つまり、リアさん以外にも別の要因が存在しているという事です。
つまり……!?
…ここにきていきなり台頭してきた南斗軍とは、『南斗最後の将』と呼ばれる者が率いる軍で、どうやらKINGを吸収して(!?)それまでサザンクロスと呼ばれていた街を『南斗の都』と改名し、そこを拠点として活動している新勢力だそうです。
そこに更にUD軍が傘下に加わり、聖帝軍が瓦解した今、この拳王軍に対抗しうる最大勢力と言えるでしょう。
………ええと。
ユダの軍がまだ機能している点も気にはなりますが、『南斗の将』って、つまりあの方ですわよね?
わたくしと名前は似ておりますが、わたくしのようなモブとは違う、正真正銘この世界のヒロイン、ユリア様。
五車の星を従え、北斗と結ぶ事で世に平和をもたらす宿命を持って生まれた、慈愛の女神。
その慈母の魂は、愛を知らぬ覇王の心に愛と涙を刻み、けれどその肉体を病に冒された彼女は、真の平和を見る事なく、その短い一生を、愛する人の腕に抱かれて終える。
…タイミング的には、その存在がクローズアップされるのはもう少しあとではないかという気がしますし、それ以前に細かい部分が、わたくしの知っているお話とは違ってきております。
これは一体どういう事なのでしょう?
…というような事を考えつつの旅程は、わたくしが砦に連れられてきた時よりもゆったりとしたものでした。
「こやつは、おれの傍に侍っておる状態が一番安全だ」
はじめのうちはそう言う拳王様と一緒に、黒王の背に乗せられて移動しておりましたが、途中でわたくしが振動に酔ってしまった為、ザク様が拳王様を説得して、今は車に乗せられているからです。
朝食べたものをもどしてしまい、ぐったりしたわたくしを、何故かザク様が甲斐甲斐しくお世話してくださいます。
「落ち着かれましたら水をどうぞ、リア殿。
ああ、そのまま。無理をなされませぬよう。
今が一番大事にせねばならぬ時ですからな。
周りが男ばかりで心許ないでしょうが、居城に着けば直ちに女官たちを付かせますゆえ、今しばらくは御勘弁を。
何かございましたなら、どうぞ私にお申し付け下さい。
私の妻も最初の子を宿してすぐの頃は、吐いては寝込むを繰り返しておりました。
私ならばその時の経験がある分、少しはお心に添えましょう」
…なんか変なこと言われてる気がいたしますが、今は追求する元気もございません。
日中は移動、夜は野営という行程で進んできたふた晩め、ザク様付きの兵士の方が設営してくださったテントの中で(だいぶ調子が戻っていたのでなにかお手伝いしようと申し出たところ必死に止められました。人手も少ないのに何故なのでしょう)与えられた食事をとって就寝の支度をしておりましたところ、昨日車に乗せられて以来顔を合わせていなかった拳王様が入っていらっしゃいました。
…わたくし1人入れるにしてはこのテントだけ随分広いとは思っておりましたがそういうことでしたか。
それはさておき拳王様は、よく見れば着ているものに、血のような染みがついております。
わたくしが怪訝な顔をした事に気がついたのでしょう、拳王様は口元にどこか渇いた笑みを浮かべながら、言い訳のように言葉を続けました。
「案ずるな、返り血よ。傷は癒えた。
それをはかれる相手のところに行ってきただけだ」
「つまり、少し離れております間に、どこぞで一戦交えてこられたわけですのね…」
…てゆーか、ええ。
今のその『傷は癒えた』のフレーズで思い出しましたわ。
そう、確かサウザーが斃れた直後くらいのタイミングで、先代の北斗神拳の継承者で、北斗四兄弟の師父でもあるリュウケン様に何かしらの縁のある方を、倒しに行くエピソードがあった気がします。
多分今がその直後ということなのでしょう。
だとすれば次はトキ様との、宿命の兄弟対決が行われる頃かしら。
それは拳王様にとっては弟との、更にバランにとっても師との永遠の別れの時が、近づいているという事に他なりません。
「うぬには、
「え?」
そんな事を考えていたら、まるで心を読まれたようなタイミングで、拳王様にそんな事を問われました。
唐突な問い*1に間抜けな声が出てしまいましたが、すぐに気を取り直して答えます。
「…故郷の街に、年子の弟がひとり。
正確にはその下に妹がいたそうですが、生まれた直後の赤子の頃に、同時期に子を亡くしたという母方の遠縁に養子に出され、わたくしも弟も、妹とは会った事もございませんわ」
…これ、実はわたくしが居城に召し上げられる前日、母がこっそり教えてくれた話なのですが。
その妹というのは、わたくし達姉弟がまだ幼く手のかかる頃に、父が商会の女性従業員に手を出して生ませた子でして。
そもそもその関係自体が合意ではなかったそうで、本人は誰にも相談できぬまま月齢だけが過ぎてしまい、堕ろせなくなった頃に母が気がついて問い詰めたのだそうで、最初は激怒していた母も、事情を知るにつけ彼女に同情するしかなくなったらしいですわ。
結局、出産後すぐに彼女を父から逃がして、生まれた子供は一旦引き取り、片田舎の村にある母の遠縁の家に養子に出したのですが、聞いたところによればほんの幼児の頃になにやら予言めいたことを口にするようになって、そこからまた別なところに引き取られたそうで、今どこにいるかはわからないそうです。
…まあ、そんなことはどうでも良いですわね。
「……妹、か」
わたくしの話を聞いて、思いのほかしみじみと、拳王様がそう呟きます。
「…おれの末の妹も、別れた頃は赤子であった。
兄と共に居る故、生命の心配はなかろうが、おれの事は存在すら知らぬであろう」
「え!?」
「ん?」
ちょっと待って。今何か、衝撃的な事実がサラッと告げられた気がいたしますが?
「拳王様に、お兄様と妹さまがいらっしゃったのですか?」
「何をそんなに驚く?
うぬの家族と状況は似たようなものよ。
おれと弟が養子に出され、長兄と赤子の妹が故郷に残った。それだけの話だ。
…ああ、言っておらなんだが、先日バランが連れて訪ねてきたあのトキが、おれの実弟だ。
あやつも、上の兄や妹の存在は、朧げにしか覚えておるまい」
それだけの話って!
というか、『ラオウ』って完全に長男だと思ってたんですけど実は次男だったんですのね!!
…というか、ここまで来ると疑いようもなく、わたくしが読めなかった『北斗の拳』の、残りのストーリーのどこかに書かれていたお話なのでしょう。
ぐぬぬ、今更どうしようもないことですが、最後まで読めなかったことが悔やまれますわ。
それに…そうであるならば、今こうして懐かしく思い返したであろうお兄さんと妹さんとは、再会することなく拳王様は天に還られるという事になります。
物語の展開上仕方ないとはいえ、登場人物全員が身内の縁が薄いとか、なんだかとても切なくなりますわ…。
「…それで、子ができたというのは本当か?」
「はぃ?」
…と、またもや身内の縁とか考えていたタイミングで問われ、一瞬わたくしは機能停止いたしました。
拳王様はわたくしの心でも読んでおられるのでしょうか…ってそうじゃなくて!
待って今なにかとんでもない事言われてません!?
「………いやいやいや違いますわよ!
一体、誰がそんなことを!?」
本当か、という訊きかたをしてきたということは、どなたかから聞かされたということでしょう。
そう判断できる程度には冷静さを取り戻して、なんとか再起動を果たして頭をぶんぶん横に振り…ちょっとくらくらしつつ爆弾を投げ落としてきた実行犯を見上げますと、その顔はなんだか困ったように微笑んでおります。
「……ザクめ、早とちりしおって。
確かにおかしいとは思ったのだ。
おれがうぬに手を出したのはあの日の一度のみであるし、それで孕んだにしても、兆候が出るには早すぎるであろう」
ああ、そういうことでしたか!
黒王の振動で酔ったわたくしを、ザク様が過剰なほど心配してお世話してくださいましたのは、わたくしが拳王様のお子を身篭っていると思い込んだからでしたのね!
確かに居城でわたくしは事実上、拳王様のお手付きとして扱われてはおりましたし、石抱k…膝枕を所望された翌朝、拳王様のお部屋を出たところでザク様と顔を合わせた事も、何度か、確かにございましたが……拳王様が実際にはわたくしに手をつけられていなかったこと、確かリュウガ様はご存知でしたから、幹部の皆様は全員知ってらっしゃると思っておりましたわ。
なんですの、拳王様のザク様への扱い、最近ちょっと雑過ぎませんこと!?
てゆーか、今思えばあれも、わたくしが拳王様のお部屋を出たのと同じタイミングでザク様がいらっしゃっていたのではなく、わたくしのお召しがあった次の朝だけは、間違っても寝台で肌を晒しているわたくしを目にする事のないよう、衣服を整えて出てくるまで、扉の外で待ってらっしゃったという事なのでは?
……って、そうと判ったらメッチャ気まずいわ!
次ザク様に、どんな顔して会ったらいいか判らんわ!!
…コホン。失礼いたしました。
「そもそもおれが手をつけた時、うぬは確かに生娘であったからな」
「……っ!!」
わたくしが恥ずかしさに悶絶しておりますと、拳王様が更にわたくしの羞恥心を煽るような事を言い始めます。
居た堪れなくなり、反射的にその場から逃げ出そうとするわたくしを、拳王様の腕が捉えました。
「どこへ行く。
おれの傍以外に、うぬの居場所などあるまい」
抵抗など意味をなさず、あっさりとわたくしを閉じ込めた両腕は、そのまま圧し潰さんばかりに、わたくしの身体を締めつけてきます。
「このラオウの横におるなら、その心の裡で誰を愛そうが、どんなに汚れようが構わぬ。
だが、おれから逃げることだけは許さん。
……逃げるならば、殺す。
それだけは、肝に銘じておくが良い」
…思いのほか余裕なく耳に囁かれたそれは、確か物語では、ユリア様への想いを語った際に、言った内容の言葉ではなかったでしょうか。
かつては紙の上で『見て』、今は自身の耳で聞いたその言葉に、天を握る男の抱えた孤独が、ある意味、集約されている気がしました。
愛を知らない男は、優しく抱きしめることも知らない。
恐怖で支配するか殺すしか、心が求める温かいなにかを、繋ぎ止める手段を知らないのです。
…そして、その言葉が恐らく、真にわたくしに向けられたものではない事も、その瞬間に理解してしまいました。
…だから。
それ以上聞きたくなくて、気付けば思わずわたくしは、自身を抱きすくめる拳王様の腕の下から手を伸ばすと、その大きな手に自身のそれを重ねます。
「わたくしは、貴方様から離れません。
……むしろ、いずれわたくしを捨てるのは貴方様の方ですわ」
…次の瞬間、自身の口から出てきた言葉に、わたくし自身、内心で驚いてしまいました。
たとえ死が分かつ運命であるとしても、わたくしはその瞬間まで、この方のお側に仕える事になるでしょう。
そもそもわたくしは拳王様への貢物としてお側に上がった身。
仰る通り、行き場所など他にないのです。
けれど、拳王様の御心はユリア様のもの。
今はまだ『南斗最後の将』の正体が判明しておらず、かの方が亡くなられたと思っているから、その面影をお忘れになろうとわたくしに縋っているに過ぎず、先の未来でご本人が登場された際には、諦めるために抑えつけていた恋心が、一気に蘇ってしまうのは目に見えております。
…考えておりましたら、鼻の奥が痛くなってきました。
泣きません。判っていたことですもの。
わたくしはできた女官なのです。
わたくしの言葉を聞いた拳王様は、少し考えるようにそのまま固まっておりましたが、やがて締めつける腕の圧を緩めると、わたくしの身体を裏返して自分に向けさせました。
「…何ゆえ、おれに捨てられると?」
「……拳王様は、わたくしを見てはおられませんから。
わたくしの名を呼びながら、心は遠く、他のどなたかを見ていらっしゃる。
…わたくしはただの女官ゆえ、己の分は弁えております。
拳王様がわたくしを要らぬと仰った暁には、潔く身を引く覚悟は…」
…全てを言い切る前に、後頭部を掴まれるように引き寄せられたかと思うと、熱い唇が、噛みつくようにわたくしのそれを塞ぎます。
引き抜かれんばかりに舌を絡められ、ようやく唇が離されたのは、呼吸困難で意識を奪われる寸前でした。
「どうして……」
拳王様の腕のなかから、わたくしはなんとかその顔を見上げて、問いかけます。
少し咎めるような口調になってしまった事は、わたくしの今の心境的には、仕方ない事と思いますわ。
わたくしの問いかけに、拳王様はその場に腰を下ろし、わたくしを膝の上に、横抱きに座らせる形で抱えました。
「煽ったのはうぬであろう」
「わたくし、煽ってなどおりません」
「あれで煽られぬ男がおるなら、お目にかかりたいほどだがな。
自覚がないのがまた始末に負えぬ。
うぬが何を憂いておるか、おれには判らぬが……もう泣くな」
…なにを言っているのでしょうか、この方は。
ですが、我慢した筈の涙が、気がつけばわたくしの頬を濡らしており、反射的に拭おうとした手が、拳王様の大きな手に阻まれたかと思うと、分厚い胸に頬を引き寄せられました。
「…うぬが嫌なら、これ以上触れはせぬ。
……が、こうあってもうぬが決して、おれを拒まぬと思っているのは、ただのおれの願望か」
腕に再び閉じ込められて、熱い吐息と共に囁かれた言葉に、わたくしは首を横に振ります。
「………嫌ではございませんが、怖い、です」
「怖い…今更?」
「…貴方様をこれ以上、好きになってしまうことが。
貴方様の愛を、望んでしまう自分が。
その御心の渇いた愛の器を、わたくしが満たしたいと思ってしまう、浅はかなこの心が、何よりも」
「……もう黙れ」
自分で聞いたくせにと反論する暇も与えられず、わたくしの身体の上に、大きな身体が覆い被さってきました。
腰紐がしゅるりと音を立てて解かれ、袖のない女官服の肩を落とされて、とりたてて小さくはないもののたいして大きくない胸が露わになります…ってやかましいわ。
…わたくしは、そこからは一切抵抗しませんでした。
ただひたすらにこの肌を求めてくる、その熱い腕に身を任せたのです。
☆☆☆
………次の日。
「背比べの跡か……」
…ええ、もうこの状況、これから何が起こるか、わたくしには判っております。
判っております、が……
なんでわたくし今、この場面に居りますの?
明らかに場違いではありませんこと!?
あれれ〜?
割とダラダラ書いた割には、物語が進んでないよね〜?
どうしてかなぁ〜?
結構余計な、物語に関係ないこと、グダグダ書いたからなんじゃないの〜?
……と自分で煽っておきます。