転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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更新前に出した活動報告ですが。
自分なりにうまくできたと思うので貼っておく。


8

 それからまる一日経った朝。

 聖帝軍が動き出したとの情報が砦に入ってきました。

 どうやら聖帝十字陵が完成間近で、サウザーはそれを機にレジスタンスを一掃するつもりのようです。

 

「…あれが完成してしまえば、奴らの士気が最高潮に高まるであろうが、今は仕方がない。

 おれの身体も、完全に癒えるにはもう少しかかろうし、ケンシロウも今は動けぬであろう。

 奴らを叩くのは、後でもいい」

 拳王様がそう仰った為、十字陵付近(あちら)は凄い戦いになっているのでしょうが、砦の周辺は静かなものです。

 わたくしと拳王様が砦の物見台の上で、見えもしないその方向を何となく眺めていた時、息を切らせて階段を駆け上ってきたザク様が、拳王様の前に跪きました。

 

「ケンシロウが、再び聖帝のもとに向かいました!!」

 どうやらレジスタンスの拠点を見張らせていた兵から伝令があったらしく、一瞬にして緊張を纏わせた拳王様が、座っていた椅子から立ち上がります。

 

「バカめ!…なぜ死に急ぐ、ケンシロウ。

 まだサウザーの体の謎を解いてはおるまい」

 確かこの時ケンシロウは、シュウの拠点に回収された後で一度目を覚まし、その後また薬で眠らされて地下水路から逃がされていた筈です。

 その後サウザーとの戦いにシュウが敗れ、その魂の叫びによって目を覚ました流れの筈ですので、今はシュウが深傷を負った状態で聖帝十字陵を登るという、ストーリー中屈指の号泣シーンが展開されている最中なのでしょう。

 となるとこの後、拳王様はケンシロウとサウザーの戦いを見届けるべく、聖帝十字陵へと向かうのでしょうが…

 

「だが……二度は助けぬ!!」

 …一度は立ち上がったものの、わたくしの視線に気がついた拳王様は、何故か元どおり椅子に戻っておしまいになられました。あれえ?

 

「…なにをボーッと見ておるのだ。

 暇ならおれの膝にでも座るか、飲み物でも持ってくるが良い」

「かしこまりました」

 今何かサラッと変なこと言われた気がしますが、これは飲み物の所望であると解釈して、わたくしは一礼してその場を下がります。

 …いやだって怪我人の膝の上に座るなんてできる筈がないでしょうに。

 拳王様の冗談は判りづらくて困りますわ。

 

 ……しかも、なんで舌打ちしたんですの今。

 

 ☆☆☆

 

「リアさん!」

 敷地内の井戸から水を汲み上げているわたくしの背中に聞き覚えのある声がかかり、振り返ろうとした刹那、背中から固いものに抱きつかれました。

 

「久しぶりだな、元気だったか?」

 その声が聞こえる位置に、無理くり顔を振り向かせると、そろそろ懐かしい顔が微笑んでいるのが目に入ります。

 別れた時点で既に大きくなっていたのに、あの時より更に顔の位置が高いようです。

 

「…ええ、おかげさまで。

 あなたも元気そうで何よりですわ、バラン」

「良かった。

 ちゃんとオレの顔を覚えていてくれたようだな」

「忘れるわけがないでしょう?

 拳王軍を離れた今も、あなたの事は、わたくしの弟のようなものだと思っていてよ。

 …けど、最後に見た時よりも、随分と逞しくなりましたのね」

 背丈だけでなくその顔も、部品の形も配置も変わらないのに、女の子のようだった可愛らしさが、男らしい精悍さに、確実に変わってきています。

 

「弟、ね…まあ、いいけど。で、どうだ?

 オレも少しはあんたの言う『いい男』になれたか?」

「それは、もう少し大人にならないとなんとも」

 軽口に軽口で返しながら、思春期男子の成長速度に驚異を感じると同時に、やはり男の子は大きくなると可愛くなくなるのだと、その瞬間のわたくしは、割と失礼な事を考えておりました。と、

 

「バラン。感動の再会も結構だが、目的を忘れてもらっては困るぞ」

「先生」

 わたくし達の更に後ろから、落ち着いた大人の声が聞こえてきて、バランがそれに答えます。

 わたくしも振り返ろうとしましたが、背中から抱きついたままのバランが邪魔で見えません。

 わたくしのそんな様子に気がついたものか、落ち着いた声はフフッと小さく笑い声を発しました。

 

「そういうところはまだまだ子供だな、バラン」

「えっ!?」

「まあ、子供だから許される距離というものもある。

 どちらを選ぶかはおまえ次第だが、彼女に一人前の男として認められたいと思うのであれば、まずは一旦子供の距離を、卒業しなければいけないのではないかな」

「うっ……わ、わかりました…!」

 その声に促され、バランがようやくわたくしから手を離します。

 ようやく振り返ると、そこには思った通りのひとが、優しげな微笑みを浮かべて立っていました。

 

「はじめまして、リアさん。

 わたしの名は、トキ。……弟子が、失礼を」

 それは間違いなく、北斗四兄弟の次兄にして、拳王様の血の繋がった弟であるトキその人でした。

 けど穏やかにそう言いながら、わたくしに頭を下げるその男性(ひと)は、頭には白いものが混じっているものの髭は綺麗にあたられていて、スッキリしたお顔は不思議とわたくしが知っている姿よりも若く見えます。*1

 

「リアさん。

 この人が手紙にも書いた、オレの師匠だ」

「貴女の事は、バランからよく聞かされている。

 なんでも、拳王の信頼の篤い女性(かた)であるとか。

 …なれば、お会いして早々に不躾で申し訳ないが、どうかラオウ…拳王に、トキが会いに来たとお伝え願いたい」

 トキ様がそう言って頭を下げるのに、わたくしは一瞬狼狽えました。

 この方は拳王様に、一応は敵対する立場である筈です。

 バランも今は拳王軍を離れておりますし、女官の立場としては、まずは本人よりもザク様か、最低でも兵士の方におうかがいを立てるべきなのですが、そうしてしまうと2人の身の安全が危ぶまれることになります。

 

「それは…」

「その必要はない」

 ですが、逡巡するわたくしの言葉を遮って、拳王様本人が姿を現します。

 …飲み物を持ってくると言って少し時間がかかったのは認めますが、井戸から冷たいお水を汲んでくるまで、おとなしく待っていられなかったのでしょうか。

 いえ、この場合は助かりましたけれども。

 

「バランよ、久しいな。

 うぬが、トキと共におるとは思わなんだぞ。

 …それにしても、よくここがわかったな。

 この砦はまだ、バランに教えていなかった筈だが」

「フッ…死期が近づくと何故か勘が冴えてな」

 睨みつける拳王様の肌を刺すような視線を、受け流すようにトキ様がふわりと微笑みます。

 実の弟であるからかもしれませんが、この方の心臓はどうなっているのでしょうか。

 

「拳王様、御無沙汰しております」

 そしてもう1人、心臓に確実に毛が生えているのだろう子が、拳王軍で習った礼を拳王様に向けて取り、何やら妙な間が、2人の間に流れたのがわかりました。

 ですが、次の瞬間にはまたトキ様の穏やかな声が、その妙な間に割って入ります。

 

「リアさん。わたしは、ラオウと話がある。

 話し相手にバランを残して置くゆえ、暫し席を外していただけるだろうか」

 そして、柔らかな物言いと態度でありつつ割と強引に話を進めるトキ様の言葉に、わたくしは思わず拳王様に視線を向けました。

 

「……ついてこい、トキ。話は中で聞く。

 リア。うぬはバランと共にここで待つが良い」

「かしこまりました」

 判断を拳王様に丸投げする形でわたくしは一礼して、砦の中に入っていく2人の背中を見送ります。

 そう、わたくしは拳王様の女官ですもの。

 主を飛び越してお客様の要望を聞くわけにはいきませんわ。

 と、そのままトキ様を伴い建物の扉をくぐっていくかに見えた拳王様が、一度こちらを振り返りました。

 

「…ケンシロウの時にも思った事だが、うぬは無防備過ぎる。

 他の男などに、その身を易々と触れさせるでないわ。

 ましてや、下心のある相手に対してはな」

「はぃ?」

 ケンシロウさんに抱きつかれた時、あの方は寝ぼけていただけで、別に下心はなかったと思いますけど!?

 わたくしが混乱して、心の中だけで激しくツッコミを入れている間に、拳王様は、今度はバランへと向き直ります。

 

「バランよ。

 判っているとは思うが、リア(それ)はまだおれの女だ。

 おれに挑んで勝つまでは、適切な距離は保て」

「承知致しております」

 物理的な力さえ持つと錯覚するくらい強い視線で、拳王様はバランを睨みつけてそう仰いましたが……当のバランはやはりそれを、師匠と同様に涼風のように受け流して一礼しました。

 いやなんなんだこの師弟。

 というか拳王様、『適切な距離』とか仰るあたり、先ほどまでの会話を聞いていらっしゃったのですわね。

 けど、バランの下心って…?

 彼は、子供と言われて凹む程度にはまだ子供ですし、それこそ誤解ではないかと思いますわよ?

 

「…拳王様の出陣の準備、しておいた方がいいぞ。

 オレも手伝う。

 黒王の支度の方が時間がかかるだろうしな」

 2人の姿が今度こそ砦の中に消えたと同時に、バランが服の袖を捲りながら、わたくしの背に声をかけました。

 

「え?」

「トキ先生はそのつもりで、拳王様に会いに来たんだ。

 2人はこれから、聖帝十字陵へ向かう。

 どうやらうちの師匠は、聖帝の不死身の肉体の秘密を御存知らしい」

 ……思い出しましたわ!

 ラオウが聖帝十字陵へ赴くのは、トキがそれを知っていたからなのでした!!

 ケンシロウを倒したと思ったサウザーに、『おまえの体の謎はトキが知っておるわ』と、自慢にもならないことをドヤ顔で言ったシーン、ネットで割とつっこまれてた記憶が確かにあります!

 

 ……バランが言った通り、トキ様に促された拳王様は、わたくしに支度を命じられました。

 そして、バランがしっかりと鞍を付けて連れてきた黒王の背に、まだ治りきらぬ傷を武装の下に隠したお身体を、そのようなことは微塵も感じさせぬほどの覇気で包んで、堂々と駆けていかれたのでございます。

 ちなみにトキ様とバランは、ここまで車でやってきたそうで、バランが運転して聖帝十字陵へ向かうようです。

 ええ、わたくしは勿論お留守番ですわ。

 

 ・・・

 

 ……数時間後、なんだか納得いかない表情で戻ってきた拳王様は、兵士の方々を集めると『うぬらは遅くとも3日のちにはここを出立し、居城に戻れ』と命令されました。

 拳王様御本人は、ザク様をはじめとする側近数名を連れて翌日に発ち、道々数件の用事を片付けながら向かうとの事です。

 なんでも聖帝サウザーが倒された直後に、これまで互いに不干渉という約束を交わしていたUD軍が現れ、『これより我らは南斗軍の傘下に入る』という宣言をかましたそうで、その辺の対策を早急にとらねばならないそうですが……はて?

 物語では、ケンシロウとサウザーが戦った時には、既にユダはレイに倒され、彼の組織もそれと共に壊滅していたと思うのですが?

 ていうかそもそも南斗軍って何!!?

 

 …ともあれ、この砦は進軍の為の中継地点としてまだ使う予定ですが、あくまでも廃村というカムフラージュが必要との事で、最低限の物資しか残さずあとは撤収するそうです。

 という事は、少なくとも明日1日は撤収準備に忙殺されるものと覚悟して、とりあえず明日発つという拳王様の衣類や装備、その他身の周りのお世話をするのに必要な一式を纏めておきましょう。

 わたくしは他の兵士さん達との同行となりましょうが、それらをザク様に託しておけば、拳王様が道中、不都合を感じる事態にならずに済む筈ですから。

 …と思い末端兵士の皆さんと作業をしておりましたら、突然現れた拳王様に、部屋へ強制連行されました。

 

「あの、わたくしは拳王様の明日の出立の準備を…」

「それは兵士どもに任せておけば良い。

 うぬにはうぬの仕事があろう」

 そう言われて、寝台に座らされて…ひょっとして、膝枕(いつものやつ)所望という事でしょうか。

 

「拳王様は明日はお早いのですし、そのままお休みになられた方が…」

 あれをやると大体夜更かしになってしまうので、さすがに今夜は止めた方がよいのでは。

 そう思いやんわりと断ろうとすると、何故か拳王様の腕の中に引き寄せられます。

 

「うぬも同じだ。いいから横になれ。

 …ここのところ、うぬの身体が傍にあるのが普通になって、離れると何やら落ち着かぬ」

「は?」

 そして気がつけば、わたくしは押し倒されるように寝台の上に横たえられ、拳王様のむき出しの固い胸筋と腹筋に、身体をぴったりと押し付けられておりました。

 この世界では見たことがありませんが、抱き枕状態というやつです。

 

「しかも目を離すとすぐに男に言い寄られる上に、おのれにはその自覚もないときた。

 リュウガも、他の者には任せられぬと自らこちらに連れてきたそうだが、確かにこれでは危なくて、手元から離しておけぬわ」

 ええと。拳王様がなんのことを仰られているのかさっぱり判らないのはさておき…要するに。

 

「…明日、わたくしもお供させていただけるのですか?」

 てっきり他の兵士の方々と一緒の移動になると思っておりましたので、驚いて訊ねてしまいました。

 わたくしの問いに拳王様は、何故か苦笑いのような表情を浮かべます。

 

「そっちか。…いや、そう言った。だからもう寝ろ。

 …もっとも今からおれに抱かれて、腰も立たぬ状態のまま黒王の背に揺られたいと言うのであれば、おれは構わぬが」

「おやすみなさいませ、拳王様」

 拳王様の不穏な台詞に、まるで子供の頃母親に『早く寝ないとおばけがくるよ』と言われた時のように、わたくしはその腕の中でぎゅっと目を瞑りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新血愁を突いた者は、3日のうちに死に至る筈……何故、あの男は生きていた?

 南斗軍とは……南斗最後の将とは一体……!?」

 互いの吐息すらかかる距離で、拳王様がそう呟いた事など、既に眠りに落ちていたわたくしには、知る由もありませんでした。

*1
6話でも説明した通り、本来の流れであれば途中でトキに成り代わるアミバを別人と見破ってバランが始末してしまった事と、奇跡の村の存在がやはりバランによってカムフラージュされた事で、この時空のトキはカサンドラに投獄されてません。

 ラオウも最初はそのつもりでトキの行方を捜索させていたものの、あまりにも見つからないので途中で諦めました。

 更にトキ不在時に起きる筈だった奇跡の村の悲劇も、お留守番のバランがいた為に回避されており、それによる深い絶望も味わってません。

 そんなわけでこの時空のトキの病は、進行はしているものの原作よりやや遅いのです。




正直、単にこのエピソード拾っとこう程度に登場させたバランさんが、ここまで食い込んでくるとは思ってもみなかった…!
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