ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG4……北の海からのルーキー

 

 キューカ島────

 

 

 

 電伝虫からの応答を待つベンリーの顔色も立場も、時間の経過と共にどんどん悪くなってきていた。

 

 プルプルプルプル………プルプルプルプル………プルプルプルプル……………

 

 

 先程からひたすら通信を続けているが、ホイール・メカニック・カンパニーからの応答は無い。

 

 ペンギン帽とキャスケット帽の男も痺れを切らしているように見えなくもない。

 

 「オイ、全然つながらねェじゃねーか…………」

 

 ペンギン帽が腕組みをしたまま身体を小刻みに揺らしている。

 

 「す、すみませんッ!電伝虫が通じるから営業してるはずなんですがねェ……!留守かなァ!?アハハ……!」

 

 愛想笑いをするデンキューだったが、ペンギン帽とキャスケット帽からの無言の圧力が痛いくらい重い。

 

 「アハハじゃねェよ、じゃあ留守ならどうするってんだよテメェはよォ?」

 

 キャスケット帽が凄んでくる。

 

 泣きっ面になりながらベンリーは再びデンキューに通信した。

 

 「デ、デ、デンキュゥゥゥゥ~!」

 

 『お、オイ!何泣いてやがんだよ!オマエ今日変だぞ!?こっちだって泣きたいくらい忙しいんだよッ!』

 

 「なァ!ホイール・メカニック・カンパニーって潰れちゃいねェよな!?全然つながらねェぞ?ジィさんくたばったんじゃねえのか!?他のメカニック誰かいねェのかよ~!?」

 

 『間違いなく生きてるよッ!死んだとなりゃあ、新聞に載るくらい偉いジィさんだからな!つーかよ、連絡つかねぇならスプロケットまで行ってみればいいじゃねぇか、何日もかかるわけじゃあるまいしよォ!とりあえず、ここいらのメカニックで医療機器を扱えるレベルの業者はホイール・メカニック・カンパニーだけだッ!ああっ!バカヤロッ!部屋の装飾品寄せるときは慎重にやれってあれほど……………ブツッ………ツー…………』

 

 仕事上のトラブルでもあったのかデンキューの通信が途絶える。

 

 ベンリーはメソメソしながら再びホイール・メカニック・カンパニーへ再び通信した。

 

 ……ツーツーツーツー

 

 電伝虫の念波が弾かれる音がする。

 

 「くそォ~!今度は通話中かよ!……てことは、人がいるんだな…………あのぉ~ダンナ?いっそスプロケットまで訪ねてみたらどうですかねェ……片道2時間ならここで待つより早いかなァなぁんて…………」

 

 ベンリーはオドオドしながらも2人の男に提案してみた。

 

 「アァ!?」

 

 「んなこたぁテメェが決めることじゃねェんだよ!」

 

 ペンギン帽とキャスケット帽が口許をひん曲げながら睨みを効かせてくる。

 

 「す、すみませんッ!でもォ~!ここいらのメカニックで医療機器を扱える業者はそこしかねェらしいんですよ!急いでらっしゃるならと思いましてェェェ………!!」

 

 ベンリーは半泣きでペコペコ頭を下げまくる。

 

 そのとき、少し離れたところから声がした。

 

 

 「その便利屋が言うことにゃ、一利あるんじゃねェか?」

 

 

 斑模様の入ったファーの帽子を被った長身の男がこちらの様子を眺めていた。

 

 男の隣では白クマがアイスキャンディーを両手に持っている。

 

 男に気がついたペンギン帽とキャスケット帽は、彼を「キャプテン」と呼ぶ。

 

 ベンリーの目が飛び出る。

 

  白クマにも驚いたが、最近グランドラインにも手配書が出回り始めた北の海からのルーキー──“死の外科医”の異名をとる海賊トラファルガー・ローがそこに立っていたからだ。

 

 ベンリーは生唾をゴクリと飲み込む。

 

 海賊が医療機器?と思っていたベンリーは、やっと合点がいった。と、同時に、あの若さで億を越えんとするような金額を首にかけられた船長の一味──ハートの海賊団のメンバーから50万ベリー受け取ってしまったことを激しく後悔し、トラファルガー・ローがこちらに向ける鋭い視線に心底震えた。

 

 

 「でもキャプテン。業者にゃまだ連絡ついてねェぜ?」

 

 ペンギン帽がトラファルガー・ローに状況を伝える。

 

 「駄目で元々……ここで無駄に時間潰すよりマシだろ」

 

 トラファルガー・ローは対岸に見える島へと目を向けた。

 

 その隣で白クマが喋りはじめる。

 

 「島を辿ればいいんだな?うちの船なら1時間半くれェで行けるんじゃねーか? 」

 

 そう言うと白クマはアイスキャンディーを噛じった。

 

 「コラァ!ベポッ!オマエ呑気にアイスなんか食ってる場合じゃねェぞッ!!」

 

 ペンギン帽とキャスケット帽が白クマを怒鳴りつける。

 

 「だ、だって…………この島暑いし……おれ毛皮だからしんどい…………さっきキャプテンが買ってくれたから…………」

 

 白クマが落ちこみながらボソボソと説明する。

 

 「オレたちだって暑いわッ!!」

 

 分厚そうなツナギを着ているペンギン帽とキャスケットが更に怒鳴る。

 

 「オマエらの分もあるのに…………」

 

 白クマはシュンとしながらアイスキャンディーを2個差し出す。

 

 「キャプテンありがてェ~!!」

 

 さっきまで怒っていたペンギン帽とキャスケット帽が嬉しそうに白クマからアイスキャンディーを受けとる。

 

 白クマが喋っているが、グランドライン前半だというのにもはや新世界の住人ミンク族を従えているのだろうか?

 

 ベンリーは唖然としながら一味を見つめた。

 

 

 すると、ペンギン帽とキャスケット帽がアイスキャンディーを食べながらベンリーに近づいてきた。

 

 ペンギン帽はアイスキャンディーをボリボリ食べながらベンリーの顔をじっと見つめる。

 

 「ダ、ダ、ダ、ダンナ………!!ま、まだ何か御用でしょうかッ!?」

 

 何事かと焦るベンリー。

 

 「……………アンタ、うちのキャプテン見て顔色変えたよな?……“物知り”ってのもダテじゃねーみてェだ…………ならよ、バッグの中の50万ベリーが口止め料込みなのは言わなくてもわかってるよなァ?」

 

 最後にボリッと音を立てながらペンギン帽はアイスキャンディーを食べ終える。

 

 その隣からキャスケット帽がアイスキャンディーの棒をベンリーの方へ向けてプラプラ動かした。

 

 「どうやら金に目がくらんじまうタチらしいけどよォ~……海軍にタレ込んで、その見返りまで期待しようとするほどバカ野郎じゃねェよなァ~?五体満足で長生きしてェんなら欲は張らねェほうがいいぜ?ナァ?」

 

 「ああ、違いねェ」

 

 ペンギン帽が相槌を打つ。

 

 人の往来が多い島ほどタレコミ屋がいる。

 

 もちろんベンリーも海軍に情報を売ったことが全く無い訳ではなかった。

 

 タレコミ屋として生計を立てる程ではないが、海賊の手配書には明るい。

 

 甘い汁を吸えそうなときは吸う。

 

 こちらの性質や顔色を捉えて確実に牽制してくるあたり、このチャラついたチンピラのような男たちも死の外科医のクルーなだけあってなかなか食えない奴らだとベンリーは思った。

 

 彼らの背後ではトラファルガー・ローと白クマがこちらの様子を伺っている。

 

 ベンリーは常夏のリゾート・キューカ島にいながら、こんなにも肝が冷えたことは無かった。

 

 「も……!そりゃあもう!もちろんでさァ!!お、オレは今日は何も見てねェし、何もしてねェ……暇すぎて暇すぎて……み、港で煙草ふかしてただけでさァ……!!」

 

 ベンリーは慌てふためきながら、男たちが現れた時に消した煙草を再び手にする。

 

 「まァ、そういうことだなオッサン。情報ありがとよ、最後にその業者の連絡先もらってくぜ?」

 

 ペンギン帽がベンリーのアドレスブックのページをビリビリ破く。

 

 「バカンスしに来たときゃまた声かけるからよろしく頼むぜ。格安でな」

 

 キャスケット帽がベンリーの肩をポンと叩いた。

 

 

 「さすがに港にゃ水着のネーチャンいなかったなァ~」と、ペンギン帽。

 

 「リゾートに来て、唯一しゃべったのがオッサンって切ねェなァ~」と、キャスケット帽。

 

 「おれ、アイス屋で水着の女に抱きつかれたけど、水着のメスのクマならよかったな」と、白クマ。

 

 「ケンカ売ってんのかベポ!コラァ!」

 

 ペンギン帽とキャスケット帽が白クマをどつく。

 

 彼らは、圧倒的な威圧感を纏う男トラファルガー・ローと共に港の石畳の上を歩いていった。

 

 

 ベンリーは震える手でシケモクを丁寧に伸ばすと、口にくわえて火をつけた。

 

 「なんておっかねェ目してんだ……あ、ありゃあ……億なんてすぐ越える、かなりの大物になるぜ………」

 

 ベンリーはトラファルガー・ローの後ろ姿を見ながら呟いた。

 

 彼に脅されたわけでもない、武器を向けられたわけでもない。

 

 それなのに今日、自分の背筋を一番ゾッとさせたのはあの男の視線だった。

 

 腐っても客商売、ベンリーはこの島で海賊、裏社会の人間、賞金稼ぎ、海軍将校、一般人以外にも様々な人種を見てきているが、トラファルガー・ローは別格だと感じた。

 

 

 「やっぱり海賊なんかにゃ関わっちゃいけねェや………これからは地道に稼ごう……ホイール・メカニック・カンパニーにゃ悪かったかもしれねぇなァ……あんなのが行くんだからよ…………」

 

 ベンリーは冷や汗を拭いながらフーッと煙を吐いた。

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