

 

 「ラチェット手伝え!も、もう限界じゃ……!!」

 

 トタン板の重さでプルプルしているホイールの下から、クランクはプルプル鳴っている電伝虫を救出した。

 

 グキッ!!

 

 ホイールの腰に激痛が走る。

 

 プル……………………

 

 電伝虫の音が止まった。

 

 「あ~あ、間に合わなかったっス!ってか、ホイールさん!?」

 

 ホイールが力尽きてトタン板の下敷きになっている。

 

 クランクが慌ててホイールを助け出した。

 

 「わしが死ぬときはラチェットのせいのような気がするわい…………」

 

 腰を痛めたホイールは柱の残骸を杖がわりにヨロヨロと立ち上がった。

 

 「ラチェットさん!ひどいっスよ!って…………アレ?」

 

 ガレージには、いつの間にかラチェットの姿が無かった。

 

 「やられたな……いつも通りトンズラしおった………!!」

 

 ホイールのこめかみに青筋が立つ。

 

 「なんでいつも、ああなんスかね~」

 

 クランクは頭をぼりぼり掻きながらため息をつく。

 

 

 プルプルプルプル……………

 

 

 再び電伝虫が鳴り始めた。

 

 

 「さっきの今でまた!?また通信してきたっス!このしつこさ!やっぱりゲンコツのおっちゃんじゃないっスか!?」

 

 クランクはホイールに電伝虫を渡した。

 

 「うむ……しかしガープは会社の方の連絡先は知らんはずじゃがのう……………はい毎度、こちらホイールメカニックカンパニーですじゃ」

 

 ホイールが腰の痛みに耐えながら愛想良く対応する。

 

 しかし、相手側の声を聞いてから表情が少しだけ曇った。

 

 

 「ええ、こりゃまた…………どうも……………そうですじゃ。わしがホイール・ベイカーですじゃ」

 

 

 クランクは、普段より改まったホイールの話し方が気になった。

 

 聞き耳を立てながらガレージの片付けを始める。

 

 

 「ああ…………なんと…………そういうお話しでしたか…………申し訳ありませんのう……とりあえず結論から言わせてもらえば、退役しましてから今に至るまで、わしの気持ちは変わらんですのじゃ……科学部隊への復帰はご遠慮させて頂きますわい…………」

 

 

 海軍の科学者として名を馳せた過去を持つホイール。

 

 科学部隊への復帰要請の連絡だった。

 

 

 「わしなんぞもう今の科学部隊には必要の無いただの老いぼれ……もはや時代遅れのポンコツジジィでしか無いゆえ………それに最近は特に………ウェッホ!ゲェッホ!…………このとおり持病の癪もありますしのう……今しがた、しこたま腰も痛めましてのう…………もう余命も少ないじゃろうて…………己の最期ぐらいは生まれ育ったこの島で迎えたい。それがワシのささやかな願いですのじゃ………」

 

 

 ホイールは、先程の元気な様子とは別人の様に弱々しく語っている。

 

 

 「ゲェッホ!ゲェッホ!ゴェェッ!………ゴホン……まぁ、陰ながらですが科学部隊の更なるご発展を祈っておりますぞ…………もう顔を会わせる機会もなかろうて、ベガパンクにもよろしくお伝え下され。では……どうも…………」

 

 

 ホイールが通話し終えると、ガレージ内にシーンとした空気が流れた。

 

 

 「え……それマジな話しっスか………ホイールさん……」

 

 

 クランクは、瓦礫をバラバラと地面に落とした。

 

 余命が少ない────

 

 その発言にショックを受けたクランクは放心したような表情でホイールを見つめている。

 

 「持病の癪って……?余命が少ないだなんて……そ、そんなの……オレ……全然知らなかったっスよ!今まで独りで苦しんでたんスか…………!?」

 

 クランクの目にみるみる涙が溜まる。

 

 両親を失った幼い日から、ホイールメカニックカンパニーに身を置かせてもらえることになったクランクにとってホイールは親代わり、ラチェットはなんだかんだ言っても姉のような存在だ。

 

 つまり、血の繋がりは無くとも大切な家族なのだ。

 

 

 ホイールもだいぶ歳をとって、小さく萎んでしまった…………

 

 今生の別れがいつやって来るかもわからないような年齢ではある…………

 

 でも、当たり前のような毎日が明日も続くとしか思っていなかった…………

 

 永遠に会えなくなる日が来ることなど信じたくない…………

 

 

 「ホ、ホイールざぁぁぁぁん………!!」

 

 クランクは泣き崩れた。

 

 

 「クランクよ……心配は無用じゃ……だって嘘じゃもん」

 

 ホイールがクランクの肩にそっと手を置く。

 

 「へ?」

 

 クランクは涙を溢しながらもポカーンとする。

 

 「面倒くさいから適当に嘘ついたんじゃもん」

 

 ホイールが痛めた腰をさすりながら言う。

 

 「え………ちょ………だって海軍からじゃないスか……」

 

 クランクは口をパクパクさせながら青ざめた。

 

 「わしのような古い時代の科学者が、何を今さら古巣に戻る必要があろうて……バカバカしい。科学部隊にはベガパンクのヤツがいれば充分じゃ」

 

 「えぇ~ッ!それでも海軍相手に嘘つくだなんてやべェっスよね!?」

 

 クランクはホイールに何らかの処罰が下されはしないかと気が気でない。

 

 「引退して20年以上経っとるんじゃぞ?軍規違反もクソもないわい。それに腰を痛めたのは本当じゃしの…………こりゃイングリットちゃんにマッサージしに来てもらわんと何ともいかん…………ラチェットならまた海岸じゃろうて、連れ戻して屋根の修理しとけよッ!大きな仕事にありつけん限り、大工を呼ぶ金も無いわ…………できんようならオマエら1週間メシ抜きじゃ!!」

 

 

 ホイールは再びプンプン怒り始めると、杖をつきながら敷地内にある自宅へ戻っていった。

 

 

 「エエッ!結局オレもっスかァ~!本当に巻き込まれただけなのにぃ~!ったく!いつもラチェットさんの尻拭ってばっかっス……」

 

 

 クランクがブツブツと文句を呟きながらガレージの外に出ると、近所に住む双子の幼い姉妹がウィィィィ~ンというモーター音を響かせながら、猫型のメカに乗ってグルグル回りながら遊んでいた。

 

 

 双子はクランクに気がつくとウィィィィ~ンと近づいてきた。

 

 

 「またラチェットつくったやつ、どっか~んしたね」

 

 「ラチェットのつくってくれたねこちゃん、たのしいの~」

 

 幼い双子の姉妹が舌足らずな声で喋る。

 

 「チッチ!ピッピ!ラチェットさん見なかったスかァ?」

 

 ラチェットの舎弟生活がすっかり身に染み着いているクランクは、幼い双子にも敬語で問いかける。

 

 「あのねぇ、ラチェットあっちいった~」

 

 「うみ~」

 

 双子のチッチとピッピが、海へ続くあぜ道を指差した。

 

 

 「やっぱり海っスか!ありがとっス!」

 

 

 クランクはチッチとピッピに礼を言いながら海へと向かった。

 

 

 

 

 一方、ホイールは自宅のソファーに腰かけながら、すっかりぬるくなってしまった飲みかけの茶をズズーッとすすった。

 

 

 「ラチェットの奴め……物理学的特性が破れるだと……?まったく、アイツのアタマの中は……」

 

 ホイールはしばらく湯呑みの中の茶を見つめる。

 

 しばらく沈黙した後、ホイールはリビングの壁にかけてある写真の中のひとつに視線を向けた。

 

 ホイール、ベガパンク、そして誰かの白衣が写り込んでいる写真。

 

 不自然な写真のサイズから推測すると、写り込んでいる白衣の誰かと3人並んで写ったものだったのかもしれない。

 

 意図的に切り取られた写真に見えなくもなかった。

 

 「…………あんなアタマの構造しとるヤツはベガパンクひとりで充分じゃわい…………いや、こんな言葉はイカンの………結局はラチェットの存在を否定することになってしまうか…………それに気になるのう……今になって復帰要請だなどと……ベガパンクの提案だとは思えん…………」

 

 

 ホイールはボソリと呟いた後、再び茶をズズーッとすすった。

 

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