マイルドなピクト人が座に登録される話とそれからの話 作:ピクトグラム人
鋭くそれでいて鈍い痛みで目が覚める。久しいその感覚に不快感はない。むしろ、そう言えば私は人間であったと安心するくらいのものだ。どうもこの身体は堅すぎる。今までも腹に風穴を空けられたりしたことはあったが、悶えるほどの痛みではなかった。
だからといって、私は痛みを快感に思う人種ではない。焼けるようなこの痛みは耐え難い苦痛であった。どうにかしようとするが、身体は動かない。接続が切られたかのようにピクリともしないのだ。
「嗚呼、そういうことか」
接続が切られたどころか、物理的に斬られていた。焼き斬られていたというのが正確な表現だろうか。両腕は根本から切断され、右足は膝から下が、左足は脹脛から下が無くなっていた。良く見れば脇腹も噛み千切られたかのように抉られている。これでも生きているのは流石ピクト人の身体といったところか。いや、そうではない。私の身体が特別なだけだろう。周囲に散らばった同胞の残骸を見ればそれは明らかだ。
「同胞、我が同胞よ。誰かいないのか」
もしかすると私以外の生者がいるかもしれない、と声に出して確認する。返事はなかった。ここには私一人しかいないらしい。悲しいことだが、それは受け入れるしかないだろう。これは戦争なのだ。恨まれはすれ、恨みはしない。殺しておいて殺すな、などという都合の良い考えはもってはいないのだ。なのでキャメロットは殺す。
とは言え、四肢の欠損したこの身体ではそうすることもできない。今のところ、痛みで辛いことを除けば概ね頭はスッキリしている。焼かれていたお陰か出血も無く、このまま直ぐに死ぬということは無いだろうが、それも時間の問題だ。何とかして動けるようにならなければならない。風穴程度の怪我ならば少し経てば治っていた。しかしここまでの欠損となると治るのかすらわからない。それどころか焼かれているので感染症等の脅威も考えられる。
これは詰み、というやつだ。自分が何処にいるのかもわからない、助けてくれる者もいない。精々転がることしかできない私に何ができるのか。文字通り手も足もでない。
「だから何だと言うのだろうか」
詰んだのなら盤上を引っくり返せば良い。手も足もでないのなら、首を、舌を伸ばせば良いのだ。私はそれができる人間である。日本人という神の視点にも似たその知識がある私にとって、この程度はピンチですらない。
一先ずは起き上がろう。私は後頭部を打ち付け、その反動で上半身を跳ね上げる。そして使えそうな部品を探す。できるだけ太く長い部品。自分に近い部品を探すのだ。
「まずは足だ」
こんなことに時間を費やしている暇はない。機動力を上げるためにも足は必須だ。そうして見渡すが、どれも欠損が激しく、使えそうなものはない。しかしそんなことは些細な問題だ。使えるものから使えば良いのである。
「おっと、バリ処理、バリ処理」
それは一種の王道であった。欠損部分を他で補う。それは義手だったり、悪魔であったり、何かの能力であったり、未来の自分の腕であったり。ならば私が、化物である私にできない訳はない。魔力や魔術が存在し、そして尋常ではない回復力と強度を誇るピクト人の、それもその中でも異常な私の身体がある。出来る出来ないではない。やるのである。
「悪くない出来だ」
親指が二本、人差し指が三本の右手を握り、開く。次いで薬指だらけの左手を同じように動かす。肩を回し、肘を曲げたりして間接の稼働域を確認する。それから屈伸をし、足を伸ばして、歩き走った。両方右足のせいか違和感もあり踏ん張りの効き辛いが、動けない程ではない。本格的な戦闘を行うには心許ないが、戦線に復帰し赤い華を咲かすことくらいはできるだろう。
そうと決まれば早く同胞達と合流しなければならない。そのためにはまず、自分が何処にいるかを把握する必要がある。転がっていた先程に比べれば視点も高くなり、見渡せる範囲も増えたとはいえ、その範囲には同胞の姿どころか他の生物の姿も見えない。ならば、と目を閉じて集中する。聞こえるのは自然の音ばかりであったが、東の方向から微かではあるが、死の気配が感じられた。
「同胞達よ、今行くぞ」
一人呟く。果たして、目が覚めたのはあれから直ぐのことだったか、もしくは幾らかの時と日を刻んだのか。どちらにしろ私という穴は小さくないだろう。無論、その穴を補わないほど我が王は愚かではない。しかし、自分でいうのも何だが私程の戦力は両手に収まるほどである。大きな損失だ。私のために死ぬ必要のなかった同胞が死んだかもしれない。その分キャメロットや他の人間をより多く殺せたかもしれないと思うと自身に腹が立つ。しかし過去を睨んでも仕方がない。だからこそ私は早急に合流し、奴等を殺すのだ。
弱体化したが、問題はない。今回のことで私は"遊び"を捨てることができた。あの時私は目の前のパープルキャメロットに対し、殺意だけでなく歓喜を抱いていたのだ。それがこの結果を生んだのである。故に私は今後戦闘中において、殺意以外を抱くことはない。その点において、私は強くなった。
「……ない」
さぁ、行くぞと鉄塊を右肩に担ごうとして、空振る。鉄塊を持っていないことに気が付き、視線を右左にと向けた。しかし慣れ親しんだ無骨な姿はない。そう言えば回復中に相棒を見なかった。光に耐えれなかったのは同胞達だけではなかったらしい。ヤンキーキャメロットは必ず殺す。
しかし、そうなると武器を見繕わなければならない。なくとも戦えるが、あった方が良いに決まっている。帰還できれば武器は幾らでもあるが私の戦闘スタイルに合うものはない。鉄塊もそのため造ってもらったオーダーメイドなのだ。どうするものかと視線を落とした。そして一つの言葉を思い出す。それは私の言葉ではなく彼の、日本人の記憶の中の言葉であった。
「一人は皆のために、皆は一人のために」
良い言葉だ。
残ったジャンクを手に取り私はそう思った。
ピクト人……良く考えたら本人達が自身達をそう呼んでいたかは微妙なところ。ややこしいので今後もピクト人と自称していく。
バリ処理……不要な突起を研磨する作業のこと。本来であれば金属であったりプラスチックのことであるが、今回は肉である。それをバリ処理というかは知らない。前世の血が騒いだ結果の台詞である。
口で行うため……はたして、あのフルフェイスはとれるのか、あるいはあれそのものが頭であり中身はないのか。謎である。
一種の王道……他人の肉体を使う場合は呑み込まれないよう注意しなければならない。
親指が二本――……カラフルなピクト人の完成。分かりやすく異形となった。まだ変身を残している。座に登録される頃はきっとより化物になっている。多分。
鉄塊……二話めにして御臨終。
次回、キャメロット視点。予定。