ONE FINE DAY   作:パンク侍

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LOG9……死の旅芸人

 入り江を後にしたロー達は、スプロケットの小高い丘の上に登っていた。

 

 シャチが望遠鏡で島を一望している。

 

 点在する民家、あぜ道、小川、バァさん、半壊した小屋、知性が感じられない顔立ちの犬。

 

 庭先で赤ん坊を背負いながら洗濯物を取り込む昼下がりの人妻………が唯一、彼の目の保養になった。

 

 どうして半壊した小屋があるのかは不明だが、まわりの住民に慌ただしさは感じられず、のんびりと普段通りの生活をしているように見える。

 

 「うーん……ど田舎もいいとこだぜ………半壊してる小屋があるけど、特に変わった様子もなさそうだぜェ?賞金稼ぎの島かと思っちまった自分が恥ずかしいくらいだな」

 

 ゆっくりとした時間が流れている長閑な島にしか見えない。

 

 「おまえなぁ……そんな遠くのことよりも…………」

 

 ペンギンがシャチの見つめる方向の逆を指差した。

 

 「こりゃなんだっつーの」

 

 目の前に広がる芋畑では、人間の形を模した変なロボットがガッチョンガッチョンという音を立てながら、しきりに芋を掘り起こしていた。

 

 くすんだブロンズ色のフルメタルボディ。

 

 脇腹にあたる部分のメッキが剥がれかけているようで暗灰色の金属が覗いている。

 

 動きは多少ぎこちないが、人間の関節がある箇所が曲がる仕組みになっていて、それがロボットの機動力を高めている。

 

 『ホッタイモイジルナ、ホッタイモイジルナ』

 

 ロボットはブツブツ言いながら、正確に芋を掘り起こしては、それをほうり投げて山積みにしていく。

 

 喋っているというよりは、“ホッタイモイジルナ”という音声ガイダンスのようなものが延々と垂れ流しになっているだけのようだ。

 

 「どこの世界にも変なガラクタ作りたがる奴がいるもんだ」

 

 「経験上、この手のやつァ何かしらの危ねェ欠陥があったりするよな」

 

 シャチとペンギンがロボットの動きを目で追う。

 

 ローも2人から少し離れた場所にある大岩に腰掛けながらロボットを眺めていた。

 

 ベポは山積みにされたイモの近くでおおはしゃぎしている。

 

 「うわ~、イモがいっぱいだよ!うまそーだなぁ!」

 

 ヨダレをだらーっとたらしながら、イモの山に手を出す。

 

 『ビーッ!ビーッ!』

 

 突然、警告音のようなものがなり始めた。

 

 「うわっ、なんだこの音!?」

 

 あせったベポがその場でオロオロする。

 

 ロボットの動きが前屈みの状態でカクッと止まった。

 

 「おいおい、故障させたんじゃねーのか?」

 

 「あーあ、やっちまったなァ~」

 

 シャチとペンギンがニヤニヤしながらベポをからかう。

 

 「お、おれ……何もしてねェぞ……でも、スミマセン……」

 

 自分は悪くないと主張しているくせにベポがズーンと落ち込む。

 

 『緊急事態発生。外部出力・エネルギーチャージ完了』

 

 停止するロボットから機械的な音声が聞こえた。

 

 「ん?」

 

 シャチ、ペンギン、ベポの3人がロボットを見る。

 

 ロボットはウィ~ンという音をたてながら頭部だけグルッと素早く回転させ、芋をつかんだベポの方を向いた。

 

 目玉のような形をしたセンサーがチカチカッと赤く激しく点滅する。

 

 口許にあたる部分がパカッと開いた。

 

 口の中で、カァァァァァっと光が発生し始める。

 

 その様子を傍観していたローがバッと立ち上がった。

 

 「伏せろ!ベポ!」

 

 ベポに向かって叫びながらロー自身も岩の上から能力を使って姿を消す。

 

 ローは畑の隅にあった枯れ木と入れ替わる。

 

 ベポはアタマを押さえながらパッと身を伏せた。

 

 『ホッタイモイジルナァァァァァ!!』

 

 ロボットの音声と共に、物凄い光を放つ強烈なビームが発射された。

 

 

 チュドォォォォーーン!!

 

 

 ベポの身体ギリギリをかすめたビームは、ローが座っていた大岩を跡形も無いくらい粉々に吹き飛ばした。枯れ木は一瞬で灰になる。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 目を飛び出させて驚くベポ、シャチ、ペンギン。

 

 すさまじい破壊力を持ったビームを目の当たりにしたローの表情にも、さすがに驚きの色が見えた。

 

 このレベルの威力を持ったレーザー光線は、世界政府の管理下にある海軍科学部隊ですらまだ実現できているかどうかわからない代物だ。

 

 少なくとも実戦で使用された話は今のところ聞かない。

 

 光線というのがやっかいなところで、弾丸とは違い、発射されてしまうと自分の能力では避ける以外の対処方が無いとローは実感した。

 

 片をつけるならレーザーが発射される前に大元を叩くしかない。

 

 チカチカッとロボットのセンサーが再び赤く点滅した。

 

 短時間のうちに2発目を撃つ準備ができたようだ。

 

 ベポが逃げまどう。

 

 ロボットの頭部はウィ~ン、ガシャッ、ウィ~ン、ガシャッという音をさせながらベポの動きに合わせて直ぐ様方向修正して照準を合わせてくる。

 

 「げっ!お前こっちくんなァァァ!!」

 

 「巻き込むんじゃねェよォォォ!!」

 

 焦るシャチとペンギンは自分達の方へ向かって走るベポから逃げた。

 

 とりあえずローは能力を使って3人を移動させようと、掌から異質な空間を発生させる。

 

 『ホッタイモ…………』

 

 狙いを定めたロボットから音声が流れた。

 

 「ギャアアアア!キャプテェェェェェェン!!」

 

 追い詰められるベポ、シャチ、ペンギンの3人。

 

 ローの背後から農夫のような老人が息を切らしながら走ってきた。

 

 「お止めなさぁぁぁ~い!ホリプロ~ッ!」

 

 ロボットがピタリと止まる。

 

 『全方位対応型聴覚センサー・マスター声紋カクニン。機能ヲ停止シマス。駆動装置シャットダウン………………ガックン…………』

 

 次のビームが発射されようかという瞬間、ロボットはシューッという音と共に背中から水蒸気を発生させ、その機能を完全に停止した。

 

 「止まった…………」

 

 腰を抜かしながらホッと胸をなでおろすベポ・シャチ・ペンギン。

 

 ローはロボットが人の声に反応したことに唖然としつつ、事態が一旦収拾したことを確認して空間をスッと消した。

 

 「おぉ~、よくぞご無事で……!大変失礼をいたしました………いやはや、大丈夫でしたか?お怪我は?わたくし、このイモ畑の所有者でゴリオと申します。御迷惑をおかけしたようで…………」

 

 人の良さそうな顔立ちをした農夫は額の汗を拭くと、見馴れない一行に向かって礼儀正しく深々と頭を下げた。

 

 「じ、じぃさんこりゃ一体なんなんだ!?」

 

 九死に一生を得たばかりのペンギンが震える手でロボットを指差す。

 

 「自動芋堀機ですな」

 

 年老いた農夫・ゴリオ爺さんがのほほんと答える。

 

 「いや!なんで芋堀機にこんな殺人ビームがついてんのかを聞きてェんだよ!」

 

 シャチも膝をガクガク震わせながら質問する。

 

 ロボットを見ながらゴリオ爺さんは頭を掻いた。

 

 「いやはや、わたしも初めてのことで驚いておりましてな、イモ泥棒をビックリさせるカラクリがあるとは聞いてたんですが……」

 

 「ビックリどころか死んじまうわッ!」

 

 シャチとペンギンが声を揃えてゴリオ爺さんにツッコミを入れた。

 

 「いやはや……ところで、芋泥棒でもおりましたのでしょうか……?ここは平和な島なのですが……」

 

 ゴリオ爺さんは少し怯えた様子で畑を見渡している。

 

 懐からボタンのたくさんついた小型のメカを取り出す。

 

 「旅のおかた、何かあったらわたしがお守りしますゆえ御安心くだされな……このロボット……“プロフェッショナル自動芋掘機・ホリプロ”には遠隔操作ボタンもありましてのう。えぇと、泥棒撃退ボタンは確かこれで……」

 

 農夫は目の前にいる男たちのことは一才疑っていないようだが、加齢でプルプル震える指先でボタンに触れようとしている。

 

 何が起きるかわからない。

 

 「ジィさんちょっとまったァァァァ!」

 

 「なんつーか!うちのコイツがよ!オイッ!あやまれベポ!」

 

 シャチとペンギンがベポのアタマを押さえつけて、無理矢理あやまらせようとする。

 

 それを見たゴリオ爺さんはほっこり顔をほころばせた。

 

 「こりゃこりゃあ、動物さんのイタズラでしたかぁ~。かわいいもんですなぁ~」

 

 ほっほっほと笑うとゴリオ爺さんは、押さえつけられているベポのアタマをなでた。

 

 「ほれ、お食べ」

 

 ゴリオ爺さんはニコニコしながらベポの口に生のイモをグイグイ押しつけて食べさせようとしている。

 

 そんなやりとりには加わらず、一人でロボットを間近で観察している口ー。

 

 「………なぁ、じいさん。コレを作ったやつには会えるか?」

 

 ローはゴリオ爺さんに問いかけた。

 

 「ええ?もちろん会えますとも!ここからもう少し丘を下りますとホイール・メカニック・カンパニーというところがありましてな…………」

 

 ゴリオ爺さんが穏やかに微笑む。

 

 「ホイール・メカニック・カンパニーか!おれたちゃそこに用があるんだ」と、シャチ。

 

 「何回か連絡してんだけど電伝虫がつながらねェ、営業はしてるのか?」と、ペンギン。

 

 「おや、1時間ほど前にラチェットとクランク……メカニック・カンパニーの者を見かけたばかり……出掛けていたのかもしれませんな。ほれ、あそこに見える小屋がホイール・メカニック・カンパニーですじゃ」

 

 ゴリオ爺さんが丘の上から、半壊した小屋を指差した。

 

 「あそこォォォ!?」

 

 「屋根が吹っ飛んでるじゃねェか!!」

 

 シャチとペンギンが半壊した小屋を見て前のめり気味になる。

 

 「なぁに、大丈夫ですよ。日常茶飯時ですからのう」

 

 ゴリオ爺さんがほっほっほと笑う。

 

 「大丈夫なのかよそこォ!?」

 

 不安げなシャチとペンギン。

 

 「………そうか………邪魔したな………」

 

 ローはホイール・メカニック・カンパニーの場所を確認すると畑を立ち去ろうとした。仲間達もそれに続く。

 

 「…………ちょっと、まちなされ…………」

 

 歩みを進めようとするロー達を、ゴリオ爺さんが呼び止めた。

 

 やけに静かな空気がその場に流れる。

 

 ゴリオ爺さんにの表情に穏やかな笑みは無かった。

 

 何か記憶を辿るように顔をしかめながら考え込んでいる。

 

 「ふと気になったんだが……あんたがた……もしや…………」

 

 ゴリオ爺さんに背を向けたローは帽子の鍔に手をかけ深くかぶり直す。

 

 賞金首の海賊だと気がつかれたなら、兵器レベルのロボットを所有する爺さんはどのような行動にでてくるか…………?

 

 仲間達は張り詰める空気に息を飲んで、ゴリオ爺さんの次の言葉を待った。

 

 「旅芸人の一座かのう?」

 

 急にニコニコしながら言うゴリオ爺さん。

 

 その場の空気が良くも悪くも締まらないものになってしまった。

 

 「……まぁ……そんなとこだ……」

 

 ローが返答した。

 

 「エエッ!!」

 

 シャチとペンギンが驚きの声をあげる。

 

 ゴリオ爺さんは表情をパァッと明るくし、妙にワクワクし始める。

 

 「おぉ、やはり!歳を重ねるとなかなか言葉が出てきませんでのう、やっと思い出しましたわい!帽子にイレズミそれにクマさん!わたしが子供の頃に見た旅芸人の一座と同じじゃ…………ほっほっほ!ここは娯楽の少ない島だから、みんな喜びますのう!ホレ、歓迎のしるしにイモ持っていきなさい、イモ!」

 

 おみやげのイモをたくさんもたされた一行は、ニコニコしながら手を振るゴリオ爺さんに見送くられながら先を進んだ。

 

 「キャプテン!いつからおれたちゃ旅芸人になったんですか!?」

 

 シャチがムスッとしている。

 

 “死の外科医”トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団のクルーだというプライドあるからには、ローや自分達が旅芸人と勘違いされたままなのは気にくわない。

 

 「どうでもいいだろーが…………ホイール・メカニック・カンパニーに行くのが優先事項だ。騒ぎは起こしたくねェ………」

 

 ローは特に何も気にしていないようで、長刀を担ぎながら丘を下っていく。

 

 「ハァ~……格好つかねェぜ……あのジジィもボケてんのかよ?どう見ればおれ達が旅芸人なんだよ?」

 

 シャチが両手いっぱいにイモを抱えながら愚痴をこぼす。

 

 「まぁ、キャプテンの言う通りだろ。あんな殺戮兵器もってるジジィに海賊だって騒がれるよりはマシだもんな、下手すりゃ死ぬぞ」

 

 同じくイモを抱えたペンギンがシャチの隣を歩きながら言う。

 

 「イモもらえたしな」

 

 ベポはたくさんのイモを抱えて嬉しそうに歩いている。

 

 「お前が一番悪りィんだからなッ!!」

 

 シャチとペンギンが声を揃えてベポを怒鳴った。

 

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