ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG8……とんでもねェ落書き

 

 スプロケット島────

 

 

 入り江の岩影に黄色い潜水艦が停泊していた。

 

 砂浜に3人の男が佇む。

 

 キューカ島に列なる諸島を経由してスプロケット島へ到着したトラファルガー・ロー達だった。

 

 ローとキャスケット帽、ペンギン帽の3人は潮風に吹かれながら砂浜を見渡す。

 

 彼らの視線の先には浜辺の砂が円型状にえぐれて出来たような不自然な窪地があった。

 

 直径8メートル、深さは中心部で3メートル弱くらいあるだろうか。

 

 外周から中心部に向かってなだらかに傾斜している。

 

 キャスケット帽のクルー・シャチが首を傾げながら窪地を覗き込んだ。

 

 「なんだこりゃァ?」

 

 「蟻地獄っぽいよなァ?」

 

 ペンギン帽のクルー・ペンギンは捕食者が窪地に潜んでいないかを確かめるために、近場にあった大きめの流木を中に放り込む。

 

 特に何かが起こるような気配は無い…………

 

 その様子をローも見つめる。

 

 「…………流砂とも違うみてェだな……上から爆風で吹っ飛ばされたようなえぐれ方してやがる…………それに、まだ新しいな。この穴ができてから、そう時間が経っちゃいねェ…………」

 

 ローは驚きも恐れも見せることなく普段通りの淡々とした表情で、この不可解な窪地ができた原因を探った。

 

 スプロケットに向かって航行しているときから風は一定して南南西から吹いていたし、島に上陸してからもそれは変わらない。

 

 入り江に吹き込んでくる潮風の影響で、窪地の風上と風下では砂の偏りが時間の経過と共に顕著に現れてくるはずだ。それがまだ少ないというのは、この窪地が新しく出来たものであることに違いない。

 

 気に留める必要も無いようなことなのか………

 

 それとも、今後自分達の行動に良からぬ影を落とすような不吉な存在がこの島にあるのか…………

 

 しかし、ローが窪みの形状から推測した……“何かが爆発したような痕跡”は他に見あたらなかった。

 

 そのかわりに、砂浜を点々とする靴跡……“誰かがいた形跡”が彼の目に留まる。

 

 ローが靴跡を視線で辿っていくと、砂に半分だけ埋もれた手帳が落ちていた。

 

 手帳を拾うロー。

 

 傷みもなく、さほど古びてもいない。

 

 が、だいぶ煤けていた。

 

 機械に使用する類いの油の匂いか微かに感じられる。

 

 ローは手帳にまとわりついた砂を手で払った。

 

 ページを開くと、そこには繊細さと、ある種の神経質さを感じずにはいられないくらい緻密な文字がびっしりと書き込まれていた。

 

 整然とした……というか、もはや芸術的であるくらいの数字の羅列でページが埋まっている。

 

 医学を専門とする彼にとって、そのすべてが正確であるかどうかの判断がつく様な内容ではなかったが、手帳に興味を持ったローは指を紙の上でゆっくりと滑らせながらページをめくっていった。

 

 常人が生活するうえでは必要の無いくらい膨大な桁数の計算、手帳の持主が考えたのであろう理論、法則、そこから導き出される事象、そして何かの設計図などが事細かに綴られている。

 

 「随分と酔狂なヤツがいるみてェだな…………」

 

 失笑せざるを得ないような絵空事が書かれている部分もあるが、かなり高度な知的能力を持った人間……それがこの手帳の持主だとローには思えた。

 

 「とんでもねェ落書きだぜ…………」

 

 口の端を歪めながらローは呟いた。

 

 「キャプテ~ン、ボート隠してきたぞ」

 

 白クマの姿をしたクルー・ベポが巨体を揺らしながら3人の元へ駆け寄ってくる。

 

 「アッ!ベポッ!砂浜にデケェ穴が空いてるから気をつけろッ!」

 

 シャチとペンギンが声をそろえて注意喚起する。

 

 「穴?」

 

 ぽかーんとしながら窪地ギリギリで歩みを止めたベポだったが、その体重に耐えきれなかった足元付近の砂がザザーッと崩れた。

 

 「うわぁ~ッ!」

 

 ベポは態勢を崩してジタバタしながら窪地に滑り込んでいった。

 

 アタマから窪地に突っ込んだベポは、砂まみれになりながら目を回している。

 

 「あ~あ~、言わんこっちゃねェ」

 

 シャチとペンギンがベポを救出するために窪地へ足を踏みいれようとしているのがローの目に映った。

 

 「おい……!待てお前ら……!!」

 

 見聞色の覇気など無くとも数秒後に何が起きるか普通に予測できたローはシャチとペンギンを制止する。

 

 しかし、2人は窪地の斜面を滑り降りてしまっていた。

 

 目を回したベポを両脇から支えるシャチとペンギン。

 

 「ベポォ!オマエ重いんだから気ィつけろ!」

 

 「ったくよォ!世話の焼ける奴だぜェ~」

 

 2人揃ってベポを背負いながら斜面を登ろうとする。

 

 力強く踏み出した足がズボッと砂に沈む。

 

 ズシャッと砂が削れて、足が元の位置に戻る。

 

 砂のせいで全く前に進むことができない。

 

 「しまった!さっきまであれほど慎重になってたのに思わずやっちまったぜッ!」

 

 ペンギンが悔しそうに砂の上でズルズル滑る。

 

 「こりゃスゲェ罠だ!キャプテン気をつけてくださいよッ!あと、助けてくださいッ!」

 

 シャチもズルズル滑りながらローに救いの手を求めた。

 

 2人はまんまと蟻地獄の罠にかかった獲物の如くもがいている。

 

 ローは自分の足元で、言わんこっちゃねェ事態になっている部下たちを無言で見つめた。

 

 

 次の瞬間、ストロボを焚いたような閃光に入り江が包まれた。

 

 「!?」

 

 音もなく炸裂した光にローが逸速く反応する。

 

 窪地の中ではシャチとペンギンがバッと砂に身を伏せながら空を見上げた。

 

 閃光はすぐに消えた。

 

 強い光を目にしたせいか、瞬きするたびにチカチカした残像が青空にちらつく。

 

 ベポからゴンッと鈍い音がした。

 

 目を回しているベポのアタマから何故かコブが膨れあがっている。

 

 「しっかりしろベポッ!」

 

 シャチがベポを揺さぶる。

 

 「スナイパーか!?」

 

 ペンギンが身構えながら、入り江の上の木影や草むら、岩場の影などの様子を伺う。

 

 グランドラインには島民が束になって海賊相手の賞金稼ぎをしている島があるとも聞く。

 

 この島がそうでは無いとは断言できない事態が発生したかもしれない。キューカ島のうさんくさい顔をした案内屋のオヤジが言わなかっただけで……いや、もしかしたら最初から島民とグルになって嵌めてきた可能性もある…………シャチとペンギンは最大限に警戒した。

 

 それとは対照的に、特に慌てた様子もなく、落ち着きを払いながら周囲をゆっくりと見渡すロー。

 

 「………いや、人の気配はしねェ………それに…………」

 

 ローは窪地の中でパリパリと小さなスパークを発生させながら凍りついている球体に視線を移動させた。

 

 「そのカプセルみてェなのは、いきなり空中に現れた……おれの見間違いじゃなけりゃな」

 

 「カプセル?」

 

 シャチとペンギンがローの視線の先を辿る。

 

 砂上に転がっている金属製の球体が冷気を放ちながらシュゥゥゥゥ…………と微かな音を立ている。

 

 球体にまとわりつく霜が温暖な外気に触れてゆっくりと溶けていった。

 

 「あっ!こいつかベポのアタマにヒットしたのは!」

 

 「弾丸じゃねェな?」

 

 シャチとペンギンが足元にある球体を見つめる。

 

 ローは少し身を屈めると浜辺の小石を握った。

 

 「“ROOM”」

 

 ローの声と共にサークル状の不思議な空間が入り江を包み込んだ。

 

 「“SHAMBLES”」

 

 その言葉が聞こえた瞬間。

 

 窪地の中にいたシャチ、ペンギン、ベポの位置と、浜辺の貝殻や流木があった位置とがパッと入れ替わっていた。

 

 謎の球体は小石の代わりにローの手の中に収まる。

 

 カプセルのような球体を見つめるロー。

 

 球体にはボタンが何個か配置されており、小さな画面に【00:00】という数字が表示されていた。

 

 「すみませんキャプテン!助かりました!」

 

 「キャプテン、面目ねェ~!」

 

 照れくさそうに己の失態を恥るペンギンとシャチがローの背後に駆け寄る。

 

 やっと目を開けたベポも砂浜からむくりと起き上がった。

 

 「あれ?おれ何でこんなコブできてんだ?」

 

 ベポはアタマのコブをさわりながらロー達に近寄る。

 

 「キャプテンそれなに?」

 

 ローが持つ球体を見ながら首を傾げるベポ。

 

 「…………さぁな……ひとつだけ言えるのは……この島にいるメカニックがとんでもねェ奴かもしれねェってことだ………」

 

 ローは何か面白そうなことを見つけたときの様な表情を浮かべると、手帳をポケットに仕舞い込み、球体を手の上で放った。

 

 

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