ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG6……悪魔のいけにえ

 ロッキーのうんこを踏むというアクシデントに見舞われたラチェットは、そこらへんに落ちていた木の枝にうんこを乗せると道端にブンッと放り投げた。

 

 「ふんっ!クソッ!」

 

 木の枝をポイッと捨てると、ラチェットはスニーカーのソールにうんこの形跡が無くなったことを念入りに確認してから再び歩き始めた。

 

 あぜ道を抜け、草むらを抜け、防砂林がある丘のゆるやかな坂道を歩く。

 

 丘を越え、少し傾斜がある草地を下った先に、ゴツゴツした岩場に囲まれた小さな入り江があらわれた。

 

 ラチェットはヒョイヒョイ岩場を降りていくと、入り江の砂浜の上にドカッとあぐらをかき、胸ポケットから手帳を取り出した。

 

 「………計算が違ってたっつーことは…………なんとなくノリで造っといたプロトタイプのほうが……修正の仕方によっちゃあ、案外ちゃんと発動するかもしれねーな………」

 

 彼女は手帳をパラパラ開き、ペンをスラスラ動かしながら数式を書いていく。

 

 手帳をにぐっと顔を近づけると、ページを睨み付けるように見つめながらペンを指先でクルクルと回した。

 

 「うーん…………」

 

 ペンの回転がピタリと止まる。

 

 ラチェットは難しい顔をして腕を組んだ。

 

 「さすがにこのセッティングじゃ無理か…………」

 

 計算をシャッシャッと消す。

 

 「サイズに合わせて数値変換するんであれば…………」

 

 しばらく考え込んだ後、ラチェットの表情が急にパッと明るくなった。

 

 「こうだな!」

 

 物凄いスピードで手帳に複雑な計算式を書き連ねていく。

 

 「……………これだ!」

 

 ラチェットは計算を見直した。

 

 うんうん頷きながらひとりで納得すると、手帳を適当な場所にバサッと置いた。

 

 「そんじゃいっちょ、やってみっかな~」

 

 彼女は楽しそうにズボンのポケットから、手のひらにおさまるくらいのサイズをした球状の小型メカを取り出した。

 

 胸ポケットからミニサイズの工具がぎっしりと詰まったケースを取り出す。

 

 ラチェットは右目に拡大スコープをはめると、小型のメカを分解し始めた。

 

 しばらくの間、さざ波の音にカチャカチャと金属をいじる音が重なる。

 

 「よし、こんなもんか」

 

 再び組み立て直したメカを満足そうに見つめながらラチェットはスコープを外した。

 

 メカには数字をカウントできるタイマーのような画面と、小さなボタンが数個並んでついている。

 

 画面に表示されているのは【00:00】の数字。

 

 数個並んだボタンの1つを押すと、球は二枚貝のようにパカリと口をあけた。

 

 そのとき「ラチェットさんっ!!」と呼ぶ声が入り江に響き渡った。

 

 ガレージに置き去りにしてきたはずのクランクが息を切らしながら岩場を降りてくる。

 

 「ゼエッ!ハアッ!ったく、いつの間にいなくなってんスか!毎度毎度のアンタの傍若無人っぷりに、さすがにオレだってアタマきてるんスからね!早く帰ってガレージ片付けなきゃホイールさんが………」

 

 クランクは砂浜をガニ股でドカドカ歩きながら近づいてきた。

 

 「おっ!ちょうどいいとこに来たぜクランク!今からすっげェ実験見せてやっからオマエの時計かせよ」

 

 ラチェットはニコニコしながらクランクを迎える。

 

 「アンタ全然反省してないっスね」

 

 クランクがラチェットを白い目で見つめた。

 

 「コトの失敗に屈するべからずって言うだろ?失敗したらその失敗を償う丈の工夫を凝らすべしってな。だから、時計かせや」

 

 ラチェットはクランクの腕に手を伸ばす。

 

 「いっ!嫌っス!オレのウォーターセブン限定モデル!色んなとこ経由して、やっと手に入ったやつなんスよッ!?」

 

 クランクは腕時計を守るように身を捩らせる。

 

 「時計が2個なきゃ実験にならねぇんだよ。それともあれかクランク?コブラツイストがいいのか?それともパロ・スペシャルか?あん?」

 

 ラチェットは悪そうな顔をしながらジリジリとクランクに近寄る。

 

 「ヒッ!どっちも嫌ッス!時計もダメっス!」

 

 青ざめながら逃げようとするクランク。

 

 「じゃあこうだな、オラァ!」

 

 ラチェットはクランクの背後に回り込むと足と腕をホールドしコブラツイストをきめた。

 

 「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」

 

 クランクがギギギギと力を入れながら抵抗するも、ラチェットの技が完全にきまっている。

 

 ラチェットはクランクの腕から限定モデルの時計を乱暴にむしりとったあと、機嫌良さそうに口笛を吹いた。

 

 「ああああ……オレの限定モデルが怪しげな実験のいけにえに………アンタ鬼っス!悪魔っス………!」

 

 クランクはコブラツイストによる肉体的ダメージと、時計を奪われた精神的ダメージにより砂浜で寝転びながらシクシク泣いた。

 

 「まぁ、見てろって」

 

 ラチェットはクランクの腕時計と自分の腕時計の時刻を秒針までシンクロするように調整した。

 

 2つの時計は微塵の狂いもなく同じ時間を刻む。

 

 それを確認したラチェットは、球状のメカの内部にクランクの時計を収めた。

 

 「よし…………!」

 

 ラチェットはカチカチとメカのボタンを押す。

 

 クランクがヨロヨロと立ち上がった。

 

 「な、なんっスかそれ……?もはや嫌な予感しかしないっスけど………」

 

 クランクは自分の時計が収められたメカを震える手で指差す。

 

 メカの画面には【+00:05】の数字が表示されている。

 

 

「5分後にわかる」と、ラチェットはニヤリ笑った。

 

 

 メカをボールのように握ったラチェットは大きく振りかぶると、空に向かって思いっきり放り投げる。

 

 スピードにのるメカ。

 

 上空3メートル。ストロボを焚いたかのような光がパッと炸裂した。

 

 同時にメカが消える。

 

 メカが消えた位置で円錐形の水蒸気のようなものが発生し、霧散していった。

 

 「ギャアアアアア~!!!!」

 

 自分の限定モデルが消失する瞬間を目の当たりにしたクランクの目が飛び出る。

 

 ラチェットは固唾を飲んで空中を見つめ続ける。

 

 次の瞬間、ボゴォン!という轟音と共に2人を衝撃波が襲った。

 

 2人が立つ場所の砂がブワッと円型にえぐれ、ラチェットとクランクがブッ飛ぶ。

 

 「な、な、な……………」

 

 砂浜に仰向けになったクランクは、あまりにものショックに口からブクブク泡を吹き、気を失いそうになる。

 

 ラチェットは仰向けのまま目を見開いている。彼女の口角が嬉しそうにゆるんだ。

 

 「閃光、ヴェイパーコーン、ソニックブーム!計算通りだ!よっしゃあああああ!」

 

 ラチェットは砂から身を起こすと、ガッツポーズしながら大喜びした。

 

 「何がよっしゃああっスかァァァ!オレのウォーターセブン限定モデルが消えたんスけどォォォ!?どこにいったんっスかァァァァ!!」

 

 クランクはガバッと起き上がると、ラチェットの襟元を両手で掴んでガクガクと揺さぶる。

 

 「時空の狭間だ」

 

 ラチェットは空の彼方を指差す。

 

 「アンタ馬鹿ァァァァっス!なんなんスか時空って!タンスの隙間にあるみたいな感じで飄々と言いきりましたけどおかしいっスよね!?そんな非現実的なもんが存在するわけないじゃないっスかァァァ!!…………ああ~っス、もう終わったっス!オレの限定モデルぅぅぅ……きっと爆発して燃え尽きたんスよ…………ウウッ……ヒッグ……ラチェットざんのバァァァァ~ガ!」

 

 クランクは砂浜にガクッと泣き崩れた。

 

 「爆発したんじゃねーし燃え尽きてもねーよ。次元転移装置が正常に作動したから時間反転対称性は破れた……あのメカは5分前の世界から時空間を移動してこの時間軸に出現する……クランクの時計がアタシの時計から5分遅れてることが時空転移の証明になるんだ」

 

 ラチェットは自分の腕時計を見つめながら言った。

 

 「ヒック……ヒック……ハァ~?タイムマシンでも造ったってんスすか?………そんなもん実現可能なわけないっス…………アホくさ………ヒッグ……!」

 

 泣きながらふてくされるクランク。

 

 大真面目な顔をしているラチェット。

 

 アホという言葉に反応すらしない。

 

 彼女が集中している証拠だ。

 

 あまりにも真剣な表情で腕時計を見つめているものだから、クランクはそれ以上彼女を馬鹿にするような言葉を並べることなく、ため息をつきながらラチェットの隣に立った。

 

 クランクは我ながら単純だとは思ったが、真剣に取り組んでいる人間を馬鹿にはできなかった。

 

 ましてラチェットの才能を一番近くで見てきたからこそ、彼女が信じる可能性を自分も信じてみたくなった。

 

 もし成功したならば、世界がひっくり返るくらいの世紀の大発明であり、歴史的瞬間となる。

 

 クランクはラチェットの腕時計の秒針がチッチッチッと小気味良く時を刻んでいくのを見守った。

 

 「来るぞ!……5、4、3、2、1」

 

 時計を見つめながらカウントするラチェット。

 

 クランクはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 「ゼロ……!!」

 

 ラチェットの声と共に秒針が頂点に到達した。

 

 サアッと海から心地よい潮風が吹いてくる。

 

 入江をやさしく包み込むようなザザーンという波音が辺りに響く。

 

 青い空からは太陽の光が燦々と降り注ぎ、白い雲は眩しいくらい輝いて見える。

 

 目を細めながら空を見つめるラチェットとクランクの髪がやさしい潮風に揺れた。

 

 「おかしいな…………」

 

 ラチェットが眉間に皺を寄せる。

 

 「ぐはあっ!オレの限定モデルゥゥゥゥッ!!!!」

 

 砂浜にひっくり返ったクランクから絞り出される悲痛な叫びが入り江にこだました。

 

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