転生美女世紀末伝説   作:大岡 ひじき

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先に謝っとく。ほんとごめんなさい。
酷いです。いつものことですけど。


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「拳王様…この場所は」

 共に迎えた朝も早く、珍しくわたくしより先に目覚めた拳王様に外出(そとで)の支度を急かされ、身支度を整えたその背を見送ろうとしたら、まるで拉致されるように黒王に乗せられて、なんだかわからぬまま連れてこられたこの場所を、わたくしは思い出しました。

 一応確認の為に訊ねましたが、そこは確かラオウとの決着をつける覚悟を決めたトキが、ケンシロウ(と、バットとリン)を連れてきた場所の筈ですわ。

 先程通り過ぎたところから見えた、なにか壊れた石造りの寺院のような建物の前に墓碑が4本、些か詰めすぎではないかと思うくらいの間隔で並んでいたのが、原作でトキが両親と自分と兄の墓だと説明したものでしょう。

 いまわたくし達がいるのは、そこを見下ろせる崖沿の道を登った先です。

 切り立った岩壁に、子供が背比べの為に刻んだらしい傷がうっすらと見えており、黒王の背から降りた拳王様は、そこに指先を当てながら、見たことがないような切なげな表情を浮かべておりました。

 わたくしの問いに、拳王様は視線を上げ、ゆっくりとそれをわたくしに移しながら答えます。

 

「…ここはおれと(トキ)が、故郷への思いを葬った地よ。

 あちらに墓碑が建ててあるが、実際にはここにあった、それらしい折れた石柱を並べて埋めただけで、その下に誰の亡骸も埋まってはおらぬ。

 おれ達が海を渡り、この地に連れられて来た時、おれはともかく弟はまだ幼く、ここに来た意味も理解できてはおらなんだ。

 ゆえに師父(リュウケン)に、故郷から共に連れてきた赤子(ケンシロウ)を託し、我らも養子として引き取られた後、泣き暮らしていたあやつの為に、故郷を懐かしむ代わりに、ここを我らの新たな故郷とする事を、おれがやつに言い聞かせたのだ。

 そして兄弟ふたり、いずれはこの地に眠るのだと誓い合った。

 幼心を守る為とはいえ…今思えば、戯言よな。

 或いはやつは本当にここを、己が育った地と思い込んでおるやもしれぬ」

 自嘲するように呟いたその言葉は、かつてのわたくしが読んで知っていた話とは、些か異なるものでした。

 …けど同時に納得もいたしましたわ。

 原作のトキはこの場所を、自分たち兄弟が両親とともに暮らしていた場所だと言っていましたが、こうして見る限りこの地には、あの壊れた寺院以外の建物も、生活の基盤となるものも、本当に何もないのですもの。

 所々にある洞窟は、雨露をしのぐ事はできるかもしれませんが、煮炊きのできるかまども水を汲む井戸もなく、すぐそばに切り立った崖のあるこんな場所で、まともな夫婦が子供2人、育てていけたとは思えません。

 ここはあくまでも幼い兄弟の、いわば秘密基地のような場所であったのでしょう。

 たとえ偽りでもその思い出は、幼い2人を守ってくれた、大切な心の砦だった筈。

 けれど今からここで拳王様は、大切に守って来たその思い出を、血の色に塗り替えねばならないのです。

 

「来るか、トキ……!!

 あの日リュウケンに教えを乞い、北斗神拳の道に踏み込んだのが、この宿命の始まりなのだ!!」

 …兄弟として生まれた互いの体に流れる、その同じ血で。

 

 ………それはともかく、なんでわたくし、ここに連れてこられたのでしょうね?

 

 ☆☆☆

 

「リアさん?」

「まあ、バラン?」

 

「やはりここに足が向いたか、トキ!」

「フ…父と母が、わたしたち兄弟を引き合わせてくれたらしい」

 

「…と言っているということは、互いに示し合わせてここで落ち合ったわけではないらしいな」

「トキ先生は、こういう勘はやけに鋭いのだ。

 けど、拳王様がリアさんを連れてきているとは、オレも思わなかった」

「わたくしも、ケンシロウ様はいらっしゃるかと思っておりましたけれど、まさかあなたまで来ているとは思いませんでしたわ、バラン」

「何故だ?師が命懸けで挑むという戦い、弟子として側で見届けねば話になるまい?」

「まあ…そうでしょうけど」

 

「ここのほかに、あなたと戦う場所はない」

「早いものだ、あれから何年になるか…」

 

「ところで、わたくし達個人の関係性はともかく、立ち位置的には互いに敵対する陣営に属していることは、あなた、理解しているのかしら?」

「流れ的にそうなっただけだろう?

 オレは今でも、拳王様の事も師と思っているし、リアさんに認められる事も諦めてはいないのだから」

「まったく…仕方ありませんわね」

 

「フ…お互い、大きくなったものだ。

 覚えているか、あの時のことを」

「よく!」

 

「では改めまして、御挨拶させていただきます。

 わたくし、拳王様付きの女官を務めさせていただいております、リアと申します。

 どうやらトキ様だけではなくケンシロウ様にも、わたくしの弟分であったバランが、お世話になっておりますようで」

「ああ…おれはケンだ。その……」

 

「……ってうぬら少し黙っておれ!調子が狂う!!」

 

 …ようやく顔を合わせた兄弟を、取り囲むように見守るメンバーは、わたくしは勿論ですがあちら側も、原作とは些か違っておりました。

 トキ様がケンシロウを連れて来てらっしゃるのは変わりませんが、その側にいるのはバットとリンではなく、何故かバラン。

 言われてみればバランはトキ様の弟子なので、別段不自然なことではありませんが、そのバランは最初明らかに、『なんで居るんだお前』みたいな目でわたくしを見ておりました。

 それはわたくしも聞きたいことですが今はいいでしょう。

 

「まあ良い。バランよ。

 万が一、おれがトキに敗れたならば、こやつはうぬが連れていくが良い。

 その為に連れてきたのだからな」

 と、まるでそんなわたくしの心を読み取ったかのようなタイミングで拳王様が言葉を発しました。

 説明を求める前に答えてくださるなんて、昨晩のことといいなんだか最近わたくし達、心が通じ合っておりますわね……じゃなくて!

 

「なに勝手に話を進めてらっしゃいますの!?」

 主人(あるじ)が何やら勝手な事をほざきやがりましたのについつっこむと、バランの横にいたケンシロウが、なんか知らないけどビクッとしました。

 なんなのよ。

 

「始めるか!!」

「って完全無視ですの!?」

 けど、そんなわたくしのつっこみに答えず、拳王様はトキ様と向き合うと、身につけていたマントを脱ぎ捨て…それをわたくし、つい反射的に拾ってしまいましたわ。

 けどよく考えたら、それは拳王様の身体を足元まで覆うほどの量の布、言ったら布団一式抱えているようなもので。

 持っているうち段々と重く感じてきて、拾い上げた事をわたくし、段々後悔し始めております。

 だからといって放り出すわけにもいかず途方に暮れておりましたら、バランがそれをわたくしの手から取って、黒王の背にかけてくれました。

 さすがに、頼りになる弟分ですわ。ふう。

 …だからなんですのその呆れたような目は。と、

 

「……あなたの声を、覚えている」

 わたくしとなんとなく睨み合ってしまっていたバランの、その頭の上を越えるように声がかかり、2人同時にその方向を向けば、ケンシロウの目は明らかに、わたくしをとらえております。

 

「サウザーのもとから救い出され、満身創痍だったおれを手当てしてくれたのは、あなただろう?

 ありがとう…お陰で、こうして生きている」

 その言葉は、淡々と紡がれてはおりましたが、声にはどこか感情がこもっておりました。

 表情もほとんど動いてはいないのに不思議と冷たさは感じない、むしろ温かみすら覚えるという、これが主人公の魅力というものなのでしょうか。

 

「…いえ。拳王様の御命令でしたので」

「そのラオウに言い返していた、先ほどの声を聞いて思い出したのだ。

 夢うつつの中で聞いた女性の声が、必死におれを庇ってくれていた事を。

 …済まない。あの時は色々と……混乱していた」

 あら?もしかしてこの方、わたくしに抱きついて拳王様にげんこつ落とされた、あの時のことを覚えていらっしゃるのでしょうか?

 あの時はすっかり意識が混濁しているものと思い込んでおりましたのに。

 …少し気まずそうにわたくしに頭を下げるその男は、声のトーンこそ落ち着いたものでありつつも、雰囲気はわたくしが読んだ物語の彼よりもどこか柔らかく、表情にも感情が見えています。

 …言い方は悪いですが、どこか甘さすら感じるほどに。

 それでいて、慈しみと強い意志、そして哀しみを湛えた瞳は、まさしくこの世界の救世主たらんとするもので。

 そこは物語上変わってはいけない部分なので、少しホッといたしましたけれども。

 …あと、ケンシロウって3行以上喋らないイメージを勝手に抱いておりましたが、意外とそうでもありませんのね。

 

「お互いの立場として、この言葉が適切かはわかりませんが…その後、お元気そうで何よりですわ」

「そうだな……では、伝えるべきことは伝えた。

 この先は互いの立ち位置で、この戦いを見届けるとしよう」

 ケンシロウはそう言って、少しだけ哀しげに微笑むと、次に視線をバランの方に向けて、表情を引き締めました。

 

「…バランよ。この戦いを止めることはできぬ。

 ふたりの血の間に、誰も入ることは。

 師の戦いとその生き様、死に様、おまえ自身の目に、しかと焼きつけるのだ」

 そう言って、バランの両肩に手を置いて視線を合わせます。

 

「…わかっている、ケン」

 ケンシロウの言葉に頷くバランの目には、うっすらと涙が浮かんでおります。

 さもあらん。

 彼にとっては、そこで戦っているのは、2人とも師なのですものね。

 立ち位置は変わってしまって、結果としてわたくし達は敵対する立場となってしまっておりますが、先ほど彼自身がそう言った通り、彼にとっての拳王様の存在は、出会った頃と変わらない。

 そしてわたくしにとって、今もバランは弟のようなものです。

 …そんな顔を見ると、やはり胸が痛みますわ。

 

 ☆☆☆

 

「ええい黙って聞いておれば!

 おれはユリアのフルートを舐めた事など断じてないわ!

 風評被害にもほどがある!!」

「フッ、そうだったな。

 フルートではなくリコーダーだった。

 こんな重要な事を間違ってしまって申し訳ない」

「しておらんと言っておるであろうが!!」

 

 …一体なんでこんなことになっているのでしょう。

 いえ、最初のうちは原作通り、互いの拳の応酬がありましたのよ?

 ただ…ええと。

 

「そうそう、いつだったか、ユリアの机に虫の入った箱を入れたものの、それが休前日だった為に、発見された時には箱の中が蠱毒状態になったあの時には…」

「それはおれではなくシンの話だ!!」

「そうだったか?何せ死期が近い故、記憶も定かではなくてな」

「明らかに故意に記憶をすり替えておるだろうが!」

 

 今ここにいるトキ様が、わたくしの知るお話に比べて若干元気、といいますか。

 そのせいなのかなんなのか、原作にはなかった煽りスキルみたいのを、なんでか身につけていらっしゃいましてですね……

 

「大体兄に向かってその態度はなんだお兄ちゃん悲しい!!

 それはさておき相変わらず優しい拳よ!

 このラオウを超えんとするなら、なぜ剛の拳を選ばなかった!!」

「激流を制するは清水(せいすい)ですけど〜?

 はい、ここテストに出ま〜す!

 ラオウくん居眠りしてちゃダメですよお〜う?」

「貴っ様あああ〜〜!!!!」

 

 …てな感じの、主にトキ様のキャラ崩壊が甚だしいことになってまして。

 加えてうちの拳王様がまた、煽り耐性低い方でいらっしゃるものですから、拳の応酬の合間に繰り広げられる舌戦が、次第に泥沼化してきまして。

 

「幼き日には兄ちゃん兄ちゃんとちょこまかついて歩くうぬの、おねしょのシーツまで洗ってやったというのに!」

「そんな昔のこと忘れました〜、てゆーか、幼児がおねしょするのは割と普通の事なんで恥ずかしくも何ともありません〜」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

 ……ああもう、見るに耐えません。

 本来なら白熱と感動と悲哀に満ちた名シーンが、どうしてこんな悲惨なことになってしまったのでしょう。

 というかトキ様、こないだお会いした時は原作通り穏やか(でも押しは強め)な雰囲気でいらしたのに、一体貴方に何が起きたんですの!?

 なんだか居た堪れなくなってふと隣を見ると、バランやケンシロウもちょっと困ったような表情になっており、更に、目があったバランに小さく首を横に振られました。

 …事態の収拾をこいつらに期待することはできそうにないですわね。

 

 そして。

 

「いい加減になさいませ──ッ!!!!」

 我慢できなくなっ(ブチ切れ)たわたくしは、考える間もなく叫んでおりましたわ。

 男どもが静観を決めた生死をかけた戦いに、水を差す馬鹿女がいるとは思わなかったであろう兄弟が、目を瞠いてこちらを向いたまま固まっておりますが、もう知ったこっちゃございません。

 頭に血がのぼったわたくしは、そんな2人に臆する事なくつかつか歩み寄ると、間に入って両腕を広げ、彼らの間合いを無理矢理広げました。

 

「リア……!?」

「そこまでですわ!拳王様、帰りますわよ!

 これ以上は時間の無駄ですわ!!」

「い、いやしかし、これは我らが兄弟の宿命の…」

「こ・れ・の!どこら辺が宿命の対決ですの!?

 どこからどう見ても、大人げない兄弟喧嘩じゃありませんの!!」

 ビシッと指差してそう言ってやると、拳王様はちょっと喉の奥で唸るような声を発しました。

 多分自分でもちょっと、そう思ってはいたのでしょう。

 上手く軌道修正ができなかっただけで。

 ええ、途中ちょいちょい流れを元に戻そうと頑張ってらっしゃった事には、わたくしも気づいてはおりましたのよ。

 けどその度にトキ様に煽られて逆上してまた流れを明後日の方に持っていかれてる。

 舌戦に持ち込まれては、脳筋の拳王様がトキ様に、勝てる道理がございません。

 

「トキ様は勿論ですが、拳王様もいちいち反応しすぎですわ!

 こんな修羅場を見届けさせる為にわたくしをここに連れてきたんですの!?

 せっかくの屈指の名シーンが台無し!

 二次創作(うすいほん)だったにしても酷すぎる!

 誰であろうと、わたくしの最愛の拳王様を、穢すことはこのわたくしが許しません!

 やりなおしを要求する──!!」

「待てリア!一旦落ち着け!!

 割と何を言っておるのかわからん!!」

 言ってるうちに感情が昂ってきたわたくしは、拳王様の胸板を拳でぽかぽか連打いたしました。

 女の細腕などでダメージがあるとも思えませんが、拳王様は困ったようにその拳を、身体ごと腕に抱え込み、わたくしの動きを封じます。

 

「うむ…申し訳ない、リアさん。

 確かに大人げなく、少し悪ノリをしすぎたようだ。

 ここに来る前に、知り合いから受けたアドバイスをもとにして、先に精神的な揺さぶりをかけるつもりだったのだが、途中からちょっと楽しくなってきてしまった。今は反省している」

「誰ですのそんな無責任なアドバイスをした方は!?

 責任者出ていらっしゃい!!」

 そしてそんな状況の中、やはり困ったような顔でトキ様が、若干気まずそうに声をかけてきましたが、そんな言葉でこのやり切れない気持ちが収まるわけもなく。

 気づけば涙まで出てきたのは、感情の昂りによるものか、それとも拳王様の腕の中に抱え込まれて、若干の呼吸困難を起こしているせいなのか、自分でもわからなくなってきました。

 と、視界に影が差したかと思うと、真正面に何故かケンシロウが立っております。

 その伸ばされた指先が何故か、わたくしの顔に触れ……

 

 

 そこから先の記憶は、ございません。

 

 ☆☆☆

 

「む……」

「リアさん!!」

「経絡秘孔のひとつ、定神を押した。

 目が覚めた時には落ち着いているだろう」

「うむ、助かったぞケンシロウ。

 …ラオウよ、ここはお互い一旦退くこととしよう」

「そうするしかあるまいな。興が削がれたわ」

「………フ、フフッ」

「……?」

「…ラオウ、気づいていたか?

 我らは、いわゆる兄弟喧嘩というものを、一度もしたことがなかった事を。今、この時が初めてだ」

「……!!?」

「この齢になって大人げなく、恥ずかしい話だが…フッ、悪くはないものだ。そう思わぬか?」

「…うむ。だが、次はない」

「そうだな。

 再びまみえた時こそ、我らが宿命の幕を下ろす時」

「……それまで、身体を労えよ、トキ……!」

「………にいさん」

「ケンシロウ。バラン。

 拳王恐怖の伝説は今より始まる。

 この命、奪いたくば、いつでも来るが良い!」

 

 ・・・

 

「バラン?」

「師よ。改めて今より、教えを乞います。

 あなたの全て、オレに受け継がせてください。

 知や力、そしてただひとりの兄を超えんとする、その心も、全て」

「……何故?」

「拳王様は、己が斃れた後は、オレにリアさんを託すと言った。

 だがきっとこのままでは、拳王様が斃れた時、リアさんは…リアは、必ずその後を追う。

 妹が、オレより神を選んで、その命を召された時のように。

 リアを死なせぬ為に、オレが拳王様を…ラオウを超えねばならぬのです。

 失礼ながらあなたには残されていない時間が、オレにはある」

「フ……判った。

 ケンシロウ。バラン。

 わたしの魂はおまえたちに残そう。

 そしてラオウとの戦いに捨てるつもりであった命もまた、おまえたちの未来への灯火として燃やそう」

「にいさん」

「…先生」

 

 ☆☆☆

 

 さて。

 気がついた時、わたくしは拳王様の胸に凭れた状態で、黒王の背に揺られておりました。

 泥沼と化した宿命の対決はあのまま強制終了(おひらき)となり、トキ様とは念の為、再会を約束はしたものの、生きて再びまみえる事は恐らくないだろうと、呟いたその言葉が、やけに寂しげに耳に響いて、わたくしの胸にいつまでも残っておりました。

 

 ・・・

 

「お帰り、お待ちしておりました」

 結局、わたくしと拳王様は黒王で居城へと向かい、その途中で立ち寄った村で、リュウガ様と合流いたしました。

 どうも直前まで地元ヒャッハーの暴走があったらしく、大柄な男性のあちこち抉られたような遺体が散乱する割と死屍累々の有様なんですが。

 そんな中で、なんでか柵の中でひとかたまりになった女性達が、場にそぐわないキラキラした目でリュウガ様を見ておりますがそれはさておき。

 

「変わったことは」

「あなた様の伝説を汚すであろう枝を払っておきました」

「うむ、ご苦労」

 …変なのですわ。

 確か物語ではこれ、拳王様が居城に戻られたタイミングで為される会話だった筈です。

 居城を占拠していたリュウガ様が玉座から腰を上げ、戻ってきた拳王様にそれを返すという、一連の流れで。

 簒奪者然としていた彼が、拳王様の足元に跪くというシチュエーションは変わりませんが、どうして居城ではなくこの村なのでしょう。*1

 

「リュウガ…褒美はなにを望む」

 …けど、ここでこの会話が為されたという事は、リュウガ様とトキ様が、この後命を落とされる事になるわけですのね。

 元々リュウガ様はラオウとケンシロウ、どちらが乱世を支える巨木となるか、見極めることを目的として、拳王様に仕えているわけで、物語では戦いを通じてケンシロウにその可能性を見出し、未来を彼に託してトキと共に天に還るというストーリーでした。

 ……正直、そこに至るまでの展開、ケンシロウの怒りを引き出す為に行なった殺戮とか、必要だったのかなと思わなくもなかったわけですが。

 ええ、何しろ漫画としてこの物語を読んでいた時のわたくしは高校生男子。

 細かな洞察など思い至るわけもございませんでしたもの。

 それはさておきこの先に待つ悲劇、わかっていても、わたくしには止める事などできません。

 拳王様のこの問いに、リュウガ様は迷わず、ケンシロウとの戦いを…

 

「許されるのであれば…リア殿をこのわたしに」

 

 願い出る筈ですが今なんつったこの兄ちゃん?

*1
端的にはリアさんがいたからです。ここ、地元ヒャッハーが女の子を目隠しで追いかけて戯れて、あろうことかラオウに抱きついて張り手からの首ちょんぱされたあの村なのですが、原作と違いラオウがリアさんを連れていた事で、彼らがここにたどり着いたタイミング、実は原作より遅かったりします。その間にここのヒャッハーの所業がリュウガの耳に届き、粛正に出向いたタイミングでの合流になりました。


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