はじまり の あさ
身体を包む暖かな何か、身動ぐ事も許されない・・・否 そんな事を思いつかない様な穏やかなさ
遠くから歌が聞こえる
綺麗な歌が、聞こえる
幾度も聞こえた歌声に歌詞に旋律に、心が奪われた
微睡みの中、朝を知らせる鐘が鳴る
至福の時が終わりを告げ、目覚めなければならない
ゆっくり目を開き忌々しく時を告げる目覚し時計のスイッチを切り投げ捨てたくなるのを我慢して身体を起こし伸びをする
「・・・懐かしい夢、だったな」
まだ自分が小さかった頃の夢
まだ彼女と長い時を過ごせていた頃の夢
僕はベッドから出て机の上にある写真立てを手に取り見つめる
「・・・母さん」
母との最後の写真になってしまったソレを見て懐かしみつつ写真立てを机に置きカーテンを開け、朝日を浴びつつ伸びをして
「よし、今日も元気で行こう。早くしないと一夏が起きちゃうな」
寝巻きのままだけど今現在この家には僕と一夏しか居ない、だから問題なんて存在しない
今日は出掛ける予定も来客の予定もない、こんな早朝に来る非常識な人も多分居ない、だから大丈夫、多分大丈夫
自室を出て一夏の部屋の前を通り階段を降りて洗面所へ向かい顔を洗おうと鏡を見てギョッとする
「うわっ髪が伸びてる!? え? なんで?」
心なしか着ている寝巻きもブカブカな気もするし、何より一晩で髪がショートから肩口を越すぐらいまで伸びているのだから
「いや、待て待て、なんか女の子みたいな顔付きに・・・待って、夢か、夢なのか? 夢じゃなきゃ困る」
僕は男だ、僕は男だ、僕は男の筈だ
13年と少し僕は男として生活してきた、今更 女として生きろと言われても困る、非常に困る、非情で困る
「・・・確認するしかないのか、確認する他ないのか? 南無三!」
早朝から自宅の洗面所で1人で勝手に騒いでいると考えると無性に悲しくなってくるが、そんな場合ではない
意を決して寝巻きの上を脱ぎ鏡に映る自分を見つめる
「・・・良かった、気のせいか。よかったよかった、束さんのイタズラかな」
嫌な汗をかいてしまったので、さっさと汗を流して朝ご飯を作ろうと思い寝巻きの下を脱ぎ、数秒目の前の事実を受け入れられず固まり数秒後に気が遠くなって意識が暗転した
◇◆◇◆一夏side◇◆◇◆
健全な精神は健全な肉体に宿る、早起きは三文の徳、健康は1日にしてならず、そんな訳で決まった時間に起きた俺は身体を起こしボーっとしていたら一階から凄い音が聞こえ慌ててベッドから飛び出て部屋を飛び出し階段を降りて洗面所の扉が開いていて人の手が見えたので更に慌てて洗面所に入り
「由貴!! うわぃっっなっ!?!?」
洗面所には由貴に良く似た全裸の少女が居て戸惑ったが、躊躇っている場合じゃないと素早くバスタオルを棚から取って少女に掛けて頭を打っている可能性を考え出来るだけ動かさない様に注意し、屈んで脈と呼吸を確認する
「脈はある、呼吸もしてる」
救急車を呼ぼうと携帯を取り出そうとして自室に置いてきた事に気づいて急いで取りに行こうとして
「うっ・・・痛ぅ・・・一夏?」
少女が目を開け俺の名前を呼ぶ、名前を知っているって事はやっぱり
「由貴、お前由貴なのか?大丈夫か?」
「う、うん・・・大丈夫、ありがとう」
由貴は顔を顰めながら身体を起こし俺を見て不器用に笑む
掛けていたバスタオルが落ちて再び全裸が目に映り反射的に眼をそらす
「あ・・・ご、ごめん一夏! ほんとごめん」
由貴は気付いたのか落ちたバスタオルを俺の頭に被せ目隠しをする、由貴も大分混乱しているらしい
おかしい、由貴は男の筈だ
幼馴染として親友として兄弟分として10年は一緒にいるし、1つ屋根の下に3年は一緒に暮らしているから間違い
とりあえず音的に服を着ているであろう由貴に尋ねる
「なぁ由貴、お前 男だったよな?俺は夢みてるのか?」
「それは僕が聞きたいよ、僕は夢であって欲しい」
バスタオルが取り払われ昨夜に見た寝巻き姿の由貴が目からハイライトを消し薄く笑みを浮かべて屈んでいる俺を見下ろしていた、何か怖い
「一夏・・・これはさ、現実なんだよ・・・ふふふ」
髪が長くなったせいか乱れた髪が負のオーラを増加させ怖さが倍増している
「お、落ち着け由貴、な? ほらリビングに行って何か飲もうぜ?」
恐怖に負けて震えそうな足に喝を入れ立ち上がり由貴に言うと無言で頷いたので由貴をリビングへ誘導する
由貴はフラッフラッと覚束ない足取りでついて来てリビングに入り、そのままソファーに力無く座り込み動かなくなる
俺でさえ相当な衝撃で混乱したんだ、本人は もっとだろう
そう考えて急いで電気ケトルに水を入れスイッチを入れ、由貴が愛飲している紅茶を淹れる準備をする
準備と言ってもティーパックだから封を切ってティーポットに入れとくだけだけど
にしても心配だ あそこまで追い詰められている由貴を見た事ないし、
今の由貴が何を考えているかが全く分からない
気安く同情なんか出来ない、俺は二度と家族を失いたくないのだから
お湯が沸いたのでティーポットにお湯を注いで蓋をして軽く回して少し蒸らしてから紅茶を2人分マグカップを用意し注いで持っていく
「由貴」
「・・・ありがとう一夏」
名前を呼びマグカップの片方を渡すと由貴はお礼を言って一口飲み
「少し、ほんの少し落ち着いてきた・・・受け入れたくないけど」
由貴は自嘲した様に少し俯いて笑う、その姿は痛々しくて俺は何も言えなくなってしまい、そんな自分が悔しくて堪らなくなる
こんな時こそ、こんな時だからこそ、由貴を安心させられる言葉を言えない自分が嫌になる
強く手を握り歯を食い縛り由貴に何かしてやれないか考える
「やぁユッキー、いっ君、遅くなってごめんね?」
音も前触れも無く、其処に居なかった筈の人物は最初から其処に居たかの様に居て奇抜な服装とは裏腹に珍しく後悔している様な表情をしていた
「た、束さん?」
「・・・束さん? え?」
ウサミミをした美女 篠ノ之 束、ISの開発者であり唯一ISコアの製造が出来る人、俺の唯一の肉親 織斑 千冬の幼馴染であり親友
イタズラ好きで飽きっぽく身内にはゲロ甘だが他人は虫以下としか考えてない大天災
年齢不相応な笑みを浮かべている事が多い彼女が珍しい表情を浮かべている事に俺達は戸惑いを隠せていない
「ユッキーごめんね、私が間に合っていれば・・・私がちゃんと治してあげていれば・・・ごめんね」
そう言い束さんは由貴を優しく抱きしめる
その声は少し震えていて、彼女は泣いていたのかも知れない
そして由貴が男から女になってしまった原因も、束さんは知っているのだろう
由貴を元に戻す手掛かりが有るかも知れないし
続けられるかな、マジで
とりあえず、こっちは長く書く練習用なので超低速更新になりそうです